妊活中の友人や同僚とどう接していく? 4年にわたる妊活経験者が語る、心の葛藤

妊活中の友人と妊活中の同僚で、最適なコミュニケーションは異なる。

妊活経験者として、仕事との両立支援や、情報発信を行う小山佐知子さんインタビュー。実際の体験談を赤裸々に語ってくれた前編に続き、後編では、友人や同僚、上司など周囲とのコミュニケーションについて伺いました。

ライフキャリア・シナジーLab代表・小山佐知子さん
ライフキャリア・シナジーLab代表・小山佐知子さん
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編集部:妊活中に立ち上げたブログコミュニティのテーマが「総合職で働く女性の妊活」だったのですよね。 小山さんが当時おられた職場は妊活と仕事を両立しやすい環境でしたか?

小山:今思うと、妊活に限らず、育児や介護など、何か両立するものがある人にとっては厳しい職場だったんじゃないかなと感じています。ただ、実際には当時、そういう制約がある人ってほとんどいなかったので想像の部分もありますが…。ただ、モーレツ均等な体育会系の働き方だったことだけは確かですね(苦笑)。

編集部:今でこそ女性活用だ、育児と仕事の両立だ、と機運は高まっているものの、こういうバリバリな働き方が残っている企業は少なくない気もしますが…。

小山:長時間労働で企業戦士のように働いていると「ワーク・ライフバランス」なんてピンとこないというか、みんなライフを削るように仕事をしています。たとえば「夫と一緒に夕ご飯食べたいので定時に上がります」なんていう当たり前のことも申し訳なくて切り出せないような感じになっていくんですよね。なので、妊活のために早く帰りたいとか、不妊治療があるから遅刻しますなんてことはまず言えない。

私の職場の上司は100%男性でしたし、ワーカホリックな人も多かったのでなおさら言いにくいのもありましたし、デリケートな話だからこそ、伝えたあとに色眼鏡で見られたら嫌だなとか、変に気を遣われたくないなとか、いろいろな想いが交錯していました。

妊活中、ずっと一定の心境でいられるわけではない。被害者意識が強くなって、ひどく傷ついたことも

編集部: 特に働く女性の両立問題は深刻だと思うので、話せる人がいない、パートナー意外に理解者がいないというのは辛かったのでは?

小山: 私もそうでしたが、男性中心の職場にいる妊活女性は「同僚や上司に話したとしても理解してもらえるとは思えない」とおっしゃる方が多いですね。私がブログコミュニティで主催した妊活女性の茶話会でも、「妊活をカミングアウトしたことで逆に仕事がしにくくなった」という声も多く聞かれました。私自身も、宴席で違う部署のおじさん管理職から「結婚してもう3年でしょ? 子どもの作り方教えてやろうか~?」なんて言われたことがあって、これはとてもカミングアウトどころじゃないなと。

編集部:それはひどい…。でも、確かに子どもを持つかどうかは超プライベートなことゆえに聞き難いですよね。 私の周囲でも結婚して数年経つものの子どもがいない方がいるのですが、なんとなく「妊活しているのかな?」と思いつつその辺には触れられず。子どもがいない人の前では子育ての話なんかもし過ぎない方がいいのかな…。など色々考えてしまいます。

小山:相手に失礼になる質問はNGですが、その方との関係性などによってライトに質問できるケースもあるでしょうし、お子さんの話も、子どもがいなくても子ども好きな方はいますから過度な子ども自慢じゃなければ気にしすぎることはないんじゃないかなと思いますよ。

そういえば、営業同行中に上司がふと息子さんの受験の話をしてくれた時はほっこりしました。「いいパパだなぁ〜」って。その人のライフの姿が見える方が安心するというのはありますからね。

編集部:とはいえ、妊活中に周りの発言で精神的に堪えることってありませんでしたか?

たとえば、他人のおめでた発表は辛い! というのをよく聞くのですが…。

小山:それは確かにありますね。私も妊活していた4年間はいろいろと気分の波や浮き沈みがありましたから確かに落ち込んでるとき…。たとえば、きのう妊娠判定のために病院に行って妊娠していないことがわかったみたいなタイミングで後輩から「先輩! 私妊娠したんですよー!」って聞かされた日には倒れそうになりました。もちろん相手は悪気ないのでしょうけれど、「私が妊活中って知っていてこの発言…。当て付け!?」って悪い方に深読みしちゃったり。行き場のない感情だからこそ、時には「なんで私だけこんな辛い目に遭わなきゃいけないの」って被害者意識で自暴自棄になったこともありました。妊活ってそれくらいストレスがかかるもなんですよね。

編集部:小山さんが周囲とのコミュニケーションも含めて妊活がつらかったのはいつだったのでしょうか?

小山:大なり小なり常にストレスはあったので何とも言えないのですが、妊活と仕事の両立も視野に入れてフリーランスになったのに思うように仕事が受けられなかったのは辛かったですね。

編集部: 仕事が受けられないというのはスケジュール的にですか?

小山:そうですね。この日に取材に行って欲しいと頼まれる日がちょうど通院と重なりそうで即答できないジレンマとか…。結局治療のスケジュールは自分で決められないですからね。せっかく通院したかと思えば「排卵していないから明日もう一回来てね」と肩透かしを食らうこともよくあるんですよ。「え、せっかく調整の末に今日来たのに無駄だったってこと!? …っていうか明日は仕事のアポ入れちゃったしどうしよう!」みたいな。自分の身体のことなのに自分でコントロールができないジレンマは相当でした。

編集部: わかります。それにお仕事となると、会社員であれフリーランスであれ常に一緒に働く人がいますからね。休みの申請や調整にも心をすり減らしそうですね。

小山:フリーになってすぐの頃は、関係性が薄いクライアントに不妊治療のことなんて言えるわけもないので結局仕事を優先して病院をキャンセルしたこともありました。で、モヤモヤが溜まると決まって「会社を辞めなきゃよかった」という思いが湧き出てくるんですよね…。会社を辞めたのは妊活との両立難だけじゃなく、「会社の外で試したい」という気持ちもあってのことだったのに。気持ちが不安定になるといつも以上に隣の芝が青く見える。そして自分が一番惨めに思える。そんな負のスパイラルにハマるんですよね。そして一番最悪なのは、そんな風にクサクサしている時に限って、周囲の人に対して思ってもいないことを暴言にして吐いて相手を傷つけてしまうこと。

編集部: 本当に辛いですね。ついうっかり発言したこととはいえ、これがまた冷静になると自分を責める材料になったりしますもんね。

小山:私はあるときネットで“不妊様”という言葉を知りまして。“不妊様”とは、子どもが欲しいという感情に囚われて自分をコントロールできなくなっている人のことを言うのですが、例えば妊婦さんに過剰に反応したり、SNSなどで幸せそうな家族写真を見ると落ち込んだり皮肉なコメントを入れてしまったり、不妊をカミングアウトしている場合は「私はこんなに頑張ってるのに!」と不幸アピールしてしまうなど。 ある時ふと冷静になって「あ、私いま不妊様になってるかも…」と思ってからは意図的にSNSをお休みしたり、友だちとの時間より一人になる時間を優先したりしました。

妊活中の人への声掛けに正解はない。価値観を押し付けず相手を尊重する日々のコミュニケーションを大切に

編集部:職場や身近な交友関係の中で不妊治療をしている人がいた場合、周囲の人はコミュニケーションの中でどんな点に気をつければいいのでしょうか?

小山:そうですね。まずは、職場と交友関係をちょっと分けて考えていきたいと思います。もし親しい友人やから「妊活で悩んでいる」というような話を聞いたら、そっと話に耳を傾けてあげて欲しいなと思います。どんなに親しい人であれ、カミングアウトするのは勇気がいることなので、心を開いてくれている証拠と捉えてみてください。妊活のストレスはなかなか一般的に理解されにくい話でもあるので、無理に理解しよう、アドバイスしようとは思わず「うん、うん、そうなんだね」と聞いてあげるだけで十分です。

編集部:なるほど、聞き役に徹する、ですね。

小山:先ほど“不妊様”の話をしましたが、もし相手が精神的に参って被害者意識が高まっているような状態なら、恐らく聞いている方も辛かったり、いい気分はしないことがあるでしょう。そんな時は一通り聞いた上で、少し距離を置いてみるといいかもしれません。妊活中の気持ちのバイオリズムは治療内容に比例するようにアップダウンが激しいケースが多いので。あとは「頑張り過ぎなんじゃない?通院やめたら自然妊娠したって話はよく聞くよ!」というような声かけも、良かれと思って発したことが相手にとっては否定されたと捉えられることにもつながるので要注意です。

編集部:なるほど。では職場ではどうでしょうか?

小山:これは不妊治療だけではなく育児中の女性を抱える組織のマネジメントにも言えることなのですが、上司は日ごろから部下が“ライフ”を含めてどんなことに興味があり何を大切にしているのかを把握してほしいなと思っています。

例えば育児中の女性社員が3人いたとして、傍からみればいずれも“ワーママ” なのですが、それぞれ価値観や大切にしていること、ビジョンは違うはずです。仕事は妥協せず新しいことにもどんどんチャレンジしたい人もいれば、育児を優先したい人もいるでしょう。「君はママだから〜の仕事しかできないよね」と一方的に決めつけるのは絶対にNG。

妊活の場合は、そもそもカミングアウトをしないで一人で苦労しているケースも多いのでなおさら難しいのですが、上司が女性活用の一つとして不妊治療についての基礎知識を知ってもらうことも大事だと思いますし、その上で「どんな風に両立していきたい?」と聞き、部下の希望や価値観をしっかり聞いた上でマネジメントしてほしいなと思います。

人と人のコミュニケーションなのでマニュアルがあるわけでもありませんし、一朝一夕にできることでもないので、日頃からコミュニケーションをとり、信頼関係を築くことが大切だと思います。

編集部:最後に、これからそろそろ妊活を…。と考えている人に、小山さんからメッセージはありますか?

小山:20代の人と35歳以上の人だと現実的に妊娠のしやすさが違ってくるので伝え方が難しいのですが…。全ての方にお伝えしたいのは「妊活はゴールではなく人生の通過点である」ということ。べき論に囚われず、広い視野で長い人生のライフキャリアを考えてみてほしいなと思います。

20代で具体的に出産のことが見えない方は、最低限、定期的に検診を受けたりメンテナンスをしておくことが大事かなと。必要以上に頭でっかちになる必定はありませんが、もしパートナーがいれば、彼も含めて妊娠を含めた将来のこと話せるといいなと思います。前編でお伝えした通り、不妊の原因の半分は男性側ですし、パートナーの協力なくして妊娠も出産も、そして育児もできませんから。

35歳以上の方でパートナーとともに妊娠の希望があるのであれば、一度2人揃って専門医を受診してみるといいでしょう。病院選びについては前編でお伝えしたとおり私のようなミスは犯して欲しくないのでクチコミに惑わされることなく、信頼できる専門医を見つけてほしいなと思います。

当事者でないと、仕事と両立する難しさやしんどさが理解されにくい妊活。しかし、当事者とそれ以外という意味ではママになっても同じことが発生する、という小山さんの言葉にハっとさせられました。
ラシクでは今後も小山さんと妊活について情報発信を続けていく予定です。今後の展開もお楽しみに!

※前半『経験者として、キャリアとの両立を支援したい!小山佐知子さんが語る「働く女性の不妊治療」の話』はこちら

文・インタビュー:真貝友香

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