「子育て体験」プログラムで見えた、Z世代のリアル。「人生のレール」失った苦悩、評価への焦り…

約1000人の学生と共働き家庭を繋いできたスリールが新たな挑戦を始めた。背景には、堀江敦子代表の「危機感」がある。
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「Z世代」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。

生まれた時からインターネットに慣れ親しんだ常識にとらわれない豊かな発想力を持つ世代? SNSを駆使して他人と緩く広く繋がるドライで自由な世代?

答えは、イエスであり、ノーだ。

”女性活躍”や”保活”という言葉すらなかった2010年に始めた「ワーク&ライフ・インターン」という両立体験プログラムを通し、約1000人の学生と共働き家庭を繋いできたスリール(東京都文京区)の堀江敦子代表は、ここ数年の学生たちのある「変化」に危機感を覚えている。

話を聞くと、思いがけないZ世代のリアルが浮かんだ。

検索で『自分』は見つからない

「生き方を見失っている、と感じる学生が増えてきました」と堀江さんは語る。

「SNSには誰かが実践している『良さそう』な情報が出回っている。自分も何かしなきゃ、という焦燥感から、『良さそう』な何かに飛びついてみる。周囲からキラキラのSNSを見せられる中で『自分もアウトプットを出さなきゃ』と焦るけれど、なんとなくうまくいかない」

「失敗が怖いから、石橋を叩いて叩いて、結局飛び込めない子もいる。結果がすぐに出ないと長続きもしない。失敗しても誰も責めないのに、自分で自分を責めて、傷ついていくんです」

SNSにはキラキラした情報が氾濫している
SNSにはキラキラした情報が氾濫している
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「自分が何者でありたいのか、どうありたいのかという軸を持ちにくい時代。自分に自信がない。目的がないから、結果もついてこない。自分が空っぽなことは自分が一番分かっているから、余計に苦しくなっていく」

以前なら、大学4年生になったら就職活動、卒業後は就職し、しばらくしたら家庭を作るーーという見えないレールが敷かれていた。就職活動に勝ち抜けば、それなりの給料と安定が保証され、結婚や出産、キャリアアップなどの将来がイメージしやすかった。

だが、終身雇用の幻想はすでに崩れ去り、2021年春以降に入社する学生には就活ルールも廃止される。仕事と家庭の両立不安は女子だけでなく男子にとっても身近なものとなっている。一昔前に学生たちの前に敷かれていたレールは、もう見えない。

堀江さんは言う。

「今の大学1年生は2020年以降はどうなるか分からないよ、と言われています。昔はレールが敷かれていることが苦しかったけれど、今はレールがないのが苦しいんです。検索では『自分』は見つからないから……」

「評価」される焦りと恐怖

スリールの「ワーク&ライフ・インターン」は、学生が2人1組で受け入れ先の共働き家庭に入り、4ヶ月間のインターン活動を行うというもの。子どもを保育園に迎えに行き、夕食を準備したり子どもの相手をしたり。社会に出る前の学生たちが漠然と抱えている「両立不安」が解消され、将来のキャリアや生き方に前向きなイメージが描けるようになる。

だが、ここ1〜2年、「ワーク&ライフ・インターン」に参加する学生たちが突然辞めてしまう、というケースが出てきた。

両立体験をしてみたい、というだけでなく、「インターンをすれば就活に有利になるかも」と考える学生。「インターン先の子どもたちに好かれなくては」「ママに気に入られなくては」と気にしすぎて、子どもがワガママを言うなどの想定外の行動に出た時に苛立つ学生ーー。

堀江さんは、学生たちの変化の裏には『”評価”される焦りと恐怖』があると指摘する。

「学生たちにとって、親以外の大人は『自分を評価する人』。教師も、インターン先の大人も、就活で出会う社会人も。プライベートですら、友人に『いいね』と評価してもらえるかどうかを気にしてしまう」

「自分自身も誰にも本音をさらけ出せないし、相手も自分に本音で接しているとは信じられない。それが今の学生たちのリアルだと感じています」

SNS、学校、インターン、就活。デジタルネイディブな世代だからこそ、あらゆる場で「評価」される自分になれてしまっている(2019年3月、千葉県)
SNS、学校、インターン、就活。デジタルネイディブな世代だからこそ、あらゆる場で「評価」される自分になれてしまっている(2019年3月、千葉県)
時事通信社

本当の自分は、家族だけが分かってくれればいい

学生たちの変化が気になった堀江さんは、社員総がかりで学生全員と1時間ずつ面談を行った。

「本当の自分は家族にしか見せていない」

「友だちに対しては”キャラ”を演じている」

「信じられるのは親だけ。家族が分かってくれればいい」

見えてきたのは、学生たちのあまりに寂しい本音の数々だった。

「最近の若者は安定志向と言われるけれど、その通りです。2020年以降がどんな時代になるか変化が予測できない。起業とか副業とかいろんな可能性があることも分かっているけれど、自分に能力がないことも分かっている。だから、一番沈まなそうな船に乗る、と言うのです」

「こんなに可能性やチャンスが転がっている時代なのに、どうしてこんなに悲観的なの?と思わずにいられません。ガチガチの固定観念で自分を縛っている。でも、学生たちがバリアを張らなければいけない時代の空気を作ったのは、私たち”大人”なのかもしれません」

もちろん、SNSを最大限に活用して自分の生き方を見つけるZ世代もいる。起業したり、発信したり、キラキラと目立つ活躍をしている学生もメディアには数多く登場している。

だが、「こうした学生は一握り」だと堀江さんは指摘する。

「SNSのおかげで、その気があれば会いたい人に会える時代になった。勉強会に参加したり、いろんな大人に出会ったり。でも、実際には親と教師以外にはリアルな大人に出会ったことがない学生が大半です」

『ワーク&ライフ・インターン』を公教育に

「ワーク&ライフ・インターン」の本来の目的は、楽しんで活動し、子どもや保護者と関わることで自分自身としっかり対峙し、将来の生き方を考える機会を提供すること。

堀江さんは、もっと心理的安全性が高い状態で学生たちが自分自身と向き合えるよう、両立体験プログラムを公教育で行うことが必要だと考えている。

スリールの堀江敦子代表
スリールの堀江敦子代表
Yuriko Izutani/Huffpost Japan

5月15日には、高校や大学のキャリア教育として両立体験プログラムを展開しようとクラウドファンディングをスタート。わずか半月で目標の500万円を超える支援金を集めた。

スリールでは、すでに6大学と京都や愛知などの自治体と連携し、両立体験プログラムを取り入れてもらっている。『座学(2日間)・インターン(2日間)・振り返り(3日間)のプログラムで、インターンは受け入れ先の家庭の大人が同伴のもとで行われる。一度導入した大学や自治体での継続率は100%という。

「目的は両立体験だけではありません」という堀江さんは、こう強調する。

「一番の目的は、若い世代の自己肯定感を高めること。将来に対する漠然とした不安を払拭し、両親や教師以外のリアルな大人と出会える機会をすべての学生に提供していきたい。プログラミング教育や英語教育の必要性が理解されやすいけれど、こんな時代だからこそ、『生き方』を考える教育が必要なのではないでしょうか」

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