「彼らにも同期と呼べる存在はいてもいいはずだから...」フリーランス入社式が開かれた理由は?

「今はまだ、会社をベースにあらゆる制度が作られていると感じます」と企画者は語る

東京都渋谷区の「HUMANS by Next Commons Lab」で5月31日、「フリーランス入社式2019」が開かれた。

同イベントでは、フリーランスとして仕事をする人やパートナー企業の担当者など約50人以上が参加し、トークセッションやグループワーク、相談会などを通じて交流を深めた。

企画の発起人であり、株式会社Lbose 代表取締役でフリーランスとしても働く小谷草志さんに、企画の意図やフリーランスで働く中での課題、働き方のあり方などについて話を聞いた。

「フリーランス入社式2019」のトークセッションの様子
「フリーランス入社式2019」のトークセッションの様子
株式会社Lbose

フリーランスとして働く人の中にも“同期”は居ていいはずだから...

今回「フリーランス入社式」を企画したきっかけは、今年開かれた”あるイベント”にあったという。

「4月に『START-UP2019新卒合同入社式』という、スタートアップ企業に入社する人たちを集めたイベントがあったんです。スタートアップで務める人たちは、会社はそれぞれ違ってもそこで交流を図っていた。一方で、『なぜ、フリーランスとして働き始めた人々には交流の場がないのだろう?』と疑問を感じ、交流を生み出したいと思ったんです」

自身も2016年1月からフリーランスとして働くようになった小谷さん。フリーランスとして働くことで生じる悩みは多岐にわたるからこそ、フリーランスで働く人にはコミュニティが必要だと話す。

「会社員の場合は、悩みや愚痴をすぐに同僚と共有できます。ですがフリーランスの場合、多くの人が悩みを打ち明けたり相談できる相手がいないことが多いんです。そもそも同じような立場でないと、理解しにくいところもありますから...。フリーランスはそれぞれが様々な形で働きますけど、だからといって孤独であってはならない。別に“同期”と呼べる存在は居てもいいはずだと感じて、“入社式”としてくくったんです。」

同イベントで開かれた相談会では、参加したフリーランスで働く人々から、仕事の進め方や金銭面での懸念など質問が多くあがったという。

これには「多くの部分で共感できた」と、自身の経験も踏まえ、小谷さんはこのように語る。

「個人で仕事をするようになると、なんだか“社会の網の目からポロっと落ちてしまう感覚”があるんです。賃貸の住まいが借りられないとかローンを組めないとか...私もクレジットカードを作れませんでしたからね。(笑)まず、生活面での懸念が大きい」

「それから、いざ仕事を始めてからとても重要なのが、きちんとした契約書を結ぶこととか。これらのことを相談できないって、本当に辛いですから...だからこそ社会がフリーランスとして働く人をきちんと守ることが必要だと思います」

小谷草志さん
小谷草志さん
撮影/片山昇平(@sho_hey1988)

会社をベースに制度が作られている状況を、今こそ変える必要がある

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の報告によると、日本には現在、兼業や副業を含め約390万人のフリーランスがいるとされている。

しかし、これらの形態で働く人々を適切に保護する制度が確立している訳ではない。国としては、2018年に厚生労働省が報告書を公表し、フリーランスで働く人々を法的に保護することを“検討し始めた”段階だ。

小谷さんは、今後は企業が主導して制度を構築するのではなく、フリーランスとして働く人々をしっかりと守る制度を作る必要があると話す。

「今は、まだ会社をベースにあらゆる制度が作られていると感じます。会社全体の生産性をあげることに重きが置かれているというか...これがもっと、『個人を尊重する』という観点から行われないといけないと思います。そのために、フリーランスで働く人々のインフラがしっかりと築かれなきゃいけない」

「フリーランスのメリットは、選択の裁量権を自分自身が最大化できるところにあると思っています。つまりそれは、大事にしたいことをベースに仕事を選択できる環境があるということ」

「家庭やこどもを優先して仕事をする、場所を限定されない、仕事に対してどの程度コミットするのかを自身で変えられるなど、この裁量を企業ではなく個人が持てば、幸福の度合いも高まって、結果として良いパフォーマンスに繋がってくると思うんです。企業は、その可能性に今こそ気が付くべきだと思います」

「フリーランス入社式2019」には50人以上が参加した。
「フリーランス入社式2019」には50人以上が参加した。
株式会社Lbose

企業側が提示する◯◯“解禁”という言葉への違和感

フリーランスに限らず、最近では企業に務める会社員も働き方への考え方が徐々に変わりつつあり、副業を認める企業が増えつつある。それに伴って、“副業解禁”を伝える報道も確かに増えた。

株式会社リクルートキャリアが2018年に実施した調査によれば、「兼業・副業を容認・推進している企業」は全体の28.8%を占め、2017年の調査から6%近くも上昇している。

しかし小谷さんは、この流れ自体は良いこととしながらも、企業が従業員に権利を認める際の“解禁”という言葉への違和感を感じるという。

「“◯◯解禁”という言葉の使い方は、それこそ、働き方を考える最初の視点が企業側にあるということを意味しているように感じます。これは結局、企業側に決定権があるということの表れですから、違和感を感じますね」

「ライフスタイルに合わせて、働く仕事観を自分自身が持てる環境になることが重要ですから、『解禁される』というニュアンスには違和感があるんです

「そもそも今は、働く人々にとっての社会が、会社員とフリーランスの“二項対立”のような構造に分断された状態になっている。ですが、それぞれを分類して見るのではなく、それぞれの生き方に沿う形で選択できるようになればいいと思います」

「理想は、“私はフリーランスだから...”って、いちいち言わなくても良くなるように、働き方が実現することですね」

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