メディアと表現
2019年06月12日 16時32分 JST | 更新 2019年06月13日 14時40分 JST

広報戦略でも自民1強、ViViと自民党のコラボ広告は何が問題だったのか。西田亮介氏が懸念する3つのポイント

政治的なメッセージにファッションやアートの殻をかぶせて、「政治的ではない」と届ける行為ーー。その不透明性に、言いようのない「気持ち悪さ」を感じ、西田亮介氏に取材しました。

コラージュ
若者をターゲットにした広報戦略に力を入れる自民党

10〜20代向けの女性ファッション誌「ViVi」と自民党とのコラボレーション広告が波紋をよんでいる。「みんなはどんな世の中にしたい?」と呼びかけたViViの公式Twitterには、政権に批判的なコメントも多く寄せられている。

参院選を控える中で政権与党とコラボレーションした広告企画ということもあり、これを報じるメディアも「批判殺到」「物議」など、批判色が強い。

 だが、西田亮介・東京工業大学准教授(社会学)は「政党としては、当たり前のことをやっているだけ」と指摘する。

 

若者向けマーケティングのセオリー通り

コラボ広告は、2つのハッシュタグをつけて投稿すると、ViViのモデルが考案したメッセージがデザインされたTシャツをプレゼントする、というもの。西田氏は「よくできている」と評価する。

「現代風の広告で耳目を引く、というのは、若者をターゲットにしたマーケティングのセオリー通り。自分たちの政治理念を政治に興味がない人たちに広く訴求したい、若者や無党派層を取り込みたい、とあれこれ手法を凝らすのは、政党として当然です」

1955年に結成された自民党は、リクルート事件などの汚職事件が続いた80〜90年代に女性と若者の支持率を落とした経験がある。

西田氏は、「自民党は、過去の反省から、若者や女性の票をどう耕すかということに向き合ってきた」としたうえで、「女性誌に広告を打つというのは90年代からやっていることですし、広告代理店の電通とは深い付き合いが続いています。ノウハウの蓄積、人材、資金も豊富です」と語り、3つの問題点を指摘する。

 

① 責められるべきは、自民でなく「多様性の欠如」

ViViとのコラボ広告は、「#自民党2019」と銘打った自民党の若者向けプロジェクトの一環だ。

「令和」を迎えた5月1日、10代のアーティストらと安倍晋三首相が共演したPR動画「新時代」をYouTubeで配信。プロジェクトの特設サイトで、制作の舞台裏などを公開している。

東京や大阪などの街頭では、人気ゲーム「ファイナルファンタジー」のキャラクターデザインを手掛けた天野喜孝氏によるアート広告「新時代の幕開け」も登場。

特設サイトの水墨画風に描かれた7人の男女の中央に立つイケメン武士にカーソルを合わせると、「第二十一代・第二十五代 自由民主党総裁 安倍晋三」の文字が浮かぶ。

「『#自民党2019』プロジェクト」特設サイト
天野喜孝氏が描いた「新時代の幕開け」。中央の武士にカーソルを合わせると…

「#自民党2019」のプロジェクト以外にも、自民党総裁でもある安倍晋三首相が、人気アイドルグループTOKIOと会食した写真をSNSに投稿したり、ロックバンド「打首獄門同好会」や吉本芸人などの表敬訪問を受けたり、若い世代に向けたアプローチに趣向を凝らしている。

こうした自民党の動きに批判的な声も上がるが、西田氏は「問題は、若者を狙ったSNSでの広報戦略で自民党ばかりが目立っていて、受け手側に他の選択肢が見えづらい状況」だと強調する。

共産党は動画投稿アプリTikTok、立憲民主党はトークイベントなどで若者にアピールしているが、インパクトに欠ける。

「多様性、多元性に欠けている点が問題ですが、それは自民党だけのせいではありません」

「自民党以外の政党は、分裂・合併を繰り返しているため、自民党と比べてノウハウの蓄積が乏しく、資金でも遅れをとっている。支持層に向けたメディア戦略には熱心だが、無党派層へのアプローチが弱い。努力不足もあるし、仕方がない面もあります」

日本共産党・公式TikTok
共産党が開設した動画投稿アプリ「TikTok」の公式アカウント

 

② 公教育では身につかない政治リテラシー

西田氏は、広告を受け取る側に政治的なリテラシーが欠けている点も危惧する。

「政党の利益と社会の利益は、必ずしも一致しない。広告がターゲットとする政治にあまり関心がない若者が、政党の戦略を見抜く目を持っているか、という点は注意が必要です」

ViViの広告記事の中には「いろんな文化が共生できる社会に」「自分らしくいられる世界にしたい」など、漠然としているものの耳あたりのいいメッセージが並ぶ。

だが、これらは夫婦別姓や同性婚などの推進に積極的ではない自民党のスタンスとは「合致しないのではないか」という声もあがる。

「学校の授業では、政治は歴史や制度、理論の観点から学ぶだけ。でも、現実の政治は、もっと人間の欲がうごめいていて生々しいもの。教科書に書かれた政治と、リアルの政治には、大きなギャップがあります」

本人提供
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の西田亮介准教授(社会学)

③ 政治を語ることをタブー視してはいけない

ViViと自民党のコラボ広告は、自民党公式サイトにも4月25日に告知されている。

だが、ハフポスト日本版の取材に対し、講談社は「政治的な意図や背景はまったくない」と矛盾したコメントを回答。自民党から受け取った広告料や、どちらから企画を持ちかけたのか、という点についても、「差し控えさせていただきたい」と回答しなかった。

政治的なメッセージにファッションやアートの殻をかぶせて、「政治的ではない」と届ける行為の不透明さに、言いようのない「気持ち悪さ」を感じた。

そもそも、起用されたモデルたちは、自民党についてどういうスタンスなのだろうか? 自民党とのコラボ広告に出てることに関して、編集部がきちんと説明をしたのだろうか? 講談社のコメントからは、編集部内で深く議論をしたとは思えなかった。

西田氏は「問題の根底にあるのは、日本の社会に広がる政治アレルギーです」と語る。

「表立って政治の話をすることがタブー視されている。これでは、若い世代が政治に関心を持ちようがありません。家族や友人と政治について語る機会もないまま、18歳になると自動的に選挙権が与えられる、という歪な状況が再生産されています」

「こういう状況を作り出してきたのは、メディアの責任でもある。メディアは、他人の言葉で政治を語るのをやめてみては? もっと誰もが気軽に政治を語れるようになった方がいいと思います」

 

【UPDATE 2019/6/12 17:44】