川崎殺傷事件、犯行現場で対応した教頭の無念「怒鳴りながらやって来れば…」

駅からバスに乗り込むまで教師が付き添っていた。それでも無言で刃物を振りかざす男の犯行は防げなかった。
倭文覚教頭
倭文覚教頭
高橋史弥

神奈川県川崎市多摩区登戸で、登校中にスクールバスを待っていた小学生らが男に次々と刺された事件。5月28日午後6時過ぎに行われた私立カリタス小学校(内藤貞子校長)の記者会見では、事件現場に居合わせた倭文覚(しとり・さとる)教頭が出席して当時の状況を語った。

笑顔いっぱい、元気に挨拶をしてくれる子

人力では防ぎようがない被害の状況が明らかになった。

同校によると、スクールバスの定員は60人で、登戸駅から学校まで毎朝8本運行している。駅では、小田急線とJR南武線で登校する子どもたちを教師が迎え、まとめてバス停まで引率。倭文教頭も午前7時25分ごろ、登校した1年生を連れてバス停に向かった。

数十人を引率し、列に並ばせると、ちょうど3番目のスクールバスが出発するところだった。間もなく、6番目のバスが到着。倭文教頭は、2列に並ぶ子どもたちの先頭で、児童を車内に誘導したという。

子どもたちを6人ほど誘導したところで、子どもたちの叫び声に気づいた。何事かと列の後方に向かったところで、無言で両手の刃物を振り回す男を見た。

倭文教頭は「無言でした。子どもたちは(前方の)バスを見ていて、後ろから走りながら切りつけられていた。叫び声でそれぞれ振り向いたところを切りつけられたんだと思います」と当時の状況を回想。

犯行後は110番通報や学校への連絡を行い、怪我をしていない児童をバスの車内に避難させ、コンビニ内に逃げ込んでいた児童の確認や、怪我をした児童の手当も行ったという。

「怒鳴りながら、大声あげてやって来れば、子どもたちも逃げることができたのかなと思います」と無念さをにじませた。

亡くなった6年生の栗林華子さんについて、内藤校長は「毎朝学校の前でおはようと声をかけると、『おはようございます』と笑顔いっぱい元気に挨拶を返してくれるお子さんでした」と語り、「本当に信じられません。今日も元気のいい挨拶が聞けるかなと思っていました」と声を詰まらせた。

容疑者については「心当たりがない。警察の捜査にお任せする」と話した。

児童と保護者の心のケア

会見に先立ち、午後5時には保護者説明会が開かれた。

臨時保護者会に向かう保護者ら
臨時保護者会に向かう保護者ら
kasane nakamura

保護者や子ども約1000人が参加したといい、祈りを捧げた後に、校長から事件について説明。小学校と幼稚園は5月末まで休校し、6月に予定されていた6年生の宿泊行事も中止する。中学と高校は29日を休校とする。

今後は、教員による登下校の見守り体勢を強化し、警備員を増員。スクールカウンセラーと神奈川県の学校緊急支援チーム、川崎市精神保健センターなどが子どもたちや保護者の心のケアに当たるという。

部屋から出られないほどショックを受けている児童もいるといい、内藤校長は「学校としてできる限りのことを尽くしてこれからも子どもたちを守っていきたい」と述べた。

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