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2019年09月03日 18時10分 JST

ジャーナリスト伊藤詩織が描く「女性器切除」をめぐる物語。監督2作目の動画がYahoo! JAPANで公開

伊藤詩織さんは著書「Black Box」の中で「すべての努力はジャーナリストになるために」と記していました。

クリエイターズプログラム/Yahoo! JAPAN
伊藤詩織さんのドキュメンタリー作品「COMPLETE WOMAN」

ジャーナリストの伊藤詩織さんが撮影・監督したドキュメンタリー作品「COMPLETE WOMAN Episode1-Story of Fatamata(完全な女性 エピソード1・ファタマタの物語)」が9月3日にyahoo!のドキュメンタリー動画配信サイト「クリエイターズプログラム」で公開された。

「COMPLETE WOMAN」は、西アフリカのシエラレオネ共和国で伝統として行われている「女性器切除(FGM)」をテーマにした意欲作。

切除の儀式を受けた女性、受けなかった女性、儀式を行う女性や現地のジャーナリストなど、各方面への取材を通じ、伝統と性暴力の狭間にある葛藤や闘いを描く。取材・撮影から編集まで、伊藤さんがほぼ一人でこなした。

「女性器切除」という伝統を問う意欲作

舞台はシエラレオネの首都フリータウン。2014年にエボラ出血熱が大流行した地域だ。

2018年5月、伊藤さんは、エボラ出血熱の流行終息後のこの土地で性被害に遭う少女が増え、妊娠した少女が教育を受けられなくなっていると聞き、取材に訪れた。現地に滞在し、村の人々と関わりながら取材を進めるうち、FGMという慣習の問題を知ったという。

伊藤さんは、FGMで亡くなった10歳の少女の母親や儀式を行なった女性にも取材した。儀式を受けることを少女自身が楽しみにしていたこと、良かれと思って娘を送り出した母親の葛藤、良いことだと信じて儀式を行ってきた女性たちの理屈ーー。

さまざまな立場の女性たちを、伊藤さんはどんな思いで取材するのだろうか。

伊藤さん提供
取材をする伊藤詩織さん

「シエラレオネの人々にとって、女性器切除は伝統で通過儀礼の慣習。儀式では、綺麗な洋服を着せてもらって、歌やダンスで賑やかにお祝いするんです。切除していることで、社会的に一人前の女性だと認められるし、地域のコミュニティーの一員として歓迎されます」

 

「でもその慣習の根底には、女性は性的興奮を感じてはいけない、女性が夫以外の相手と性行為をできないように、という性差別の問題もあります。女性器を切って縫ってしまい、子どもを産むための性行為の時だけ開いて、出産が終わったらもう一度縫ってしまうケースもあります」

 

「伝統を否定したいとは思っていません。取材は私の意見を述べる場ではないので、どんな相手にも敬意を持って話を聞きます。それでも『出て行け』と言われたこともありますけど…。切除にかわる通過儀礼の儀式なども取材し、作品を通じて変化をサポートしていきたいです」

 

『ジャーナリスト・伊藤詩織』として

伊藤さんがジャーナリストを志したのは高校生のころ。高校卒業後、家族の反対を押し切り、自力で生活しながらニューヨークの大学でジャーナリズムを学んだ。伊藤さんは著書「Black Box」の中で「すべての努力はジャーナリストになるために」と記している。

伊藤さんが監督したドキュメンタリー作品は、今回で2本目となる。1本目は孤独死をテーマにした作品「Lonely Deaths」で、国際メディアコンクール「New York Festivals 2018」のドキュメンタリー部門で銀賞を受賞した。

2018年にはドキュメンタリー制作会社「Hanashi Films」(拠点はロンドン)を設立した。クラウドファンディングで制作を進める北海道夕張市を描いたドキュメンタリー映画「ユーパロのミチ」も2020年の公開を目指す。

伊藤さんは日本では「性暴力を告発した女性」として注目されることが多いが、着実にジャーナリストとしての道を自力で拓いて歩んでいる。

伊藤さん提供
取材中の伊藤詩織さん

「長編映画にしたい」

今回公開された「COMPLETE WOMAN」には、2人の少女が登場する。1人は5歳で儀式を受けたファタマタさん。14歳で妊娠して学校や家を追い出され、今はシングルマザーとして娘を育てる。もう1人は、自らの意思で儀式を受けなかったアジャイさんだ。

これまでに現地を3度訪れている伊藤さんは、この2人の変化を追いかけ続けてきた。伊藤さんのカメラは、ある時は2人を客観的に捉え、ある時は2人の目線となってその心情を伝える。

動画には、伊藤さんがファタマタさんに「娘にカリジャと名付けた理由は?」と問いかける場面がある。ファタマタさんの女性として、母としての強い思いが伝わる。

「女性器切除って日本ではあまり聞き慣れないので、リアリティが感じられない人も多いと思います。日本のメディアでのチャレンジです。でも、性に関する話題をオープンに話せないこと、誰かに経験を話すことで前向きになれること。何か一つでも身近に考えるきっかけにしてもらえたら…。」

動画を通して前後編合わせて20分程度だが、伊藤さんの取材はまだ続く。「将来的には長編ドキュメンタリーとして映画化したい」と意欲を燃やしている。