英BBCの男女比を半々にするプロジェクトが拡大、差別もまだ残る 「世界ニュースメディア大会」報告

男女が平等に働くためには、ただ数を増やすのでは不十分。文化を変えなくては...
BBC ニュースサイトトップページのスクリーンショット
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2017年秋以降、セクハラや性犯罪に声を上げる「#MeToo運動」が拡大している。職場での性差別解消の動きを後押しする機運もできた。

しかし、2019年現在でも、「まだこうなの?」という例もあちこちで散見される。

英スコットランドのグラスゴーで、6月1日から3日まで開催された第71回世界ニュースメディア大会・第26回世界編集者フォーラムの中の「女性ニュースサミット(Women in News Summit)」の様子を紹介してみたい(主催は世界新聞・ニュース発行者協会=WAN-IFRA)。

「同じ日に同じ職に昇進のオファーだが、男女で報酬の差」

英BBCで、性による給与格差が大きくクローズアップされたのは2017年7月。15万ポンド(約2100万円)以上の高額報酬者のリストを発表したところ、男性ばかりが上位を独占した。

国家統計局(ONS)によると、英国全体の男女の賃金格差は17年時点で18.4%(女性の賃金が男性の賃金よりも18・4%低い)で、BBCは、内部調査でその差は9~10%としているため、平均からすれば悪くないのだろうけれど、女性陣の一部にとっては大きな衝撃となった。

怒った女性の一人が、中国からの報道を統括する「中国編集長」という職に就いていたキャリー・グレイシー氏だった。4人の国際版編集長(男性2人、女性2人)の中で、男性陣が女性陣よりも「50%以上高額の」報酬を得ていたことに気づいた。

グレイシー氏は中国編集長に任命されたとき、BBCは北米編集長(男性)と同程度の金額の報酬となることを約束した。これを前提に、グレイシー氏は赴任した。ところが、実際は男性の方の報酬がはるかに高かった。BBCと話し合いを進めたが、納得がいかなかったグレイシー氏は、昨年1月、男女の報酬差に抗議するため、中国編集長職を辞任した。同じ年の6月、BBCはこれまでの不当な扱いを謝罪し、不足額をグレイシー氏に支払った。

BBCラジオ(「ラジオ4」)の朝のニュース解説番組「トゥデー」で司会者だったセイラ・モンタギュー氏も、同番組の男性司会者の報酬がはるかに高いことに抗議し、「トゥデー」を自ら去った。現在は午後のニュース番組「ワールド・アット・ワン」で司会役として働いている。

英国で大きく注目されたこのような例が続々と発生しているのだから、よほど事態は改善しているのだろうと想像するが、実はそうでもないことが分かったのが、今年5月。

BBCラジオのニュース部門の編集者カレン・マーティン氏が、その内情を「女性ニュースサミット」で語った。

マーティン氏は、「副編集長」に昇進するオファーを受けた。同じ日、同じ職場で働くある男性も同一の職へのオファーを受けた。昇進のための選考過程は同じで、職務も全く同じなのに、自分の報酬は「1万2000ポンド(約165万円)低かった」。上司からは、昇進は「正当な評価だね」とねぎらいの言葉をかけられた。「それなのに、報酬が男性よりも低いなんて」。金額自体に文句を言っているわけではなかったが、「男女で平等な金額であるべき」と感じた。

マーティン氏は、この昇進を受けるべきかどうか、迷ったという。シングル・マザーのマーティン氏は娘たちにどうするべきかを聞いてみた。「お母さんは、いつも堂々と生きるべきだって言っているわよね」。これで心が決まった。昇進を断ることにしたのだ。

BBCは「これまでの勤務経験や業績によって、同じ職務でも報酬に差がつくことはあり得る」としている。

マーティン氏は事の次第を同僚に電子メールで伝えた。BBCのニュースでも報道された。

「世界中の人から、たくさんの激励のメッセージを受け取った」。原理原則よりも「日々の生活を優先させなければいけないときもある。でも、職場の屈辱をどれぐらい我慢できるかが目安になる」とマーティン氏は語った。

時に涙声になったマーティン氏。悔しさがよみがえってきたように見えた。

「50:50」は拡大中

前向きな動きもある。昨年の女性ニュースサミットで紹介されたのが、BBCニュースが取り組む「50:50プロジェクト」。番組「アウトソース」で司会者を務めるロス・アトキンス氏の発想で、2017年に始まったプロジェクトで、番組出演者の男女比を出来得る限り半分ずつにしようという試みだ。

「アウトソース」がまず開始し、ほかのニュース番組にも参加しないかと声をかけた。どれぐらいの比率を達成したのかを番組毎に競い合った。

プロジェクト・リーダーのニナ・ゴスワミ氏がニュースサミットで語ったところによると、取材対象者の男女比は対象外だが、取材をするリポーター、司会者、ゲストの出演者、事例紹介などの際に男女半々を達成するように努めたという。英語での放送番組を当初は対象にしていたが、アラビア語放送も参加するようになった。

専門家のコメントを必要とするとき、「女性の数が足りない」という声が出た。制作現場のスタッフから「女性の専門家を探す時間がない」といわれた。そこで、ソーシャルメディアやつてを通して人材発掘をした。女性の専門家のデータベースには、今や約1000人が登録されているという。

筆者は英国でテレビを見ていて、ニュース番組の制作者・出演者に女性が増えたように思っていたが、意識的な動きもあったことが分かった。

「数を増やすこと自体が目的ではない。男女の比率を半々にすることで、人口構成の比率を反映した番組作りを目指している」とゴスワミ氏は語った。

数を単純に増やして、失敗

マイクを握り、「失敗例から学ぶこともあると思う」と話し出したのが、スウェーデンのメディア企業ミッテメディア社の人材育成担当者カリン・アンダーソン氏だ。

2014年、アンダーソン氏は日刊紙のスポーツ部門のスタッフが全員男性であることに気づいた。

「54人のジャーナリスト全員が男性。これではいけないと、女性をどんどん増やした。とうとう17人まで増えた」。

しかし、スポーツ部門に行った女性たちのほとんどが、数か月で退職してしまった。アンダーソン氏は辞めた女性たちに理由を聞いてみた。原因はセクハラだった。男性たちは女性とともに働くことに慣れておらず、性的なジョークを連発していた。こうした事態が発生することを予測できなかった自分を恥じたという。

「文化を変えなければだめだ」と思ったアンダーソン氏は、男女が平等に働くにはどうするかについて、記者やデスクたちに研修を行った。「職場環境は、少しずつよくなっていると思う」。

「いつの間にか、女性の話を多く書くようになった」

女性ニュースサミットでは、優れた指導者として編集に貢献した女性に賞(「エディトリアル・リーダーシップ・アワード」)を与えている。

今年のリーダーシップ・アワードの受賞者は、中東・北アフリカ部門がレバノンの日刊紙「L’Orient-Le Jour」のシニア・エディター、アシル・タバラ氏、アフリカ部門は南スーダンのジュバ・モニター紙の編集長アンナ・ニミリアノ氏となった。ニミリアノ氏は飛行機の遅延でサミットには出席できなかったが、タバラ氏はこれまでの道のりとアワード受賞の喜びをサミット出席者に語った。
タバラ氏がジャーナリストとしてのキャリアを開始したのは、1986年。最初はAFP通信の記者だった。レバノン内戦(1975-90年)の真っただ中である。数々の紛争の現場を目にし、タバラ氏はいつの間にか戦争に翻弄される人間の悲劇をつづることに力を傾けるようになった。「いつの間にか、女性の話を書くことが多くなっていた」。

アラブ・イスラエル紛争、イラク戦争、そしてアラブの春の政権交代。報道に足る出来事には事欠かなかった。2009年から14年まではAFP通信の湾岸局を統括し、巨大なマルチメディア編集室を作り上げた。記事はアラビア語、フランス語、英語で世界中に発信されていった。

「このアワードを私に多くのことを教えてくれたジャーナリストたちに捧げたい。その多くが女性だった。若い人には、ジャーナリストという職業が落ち目だと思ってほしくない。今こそ、中東でジャーナリストが必要とされているのだから」。

将来は?

今年で3回目となった、女性ニュースサミット。今回はパネリスト全員が女性で、それぞれの女性たちの話は充実していたものの、来年はぜひ、男性陣を入れたサミットにしてほしいものだ。

この記事は2019年06月26日 小林恭子さんブログ

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