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2019年08月28日 19時28分 JST | 更新 2019年08月28日 19時32分 JST

京アニ被害者の「実名報道」。テレビと新聞はどう報じたか

遺族の多くが実名公表を望んでいなかったことなどから、8月27日の実名報道は議論をよんでいる。

京都アニメーションの放火殺人事件で亡くなった25人の氏名が8月27日に公表された。7月18日の事件発生から40日。8月2日に公表されている10人の氏名と合わせ、事件で亡くなった35人全員の身元が公表されたことになる。

被害者の実名報道をめぐっては、被害者の遺族や京都アニメーションが公表に否定的だったことから、SNSでは「実名報道は必要ない」という意見が多かった。

このため、27日に京都府警がメディアに実名を含む身元を提供したことが報じられると、京都府警やマスコミに対する非難の声が大きく上がった。  

インターネットの発達とともに、事件や事故の報道は転換期を迎えている。メディアの取材手法に関するより丁寧な説明や対話が求められている。

新聞やテレビは、大きな犠牲を出した京都アニメーション放火事件の被害者について、それぞれどう伝えたのだろうか。

 

記者クラブのみに身元情報を提供

事件は7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」第1スタジオで発生。さいたま市に住む青葉真司容疑者(41)=殺人容疑などで逮捕状=がガソリンをまいて火を付けたとされる。建物にいた70人の社員のうち35人が死亡、34人が重軽傷を負った。

被害者の実名公表については、7月22日に京都アニメーションから京都府警に対し、「プライバシーが侵害され、ご遺族が甚大な被害を受ける可能性がある」などとして、犠牲者の実名公表を控えるよう書面で申し入れていた。

だが、京都府警は8月2日に事前に遺族の了承が得られ、葬儀も終わっていることなどを踏まえ、10人の身元を報道機関に提供

8月20日には、京都に拠点を置く報道機関12社でつくる在洛新聞放送編集責任者会議が、残りの25人についても速やかに実名公表するよう京都府警に文書で申し入れを行なった

京都府警によると、25人の身元は、府警記者クラブに所属している報道各社のみに伝えられたという。25人中20人の遺族は実名公表を拒否したが、府警の判断で全員の氏名提供に至った。

ハフポスト日本版編集部が電話で確認したところ、公表の判断理由については「記者クラブ外には非公表」だと回答した。

京都新聞によると、府警は「最後の葬儀を終えたタイミング。事件の重大性、公益性、報道機関による過剰な取材を抑制する意味からも実名を提供することとした」としたうえで、一部の遺族については公表を望んでいないとして、報道各社に対して匿名での報道要望を伝えたという。

「20人が実名公表を拒絶した」と伝えられる一方、自ら記者会見を開いた遺族もいる。

27日夜には、石田敦志(あつし)さん(31)の父、基志(もとし)さん(66)が記者会見を行ない、「石田敦志というアニメーターが、この京都アニメーションに確かにいたということを、どうか、どうか忘れないで下さい」と訴えた。

 

各社の報道は?

こうした経緯を受け、新聞やテレビの対応も分かれた。

テレビ局は、NHK、テレビ朝日、TBS、日本テレビ、フジテレビの5社の夜の報道番組を比較した。コメントや報じ方はそれぞれだったが、全社が25人全員を実名で報じた。

 

NHK

NHKはいち早くウェブニュースで25人の氏名を掲載

実名での報道が必要だとする専門家の声や、実名公表に反対する京アニ側のコメントなども紹介したうえで、NHKとしてのスタンスを次のようにつづった。

NHKは事件の重大性や命の重さを正確に伝え、社会の教訓とするため、被害者の方の実名を報道することが必要だと考えています。そのうえで、遺族の方の思いに十分配慮をして取材と放送にあたっていきます。

同局の「ニュースウオッチ9」でも、25人の氏名と年齢、8人の顔写真をパネルで紹介。石田さんの会見内容や、ほかの被害者の関係者などへの取材を通じ、手厚く報じた。

 

テレビ朝日

「報道ステーション」では、25人の氏名や石田さんの父親の会見を伝えた後で、会見時のコメントを引用しながら徳永有美アナウンサーがカメラに向かって次のように述べた。

「どうか皆様、これからも敦志が愛した京アニを応援してあげてください。そして石田敦志というアニメーターがこの京アニに確かにいたことをどうか忘れないでください」(石田敦志さんの父・基志さんが会見で訴えた言葉)。亡くなられた方のご家族、そして大切な方、皆さんこのような思いではないかなと思います。

 

TBS

「NEWS23」では、テレビ画面に氏名と年齢の一覧を並べる形で25人の氏名を伝えた。コーナーの最後には、小川彩佳アナが次のように語った。

亡くなった35人の方、そのお一人お一人にかけがえのない人生があった。その人生には続きがあるはずだった。そのことを私たちは胸に、強く刻んで今後も取材を続けていきたい。そういう思いです。

日本テレビ

「NEWS ZERO」では、冒頭に実名報道についての考え方について次のようにコメント。

NNNでは、多くの尊い命が奪われた今回の事件の真実性を保ち正しく伝えるため、そしてこの事実の重みを社会全体で共有するためには実名報道が必要だと判断しました。被害に遭われた方々やご遺族の方々のプライバシーに最大限配慮した取材、報道に努めてまいります。

25人の氏名や年齢とともに、どんな仕事に携わっていたのか、どんな夢があったのか、一言ずつ添える形で1人ずつ読み上げて丁寧に紹介した。

 

フジテレビ

「FNN Live News α」では、25人の氏名と年齢をテレビ画面に表示したが、全員は読み上げなかった。特には実名報道の必要性についてもコメントはしなかった。

 

新聞社のデジタル版を比較すると…。署名記事は毎日新聞のみ

新聞社は対応が分かれ、デジタル版と紙面とで報じ方が異なる社もあった。

まず、デジタル版を見てみる。(28日午前3時時点のもので比較しています)

 

朝日新聞

記事中に25人全員の氏名を掲載。記事の末尾に、次のような断り書きを掲載した。

朝日新聞は事件報道に際して実名で報じることを原則としています。
犠牲者の方々のプライバシーに配慮しながらも、お一人お一人の尊い命が奪われた重い現実を共有するためには、実名による報道が必要だと考えています。

 

読売新聞

京都府警が25人の身元を公表したと伝えたが、全員の氏名は掲載していない。ことわり書きなどもない。

 

産経新聞

25人の身元が公表されたと伝えたが、全員の氏名の掲載はしていない。

毎日新聞

実名報道の必要性について最も丁寧に説明したのは、毎日新聞だった。

デジタル版のニュースでは全員の氏名は公表しなかったが、京都府警が25人の身元を実名で公表したことを伝える記事の末尾に「おことわり」を掲載。節度を守って遺族取材を行う旨を明記した。

毎日新聞は、事件や事故の犠牲者について実名での報道を原則としています。亡くなった方々の氏名を含め正確な事実を報じることが、事件の全貌を社会が共有するための出発点として必要だと考えます。遺族の皆様への取材に関しては、そのご意向に十分配慮し、節度を守ります。

さらに、「京アニ放火 被害者の実名公表の意義とは」というタイトルの記事も公開。実名報道に肯定的な専門家の意見や、海外の事例、「被害者が『公表してもいい』と判断できる時まで待ってもいいのではないか」とする遺族側の声を紹介した。

記事全体は有料だが、記事中にある、「実名原則、その都度議論 毎日新聞の立場」と題した毎日新聞の立場を説明する文章については、無料で公開している。実名報道の意義について書かれた記事には計8人の署名が掲載されている。

毎日新聞以外は、取材・執筆した記者の署名は付けなかった。

Kasane Nakamura
各社の8月28日付朝刊

紙面は4社とも全員の実名を掲載。

続いて8月28日付け朝刊の紙面(東京版)を比較する。

 

朝日新聞

1面肩(左上)に35人全員の氏名を掲載。記事の末尾には、デジタル版と同じ文言で実名報道を行うことわり書きも記載している。

社会面には見開きで、被害者の遺した作品の写真を大きく使いながら、被害者の人となりも伝えた。社会面には記者計8人の署名も掲載している。

また、京都に拠点を置く報道各社で取材方法について事前に協議したことを紹介。メディアスクラムを避けるため、「新聞・通信社とテレビの各1社が、代表して遺族に取材の意向を尋ねる取り組みをした」と伝えた。

 

読売新聞

社会面を使って、25人全員の実名と仕事の内容を掲載。対社会面には実名報道の公益性について、京都府警や有識者のコメントで説明する記事も合わせて掲載した。

取材・執筆した記者の署名は記載せず、会社としての立場や見解も特に伝えてはいない。

 

産経新聞

Kasane Nakamura
産経・対社会面

1面に25人の実名と年齢を掲載。社会面でも被害者の写真や人物像を報じた。

さらに、対社会面では徳永潔・大阪社会部長の名前で「実名だから 悲しみ共有」と見出しをつけた声明を掲載した。記者の署名は記載していない。

産経新聞は不条理な形で肉親を奪われた遺族の悲嘆を深く受け止めます。一方で性別と年齢だけでは失った存在の大きさを伝えられません。優れた作品を世に送り出した一人一人が刻んだ人生を実名によって伝えることこそが、悲しみを社会で共有し、卑劣な犯罪を検証して、再発防止につながる道になると考えます。(一部抜粋)

 

毎日新聞 

1面肩で京都府警が35人全員の身元を公表したことを報じ、デジタル版と同じ「おことわり」を記事の末尾に掲載した。亡くなった被害者全員の実名は、1面ではなく社会面に掲載した。

社会面では、遺族で唯一記者会見をした石田さんの写真を大きく中央に配置し、石田さん以外には3人の被害者にフォーカスして詳報した。

Kasane Nakamura
毎日新聞2面「検証」

特徴的だったのは、2面の「検証」コーナー。デジタル版と同じ内容で、実名報道の意義や毎日新聞としての見解を説明した。

全ての記事に署名が記載されているのは毎日新聞のみで。関連記事の取材・執筆に関わった記者の署名は全部で18人分だった。

 

実名報道にNOの声も

遺族が嫌がっているのに実名で報道すべきではない、との声もある。オンライン署名サイト「Change.org」では、身元公表に反対するキャンペーンが複数立ち上がり、合わせて2万7000筆以上の署名が集まっている。

テレビ朝日系列のインターネットテレビ「AbemaTV」では、27日放送の「AbemaPrime(アベマプライム)」で「ネット時代メディアに問われる公益と被害者感情の在り方とは」をテーマにスタジオで討論した。

「AbemaTV」のニュース番組「AbemaNews」では全員の実名を報じたが、「AbemaPrime」では、遺族から氏名を公表してほしいという意思表示があった石田さん以外の氏名は伏せて伝えた。

 

ハフポストでは…

ハフポスト日本版では、8月2日に10人の身元が公表されたことを受け、京都府警に取材しました。

京都府警に被害者10人の実名や遺族の了承があった(当時)ことなどを確認したうえで、公的に出されている過去の作品や本人が出演したイベントの記録をもとに、10人のこれまでの役職や携わった作品の内容などを伝える記事を公開しました

8月27日に25人の実名が公表された際にも、京都府警に取材を試みましたが、「記者クラブ外には公表しない」と回答を受けました。実名公表を了承した遺族は5人のみだったことも確認し、なぜ多くの遺族が反対しているのか詳しい事情が分からない状態であったため、取材や掲載は見送りました。

事件・事故の被害者報道のあり方は大きな転換点を迎えています。SNSなどネットが発達した時代のメディアや報道のあり方については、編集部でも様々な意見を出し合い、話し合いを続けています。

後日、記事として掲載する予定です。

ハフポスト日本版編集部