「私、少しメンタル病んでるかも…」 落ち込む私を救ったのは、まさかのアリアナ・グランデだった

メンタルヘルスといったタブー視されがちな話題でも、赤裸々に話せば楽になる。笑うこともできる。
Kevin Mazur via Getty Images

コンプレックスって、「比較」の中から生まれるものだと思う。他の人たちや理想の基準と自分を比較するから、色々なコンプレックスが生まれる。

SNSが一般的になったいまの時代は、良くも悪くも自分と他人を比較する機会がすごく増えている。だから些細なことでもコンプレックスになりやすい。

もっというと、「みんな自分を素敵に見せたい」と思っているから、SNSで目にする「比較対象」は「一番いい印象を与える」技術を駆使した姿になっている。

だから、さらにコンプレックスを感じることになる。

しかも、SNS上では「私以外のみんながやってる!」、つまり、集団的に見える。

「やってない私」は、またまたコンプレックスを感じることになる。

SNSとコンプレックスの関係は、科学的に証明されている。 アメリカの大学の調査によると、SNSをより多く見ている人の方が、そうでない人と比べて約倍の比率で容姿に関するコンプレックスや、食事に対する不安を抱えていた。

SNSが普及する前は「理想」の基準は1つしかなかった。欧米だと、白人で金髪でスレンダーでナイスバディの女性、とかね。

でも今は、私が住んでいるロンドンの広告や映画には、普通に黒人やアジア人のモデルや俳優が登場する。社会がより多様性を受け入れて、ある意味平等になったのだからいいことだと思うけど、個人レベルで考えると、コンプレックスにつながる「理想」の姿が急に増えたような気もする。

私について言えば、コンプレックスを感じることはもちろん色々ある。だけど、三十路を迎えて、ほとんどのことを笑いながら話せるようになった。

例えば、肌コンプレックス(インスタグラマーたちはなんであんなに肌ツルツル!?)に太ももコンプレックス、歯ブラシの毛をすぐダメにしてしまうコンプレックス(元彼に指摘されたせいで「クセ」から「コンプレックス」になった)などなど。

他人にとってはどうでもいいことなのかもしれないけど、自分にとっては大問題。でもなかなか人に素直に話せない。コンプレックスと向き合うには相当なメンタルの強さが必要だ。

私はもともとメンタルはかなり強い方だと思っていたけれど、大好きな日本を離れてロンドンに引っ越して、色々な変化があったこともあり、最近、落ち込むことがあった。

その時、「周りのみんなも私と同じように辛いことを経験しているのに、なんで私だけが鬱になるだろう」「なんで私だけ過去のことを割り切れないだろう」と、そうした気持ちそのものが自分にとってコンプレックスになった。

一番落ち込んでいた時は、携帯からインスタグラムを削除したぐらい、友達の楽しいパーティーや旅行の写真を見るのが辛くなっていた。メンタル面のコンプレックスは、私の場合、肌のコンプレックスや歯ブラシコンプレックスみたいに、笑ってやり過ごせなかった。

そんな時、アメリカの人気アーティスト、アリアナ・グランデが5枚目のアルバム『thank u, next』をリリース、全米・全英両チャートで初登場1位を記録した。

会社のスラックチャンネルで、若い女性社員たちが「アリアナの新しいアルバムやばいよね」などとコメントするのを見て、私はびっくりしていた。

ロンドンのバリバリのキャリアウーマンたちが、なんで元・子役スターの音楽にハマっているだろう。しかも、ベタなポップスじゃない?

だけど、アリアナの影響はすごかった。アルバム配信開始から24時間で、女性アーティストとして、Apple Music史上最高の再生回数を達成した。

さらに、Spotifyが発表した“2019年最も聴かれている女性アーティスト”1位に選ばれた。

友達のホームパーティーに行ったら、みんなアリアナを聴いていた。

そこで初めて私も聴いてみたところ、彼女の音楽がなぜアラサー女性の心を掴むのかがわかった。

トップスターであるアリアナは、自分のコンプレックス━━とくにメンタルヘルスに関するコンプレックス━━を正直に歌っているのだ。

例えば、大ヒットの「7 Rings」(ちょっと面白い理由から日本で有名になった曲)で「Been through some bad shit, I should be a sad bitch」(不運なことが幾つもあったわ 私ってばかわいそうな娘)と歌っているし、「needy」という曲で「Lately I’ve been on a roller coaster Tryna get a hold of my emotions…I admit that I’m a lil’ messed up」(最近はジェットコースターに乗っている気分 気持ちを保つのに精一杯 確かに私は少し病んでるかも)と歌っている。

インタビューでもよく自分のメンタルヘルスについて話しているし、SNSで臨床心理士に会っていることも明かしている。

SNSの投稿を見てコンプレックスを感じていると同時に、その情報はなんとなく嘘っぽいとも思っている私たちは、ある意味矛盾している。

でも、アリアナがSNSで発言していることはあまりにもストレートで正直だから、逆にSNSの雑音をはねのけてインパクトがあるし、信頼できる。

アリアナがファンに伝えたいメッセージは、自分が持っているコンプレックスの原因は治らないかもしれないということ。

だから、ありのままの自分を受け入れて前に進むしかない。そして、メンタルヘルスのようなタブー視されがちな話題を赤裸々に話せば楽になる。笑うこともできる。

世界を舞台に活躍するスターやアーティストといった、ある意味、社会常識やルールにとらわれない人たちだからこそ、そうしたルールの欺瞞を暴露し、つくり直すきっかけになることもできる。

アリアナ・グランデは、メンタルヘルスのような、社会でタブー視されていることを率直に口に出せる空間をつくり出したのだ。

先日、色々なことが重なって、私はまた落ち込んでいた。

スペインに一人で出張に行っていたけど、朝、頭をスッキリするためにホテルの近くを走った。走りながらアリアナの曲をずっと聴いて、少し楽になった。

だけど聴くだけでは足りない。その場で携帯を出して友達に電話した。そして自分のことを話した。

SNSの投稿もなくならないし、コンプレックスを感じさせる出来事もなくならない。そのなかで必要なのは正直にコンプレックスを話せる場だと思う。

元・子役のポップスターがそれを教えてくれた。

コンプレックスとの向き合い方は人それぞれ。
乗り越えようとする人。
コンプレックスを突きつけられるような場所、人から逃げる人。
自分の一部として「愛そう」と努力する人。
お金を使って「解決」する人…。

それぞれの人がコンプレックスとちょうどいい距離感を築けたなら…。そんな願いを込めて、「コンプレックスと私の距離」という企画をはじめます。

ぜひ、皆さんの「コンプレックスとの距離」を教えてください。

現在、ハフポスト日本版では「コンプレックス」にまつわるアンケートを実施中です。ご協力お願いします。

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