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2019年08月15日 11時09分 JST | 更新 2019年08月15日 11時09分 JST

忘れられがちな、重度訪問介護のもう一つの論点

せっかく重度障害者が経済的に自立したいと思っても、「通勤、経済活動(就労)にかかる支援」は対象外という謎ルールが壁になって自立が進まない。しかし、実はもう一つの謎ルールが重度訪問介護制度にはあるのをご存知ですか?

Sasiistock via Getty Images
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先の参議院選で、れいわ新撰組から重度障害者である、舩後靖彦、木村英子両候補が出馬し、当選。

それに伴い、参議院における介助者の必要性が出てきたことを受け、維新の会代表の松井一郎氏は、

「どなたにも適用できるよう制度全体を変えるならいいが、国会議員だからといって特別扱いするのは違う」

「国会議員は高額所得でスタッフも付く。政治家は個人事業主だから、事業主の責任で(費用支出に)対応すべきだ」共同通信 7月30日

等と、政府による費用負担に難色を示しました。

松井氏に反対する意見も、当事者団体や障害福祉関係者から多く出されましたが、結局、参議院が介助費用を当面負担すると決めました。

 

【「経済活動は対象外」の謎ルールが明らかに】

今回のケースの本質的な問題は、「重度訪問介護」(略称:重訪)という制度が、重度の身体障害者らを対象に入浴や食事、外出時などを支援するものである一方、「通勤、経済活動(就労)にかかる支援」は対象外という謎ルールがある点です。

どうしても介助者を通勤や職場で必要とする場合は、企業が負担することになっているので、企業側としてはそこまでの負担は背負いきれず、重度障害者の雇用には足踏みしてしまうという状況になっています。

せっかく重度障害者が経済的に自立したいと思っても、この謎ルールが壁になって自立が進まない。

こうした矛盾を抱えた制度だということが、重度障害者当事者である舩後・木村両議員が登場したことで、白日のもとに晒されたのでした。

 

【忘れられがちな、もう一つの矛盾】

「経済活動は対象外」という謎ルールの他に、実はもう一つの謎ルールが重度訪問介護制度にはあります。

それが「子どもは対象外」です。

障害者総合支援法第5条の3には、こうあります。

3 この法律において「重度訪問介護」とは、重度の肢体不自由者その他の障害者であって常時介護を要するものとして厚生労働省令で定めるものにつき、居宅又はこれに相当する場所として厚生労働省令で定める場所における入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与することをいう。

ここで「障害者」と限定されており、障害者の定義は同法第4条で「障害のある18歳以上の人」とあることによって、18歳未満の障害児は対象とならなくなっているのです。

これによって、例えば重度障害児(特に医療的ケア児)が学校に通学しようとした時に、「親がついてきてください」と特別支援学校に言われてしまうのですが、その時に重度訪問介護のように使える制度がなく、なすすべが無くなり親は退職しなくてはいけなくなってしまいます。

また、重訪のように「重度障害児を長い時間、ヘルパーに介助してもらえる」制度は無いので、訪問看護、居宅介護、移動支援等、細切れの短時間の制度を組み合わせていかざるを得ないし、保護者がそれをケアマネよろしく全部コーディネートしなくてはならないのです。

保護者も非常に疲弊してしまうわけです。

 

【重訪なき中での試行錯誤】

そんな制度的背景もあり、仕方が無いので、我々フローレンスは「医療的ケアシッター ナンシー」というサービスを9月1日からリリースします。

これは重度障害児の中でも、特に医療的ケア児をお家で少し長めにみてあげて、その間に親御さんがゆっくり休んだり、学童保育代わりに使ってもらったり、というサービスです。

訪問看護や居宅介護、在宅レスパイトに居宅児発など、あらゆる制度を組み合わせ、3〜4時間お預かりするのです。(それでも重訪のように長くは預かれませんが…)
日本では、とても珍しいサービスだと思います。

でも、重訪が子どもにも対象が広がれば、わざわざこんな大変な制度の組み合わせをせずとも、重訪で丸一日みてあげられます。

また、それであればシンプルな制度なので、僕たちフローレンスだけで無く、多くの事業者が重度障害児の預かりを行ってくれるでしょう。

 

【「子どもは対象外」も一緒に見直しを!】

重訪は、もともと重度障害者の地域での自立を!という障害者運動の成果として生まれた制度なので、障害児が念頭に置かれたものではなかったこともあり、経緯的に致し方無い側面はあるでしょう。

そして、障害者と違って障害児の場合、昔は「自分の子どもなんだから、親(特に母親)がみてください」という価値観が背景にあったことも、制度が大人対象のままだったことの要因の一つでしょう。

しかし、今は母親も仕事を持っている場合が多く、また子ども達も社会全体で育てていこう、という方向性に政策も変わってきています。

今回、舩後、木村両議員によって、重度訪問介護という制度に光があたったことをきっかけに、この「重訪は子どもは対象外」という制度的な大穴も、「経済活動(就労)には使えない」というバグとともに見直して頂ければ、と思います。

子どもに重度の障害があっても、笑って子育てできる。子どもも胸を張って親以外の大人に、そう社会に頼ることができる。

そんな日本社会になれたら良いと、僕は強く思うのです。

 

この記事は、2019年8月14日『忘れられがちな、重度訪問介護のもう一つの論点』より転載しました