アートとカルチャー
2019年08月16日 01時36分 JST | 更新 2019年08月16日 11時46分 JST

「どんな批判も甘んじて受け入れる」 津田大介氏が「お詫び」と「報告」(あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」)

いまだ混乱が続くあいちトリエンナーレ。津田さんは「何より尊重されるべき作家の意思を最終確認せず、展示中止を決定したことの責任は重く受け止めている」と謝罪するとともに、「大きな今日的意味があった」と『表現の不自由展』の意義について見解をつづりました。

時事通信社
津田大介さん

企画展「表現の不自由展・その後」の中止をめぐる騒動が続く国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」。芸術監督の津田大介氏が8月15日夜にツイッターを更新し、一連の騒動の経緯を説明して謝罪するブログを公表した。

「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』に関するお詫びと報告」と題した長文は、冒頭で混乱を招いたことについて「芸術監督として、責任を重く受け止めています」と謝罪。「現時点で僕が皆様にお話しできることをお話しします」と書き出した。

「表現の不自由展・その後」は、河村たかし名古屋市長の発言や出展作品に対する抗議・脅迫が殺到するなどの経緯があり、8月3日に開始わずか3日での中止が決まった。その後は企画展の実行委員会メンバーやトリエンナーレに出展している作家などから中止判断に批判が集まっていた

津田さんは2日に「また一つ『表現の自由』が後退したかもしれない」と危惧する声明を発表。中止が決まった3日には、記者会見で「断腸の思い」と苦渋の決断について語ったが、それ以来、津田さん自身のコメントや感想はTwitterなどでも封印していた。今回のブログの文章は、中止以来初めて津田さん自身が口を開いたかたちだ。

 

「表現の不自由展」、開幕ギリギリまで伏せられた理由は?

「表現の不自由展・その後」の開催から中止まで(津田さんの説明)

2018年5月10日 

津田さんがあいちトリエンナーレで「表現の不自由展・その後」を開催するアイデアをキュレーター会議で提案

6月10日 

2015年に開催されたオリジナルの「表現の不自由展」実行委員会に、「その後」展の開催を打診

12月6日

「表現の不自由展」実行委員会に正式に依頼

2019年2月・3月

「平和の少女像」について実行委に懸念を伝えるも、「少女像が展示できなければ事前検閲」と言われる。

7月31日

内覧会で展示の内容を初めてオープンに

8月2日 

河村たかし名古屋市長が「平和の少女像」の撤去を要請 

8月3日 

展示中止が決定

「表現の不自由展」はもともと2015年に、「平和の少女像」など美術館で撤去された作品などを集めた展示だった。今回の「表現の不自由展・その後」は続編にあたる。

津田さんは、出展作品を選定する段階で、「平和の少女像」について「様々な懸念が予想されるため、実現が難しくなるだろう」とオリジナルの「表現の不自由展」の実行委に伝えていたという。

だが、「展示の根幹に関わるという理由で『少女像を展示できないのならば、その状況こそが検閲であり、この企画はやる意味がない』と断固拒否された」とし、最終的には”事前検閲”にならないよう、実行委の判断を優先したと明かした。

さらに、当初は6月末に出展作品について記者発表し、開幕までに十分な議論の時間を設けるはずだったが、警備の関係で直前まで内容を周知できなかったことも報告。

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「表現の不自由展・その後」の中止について記者会見する津田大介さん

街宣車やテロ対策などの点から「1カ月前に内容を告知すること自体が大きなリスクになる」との意見が専門家から上がり、警備上の都合からやむをえず、「安全性を高めるには、会期直前で内容を発表した方がいい」という結論に至ったという。

また、抗議電話の殺到についても、新国立競技場の建築コンペの状況などを参考に、市民からの意見を受け付けるためのコールセンターなどへのアウトソーシングも検討した。だが、説明責任が必要な行政としては「ふさわしくない」と結論づけた。

 

ニコ生対談は謝罪。不自由展は「大きな今日的意味があった」

2019年4月に放送されたニコニコ生放送での東浩紀さんとの対談にも批判が殺到していた。東さんは番組内での発言についてTwitterで謝罪を繰り返している。

番組内で昭和天皇について「2代前」と語ったことに関して、津田さんも「作品に使われていた主権者としての昭和天皇は、僕にとっては、それ以前の天皇と同じように、歴史的、象徴的な存在だった」と釈明。「そうではない人々が抱く感情についてもっと想いを馳せるべきだったと反省しています」とつづった。

一方、「表現の不自由展」自体については、「愛知県や名古屋市などの公的組織が関与した芸術祭においてなされるに相応しいものであったと今も考えています」と理解を求めた。

Aya Ikuta
大浦氏の作品「遠近を抱えて」を鑑賞する人々。映像には「侮辱的だ」などとする批判が相次いだ。(プライバシー保護のため、一部画像を加工しています)

戦後生まれの僕にとって、天皇とは、敗戦によって元首の座を降り、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴となった以降の昭和天皇であり、上皇であり、今上天皇を指していました。

大浦さんの作品に使われていた主権者としての昭和天皇は、僕にとっては、それ以前の天皇と同じように、歴史的、象徴的な存在だったのです。

この点については、そうではない人々が抱く感情についてもっと想いを馳せるべきだったと反省しています。

(中略)

そもそもアートは安心で安全で美しいものだけで構成されるものではありません。時に人の心を大きく揺さぶり、不快感をもたらすようなものも含まれます。

あいちトリエンナーレは「国際芸術祭」です。そもそも《いろいろなもの》があるのがアートであり、いろいろなものをまとめて横断的に見られるのが「芸術祭」なのではないでしょうか。

作家によってそれぞれの考え方、表現が違うことは、アートの基本的な概念であると考えます。それを受け取る側もいろいろな見方をして相互に議論すればいい。そのために100近くの企画がある中で、その内の1つとして「表現の不自由展・その後」は企画されました。

企画の進め方に不備があったこと、想定はしていたものの準備不足だったことに対するご批判は甘んじて受けますが、それでもなお「表現の不自由展・その後」を芸術祭の中で見せることには、大きな今日的意味があったと考えています。

<津田大介さん「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』に関するお詫びと報告」より>

 

辞任は否定、市民と議論する場は「定期的に設けていきたい」

8月14日にあいちトリエンナーレの企画アドバイザーを辞任する意思を表明した東浩紀さんからの批判についても、ブログ内で回答した。

津田さんは、今回の騒動をめぐり、東さんから「①芸術監督である僕の辞任と、②市民との対話」を求められていると明かした。

進退に関しては「最後まで現場監督としてトリエンナーレを無事終えることが自身の責任の取り方であると考えています」と否定。16日には「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」も発足するため、「検証委員会で一定の結論が出るまでは与えられた職責を果たしていこうと考えております」としている。

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「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」を中止することが決まり、取材に応じる芸術監督の津田大介さん

一方で、「市民との対話」については、「今後『表現の不自由展・その後』の展示と展示中止を巡る問題を議論する場を定期的に設けていきたい」と述べた。

すでに12日には参加アーティストが中心となって、来場者も参加できるオープンディスカッションを開催したという。「今後も規模や参加者を変え、同様の機会を会期終了まで継続的に行っていく所存です。ぜひ皆様にもご参加いただければ幸いです」とつづった。

 

作品は「日本人ヘイトではない」

津田さんはこれまで、「表現の不自由展・その後」に展示された作品自体への詳しいコメントは避けてきた。だが、文章の中では、「日本人へのヘイト」だという展示への抗議にも、津田さんなりの言葉で回答した。

昭和天皇をモチーフとした大浦信行氏の作品「遠近を抱えて」(4点組)については、「大浦さんが自画像として作成した作品が燃やされたことを映像的に再現したものであって、日本人自体を貶めようとするものではない」と指摘した。

また、「平和の少女像」については、次のようにつづった。

Aya Ikuta/Huffpost Japan
「平和の少女像」

僕は次のように考えています。

ほとんどの国や社会においては、政府や軍隊、あるいは民衆が、自国民や他国民の人権を抑圧した負の歴史を持っています。

しかし、多くの国や社会は、そのような歴史を反省し、繰り返さず、今の自分たちが自国民からそして他国民から尊敬を受けられるように立派に生きていこうとしています。

それは、僕たちの日本社会も同様であると、僕は信じています。

ですから、自国であった負の歴史を思い起こさせる作品を展示することが、その国や国民に対するヘイトにあたるとは考えていません。

従軍慰安婦問題については、彼女たちを集める過程で強制があったか否か、彼女たちを集め、管理する過程で軍隊の関与があったのか否か、あったとすればどの程度のものであったのかについて論争があるものの、従軍慰安婦となった方々の名誉と尊厳を深く傷つけ、彼女たちが慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた耐えがたい苦痛を与えてしまったことについては、日本政府としても心からお詫びと反省の気持ちを表明しています。

したがってキム・ソギョン/キム・ウンソン夫妻の《平和の少女像》は、日本政府の歴史認識を超えた歴史観を僕たちに押しつけるものではなく、そのような過去を反省し、未来に向けて立派に生きていくことを誓った僕たち日本人を貶めるものではないと考えます。

 <津田大介さん「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』に関するお詫びと報告」より>

 

作家への謝罪、市民への対話参加の呼びかけ

参加アーティストから展示中止の申し入れに関する抗議が届いていることについては、直接は触れなかった。

だが、「何より尊重されるべきである作家の意思を最終確認することなく、展示中止を決定したことの責任は重く受け止めている」として、表現の不自由展の再開見込みが立たないことを謝罪。「どんな批判であっても甘んじて受け入れる」と覚悟を示した。

あいちトリエンナーレは10月14日まで開かれる。津田さんは「こんなときだからこそ、芸術や表現の力でその状況に対抗していかなければならないのではないか」と訴え、「皆さんのお力を貸してください」と実際に参加して議論に参加するよう呼びかけた。

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従軍慰安婦を象徴する少女像が展示された「表現の不自由展・その後」の中止撤回などを求め緊急集会を開いた市民団体のメンバーら=8月7日、東京・衆院議員会館

最後に、観客の皆様及びアーティスト、職員、ボランティアの生命の安全を守るために緊急に決断する必要があったとはいえ、トリエンナーレにおいて何より尊重されるべきである作家の意思を最終確認することなく、「表現の不自由・その後」展の展示中止を決定したことの責任は重く受け止めています。

どんな批判であっても甘んじて受け入れようとも思っています。

FAXで放火予告をしてきた人こそ逮捕されたものの、それ以外にもたくさんの脅迫が寄せられており、これに対する有効な対策が打ち出せず、「表現の不自由・その後」展の展示再開の目途が立たないことについても、申し訳なく思っております。

他方で、今回のことは日本が自国の現在または過去の負の側面に言及する表現が安全に行えない社会となっていることが内外に示されてしまったとも考えています。

こんなときだからこそ、芸術や表現の力でその状況に対抗していかなければならないのではないかと思っています。

トリエンナーレはまだまだ続きます。ぜひ実際に自分の目で見て、議論にも参加してください。

オープンに議論を行い、現場の警備対策を十分に検討し、すばらしい参加作家たちの作品に焦点が当たっていくようになることで、次のフェーズに進んでいけるのではないかと思います。

皆さんのお力を貸してください。よろしくお願いします。

<津田大介さん「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』に関するお詫びと報告」より>