アメリカ・韓国に比べて低い日本のフィットネス普及率。解決のヒントは健康思考にあり

人生100年時代、フィットネスを「痩せる」という目標に向けた手段ではなく、生涯を通して楽しむ「体験」へ。
ORKA GYM
著者提供
ORKA GYM

人生100年時代。すっかり浸透してきた言葉である。これは、ロンドンのビジネス・スクール教授であるリンダ・グラットン氏、アンドリュー・スコット氏によって提唱された言葉であり、書籍『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)はベストセラーとなりました。

医療の発展などによって寿命が延び、先進国においては2007年生まれの2人に1人が103歳まで生きる時代が到来するとし話題となったのです。これまでは、ざっくり学校20年、仕事40年、その後の20年…の人生設計がありましたが、今後は100年間生きることを前提に人生を設計する必要があるのです。なかでも、「その後」の部分が注目されそうで、再就職や学びなおし、旅行、趣味といったものにあてる時間が長くなりそうです。

人生100年時代に不可欠な「健康」を求め、ジムが続々登場

当然、人生100年時代を生きるためには健康的な体が不可欠。フィットネスクラブに通い出したという人もいるのではないでしょうか。なにせ、いま、国内ではフィットネス運営事業者が増えており、RIZAPのような「結果にコミットする」とインパクトあるコピーを携え高価格な成功志向型のジムや、暗闇のなかで自転車をこいだりボクシングしたりするジムなど、これまでのイメージを覆すような新興フィットネスクラブが登場しています。これまでのコナミやルネサンスといった総合型フィットネスクラブに加えて、24時間営業を行うものや高齢女性層向けのものなど、多様化がすすんでいます。

ORKA GYM
著者提供
ORKA GYM

ですが、実は日本のフィットネスジムはある問題を抱えていることをご存知でしょうか。

「フィットネスの普及率を見ると日本は3.3%となっており、これは諸外国と比較しても少ない。お隣の韓国では8%でアメリカでは18~19%と、その差は明らか。また、右肩上がりの状況でもなく2011年からずっと横ばいなのです」

こう語るのは、医学研究所併設のフィットネスジム「ORKA GYM(東京・中目黒)」代表かつパーソナルトレーナーの神谷卓宏さんです。

その理由は、「フィットネスの目的がダイエットになっているから」。日本人の多くの方のフィットネスに通うモチベーションが健康維持よりもダイエット。体重を落とすことを目標になるダイエットでは、その数字を達成したところで終了になりがちで、その後、徐々に足が遠くなってしまうのです。

どうやら新規入会の方が一定数いるものの、それと同じくらい退会する方がいるようで、普及率という点では一向に上がる様子がないと教えてくれました。「フィットネス=ダイエット」の状況が続く限り、日本のフィットネスの普及率向上は難しいようです。

ジムは「ダイエット」ではなく「健康をサポートする」場所

さらに、日本では学校の体育や部活が運動との主な接点で、昨今話題となる縦社会の雰囲気が残ったままでのスポーツ文化です。運動は“できる人”のためであり、不条理な縦社会でも我慢できる人が続けるものとなりがちでした。

では、18~19%とフィットネス普及率の高いアメリカでは、どのように違うのか。アメリカでは各地域にフィットネスを始めバスケットボールやフットボールなどが安価で体験できる総合スポーツクラブがあり、幼い頃から家族で加入しています。そのため、スポーツは仲間や家族と共に楽しむものという認識が浸透しており、フィットネスはダイエットのために一時的に取り組むのではなく、「フィットネス=健康」として、生涯を通して体験するものという価値観が醸成されているんですね。

ORKA GYM
著者提供
ORKA GYM

人生100年時代、日本人の「運動」観が変わっていくにはどうすればいいのでしょうか。

前出の神谷さんが運営するジムでは、超音波を使ったエコー診断装置や、MHBOチャンバーと呼ばれる高気圧・高酸素環境で血管のめぐりを良くする機器を導入するなど、「ジムは健康をサポートする場所」という考え方の普及を目指しているといいます。

ORKA GYM代表、かつパーソナルトレーナーの神谷卓宏さん
著者提供
ORKA GYM代表、かつパーソナルトレーナーの神谷卓宏さん

「健康をサポートする場所」であるジムに行ってみた

今回、実際にジムにお邪魔し、その「ジムは健康をサポートする場所」というものを体験してきました。

ただ、健康と言っても何をもって健康と判断するのかは難しいところ。健康診断や人間ドック、抗体検査の結果で良し悪しを決める方も多いでしょう。同ジムでは健康がもたらす効果として、「生理機能の維持」「老化の抑制(見た目など)」「健康寿命の増進」の3つ。そして、これらを可視化するために、5つの指標を持っています。

・筋断面積(筋肉量と筋肉の質)

・血管径/血管壁の厚さ

・PWV(血管年齢)

・血流速度/赤血球連鎖/血液凝固(血液のサラサラ度)

・SpO2(酸素濃度)

同ジムではあらゆる方法で、これらの“見える化”を目指しています。

ORKA GYM
著者提供
ORKA GYM

例えば、エコーを使っての筋断面積。筋繊維は45度以上の角度をもってしまうと運動効率が下がるとされています。筋繊維の断面を視覚的に確認し、それに合わせて具体的なトレーニングメニューを組んでもらえます。

ORKA GYM
著者提供
ORKA GYM

血管径/血管壁の厚さも確認。血管径がやや太い筆者でしたが、血管壁も厚めだったこと指摘され、これは食事を注意することで適正な状態に戻すと良いとアドバイスをもらいました。魚中心の食事に切り替え、1日の中でより多くの水を取ることが大切なようです。

また、大型機器「MHBOチャンバー」があり、ここに入ると高気圧・高酸素の環境に。酸素濃度は外部の約2倍となっており、この中に1時間ゆっくりすることで、交感神経優位が副交感神経優位となり、血液中に酸素がより溶け込み、これまで届きにくかった毛細血管まで血液を届けることができます。それによって、アンチエイジングに期待できるだけでなく、あらゆる効果が見られるとのこと。ダイエットや薄毛、不妊症、ED、歯周病……。「MHBOチャンバー」を利用することで、人には言いにくい悩みを解決するきっかけにもなるのです。

これまでイメージしていたフットネスジムは、淡々とマシーンに向かって体をいじめるもの。努力こそすべてと認識しがちでした。ですが、健康を目的にしたフィットネスともなると、もちろん体を鍛えるのですが、何を鍛えるべきかをきちんと把握して挑むので納得感がちがいます。能動的に鍛えようと思えるのがいいところ。

人生100年時代において「体を動かすことを楽しむ」という気づきは大切だからこそ、今後は「ORKA GYM」のような新たな視点で健康に気づかせてくれるジムの登場は増えるのではないでしょうか。

神谷卓宏(かみや・たかひろ)

医学研究所併設のフィットネスジム「ORKA GYM(東京・中目黒)」代表。アメリカスポーツ医学会運動生理学士。京都大学大学院人間・環境学研究科総合人間学部石原研究室共同研究者として「軽度高気圧酸素」の共同研究をするほか、筋の形態変化をテーマとした研究を行い奨励賞受賞するなど筋生理学研究に従事。「最先端科学を民間施設で」をテーマに倫理委員会より認可を受け、世界初の医科学研究所併設トレーニングジムを完成させるなど、活動は多岐にわたる。