どうして日本の10代の少女は容姿に自信がないのか? 石田かおり先生に聞きました 「100人100様の美しさがあるんです」

100人いたら100通りの美があるはずなのに、日本人は「世間並みの美しさ」を求めてしまう。
駒沢女子大学・石田かおり教授
駒沢女子大学・石田かおり教授
Suzumi Sakakibara

「もう少し背が高かったら」「二重になりたい」。

多くの人が持っている外見へのコンプレックス。日本人は特に、自分の容姿に自信を持っていないと言われています。『化粧と人間―規格化された身体からの脱出』の著書があり、美のあり方について詳しい駒沢女子大学の石田かおり教授に、どうすれば自分の外見を肯定的にとらえられるようになるのか、尋ねました。

「世間並みの美しさ」求める日本人

ユニリーバのビューティーケアブランド「ダヴ」の調査(2017年)によると、日本の少女(10~17歳)の93%が容姿に「自信がない」と答えました。調査の対象となった14カ国のうち最も高い割合です。なぜ、日本の若者たちは自己肯定感が低いのか? 石田教授はその理由について「世間並みの美しさを求める横並び意識があるから」と指摘します。

「今の女子大学生を見ていると、彼女たちの親の代と比べ、ミスコンの基準で言えば体形はよくなっていると感じます。さらにファッションセンスも洗練され、美しくなっているように思えます。

それでも自信が持てないのは、世間並みの美しさを求めるからです。メディアやSNSに登場する俳優やアイドルから、そのイメージが作り上げられます。若い女性で言えば、『ぱっちり二重』『美白』『やせていること』が大事で、同じような顔や体形を求めます。そうした世間並みの美しさと自分を比べれば、自信を失ってしまうのは当然です。外見は本来、一人一人が違う多様なものですから」

「世間並みの外見に近づくため、整形する若者も増えています。プチ整形で二重にする女性が増えている。周りにも隠さないし、メイクの延長という感じです。整形が悪いと言いたいわけではありません。ただ、これが『標準』という感覚になり、整形していない人に『どうしてしないの?』とか、『就活前には整形するのが当たり前』などと圧力がかかるような社会になったら問題です」

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生産的な人間=外見がいい?

外見に自信がない若い日本人少女の半数が「美しくならなければならない」とプレッシャーを感じていると、前述のダヴの調査は指摘します。親世代と比べて、どんどん美しく〝進化〟する彼女たちは、そもそもなぜ外見にこだわるのでしょうか。

「美しさには2種類があり、その両方をそろえるのが理想とされる傾向が日本にはあります。内面の美と、外面の美です。ただ、若者は人生経験が少ないから、内面の美をすぐに身につけることは難しい。だから、メイクや整形などですぐに変えることができる外見を磨く。

しかも今の若者には、『生産的な人間にならないと敗者になってしまう。そうなりたくない』という強迫観念にも似た意識が広くみられます。社会で役に立ち、ちゃんとお金を稼げる人間になりたい。そして、生産的になるためには『容姿のよさ』も必要だと考えています。

たとえば、見た目のよい人はコミュニケーション能力や説得力が高いとみなされる傾向があり、就活では有利に働くと言われます。そして、若者は、そうした理屈は知らなくても、可愛い子が周りからチヤホヤされ、親切にされることを、子どものころから体験として知っています」

スキンケアやメイクなど、容姿を磨く努力を強いられているのは女性というイメージがありますが、その傾向にも変化が見られます。

「外見重視は、男性にも当てはまります。眉の形を整えたり、スキンケアやネイルケアをしたりする男性も今や珍しくありません。かつて『男性は外見よりも仕事ができればいい』との価値観がありましたが、今や仕事ができる男性は外見も素晴らしいと思われています。その背景には、2000年代にビジネス界で『見える化』という言葉が流行したことがあります。仕事上での『見える化』だけでなく、外見も仕事の能力に見合っていることが求められるようになりました」

美の基準に「若さ」

外見への自己肯定感が低い傾向がある若者。ただ、30代、40代になれば、外見への悩みはなくなるわけではなりません。むしろ、悩みは増えるかもしれません。日本人にとって美の最高の価値基準は「若さ」だから、と石田教授は言います。

「日本では若さが最高の価値となっており、年をとるにつれ、外見の価値が下がってしまいます。特に女性は10代中盤がピークで、そこからゆるやかに下がり始め、30代後半にストンと落ち込む。だから、人びとはアンチエイジング(対加齢)にいそしみます。でも限界はある。そんな状況だから、学生たちは自分たちが30代、40代になったときの姿が想像つかないと言います。

私も50歳を目の前にしたとき、世間にある美の基準からすっかり外れた自分をどう表現すべきか大いにもがきました。ただ、他人に不快感を与えず、自分が心地がよい外見ならそれでいいかなと思えるようになった。流行を追うのではなく、今の自分に似合うかどうかで判断しています」

外見重視の背景に「自己責任」

さらに石田教授は、人びとが外見を重視する背景に、外見が自己責任とみなされるようになったことがあると分析します。

「自分の体形を美しく保つべきだという『ボディコンシャス』という概念に、外見重視の芽をみてとることができます。ボディコンシャスが1980年代初頭に欧米から入ってきて、運動や食事でやせるフィットネスが流行しました。それまでは『中年になったら体形が変わるのは当たり前』『遺伝だから仕方がない』とあきらめがありました。でも、ボディコンシャスの概念が普及し、外見は自己責任になり、外見で人を判断する風潮も強まりました。

外見重視の傾向はSNSの普及が拍車をかけました。若者が自分の姿を写真や動画でアップし、他人から『いいね!』と評価される。インスタ映えとの言葉があるように、承認欲求を満たすためには、見栄えがより重要になったのです。

外見が自己責任とされ、過度に重視されるようになると、差別や排除が起きる恐れがあります。外見に無頓着な人や、世間の美の基準から外れた人が『努力しない人』『仕事ができない人』『変わった人』とみなされてしまう可能性があるからです。その結果、学生で言えば、友達のグループに入れなかったり、人と上手に話ができなかったりということが起こりえます」

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それぞれの美、年それぞれの美

日本人が外見に自信を持つために、石田教授は「スロービューティー」を提唱します。

「外見を画一的な価値基準で評価するから自信を持てず、アイデンティティも揺らいでしまいます。こうした風潮にあらがうため、私はスロービューティーを提唱しています。『人それぞれ・年それぞれ』の美しさがあるとの考え方です。

世間並みの美しさを求めるのではなく、自分なりの美しさを目指す。ボリューミーな体形でないと似合わないファッションだってあるんです。美は一人一人違うし、100人いたら100通りの美があるのです。そして、若さだけが価値ではない。20歳の自分の美しさと、40歳の自分の美しさは違うし、それぞれ固有の美しさがあります。美の多様性を認める価値観が広がれば、だれもが自然体で外見に自信を持つことができるのではないでしょうか。

その点、自分の体形を生かしたファッションで自己表現する渡辺直美さんや、白髪染めをやめたフリーアナウンサーの近藤サトさんには注目しています。こうした人たちがロールモデルとなり、自分が一番素敵に見えるスタイルを見つける人が増えてくれればと思います」

とはいえ、スロービューティーを実践できる人はそれほど多くないかもしれません。まずは、SNSから少し離れ、友人や家族といった身近な人をよく見て、お互いの素敵なところを褒め合うことから始めてはどうかと、石田教授は提案します。

「ある国際学会に参加したとき、アメリカ人から『毎日ファッションが違っていて、素敵だった。ありがとう』と褒められ、すごくうれしかった。

褒め合うなんて照れくさくて……という人もいるかもしれませんが、例えばパートナーが髪を切ったことに気づいたら『似合うね』と声をかけてあげる。友人のバッグが新しくなっていたら、『素敵だね。どこで買ったの?』と聞いてみる。スマートフォンから顔を上げ、目の前にいる人をよく観察し、そうした褒め言葉を掛け合ってみてはいかがでしょうか」

〈取材後記〉リアルな他者と関わろう

私はライフワークとして、顔の変形やアザ、マヒなど外見に症状がある人たちが学校や就活、恋愛に苦労する「見た目問題」について取材しています。著書「この顔と生きるということ」。

彼ら・彼女らの悩みと、一般的な外見の悩みを同列に語ることはできないかもしれません。ただ、外見へのコンプレックスが、自己肯定感や人生の幸不幸を左右する大きな問題であることは、両者に共通していると考えています。

確かに、メディアやSNSには、キラキラした世界が広がっています。そうしたイメージから作られた「世間並みの美しさ」と比べて自信を失うよりも、隣にいる友人と互いのよさを認め合う方が、自分も、周りも生きやすくなるのではないでしょうか。そして、「100人いれば100通りの美しさがある」という価値観が広がれば、外見を肯定的にとらえられる人が増えると考えます。

(編集:榊原すずみ @_suzumi_s

ハフポスト日本版編集部

コンプレックスとの向き合い方は人それぞれ。
乗り越えようとする人。
コンプレックスを突きつけられるような場所、人から逃げる人。
自分の一部として「愛そう」と努力する人。
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それぞれの人がコンプレックスとちょうどいい距離感を築けたなら…。そんな願いを込めて、「コンプレックスと私の距離」という企画をはじめます。

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