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2019年04月24日 14時32分 JST | 更新 2019年04月24日 17時01分 JST

法が裁けなくても、性犯罪の被害者はこの世にいます。無罪判決とともに知ってほしい、支援のこと

性犯罪の無罪判決が大きな議論を呼んでいる。3月から4月にかけて約1カ月に4件の無罪判決が報じられた。

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性犯罪の無罪判決が大きな議論を呼んでいる。3月から4月にかけて約1カ月に4件の無罪判決が報じられた。4件は下記の通り。2017年7月の性犯罪刑法改正前の事件が2件、改正後の事件が2件。1件は無罪が確定し、残りの3件は検察側が控訴している。この記事では主に名古屋地裁岡崎支部の無罪判決・判決文から感じたこととともに、性暴力被害者を支援する側から見た現状を訴えたい。

 

性犯罪で無罪判決が続いている

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(1)3月12日、準強姦事件の無罪判決(福岡地裁久留米支部)

サークルの飲み会に初参加した女性が、テキーラを一気飲みさせられるなどして泥酔し、飲食店のソファで眠っていたところを男性(44)が性行為に及んだ。「女性が抵抗不能の状況にあったとは認められるが、男性がそのことを認識していたとは認めることができない」として無罪判決になった。

→同日に毎日新聞が報道。2017年2月(刑法改正前)の事件。3月26日に検察側が控訴。

 

(2)3月19日、強制性交致傷の無罪判決(静岡地裁浜松支部)

メキシコ国籍の男性(45)が女性に乱暴し、けがを負わせたとして強制性交致傷の罪に問われた。無罪判決を言い渡し、「故意はなかった」と判断した。

→3月20日に各社が報道。2018年9月(刑法改正後)の事件。検察は控訴せず無罪確定。

 

(3)3月26日、19歳実子への準強制性交等罪の無罪判決(名古屋地裁岡崎支部)

当時19歳の実の娘と性交したとして男性が準強制性交罪に問われた裁判で、長年の性的虐待と性交が意に反するものだったと認定。その一方で性交を拒めていた時期もあったなどとし、「被害者が抵抗不能な状態だったと認定することはできない」と無罪判決を言い渡した。

→4月4日に共同通信が報じ、5日から各社が続く。2017年8月、9月(刑法改正後)の事件。4月8日に検察側が控訴。

 

(4)3月28日、12歳実子への強姦罪の無罪判決(静岡地裁)

当時12歳だった娘に対し性的暴行をするなどしたとして、強姦と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた男に対し、「唯一の直接証拠である被害者の証言は信用できない」「家族がひとりも被害者の声に気付かなかったというのはあまりに不自然、不合理」などとして強姦罪を無罪とした上で罰金10万円を言い渡した。

→同日に各社が報道。2017年6月(刑法改正前)の事件。4月10日までに検察側が控訴。

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 すでに、朝日新聞デジタル(娘と性交、無罪判決の衝撃 「著しく抵抗困難」の壁/4月15日)、東京新聞(レイプ裁判 なぜ無罪? 実娘と性交→「支配従属を認めず」/4月16日)、西日本新聞(なぜ?同意ない性行為に続く「無罪」判決 「故意立証」の高いハードル…刑事司法の限界、指摘も/4月22日)などに詳細記事が出ている。どれも複数の無罪判決に触れているが、そのタイトルでは、(3)の事件について言及。4件の中でも、この事件の衝撃が特に大きかったことを物語っている。「週刊新潮」や「女性自身」といった週刊誌もこの事件を詳報した。

 また、現時点で(3)事件の判決文の内容を最も詳しく伝えているのは、「19歳の娘に対する父親の性行為はなぜ無罪放免になったのか。判決文から見える刑法・性犯罪規定の問題」(伊藤和子/4月11日/ヤフーニュース個人)だ。

 これまでにも報じられている通り、性虐待は被害者(以下、Aさん)が中学2年の頃から頻繁に行われていた。裁判所は、長年にわたり性虐待が行われたこと、事件当日に性交が行われたこと、それらがAさんの意に反していたこと、さらには抵抗できない心理状況にあったことを認めている。

 準強制性交等罪は心神喪失または抗拒不能に乗じた性交があった場合に成り立つ。判決文では、精神鑑定を行った精神科医の「被告人にたいして心理的に抵抗できない状況が作出された」という証言についても、「高い信用性が認められる」としている。

 そうであるならば、なぜ無罪なのか。判決文はこう続く。

 「精神鑑定の結果は専門家である精神科医師としての立場から当時のAの精神状態等を明らかにする限度で尊重されるにとどまり、法律判断としてのAの抗拒不能にかんする裁判所の判断をなんら拘束するものではない」

 

18歳以上の実子との性行為は違法ではない

 この判決について「抗拒不能」がかなりシビアに判定されていることは、すでに挙げた記事に詳しい。法の専門家ではない私が印象を語っても何もならないかもしれないが、判決文を読んだ感想は、東京新聞記事に登場する識者のコメント「女性が命をかけて貞操を守れと言われた時代のようで違和感はある」(安原浩弁護士)、「性虐待事例でこれだけ認定を難しくした理由がわからない」(後藤弘子千葉大教授)に近い。

 判決文では、Aさんが両親の反対を押し切って専門学校への入学を決めたことや、その入学金や授業料を父親に負担させたこと、事件当時はアルバイトで月に8万円ほどの収入を得て「被告人からの性的虐待から逃れるため」1人暮らしを検討していたことなどを理由に、「日常生活全般においてAが監護者である被告人の意向に逆らうことが全くできない状態であったとまでは認めがたい」と断ずる。

 また、事件以前にAさんの抵抗によって性交を拒むことができた事実があること、Aさんの判断で父親の車に乗ったことなど複数の理由から、事件当時に抗拒不能の状態だったと断定するには「合理的な疑いが残るというべき」とされた。

 判決については、「現在の刑法でこの判断となるのは仕方ない」という人も「高裁でひっくり返るのでは」という人もいるだろう。私がこの無罪判決について言いたいのは、現在の刑法とその運用において、親から実子への性虐待事案が罪に問われない場合があることを、私たちは強く認識しておきたいということだ。

 親と18歳以上の実子との性行為は、暴行脅迫などの要件を満たさない限り刑法で裁かれることがない。18歳以上の実子との性行為は、性的自由の観点から、刑法において実質「認められている」行為である。一方で、抵抗できない子どもの現実は必ずしも反映されていない。自由を認めるための代償として、立証の壁に阻まれる被害者がいる。

 虐待を受け続け、ときには抵抗し、ときには従順に従うことがあるというような、複雑な被害側の心理を法に反映するのは不可能に近いのかもしれない。しかしそうであるならば、現行法は弱者を必ずしも守るものではないと私たちは知っておかなければならない。

 

「刑事事件の被害者になれない被害者」たち

そう、知っておかなければならない。法の救済を受けない被害者がいることを。今回は無罪判決が大きく報道され、私たちの知るところとなった。けれど、立証の壁に阻まれて不起訴になる事件があり、不起訴を見込んで捜査に至らない事件も無数にある。性暴力被害の支援者らは、その実態を現場で目撃している。

 私は刑法性犯罪のさらなる見直しを求める、性被害当事者を中心とした一般社団法人Springのメンバーであり、刑法やその運用に関して訴えたいことは種々ある。ただ、この記事でまず訴えたいのは、支援の現状についてである。

 今年1月に霞が関の弁護士会館で、シンポジウム「医療の現場からみた『性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの現状と課題』」が行われた。このとき、病院拠点型の性暴力ワンストップセンター(※)を運営する産婦人科医師は、「時間をかけて警察に話しても逮捕に至ったり、起訴されたりすることは少ない」と実感を語った。

(※ 性暴力の被害者に対して医療支援、法的支援などをなるべく包括的に行うための機関)

 警察で二次被害に遭うことも少なくないため、被害者が子どもの場合は特に、サポートを受けながら取り調べを行うことも必要だ。しかし、臨床心理士など支援者の早期介入が裁判で「証言の誘導」「記憶の上書き」と指摘されることもあり、「ケアが先か、取り調べが先か」の状況になることもある。

 警察での二次被害と書いたが、警察や検察がときとして被害者に酷と思われる聞き取りをするのは、ひとつにはそれだけ性犯罪の立証に難しさがあるからだ(性被害対応の知識に欠けた捜査員がいることは別として)。

 特に被害者が子どもの場合、証言の信憑性を裁判で問われることも多い(事件(4)のケースもそうだ)。否認事件の場合は特に、被害者に対する聞き取りや司法面接の不備が証言の信憑性に直結することがある。罪に問うためには犯行の日時がなるべく特定されなければいけないが、日常的に繰り返される虐待の場合、それが難しいことも多い。

 

現場の尽力があっても、「刑事事件の被害者になれない被害者」は多い。

 内閣府調査によれば、無理やり性交などをされた経験のある人のうち、警察に相談した人は男女合わせてわずか3.7%。病院拠点型ワンストップセンターの先駆けである大阪SACHICOでも、支援を受けた人の中で警察へ通報した人は開設からの8年間で約1割にとどまる(SACHICOへの相談者のうち、警察からSACHICOへ紹介のあった場合をのぞく)。

 この中から警察が被害届を受け取った人のみが「認知件数」となる。

 

暗数を減らすには支援の充実が不可欠

 「加害者が有罪になれば被害者が救われるのか」という声もあるだろう。もちろん、裁判や加害者の処罰を望まない被害者も中にはいるが、一方で危惧するのは被害者支援の層の薄さが、認知件数の少なさと直結しているのではないかということだ。

 前出の、病院拠点型ワンストップセンターの運営者は、性犯罪・性暴力被害者支援交付金の予算案が、平成31年度概算要求の3億4600万円から2億1000万円(※)となったことについて「財務省にばっさり切られて」と悔しそうに語った。

(※平成30年度の1億8700万円から増額されてはいる)

 2億1000万円を、全国にある性暴力ワンストップセンターの数である54か所中、交付金の出ている49か所で単純に割れば、1か所につき約430万円である。

 全国の都道府県に最低1か所のワンストップセンターをという目標は、昨年10月に前倒しで達成された。しかし逆に言えば、どの都道府県にも1~2か所しかない。女性の人口20万人につき1か所というWHOの指標と比すれば、約6分の1。

 早期の対応が求められるとともに、立証がそれなりに難しい性暴力について、日本の支援状況は貧弱と言わざるを得ない。理想的な状況は、被害者が産婦人科医、弁護士、カウンセラー、支援員などのサポートを受けて警察へ行くこと、それぞれの機関が連携を行うことだ。しかし、現在はまだその状況にほど遠い。ちなみに、被害者の体などに残った証拠の採取など急性期対応に有利なのは病院拠点型のワンストップセンターだが、病院拠点型は54か所中、12か所しかない(シンポジウム「医療の現場からみた「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの現状と課題」(日本弁護士連合会主催)で発表された「全国のワンストップ支援センターへのアンケート結果報告」より」/病院拠点型以外は相談センターとの連携型が多い)。

 強制性交等罪の認知件数は年間1000件程度だが、内閣府調査(※)では女性の約13人に1人、男性の約67人に1人が「無理やり性交等をされた経験がある」と回答している。暗数が多いことは明らかだ。(※ 3年に1度行われる「男女間における暴力に関する調査」のH29年度調査)

 支援現場で目に見えている数と、司法の場で目に見えている数に絶望的なまでの差がある。そして司法の場で目に見える数を少しでも増やさなければ、刑法が変わらないだけではなく、性暴力被害の支援現場もまた取り残されたままなのではないか。今回は無罪判決が大きく報道されたが、1件の無罪判決の背後には、刑事事件とならなかった多くの事件がある。

 

繰り返しになるが、性犯罪の被害者、特に子どもの被害者が1人で警察へ行くのは難しいことだ。ワンストップセンターや児童相談所で適切な支援を受けてから、通報する気持ちを持てる場合も多い。

 支援を受けて警察へ行く人が増え、認知件数が上がる。認知件数の増加が、支援の必要性を証明し、層を厚くする。その循環が生まれなければならないと感じている。

 

<性暴力・性犯罪被害に遭った際の相談先>

・性犯罪被害相談電話(全国統一)「#8103(ハートさん)」(警察庁) ※2017年8月開設 https://www.npa.go.jp/higaisya/seihanzai/seihanzai.html

 ・全国の性暴力ワンストップ支援センターリスト

http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/pdf/one_stop.pdf

 ・被害者支援都民センターなど、全国にある犯罪被害者支援センターで性犯罪被害相談を受け付けている。

公益社団法人 被害者支援都民センター

http://www.shien.or.jp/

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