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2019年08月10日 10時41分 JST | 更新 2019年08月10日 11時34分 JST

「Nスペ #あちこちのすずさん は一つの通過点」 NHKプロデューサーが語る、新しい戦争の伝え方

「ふと空想したんです。もし、あの時代にツイッターがあったら……」。NHKの春日真人チーフプロデューサー(51)に聞きました。

NHK提供

NHK総合で8月10日、特番「NHKスペシャル『#あちこちのすずさん〜教えてください あなたの戦争〜』」が放送される。人気アニメ映画「この世界の片隅に」の主人公すずさんのように、戦時中を懸命に工夫しながら生きた市井の人々のエピソード紹介する。

2018年8月に放送された「クローズアップ現代+」の続編にも当たる番組。忘れられない恋の思い出、不自由な中でも工夫を凝らしたオシャレ、食べ物への渇望……。厳しい暮らしの中でも、必死に毎日を楽しく生きようとした庶民のエピソードが、大反響を呼んだ。

NHKでは、クロ現からNスペまでの1年間に、「#あちこちのすずさん」というハッシュタグで、SNSや公式サイトを通じて戦争にまつわる思い出話を募集。集まったものを、丁寧な文章とイラストで伝えるなど地道な伝承を続けてきた。

NHK全体で「#あちこちのすずさん」という新しい戦争の伝え方に取り組むだけでなく、yahoo!などデジタルメディアなどにもコラボを呼びかけている。

番組やメディアの枠組みを超えて取り組む「#あちこちのすずさん」キャンペーン。そこにはどんな思いがあるのだろうか。春日真人チーフプロデューサー(51)に聞いた。

Kasane Nakamura
春日真人チーフプロデューサー

高齢化だけではない、記憶の伝承の難しさ

原点にあるのは、春日さん自身の経験だ。

ディレクター時代、沖縄で平和ガイドのボランティアをしている学生を取材しました。平和ガイドというのは、修学旅行などで本土から沖縄にやってくる学生たちなんかに、現地の戦争経験者から聞いた話を伝えるボランティアのこと。その時に感じたのは、戦争の伝承というのは、経験者の高齢化でどんどん難しくなっていくなぁとということでした。

 

ところが、後日、プライベートで高校1年生の娘を連れて取材で仲良くなった学生ガイドの子にガマを案内してもらいったのですが、そこで娘は「どうしてガマの天井が光ってるの?」と質問したんです。

 

こちらが戦争の悲惨さについて知ってほしい、ガマで起こった出来事について教えたい、と思っても、本人の興味は別のところにある。こんなことが日本のあちこちで起きているんだろうな、と。

 

番組でも「ここにフォーカスしたい」と思っていても、もっと色々な角度から幅広く伝える工夫が必要なんだと感じました。

 「ガマ」というのは、戦時下の沖縄で避難場所や軍事拠点として利用されていた自然の洞窟。集団自決など、日本で唯一地上決戦が行われた沖縄の、悲しい歴史の証人でもある。

ところが、終戦から72年目の夏が過ぎたころ、信じられないことが起こった。

沖縄戦の際に避難していた約140人のうち83人が集団自決したチビチリガマで、県内に住む高校生らが肝試しをして荒らし、器物損壊容疑で逮捕される事件が起きたのだ。

時事通信社
チビチリガマの中で手を合わせる遺族ら(2018年、沖縄県読谷村)

少年たちの多くはガマを単なる心霊スポットだと思っていて、「ガマの歴史を知らなかった」「大変なことをしてしまった。反省している」などと供述したという。

平和学習には力を入れているはずの沖縄ですら、戦争の記憶はこんなにも薄らいでいる。証言者の高齢化だけでなく、記憶を受け取る側の変化の問題も大きいのだ。

 

「もし、あの時代にツイッターがあったら」

戦争の記憶を次世代に伝えるため、メディアは何ができるか。いつも頭の片隅でそんなことを考えていた春日さんが目をつけたのが、雑誌『暮しの手帖』だ。

『暮しの手帖』は2018年、創刊70周年の記念出版として戦争体験の手記を募り、『戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ』を編んだ。「昔から『暮らしの手帖』は好きだった」という春日さんは、手記募集を知り、すぐに編集部にコンタクトを取った。

例えば沖縄と戦争というテーマで番組を作ったとして、正直なかなか数字は取れないんです。沖縄が大変だったことは、みんなが知っている。沖縄と本土、というある種の分断も存在している。その点、生活というのは、みんなが自分と引きつけて考えることができます。

 

編集部を取材させてもらったら、連日戦争体験を口頭で伝える電話が鳴りっぱなし。ものすごい数の投稿が集まったそうです。

 

私も手記を読ませてもらったのですが、似たような内容のエピソードが多いのが印象的でした。「戦争あるある」って、やっぱりあるんだなぁと思いながら、ふと空想したんです。もし、あの時代にツイッターがあったら……。

 

「〇〇で空襲があった。不謹慎だけどキレイだった」というような、匿名でなければ言えないようなことでも、意外とたくさんの『いいね』やリプが付くんじゃないだろうか、って。

暮らしの手帖社
『戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ』書影

「#あちこちのすずさん〜庶民がつづった戦争の記録〜」と題し、「暮らしの手帖」に寄せられたエピソードを紹介したクロ現の放送に合わせ、「#あちこちのすずさん」というハッシュタグをツイッターで立ち上げた。こちらにもたくさんの投稿が集まり、クロ現の番組内でも一部を紹介した。

投稿の募集はクロ現の放送終了後も続けた。悲惨な戦時下を生きていた人が、今を生きる私たちと変わらぬ喜怒哀楽をを持った人間だった。集まったエピソード一つ一つ、事実確認をしたり再取材したりしながら、イラストやアニメで伝えている。

温もりのあるイラストは、悲惨さや労苦ばかりに目が向けられがちな戦争の別の側面を伝えてくれる。一方で、ただでも風化してきている戦争の残酷さがより薄らいでしまうのではないか。

そんな懸念を伝えると、春日さんは頷いて、こう答えた。

もちろん、これまでの戦争教育、平和教育は続けていくべきだと思っています。ただ、戦争を知る身近にいた時代なら、メディアが伝えなくても「#あちこちのすずさん」のエピソードはどこかで聞いたり見たりできた。すずさんの存在をリアルに感じることができたんです。

 

でも、今はそれすら難しくなってきている。かつて戦争があったこということを現実として受け止めることができない。そういう人に、これまでと同じような戦争の伝え方を繰り返しても、伝わらないですよね。「暮らしの手帖」でも、かつてなら言葉と写真でそのまま伝わった言葉やエピソードに、編集部の「注」をたくさん入れるようになったと聞いています。

 

だから「#あちこちのすずさん」は、英語で言えば「基礎英語」。新しい伝え方の芽を作っていけたらと思っているんです。

 

「Nスペは一つの通過点」

“戦争” の記憶と記録を次世代にどう伝えていくかーー。課題を抱えているのは、他のメディアも同じだ。

戦争アニメとして名高い「火垂るの墓」(1988年公開、故高畑勲監督)と「この世界の片隅に」(2016年公開、片渕須直監督)。両作品を見ても、戦争の伝え方や受け止め方がこの30年で大きく変化したことがわかる。 

アマゾンより
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また、毎年8月には戦争にまつわる節目の日がたくさんあり、この時期 “だけ” は、テレビや新聞で戦争について語られる機会が増える。いわゆる『カレンダージャーナリズム』の問題もある。

僕らは、NHKスペシャルは一つの通過点に過ぎないと思っています。生活という視点で戦争を取り上げる以上、打ち上げ花火のように、「今年も(戦争について番組を)やったね」で終わるのではなく、細く長く、息の長いキャンペーンにしていきたい。生活の中の戦争は8月だけじゃないですからね。

 

その意味で、今回は同じ時間帯に放送されるラジオ番組「らじらー!」(ラジオ第一)とのコラボを予定しています。Hey!Say!JUMPの八乙女光さんと伊野尾慧さんがNスペのスタジオに参加します。

 

「らじらー!」以外にも、情報番組「あさイチ」(NHK総合)や「ラジオ深夜便」ともコラボします。「らじらー!」のリスナー層は10代、20代。「あさイチ」は子育て世代を中心に幅広い固定ファンを持つ番組。新しい戦争伝承の可能性を広げたいので、幅広い年齢層に届けたいですね。

 

NHK以外のメディアとのコラボも狙いは同じです。戦争の伝え方について、新しい選択肢を探っていきたいんです。これは僕らだけでできすわけはないので。

 

だから、全国各地の平和資料館なんかともお話をしていきます。今後も、料理やファッション、歴史番組など、なるべく多くの番組とコラボしていきたい。おこがましい言い方かもしれませんが、戦争の伝え方について、新しい選択肢を作っていけたらと思っています。