特集
2019年04月10日 10時37分 JST

「カメラを託されて生きる目的が生まれた」"ホームレス"の人々が撮影した写真を販売するサイトが生まれるまで

ホームレスの人たちに与えられた指示は「心が動いた瞬間にシャッターを切ってください」ということだけだった。

NPO法人Homedoor
ホームレス状態の人々の生活支援のため、夜回り活動をするHomedoor理事・事務局長の松本浩美さん。

「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」という目的のもと、ホームレスの人をはじめとする生活困窮者への就労支援、生活支援を行っている団体がある。大阪を拠点に活動する認定NPO法人Homedoorだ。

Homedoorは4月5日、ホームレス状態の人々をカメラマンに起用した新たな取り組みを始めた。企画を始めた経緯を、団体の理事・事務局長を務める松本浩美さんに聞いた。

 “ホームレス”の人たちの現状は?

国の法律で《都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者》と定義される人々。世に言う「ホームレス」。

平成30年1月に厚生労働省が実施した全国調査によれば、確認されたホームレスの数は4,977人(うち、男性は4,607人、女性は177人)。数字だけを見れば、年々減少している。

しかし、社会全体が彼らを見る眼は依然として偏見が大きく、課題の1つである彼らの生活支援や就労支援もまだまだ道半ばというのが現状だ。

厚生労働省
ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果

生きる目的を与えたのは、1台のカメラ

「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」というのが、Homedoorのビジョンだ。

新たに始まった『Snapshot taken by Homeless』という取り組みは、ホームレス状態の方々がカメラマンとなり、各々の感性で日常のスナップ写真を撮影。撮った写真はwebサイト上で販売され、サイトの閲覧者はお気に入りの写真を購入できる。写真の売り上げは、撮影者であるホームレス状態の人に直接支払われるという仕組みだ。

NPO法人Homedoor
Snapshot taken by Homeless

撮影が行われたのは2018年5月から6月。10人の参加者に、それぞれインスタントカメラ4台が手渡された。撮影可能なのは、1人で約100枚。彼らに与えられた指示は「心が動いた瞬間にシャッターを切ってください」ということのみ。いつ、どこで、何を撮るのも自由だ。

この取り組みに参加した男性の1人に話を聞いた。男性は当時61歳。大阪市北区にある、とある橋の下で路上生活をしていた。元々は運送業に従事していたが、40代の頃に心不全になり、以後仕事が続けられず10年ほど引きこもりのような状況になった。家賃を払う事もままならなくなり、その後、路上での生活を余儀なくされたという。

カメラを渡された時のことを、男性はこう振り返った。

「素人だし、最初は何を撮っていいか分からんかった。だからどうしようと思ったけど、色んなものを撮ってたらいつの間にか夢中になってたんよね。楽しくて、心が無になれるというか...」

単に楽しいだけではなく、心境にも大きな変化があったと男性は言う。

「路上での生活って、心が死んでいくんです。1日がね、違った意味で『時間との戦い』なんです。早く日が暮れてくれへんかなーって。 路上で生活してることを恥ずかしいと思っていたし、人目も気にしていた。でもカメラを託されて、心が死んでいた生活の中に、生きる目的が生まれたんです」

NPO法人Homedoor
Snapshot taken by Homeless.の取り組みで撮られた写真

「上手くもないし、通りかかったところで面白いと思ったものを撮る。ただそれだけなんですけど、2週間の期限の終盤あたりは、カメラワークなんかも考えたりしちゃってね...」

最初は「ノルマ」だと思っていた100枚。気がついたら、あっという間に撮り終えていた。

“ホームレス”でも「表現」を仕事にできる

この取り組みを担当した、Homedoorの理事・事務局長の松本浩美さん。

松本さんは2004年、当時12歳だった頃、多くの路上生活者が集まる通称「あいりん地区」を訪れ、その時の経験からホームレス問題に関心を持った。2012年にHomedoorの理事に就任して以降、ホームレスなどの生活困窮者に向けて生活物資を届ける巡回活動や彼らの就労支援などを地道に続けている。

なぜ、ホームレスたちにカメラを託したのか?『Snapshot taken by Homeless』の取り組みについて、その意図を聞いた。

 「彼らにカメラを託したのは、ホームレスとして生活をしているからこそ持っている感性や着眼点を活かして写真を撮る事で、ホームレス生活がどんなものか、社会に広く届けられるのではないかと思ったからです。撮った写真を見られるwebサイトを作って写真を購入できる仕組みがあれば、これまでホームレスの人々との繋がりが薄かった人たちが、彼らと接点を持てるようになる。それで、『ホームレス問題』への偏見を無くすことに繋がればと考えました」

単なるボランティアではなく、撮った写真を「販売」することにした理由について、松本さんはこう続ける。

「ホームレスの人々が働くための選択肢って、とても限られているんです。日雇い労働とか廃品回収とかがほとんど。そこに、″表現が仕事になる”という選択肢がもしあれば、彼らの社会復帰の手助けにもなると思ったんです」

「写真を撮ることは、日常の一部を切り取ること。そこには、彼らなりのクリエィティブなものが必ず生まれる。さらに、購入という形を取る事で、今までは”寄付”というものだけだった支援の形が、購入者にとっては”対価のある支援”になります。売り上げがホームレスの人々に還元されれば、支援金が集まりにくいという課題に直面する彼らにとっても、写真を撮る意味が生まれますから...」

ホームレス問題の解決に「自己責任論」は通じない

 長年ホームレスの方々とコミュニケーションを取ってきた松本さんは、ホームレス問題における現状の課題を、こう指摘する。

 「他の社会問題に比べると、ホームレスについては支援に対する理解が得にくい社会問題なんです。その理由は、(ホームレスの人は)怠けているとか、昼間から酒を飲んでいて自由だという偏見を持ってしまったり、『努力をしないからあんな風になるんだ』という自己責任論として捉えてしまう事です。本人に責任があると捉えられることで、社会構造そのものが原因だとは認識されにくいんです」

「その結果、(ホームレスの人とは)関わらないでおこうとか、見て見ぬフリをして、問題を他人事にしてしまうんです。この意識を正しく変えていかないといけないと感じています」

「ホームレスになりたいと思ってなっている人はいないですから。皆さん、様々な事情でホームレスになっている。”仕事を失うこと=悪いこと”と考える風潮が、今の日本では強くあると感じます。もっと、寛容な考えを持てる世の中になればと思っています」

NPO法人Homedoor

さらに松本さんは、「ホームレスに関わる問題は色々な社会問題が重なって生じていて、何か1つの問題を解決すればいいということじゃない」と話す。

「例えば、これからやってくるAIの時代。AIが普及すれば、簡単な作業の仕事機会を彼らから奪ってしまう。ホームレスたちにとっては、仕事の選択肢がさらに狭まってしまうという懸念があります。これは、今後生じる問題の1つです」

「カメラを渡してみると、普段はおとなしいのに意外と無邪気なんだとか、こんなにクリエイティブだったとか、ホームレスとして困窮した生活を送る人々の新たな一面を見る事ができたんです。単純作業だけじゃなく、写真を撮ることも、こうして仕事にできる」

「生活の中に目的を提供できれば、生きる活力も湧いてくる。それで、彼らの生活を変えられるかもしれない。だからこそ、ホームレスの人々への作られた固定観念や見方を、これからも変えていきたいですね」