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2019年06月10日 10時52分 JST | 更新 2019年06月10日 10時52分 JST

働き盛りでがん発症「職場に迷惑をかける?」 復職を迷う営業ウーマンを後押ししたのは

あなたの仕事の不安を解消するのは「企業所属のお医者さん」

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働く女性のイメージ

毎日忙しく働いていると、どうしても自分の健康や病気のリスクについては後回しになりがち。でも、ある日「がん」と診断されるリスクは誰にでもあります。

もし、働き盛りでがんの診断を受けた場合、どんな決断を迫られ、どのようなことに悩むのでしょうか?

がんの診断後、3人に1人が離職に追い込まれているという調査(※)もあります。

実際のケースをもとに、仕事への復帰や治療との両立をスムーズにするためのポイントについて紹介します。

(個人の特定を防ぐため、複数のケースを組み合わせたうえで詳細を改変しています)

【ストーリー】42歳営業職、初めて受けた検診で見つかった「乳がん」

吉田なみ(仮名)さん・42歳 

社員数1000名を超える大手食品メーカーA社で営業職としてフルタイム勤務。夫と小学生の子ども2人の4人家族

「乳がんか、そういえば検査、受けたことないなあ…」

ーー中途でA社に入って10年、営業一筋でやってきた。1年前、部署のリーダーにも任命され、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた。

ある休日に目にしたのは、芸能人の乳がんのニュース。そういえば職場の健康診断で、オプションに「婦人科がん検診」(乳がんや子宮頸がんなど、女性がかかりやすいがんを調べる検査)があったことを思い出す。

軽い気持ちで受けて数週間後、自宅に届いた結果表を見ると、乳がんの欄に「要精密検査」という文字が。

「がんの疑い…私が?」

帰宅した夫と相談し、とにかく自宅近くの総合病院で精密検査をうけることになった。

結果は「左乳がん、ステージ1」

それまでは、ニュースや本などで目にするだけだった「がん患者」という存在。

自分が、その当事者になるとは。

足元がとつぜん崩れ、地の中に引き込まれていくような錯覚を覚えた。

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病院のイメージ写真

【解説】「突然のがん宣告」職場への連絡をどうする

吉田さんが告げられた「左乳がん、ステージ1」という診断。

「ステージ」はがんの状態を示す指標です。「がんはあるが、それほど大きくなく、リンパ節やほかの臓器への転移もない」。いわゆる「早期がん」と呼ばれる状態です。

乳がんと一言に行っても、色々なタイプがあります。吉田さんは診断後、がん細胞の特徴を詳細に調べる検査を受けました。そして医師から勧められた治療は下記のようなものでした。

「左乳房切除+同時再建術施行+抗がん剤+分子標的薬+ホルモン治療」

・左の乳房を、がんの周囲を含めて切除する。同時に、外見上に違和感がないよう、切り取ったところにふくらみを作る手術を受ける。

・手術後は、再発を防ぐために抗がん剤の投薬を受け、その後、ホルモン剤などによる治療を5年にわたって続ける。

「手術後の生活は?」「薬の副作用は?」吉田さんはネットなどで今後の見通しを調べますが、サイトごとに異なった内容が書かれていて混乱します。中には「抗がん剤は副作用だらけで、使うべきでない」「医師に任せていたら殺される」というものまでありました。

入院までの3週間は準備などに忙殺されている間に過ぎ、職場への連絡は後回しになりました。入院の直前、直属の上司と人事担当者にはがんについて伝えましたが、チームの同僚には「病気の治療のため、しばらく休みます」という一報を入れるのが精一杯でした。

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手術のイメージ写真

【ストーリー】職場に戻りたい!医師から告げられた見通しは

「手術は予定通り終わりました。今後は、体力の回復を待って、再発を防ぐための治療に入ります」

ーー麻酔からさめた病室のベッドで、医師からそう告げられた。何とか乗り切った、そう思って涙が出た。

入院期間は14日間。退院してのち、病院に定期的に通院して、抗がん剤の治療を受けることになった。

薬を使い始めてすぐに、知ってはいたけれど、髪が抜け始めたのには閉口した。

見た目を気にして、ウィッグ(かつら)を手放せなくなる。

でも一方で、それ以外の副作用は、ネットで読んで心配してたほどのものではなかった。軽い頭痛やだるさはあるものの、強い吐き気などはなく、食欲もある。

とはいえ家にこもっていると、手持ち無沙汰で何時間もスマホを触ってしまう。前向きな情報を探そうとするけれど、つい「あなたの治療は間違っている」とばかりに不安を煽る記事や広告が目についてしまう。

ふと思った。

「仕事に戻って、外に出るようにしたほうが、あれこれ考えなくて良いのでは?」

次の通院の際、担当の医師に「抗がん剤で治療中でも、復職は可能でしょうか?」と切り出してみた。

すると意外にも「復職は可能です」との返答が。

「重いものを持つなど無理は禁物、抗がん剤の影響で免疫の働きが落ちやすいので、人ごみを避けるなど気を付けてください」

という注意つきではあったけれど、目の前から霧が晴れる思い。

勇んで会社の人事担当者に電話し、復職について相談した。

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【解説】抗がん剤治療中でも復職できるケースも

抗がん剤と聞くと、強い副作用で動けなくなるというイメージが強くあります。

しかし、もちろん個人差はありますが、最近は副作用を抑える方法も進歩しており、日常生活に支障が出ない程度に収まることもあります。

ところが、体調面で可能であったとしても、実際に復職を考えると、壁にぶつかることも少なくありません。

吉田さんの場合、人事担当者に復職を相談したところ、困惑した様子でいくつかの不安点を挙げられました。

まず告げられたのは「前例がない」こと。過去にA社でがんになった人は、抗がん剤の治療が終わってから復職していました。吉田さんのように、治療期間中に復職を考えたケースがありませんでした。

そのほかにも、例えば「外見」の問題。吉田さんはウィッグを付けていますが、それによって営業先の人に不信感を抱かれてしまわないか?さらには薬の副作用で急に欠勤や遅刻・早退などの可能性はないのか?という「体調」面の不安も指摘されました。

そんな会話の中で、吉田さんは急に「職場の同僚に、迷惑をかけてしまわないだろうか?」と気になり始めます。

吉田さんは乳がんになったことを、直属の上司と人事担当者にしか伝えていませんでした。働きながら治療するとなれば、チームの同僚にはがんのことを伝えなければいけません。そのとき、どんな顔をされるんだろう?という思いがよぎります。

自分の復職によって、同僚に不要なストレスや迷惑をかけてしまうのではないか?

考えれば考えるほど、吉田さんは「抗がん剤の治療がひと段落するまで、休むしかない」という気持ちに傾いていきました。

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電話のイメージ写真

【ストーリー】不安点をひとつひとつクリアして復職へ

「吉田さん、この取引先向けのプレゼン資料、チェックしていただけますか」

「はーい、どれどれ…」

ーーいっときは断念しかけた復職。しかし結果として、私は職場への復職に踏み切った。抗がん剤の治療は続けているが、なんとか仕事との両立はできていると思う。

思い返すと、背中を押してくれたのは、それまで会ったこともなかった産業医の言葉だった。

初めに復職を相談した人事担当者は、困惑しながらも「治療しながら仕事ができるかどうか、とりあえず産業医の話を聞いてみたら良いのではないか」とアドバイスしてくれた。

久しぶりに会社を訪れて健康管理部のドアをたたくと、産業医と保健師が出迎えてくれた。

「吉田さん、初めまして。産業医の山口です。本日はよくお越し下さいました。久々の会社で緊張したと思います。現在乳がんの治療中で復職を希望されているとお聞きしています。今回はどのような形で復職をすれば一番いいのか、一緒に考えていくための面談です。安心してくださいね。」

想像していたより親しみやすい態度を見て、緊張がほぐれた。

焦りや不安でつい涙が出てしまうこともあったけれど、産業医は気持ちが落ち着くまで待ち、話を聞いてくれた。

そして不安点を整理し、ひとつひとつ対策を考えてくれた。

漠然とした不安が整理されて、それぞれに対策の道があると聞くと、また復職に前向きな気持ちになれた。

家族とも相談の上、復職を決めた。

休み続けるという選択肢も一つだったのかもしれないけれど、不安や焦りを抱える中で仕事に救われている。

支えてくれた上司や同僚への恩返しの意味も込めて、もし今後、同じ境遇になった人がいるなら支えになりたいと思う。

【解説】職場と人事担当者と医療職、連携してサポートする仕組みの大切さ

産業医は、私たちがふだんイメージする「病院で診療する」一般的な医師ではなく、企業に所属し、従業員の健康管理などを行います。

吉田さんから相談を受けた産業医は、不安点を整理して人事担当者などと相談。

そして人事担当者は、吉田さんに「主治医に、復職にあたり注意するべきことなどを記載した意見書を作ってもらってください」と連絡し、その提出をうけた上で、復職プランが作られました。 

 ※「前例がない」ことへの不安

前例は作っていくもの。いま日本社会全体としてもA社としてもがんからの復職の環境を作ることが急務になっている。その体制づくりのモデルケースとなるかもしれない。

※「外見」の不安

周りからどう見えるかより、吉田さん自身の気持ちが大事。過去の復職のケースでは、最初は気になったけれど、そのうち気にならなくなることが多い。治療が終われば髪の毛はまた生えてくる。

※「体調の悪化による欠勤や早退・休業」の不安

治療の副作用などで、欠勤や早退、休業する可能性は想定しておいたほうが良い。内勤を中心にしたり、何か急に休んだ場合に対応してもらえるように体制を作れないか人事や上司に相談する。

※「同僚への迷惑をかける」という不安

病気について全てを開示する必要はないが、もし抗がん剤の治療中に復職するなら、コアとなるチームの同僚には伝えたほうが良い。

起こり得る副作用の可能性や病気のことについては産業医側からも人事の担当者や上司にしっかりとした情報をお伝えし、理解してもらえるようにする。

必要な対策や気を付けるべきことが事前に職場側に共有されていれば、何かあってもすぐに対応ができる。病気はだれにでも起こりうること。「迷惑をかける」と気に病みすぎる必要はない。

吉田さんの復職プランです。

・体の負担や感染症のリスクなどを考え、内勤からのスタートとする。

・最初の2週間は半日勤務からはじめ、その後は通常勤務にしていく。

・時間外勤務(いわゆる残業)や重量物の取り扱い、そして外回りなどは体調への負担を考えて避ける。

復職にあたり、吉田さんが同じチームのメンバーに病気のことを伝え、急に休むことになったら申し訳ないことなどを率直に話すと、思った以上に自然に受け入れてくれました。

抗がん剤の治療を受けた後の数日は体調が悪くなることもあるので、上司にその予定を伝え、事前に多めに業務を済ませておくなどの配慮が行われ、トラブルも発生しませんでした。

そして抗がん剤の治療が終わり、分子標的薬やホルモン剤などの治療を受けながらも体調が落ち着いてきたのを確認できたため、外回り営業を開始しました。今後は産業医や上司、人事と相談しながら、残業などもだんだんと再開していく予定です。

【インタビュー】社会として、企業として「がんの復職」への理解が進むことの大切さ 

これまで、産業医として多くのがん当事者の復職相談に対応してきた川島恵美さんによれば、今回の吉田さんのように復職への不安を抱えるケースは少なくないということです。

その原因を探っていくと「職場・取引先に迷惑をかけると思いこんでしまう」ケースや「会社の制度を知らない」ケースが多いのだと言います。

(川島さん)がんの治療中や、治療後に復職を考えた時にぶつかる大きな壁の一つが、本人の『迷惑をかけたくない』という気持ちです。周囲の気持ちをくみとりすぎたり、見た目を気にしてしまうケースもあります。

その点に関しては、いまはがん患者の3人に1人は就労世代と言われ、がんの治療と仕事の両立を進める流れができていることや、ウィッグに関しても良いものができているので、気にしすぎることはないと両立支援に関しての状況を伝えると安心していただけることがあります。

もうひとつの壁は、会社側に受け入れてくれる体制や制度があるのか?という不安です。休職前は、治療のことで頭がいっぱいで復職のことなど考えられないのが普通です。そのため会社の制度自体を理解しておらず、受け入れてもらうのは難しいのでは?と不安になってしまうことも多いようです。

相談を受けた際に、フレキシブルに働ける制度を設けている企業では、「半日勤務などから始めるのはいかがですか?」とお伝えすると、「えっ?できるんですか?」と驚かれるようなことも少なくありません。

注意するべきなのは、企業によって制度が一律ではないので、勤務を半日にはできるけれど、出れない時は欠勤扱い(給料が出なかったり、賞与に響くなど)となる場合もあります。病気による休職の場合は、傷病手当金が支給されているケースもあり、それならば途中で復職しない方が良い、という考えもありうるわけです。

復職の時はまず、人事担当者に制度を聞き、お金や保障などのバランスも含めてしっかり話し合うことが大切だなと思います。

回復してきて、いざ復職を考えると本当に働けるのか?と不安になる方がほとんどです。

その時に、身体や心の状態と仕事のバランスを考えた上で一番いい形で復帰ができるように、サポートする役割を産業保健スタッフ(産業医や産業保健師など)は担っています。会社で選任されている場合は、ぜひ一度相談してみてはどうでしょうか。

【取材協力】

産業医広報推進部

働く人の健康を守るための学問である産業医学を専門とする5人の専門家チーム

川島恵美さん(産業衛生専門医)

大手化学メーカーや行政機関等の産業医。ライフステージに応じた働く女性の健康支援や産業医の育成に興味を持ち取り組んでいる。

(参考資料)厚生労働科学研究費補助金、厚生労働省がん研究助成金「がんの社会学」に関する合同研究班(主任研究者 山口 健)(平成16年)

(2019年6月9日yahoo!個人から転載)