「彼は私の人生の救世主だった…。」消えない傷を心に残した、国際ロマンス詐欺の手口

騙された自分を責める気持ちと、まだ彼を信じたい気持ちで心にぽっかりと穴が空いてしまった…。被害者は悲痛の声をあげた。
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The Welfare & Medical Care via Getty Images

千葉県などに住むナイジェリア人やカメルーン人の男性が、福岡県に住む50代の女性から現金数百万円をだまし取った疑いで逮捕されたのをきっかけに、大きな注目が集まった「国際ロマンス詐欺」。

軍人などを装い、SNSを通じて「好きだ」「愛している」などの言葉を送り、相手をその気にさせて現金などを騙し取るという悪質な手口が横行しています。

先日は、詐欺師にお金を送るために勤務先の医療法人から現金約1000万円を横領したとして、66歳の女性が逮捕されました。

家族問題の心理カウンセラーとしてさまざまな方たちの相談を受ける中で、この国際ロマンスの被害にあったという声を聞くようになったのは2年ほど前のこと。これは看過できない、と一念発起し3年前から、国際ロマンス詐欺の注意喚起と被害者支援を行う活動をしています。

「詐欺」という言葉から、金銭被害を思い浮かべる人が多いと思いますが、実は、この国際ロマンス詐欺の被害はお金だけではありません。愛した人や信頼した人に裏切られた心の傷がいつまでも消えない人も多いのです。

今回は私のもとに駆け込んできた被害者の実話を紹介します。

【中山知佳さん(仮名)・46歳 事実婚の夫ありの場合】

「詐欺だとわかった今でも、信じきれずに苦しい毎日を過ごしています。騙された自分を責める気持ちと、まだ彼を信じたい気持ちで心にぽっかりと穴が空いてしまったようです」

そう語る中山さんは、車いす生活を送るシングルマザーです。中山さんは病気が原因で、子どもの頃から車椅子生活でした。

「学校の送り迎えなどで親にたくさん迷惑をかけていたし、医療費がかかるので家にはいつもお金がなく、母はいつもイライラしていました。だから私は両親を不幸にしていると思い、ずっと自分を責めてきたんです。今は事実婚をして16年になる夫と娘(11歳)と3人で生活していますが、事情があって入籍ができず納得のいかない人生で…。そんな私にとって、オリオラは救世主に見えました」

オリオラとの出会いは語学学習アプリ「BUSUU」。娘が英会話を勉強することになり、それなら自分も一緒に…と思ったのがきっかけでした。言語学習アプリなので、変な人はいないだろうと安心感もあったといいます。

オリオラとのやりとりは2016年7月初旬にはじまりました。最初はアプリ内だけでしたが、シリアにいるアメリカ軍兵士である彼は多忙で、Eメールのほうが便利だというのでメールアドレスを交換。互いに写真を送り合いました。

とびきりイケメンというわけではないかもしれませんが、優しそうな笑顔は好感が持てたし、軍の制服を着た彼はとても頼りになりそうだと思ったと言います。

「彼はメールでいつも私を褒めてくれて、勇気づけてくれました。私が車椅子の生活だということも話しました。“これまで頑張ってきた君をこれからは守っていくよ”と優しい言葉をかけてくれたので、私は少しづつ彼を愛するようになりました」

ピアノという共通の趣味もあり、話が盛り上がって1日に4往復くらいメールをする日もありました。「今思えば、戦地にいる忙しい軍人がそんなに頻繁にメールを書けるわけもなく、なぜそんなことに気が付かなかったのかと思います。でも、その時には彼を疑うことはありませんでした」と中山さんは振り返ります。

そして、ある日彼から「これから僕は24時間の任務に出る。生きて帰ってこられるかわからないから、僕の無事を祈って待っていてくれ」というメール。中山さんはその間、心配で海外のニュースでシリアの情勢をチェックしてばかりいました。無事に戻ったと連絡があった時にはとてもホッとしましたが、彼から同僚が2名亡くなったという話を聞き恐怖を感じたそうです。

それから数日後に彼から「君に僕の大切なものを預かってほしいので荷物を送るよ」という連絡をもらいました。荷物の中身は彼のユニフォームと勲章、中山さんのために用意したダイアモンドの指輪と現金だと言うのです。

「困りました。そんな高価なものは受け取れません。その気持ちを彼に伝えましたが、彼は聞き入れてくれず、明日、戦争で死ぬかもしれないから後悔したくないんだと強引で」

これまでの彼にはなかった強引さに、何か怪しいなと思い始めましたが、この時点ではまだお金の請求はなく、確信は持てませんでした。

すると、送った荷物が倉庫で止まっているので配送会社に連絡を入れてほしいと彼から連絡が。そこで配送会社に問い合わせのメールを入れると、

・荷物の保管が4日を超えると保管料が発生する

・早く送る手続きをしたいので身分証明書を送って欲しい

と返事がありました。

「随分悩みました。でも、もし彼が戦死してしまったら、この荷物を受け取らなかったことを一生後悔するかもしれません。だから運転免許証をスキャンしたファイルを送ってしまいました」

その後すぐに保険料と送料とで12万円の請求が届きました。焦った中山さんはすぐオリオラにメールを送り、そんなお金は払えないことを伝えたのです。

するとオリオラは来月には日本に行って、絶対にお金は倍にして返すから立て替えて欲しいといいました。「結婚して日本で暮らそう」とも。

倉庫会社から指定された入金先はウェスタンユニオンでした。

必要書類を全部用意して、入金に出かけようとした日にふと「ウエスタンユニオンってどんな銀行なんだろう?」と思い、銀行のHPを見ていたら「詐欺に遭わないために」という情報を発見。そして、そこに書かれた警告文の内容が、自分に当てはまることに気がつきました。

オリオラに「詐欺なんでしょう?」と指摘すると、彼は

「どうして君は僕を信じてくれないの」

「君はバカだ、僕を信じていればたくさんのお金と幸せを手に入れることができるのに」

と、中山さんを責めるようなメールが送ってきたそうです。

中山さんは彼が詐欺師だと確信するために、様々な情報を調べました。彼が送ってきた写真を画像検索にもかけたけれど、決定的な証拠は見つかりません。ただ手口を考えると、明らかに詐欺でした。

「幸せになることを諦めていた人生に希望を抱かせてくれた人に裏切られ、心にはぽっかりと穴が空いたままです。彼を忘れたいと思うのに、忘れることもできず、何も考えることができません」

中山さんのようなケースを、「お金を騙し取られた訳ではないのだから、ラッキーじゃないか」と思う人もいるかもしれません。でも、いつまでも傷が癒えず、人間不信になったまま生きるのはとても辛いことです。精神的なダメージを受けることも、十分に大きな被害と言えるのではないでしょうか。

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