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2019年07月19日 15時38分 JST | 更新 2019年07月19日 16時05分 JST

高度化する政治のPR。有権者・メディアはどう向き合えばいいのか?辻田真佐憲さんに聞いた【参院選】

「メディアも野党もぐずぐずやっているうちに、自民党は着実にノウハウを積み上げ、すごい勢いで成長しすぎてしまった」ーー。辻田さんは思考停止している時間はないと訴えます。

参院選(7月21日投開票)もいよいよ終盤戦。令和で初めての国政選挙は、各党ともSNSでのPR活動に力を入れている。芸能人も「選挙に行こう」と呼びかけるなど、新時代の選挙を印象付ける様相となっている。

一方、6月に女性ファッション誌「ViVi」(講談社)と自民党のコラボ広告が論争となったように、私たちメディアや有権者は政治のPRとどう向き合えばいいのか、答えが見えていないのではないだろうか。

エンタメと結びついた古今東西のプロパガンダを研究した「たのしいプロパガンダ」の著者、辻田真佐憲さんは「“これはプロパガンダだ”と悪魔化すること、“PRだから問題ない”と思考停止すること。どちらも問題です」と訴える。

「良識の府」と称される参議院の選挙を前に、「今だからこそ、1人1人、メディア1社1社に“考える”ことが求められている」と強調する辻田さんに話を聞いた。

HuffPost Japan

 

「悪い意味で予想が当たった」

永田町を歩けば、遠目からでも自民党本部に掲げられた大きなポスターに気づくだろう。「ファイナルファンタジー」などの作画を手がけた画家・天野喜孝氏が描いた「新時代の幕開け」。中央の侍風のイケメン武士が自民党総裁の安倍晋三首相だ。

2019年5月1日、「令和」の始まりに合わせ、自民党は「#自民党2019」と題した広告プロジェクトを打った。ViViやグノシーとのコラボ広告もこの一環。ViViとのコラボ広告に関し、ハフポスト日本版では西田亮介氏のインタビュー元編集者による寄稿などから、何が問題だったのかを論じてきた。

メディア関係者を含む多くの方から意見もいただき、編集部内でも話し合った。

 

ーー率直に、辻田さんは「#自民党2019」についてどう感じましたか?

出来はいいと思います。私なんて、天野さんのイラストは世代的にドンピシャ。まさにファイナルファンタジーをやってた世代なので、「おっ!」とはなりますし、見てみようって思いますよね。

ただ、歴史を振り返ればプロパガンダの一つのパターンを再びなぞっている。例えば、指導者を美化する時に「侍」として描く手法です。かつて、ナチスドイツではヒトラーを騎士の格好に描いた絵画があったり、北朝鮮では金正日が鎧を身につけて虎にまたがった絵皿があったりするんです。そういう意味では構想自体は極めて凡庸だけど、イラストは最新のモデルに合わせてきていて、やっぱり良くできているなぁと思いました。

時事通信社
自民党本部に掲げられた画家の天野喜孝氏が「新時代の幕開け」をテーマに描いた広告ポスター

ーー「たのしいプロパガンダ」が出版されたのが2015年。本の中で、この年に自民党の若手議員が「心を打つ政策芸術の立案」を目的として立ち上げた“文化芸術懇話会”、そして“右傾化エンタメ”についても問題提起をしています。「現代日本における『楽しいプロパガンダ』は未成熟で恐れるに足らない」と指摘しつつも、「すでに行政機関と民間企業のコラボ体制はできあがっている」と……。

自民党は2015年に「教えて!ヒゲの隊長」という安保法制に関する啓蒙動画を公開してるんですけど、まあ作りは下手だったんですよね。今回はかなり力を入れてきたというような印象です。

天野さんの絵に反応する人って、私のような20、30代。数として少ないし、選挙でもこれまであんまり相手にされてこなかった。でも萌えアニメみたいなのだと萎えちゃうというか…。ターゲットをそういう層に絞ってきた、と感じました。無党派層なんだけど「でもやっぱり自民党しかないんじゃないか」っていう、潜在的な支持層への訴求力はやっぱりありますよね。

 

ーー「#自民党2019」を知った時、すぐに辻田さんを思い出しました。「たのしいプロパガンダ」から少し引用させてください。

「今の政府のプロパガンダは未成熟かもしれない。ただ、こうしたノウハウはPRやCMのプロである広告会社に沢山蓄えられているはずだ。それゆえ、今後より効果的かつ効率的な政府の広報が繰り出される蓋然性は極めて高い。これは自民党だけの問題ではなく、将来別の政党が政権を握っても同じことが当てはまる」

「未来に『楽しいプロパガンダ』が生まれるのだとすれば、それは最新のエンタメと結びつくはずだ。それが漫画なのか、アニメなのか、動画なのか、アイドルなのかはわからない。ただ、こうした警戒心を持っていることで、未来の恐るべき『楽しいプロパガンダ』にいち早く気づくこともできるのではないか」

悪い意味で予想が当たってしまったのかな、という気持ちですね(笑)。

 

HuffPost Japan

 

「#自民党2019」はプロパガンダ?

参院選の公示日前日の7月3日、「ゲンロンカフェ」で辻田氏と西田亮介氏によるトークイベントがあった。テーマは「令和における政治広報の行方」。議論は日付が変わる頃まで白熱したが、「#自民党2019」はプロパガンダかどうかという点では二人の意見が分かれた。

 

ーー西田さんは「プロパガンダ」という言葉ではなく「PR」という言葉を使いましたね。一方で、辻田さんは「これはプロパガンダだ」と。

西田さんは「プロパガンダ」という言葉を使って「悪者」にしてしまうことを警戒していました。私は「プロパガンダ」という言葉を使っていいと思います。でも批判や論破をするつもりははなくて、根本的に必要なのは考えることです。

「プロパガンダ」というレッテル貼りで悪魔化して終わり、というのは良くないし、「PRだから問題ない」と思考停止するのも問題。やっぱり「考える」ことが重要で、その手段としてプロパガンダの歴史というものがあるんです。見た目は華やかで楽しそうだけど、女性や子供を使った宣伝。プロパガンダにはパターンがある。こうしたパターンを知っておくことで、単に「良さそう」と受け入れるのではなく警戒することができる。自民党以外にも言えることです。

 

ーーViViとの広告もですが、「#自民党2019」が訴えているものって、結局は「自民党」に過ぎませんよね? 特段、何かの主義主張を込めているわけではない。戦時中のプロパガンダとはそこが違うのでは?

そうです。特にViViの方は自民党の政策とメッセージがかなりズレているところがある。例えばダイバーシティのようなことを言っていますが、議員レベルではだいぶ違う発言もあると思います。地方議会で選択的夫婦別姓に反対したのが自民党だけだったり、先日の党首討論でも選択的夫婦別姓や同性婚について自民党だけが「賛成」に挙手しなかったり。

政党ごとの政策に詳しくない人が見れば、「他にないから自民党に入れとくか」っていうアピール効果はあるでしょう。投票には行っても、誰を選ぶか投票用紙を前に悩む人は大勢いるわけです。そういう人たちに向けては効果があると思いますね。 

HuffPost Japan

 

ーー他の政党はどうでしょうか。例えば国民民主党は玉木雄一郎代表が甲冑姿になったり、アニメ「機動戦士ガンダム」のアムロのコスプレをしたりしていますよね。

コスプレにしか見えなかったですね(笑)。プロパガンダって掛け算みたいなところがあるんです。プロパガンダには、もともとある程度の支持があったり話題になったりしているものに対しては2倍、3倍にアピール効果を高める掛け算効果があると思っていて。もともと人気や知名度がほとんどないと得られる効果もほとんどないんだと思うんですよね。申し訳ないのですが、国民民主のコスプレは単に面白がられて終わってしまうのかなという気がします。

 

ーーそういう意味では、立憲民主党や共産党などはどうでしょうか。

立憲民主はTwitterを頑張っていましたよね。一時は自民を凌ぐ勢いだった。でも、今では自民党の方がSNSの使い方は上手ですし、今の「#令和デモクラシー」という標語も、今となっては別の「れいわ」を想起してしまう。

共産党もTikTokで若者へのPRを狙ったり、広報物のカラーを共産党のイメージが強い「赤」から「黄」に変えたり、訴求力を高める工夫はしていますが、自民党と比べればまだまだという印象です。 

時事通信社
アニメ「機動戦士ガンダム」の主人公アムロに扮(ふん)し、若者と握手する国民民主党の玉木雄一郎代表=7月7日、東京都千代田区

政党のPRに「規制」は必要?

ViViの広告コラボに対する批判には2つのポイントがあった。一つは「人も金もない野党と、金も人もノウハウも潤沢な自民党を同じ土俵で競わせていいのか」。例えば選挙で使えるポスターの枚数や選挙カーの台数に制限があるように、政党PRにも一定の規制が必要だとする意見。もう一つが、「講談社のようなメディアが政党PRに加担するのは問題ではないのか」とメディア側の自主規制を促す意見だ。

 

ーー辻田さんは規制が必要だと思いますか?

思います。例えば、この参院選期間中も、候補者個人のCMはNGだけど政党のCMは流してもいいことになっている。そういう抜け穴があるわけです。もちろん、野党の皆さんが自民党並みに工夫すべきだという意見は分かりますが、そうやって競争を続けたら最後に生き残るのはどこなんだろうっていう懸念はありますよね。

ただ、今の状況で政党のPRに規制がかけられるかというと、まず難しい。取り締まる側、つまり権力を持つ与党が自分たちの可能性を狭めるような規制を作るとは考えにくいからです。そういう意味でも権力を持つ側が優位なのは間違いない。それを野放しにしていいのかという懸念は、私は全くその通りだと思います。

 

ーーすると、PRを流通させるメディア側の自主規制が必要ということでしょうか。

それが理想ですが、なかなか難しいでしょうね。出版社にしても今はどこも厳しい状況で、ああやってお金を出されると折れてしまうところはあるし、一度やられるとどんどん崩れていきますから。一度そういう関係になれば、自然に忖度を呼ぶリスクもあります。

ただ、メディアも切り崩されている中で、果たしてみんなでスクラムを組んで規制が作れるかっていうと、難しいのかなと思います。特にネット時代、多種多様なメディアが乱立している状況で、メディアが全部まとまるというのは考えにくい。

 

ーーViViの件では、リベラル系の有識者やメディア関係者の中で意見が割れたのが印象的でした。ハフポストに届いた意見を見ても、例えば同じ会社に勤める記者であっても「メディアは政党PRに加担すべきでない」「ファッション誌ならいいのでは」「それぞれのスタンスでやればいいじゃないか」…と考えが違う。それだけメディア側がこのテーマで議論を深めてこなかったということに改めて気づきました。

本当はもっと考えなきゃいけないテーマだったのに、ある意味、ずっと先延ばしにしているうちに自民党の方がどんどん先を行っちゃった、ということでしょう。

西田さんの「プロパガンダという言葉を使うことで思考停止したくない」という議論は、この点では説得力がありますよね。メディアも野党も、もっと以前からもう少し真剣に考えていれば、今のように自民党だけがこれほど突出することにはならなかったのかもしれない。ぐずぐずやってるうちに、自民党は着実にノウハウを積み上げてすごい勢いで成長しすぎてしまった。そういう面もあると思います。

でも、だからこそ、一人一人が考えなくては。政府が自分たちを取り締まるような規制を作ることは考えにくいし、メディアがまとまって議論するのも時間がかかる。今できることは、個人で考え、リテラシーを高め、警戒するくらいです。 

HuffPost Japan

 

野党も「改憲」議論、正面から向き合って

ーー宣伝における自民一強が続くとして、今後は何を危惧していますか?

オリンピックと憲法改正ですね。来年(2020年)には東京オリンピック・パラリンピックが控えています。安倍首相は「2020年改憲」と言葉にしています。オリンピックに乗っかるかたちで、何かが出てきてもおかしくないと思っています。

そしてその時は、これまでに蓄積したノウハウを使って本腰を入れて宣伝を打ってくると思います。最近も9条改憲をPRした「改憲漫画」が話題になりました。自民党はあの手の漫画を数年ごとに作ってますが、どんどんレベルが上がっている。選挙では広告に一定の規制がかかりますが、憲法改正手続に必要な国民投票にはその規制もない。「#自民党2019」どころじゃないと思いますよ。国民投票はマルかバツか。極めてシンプルです。

 

ーー野党が対抗する術はあるでしょうか?

難しいですよね。マルかバツかの議論になれば、結局対抗するとしたら「バツ」としか言いようがなくなる。改憲か護憲かという議論になれば、やっぱり護憲派は厳しいと思うんですよ。憲法を一字一句変えないという主張は、今の時代なかなか非現実的でしょう。私自身は「変えるにしても、こういう変え方はダメだ」「こういう風に変えよう」という議論がまっとうだと思うんですが、こういうグレーゾーンの議論は白か黒かの大衆運動では弱いわけです。

 

ーー参院選では、憲法に対する考え方が異なる政党同士で野党共闘しているため、改憲と護憲についての議論が野党側で深められていない状況です。

今のままだと、ある日とんでもない憲法にガラリと変わってしまうというリスクがあると思っています。「改憲してもいいけれど、自民党草案のここは反対だ。こうした方がいい」という中身の議論を今からやっておかないと。有権者もどんどん新しい世代が台頭してくれば、改憲か護憲かという議論がより非現実的になっていきますから。

 

HuffPost Japan

 

「長い目で政権を任せられるような野党を育てなくては」 

参院選も終盤だが、各報道では自民優勢が伝えられてる。憲法改正に関しては、共闘している野党の中でもスタンスが異なることもあり、参院選における大きな争点にはなっていない。

 

ーー「ゲンロンカフェ」のイベントでは、「結局は自民党以外に政権を担える政党がない」とおっしゃっていましたね。

参院選は政権選択の選挙ではないですし、やっぱり自民党が勝つんだと思いますけどね。でも、もしもこのまま野党が野合して、本当に野党連合政権ができたとして、たぶん一瞬で崩壊しますよね。肝心な政策の意見が一致していないので、無茶苦茶なことになりますよ。そうしたら、やっぱり「自民党でないとダメだ」ということになって、たぶん今度こそ2度と政権交代は起きなくなってしまう。それが最悪のシナリオだと思っているんです。

よく言われるように自民党の中でリベラル派の議員が強くなれば良いという議論もありますし、そこに期待するのもアリなのかもしれないけれど、ちょっと民主主義として歪んでますよね。

 

ーー辻田さんはこの参院選、どんな選挙だと考えていますか?

今の安倍政権がこれだけ支持率があるのは、民主党政権時代に戻るよりはいいと思っている人が多いから。安倍首相支持の最大の理由は「他に人がいない」という消極的なものです。

ですから、今の日本では、いつかちゃんと政権交代ができるような野党を育てるということが大事だと思っています。すぐには無理でも、長い目で政権を任せられるような野党を育てなければいけない。現状、それがどの野党なのかが分からないんですけど……。参院選では、私はそういう芽がある政党に投票しようと思っています。