パワハラ関連法案が可決。「SOGIハラ」と「アウティング」防止も企業に義務付け

「SOGIハラ」「アウティング」は法律違反に、どのような言動がこれに当たるのか。
パワハラ関連法案が可決
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パワハラ関連法案が可決

職場のパワーハラスメント防止を企業に義務づける「パワハラ関連法案(労働施策総合推進法の改正案)」が参議院厚生労働委員会で可決。法的にはじめて、企業にパワハラへの対策が義務づけられることとなった。明日、5月27日の本会議で成立する見込み。

さらに、パワハラに関連して、「SOGIハラ」や「アウティング」に対しても企業に対策が義務付けられる方針となることが与野党全会一致で決議された。

今後、職場でLGBTに関するハラスメントをなくす動きは大きく加速していくだろう。

「SOGIハラ」「アウティング」は法律違反

これまでパワハラは法的に位置付けられてこなかったため、対策もあまり講じられてこなかった。今回の法改正によって、パワハラは「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超え、労働者の就業環境が害されること」と定義され、企業はパワハラを防止する施策が義務付けられることになる。

さらに、パワハラに関連して、性的指向や性自認に関するハラスメントである「SOGIハラ」や、本人のセクシュアリティを勝手に暴露してしまう「アウティング」を防止していくことも、今回の法改正の対象となる方向が指針で明記されることが全会一致で決議された。

今後検討される指針の内容がどのなるかによって、企業に求められる対策の内容は変わるが、すべての企業で「SOGIハラ」や「アウティング」を防止するための取り組みが必要となる方向だ。

【該当の附帯決議】

「パワーハラスメント防止対策に係る指針の策定に当たり、包括的に行為類型を明記するため、職場におけるあらゆるハラスメントに対応できるよう検討するとともに、次の事項を明記すること」

「(衆議院)職場におけるあらゆる差別をなくすため、性的指向・性自認に関するハラスメント及び、性的指向・性自認の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングも対象になり得ること、そのためアウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること」

「(参議院)職場におけるあらゆる差別をなくすため、性的指向・性自認に関するハラスメント及び、性的指向・性自認の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングも雇用管理上の措置の対象になり得ること、そのためアウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること」

具体的なSOGIハラの内容「飲み会でのホモネタなど」

パワハラについて、日経新聞によると「全国の労働局への労働相談では、パワハラを含めた『いじめ・嫌がらせ』に関する相談が17年度に約7万2000件にのぼり、増加の一途をたどる。厚労省の16年度の調査では企業で働く人の3人に1人が『過去3年間にパワハラを受けたことがある』と答えた」

何がパワハラに該当するのかは、厚労省が「パワハラの6類型」としてまとめている。例えば、「叩く・殴る・蹴る」などの身体的な攻撃に加えて、「同僚の目の前で叱責されるなどの精神的攻撃、「仕事を押し付けられて同僚が全員帰る」などの過大な要求などがある。

パワハラの6類型
厚生労働省「あかるい職場応援団」のWEBサイトより
パワハラの6類型

「SOGIハラ」については、例えば「ホモは気持ち悪い」といった差別的な言動によるいじめや暴力、トランスジェンダーに対して「戸籍は女性なんだから女性の制服にしなさい」といった望まない性別での生活の強要などがこれに当たる。

例えば、飲み会での「ホモネタ」などは、まだまだ多くの企業で当たり前のように行われてしまっているだろう。つい最近も、筆者のゲイの知人は会社で「オカマちゃん」とあだ名をつけられ、飲み会では何度も何度も「気持ち悪い」と執拗に責められた。結局会社を辞めることになった。

レズビアンであることを会社でカミングアウトした所、「男に興味ないんだから良いだろう」と飲み会で胸を触られたといった、セクハラとSOGIハラが融合したような極めて悪質なハラスメントの事例もある。

「アウティング」については、例えば2年前に大手企業に就職したゲイの知人は、配属された地方支店の支店長にカミングアウトした所、知らずのうちに支社全員や、さらには得意先にまでセクシュアリティを暴露されてしまった。にもかかわらず、社内では異性愛を前提としたからかいやプライベートの詮索などをされ、影で噂をされていることに対して恐怖を感じていた。結果的に会社を辞めることとなった。

これって「SOGIハラ」?
「なくそう!SOGIハラ」実行委員会WEBサイトより
これって「SOGIハラ」?

こうした「SOGIハラ」や「アウティング」について、これまで法的な対策はされてこなかった。ハラスメントに直面する当事者の中には、会社を辞めることによって最悪の事態を逃れるケースもある。しかし、例えば転職先でも同じようなことが起こる可能性は低くない。

本来は会社を辞める必要はなく、問題は周囲の人たちや環境を放置している企業の側にあるだろう。今回の法改正により、企業がSOGIハラやアウティングを防止する施策を講じなければならなくなることで、当事者が安全に働ける環境整備が進むことになる。

企業に求められる取り組みの内容は「指針」次第

今回のパワハラ関連法の改正は、大企業が2020年の4月から、中小企業は2022年の4月から施行される見込みだ。

その中でも、SOGIハラやアウティングを対策するための具体的なルールは、今後秋頃までに検討される「指針」の内容によって決まる予定だ。

ただ、企業が具体的にはどのような施策を講じるべきかは、すでに施行されている男女雇用機会均等法のセクハラ防止指針や、厚労省労働政策審議会の報告書を参考に考えることができる。

まず、就業規則に「パワハラをしてはいけない」という旨を明記し、それを従業員に周知すること。他には、必要な相談体制の整備や適切な対応。相談者・行為者のプライバシーの保護のための施策などがある。他にも、パワハラが発生しないようなコミュニケーション円滑化や環境改善、取引先や顧客からのハラスメントに対する相談対応等もできると望ましいとされている。

大きな一歩だが、法的実効性に課題も

ちなみに、今回の法改正ではハラスメント対策の範囲も広がる方向。具体的な内容は指針によって決まるが、直接的な雇用関係でなくても、例えば、就活生やフリーランス、教育実習生などの人々へのハラスメント対策も求められる方向である。

セクハラについては、既に法律でセクハラ対策を企業に義務付けている。

しかし、労働政策研究・研修機構によると、実際に取り組みをしている企業は6割にとどまり、法的な義務を果たしたと言える企業はさらに少ないという現状だ。こうした問題の背景には、法律に違反した場合の制裁が強くないという問題がある。

パワハラ関連法によってSOGIハラやアウティングの防止措置義務が企業に課せられることとなったことは非常に大きな一歩である。

しかし、企業に求められる取り組みの内容は指針によって定められるため、どのような内容となるかは今後注視していく必要がある。さらに、セクハラ対策と同様、今回もパワハラ対策をどれくらいの企業が守れるのか、法的な実効性についても懸念が残されている。

(2019年5月28日fairより転載)