難民キャンプってどんなところ?東京五輪を目指してがんばるアスリートもいました。

そこは国を追われた難民たちが、生き抜こうとする強さや自立への希望を養う場所だった。

ヨルダンに行ってきました。

ヨルダンはシリアと国境を接している中東の国。今も多くのシリア人が助けを求めて国境を越えてきます。国連UNHCR協会の報道ディレクターとしての初ミッションで、今回ヨルダンにあるアズラック難民キャンプの皆さんにお会いしてきました。

首都アンマンから車で1時間半ほど走ると、広大な砂漠の中に突然たくさんのプレハブが見えてきます。

©国連UNHCR協会/Mitsuru Yoshida

こちらがアズラック難民キャンプ。約3万6000人のシリア難民が身を寄せています。その60%は18歳未満の子供たちです。育った家を破壊され、親を亡くしたり、家族と離れ離れになってしまった子どもたちもたくさんいるのですが、キャンプに着くとそんな子供たちが明るい笑顔で迎えてくれます。

©国連UNHCR協会/Mitsuru Yoshida

これまで幾度か経験してきたニュース番組の難民キャンプ取材では、ぶっつけ本番で人の輪に飛び込みお話を伺うことも多かったのですが、今回は国連のミッションなのでちょっと勝手が違います。 まずは現地で働く国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)スタッフからアズラック難民キャンプの現状や課題について丁寧なレクチャーを受けます。

©国連UNHCR協会/Mitsuru Yoshida

2011年に始まった「シリア危機」以降、シリアでの死者は約25万人、負傷者も100万人を超えているといわれ、国外へ逃れた人々は560万人以上、家を追われて、国内の別の場所に逃げている国内避難民も660万人に上ります。

まさに今世紀最大の人道危機にあるシリアのお隣の国であるヨルダンは、当初から難民キャンプを設置して逃げてくる人々を受け入れましたが、子供たちが感染症になるなど、決してよい環境にあるとはいえませんでした。

そこで新たに2014年に建設されたのがアズラック難民キャンプです。UNHCRに寄せられた世界中の皆さんからの支援で、水道、電気などの十分な供給も可能な難民キャンプが実現しました。

©国連UNHCR協会/Mitsuru Yoshida

支援をしている国々の国旗が掲げられています。アズラック難民キャンプの皆さんから、「日本の皆さん、支援をありがとう」と声をかけられて、とても嬉しかったです。

「難民」という言葉のイメージから、彼らに対して「貧しくて、かわいそう」という印象を持つ人もいるかもしれません。でも、実際にキャンプに足を運ぶとまったく違うことに気づきます。

彼らはシリアではごく普通の生活をし、教育を受け、仕事ももっていた、私たち日本人とまったく変わらない人々です。当たり前の日常生活がいきなり破壊され、身一つで安全な場所を求めて避難してきた人たちでもあります。だからこそUNHCRは、人権を尊重して、特に女性や若者たちが避難場所でも自立の道を開けるような支援をするため、いろいろな工夫をしています。

例えば、こちらは理容師の勉強ができるアクティビティ。難民キャンプの人たちも安く髪の毛をカットしてもらえるので一石二鳥ですね。

若者たちにはパソコンの授業が人気です。映画の脚本を書いたり、編集の勉強をしたりと一生懸命取り組んでいました。

©国連UNHCR協会/Mitsuru Yoshida

そうなんです。アズラック難民キャンプはソーラーパネルを設置することで、100%電気が供給され、インターネットも繋がっているのには私もびっくり。写真は、17歳の青年たちですが、映画製作をしてみたいと夢を語ってくれました。彼らの夢の中には、こうしたアズラック難民キャンプの設備などを支援してくれた人たちへの感謝の思いが詰まっています。そして、いつの日か支援者たちの住む国々を訪れてみたいそうです。思わず、日本で待っているねと言ったら、行ってみたい!と素敵な笑顔を見せてくれて嬉しい。

さらに自立支援として、アズラック難民キャンプでは申請をすれば、難民自らが仕入れをしてキャンプ内でお店も出せるので、ちょっとした市場のような場所もあるのには驚きました。ケーキ屋さんや八百屋さん、電気店などお店の種類もバラエティに富んでいて、難民キャンプというイメージを覆されます。祖国を追われる前は、商売を日常的にしていた人たちだから当たり前ですが、そこでは絶望ではなく、生き抜こうとする強さや自立への希望が伝わってくるんです。

©国連UNHCR協会/Mitsuru Yoshida

なんとスマホショップもあります。ケースの種類も豊富。

そして、アズラック難民キャンプがとても大切にしている「子どもたちの夢を育てる」というテーマに大きな役割を果たしているのが「スポーツ」です。紛争の中で育った子どもたちが、「闘いではなく、自分の気持ちを鍛錬し、礼儀と、相手への思いやりを学ぶ」ために、スポーツはなにより適しているということです。

体育館では子どもたちがテコンドーの練習に汗を流していたので、私も教えてもらいました。

©国連UNHCR協会/Mitsuru Yoshida

女子も多くてみんな見事な構え。はじめて会って言葉は通じなくても、手取り足取り教えてもらっているうちに、なんだか気持ちが通じ合って、大笑いして抱き合って。改めてこれがスポーツの力なんですよね。

なんと、この道場から来年の東京五輪の代表候補も生まれるかもしれないのだそうです。リオ五輪から、「難民選手団」が参加するようになりました。もちろん、来年の東京オリンピック・パラリンピックにも難民の代表選手団がやってきます。自分の国の国旗を掲げることができず、他国の選手のように応援団もいない難民アスリートたちが、東京で最高の笑顔で輝くことができるように、日本の皆さんに温かく迎えていただければ嬉しいです。

難民の皆さんについて、もっと日本の方に知っていただければと、国連UNHCR協会では、「UNHCR WILL2LIVE映画祭」をはじめ、様々なイベントを企画しています。難民は「困難な人」ではなく、「生き抜く意志を持った強い人」という意味で、「WILL 2(to) LIVE」というタイトルを付けました。ぜひご参加いただければ嬉しいです。

UNHCR WILL2LIVE映画祭の詳細はこちらから

https://unhcr.refugeefilm.org/2019/

国連の難民支援についてはこちらから

https://www.japanforunhcr.org/cp/nagano

(編集:榊原すずみ @_suzumi_s

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