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2019年09月19日 08時01分 JST

『加害者家族』はバッシングされてもいいのか。支援団体の代表「家族をいじめても意味がない」

「家族に連帯責任を求めて犯罪を抑止しようという理論は、現実に成り立たないと思います」と訴えています。

事件や事故に巻き込まれた被害者やその家族と同じように、ある日突然、親や子どもが逮捕され「加害者家族」となる人たちもいる。

被害者側とは違い、同情や支援の手が差し伸べられることはほとんどなく、「悪いことをした人の家族」として社会の厳しい視線にさらされ、時には誹謗・中傷の的となる。

日本初の加害者家族の支援団体「World Open Heart」を立ち上げた阿部恭子さんは、「家族をいじめても意味がない」と訴える。

加害者家族なら、バッシングされてもいいのか。

支援者である阿部さんは、彼らの現状や苦しみを、著書「息子が人を殺しました−加害者家族の真実−」につづっている。

Rio Hamada / Huffpost Japan
「WORLD OPEN HEART」代表の阿部恭子さん

初めての「加害者家族の会」。問い合わせ殺到

阿部さんが「World Open Heart」(WOH)を立ち上げたのは2008年。当時、2004年の犯罪被害者等基本法の成立をきっかけに、裁判への「被害者参加制度」や被害者団体の創設など、支援体制や法整備が急速に進んでいた時期だった。

「被害者の支援の枠組みができたので、じゃあ加害者の家族はどこにカテゴライズされるんだろう」

そんな疑問が湧き、自分で調べたり、弁護士や元受刑者らの更生を助ける保護司に聞いたりしたが、ほとんど情報を得られなかった。

「インターネットでも当時、『加害者家族』という単語がまだありませんでした。『犯罪者家族』といったキーワードを入れると、宮崎勤元死刑囚の父親が自殺したという情報や、事件のルポ記事で家族の自殺に触れているぐらいでした」 

「サポートどころか情報や学術論文もない中で、海外の事例を調べるといろいろな情報がヒットしました。なぜ日本はないのだろう。やっぱりやったほうがいいと思うようになりました」

当時大学院生だった阿部さんは、同級生と一緒に開催した「加害者家族の会」で、WOHの活動をスタート。告知チラシを見た地元紙から取材を受け、開催前日に記事が掲載されると、電話が殺到した。

「はじめは相談が来たとしても、例えば息子が万引きしたなどあまり大きくない事件かと思っていました。実際には、被害者の命を奪ったような大事件の相談がたくさん来ていたので、これは本当にやらないといけないんだなと感じました」

そこから今に至るまでの11年。WOHへの相談が絶えず寄せられ、これまでに計1000組以上を支援してきたという。  

時事通信社
犯罪加害者家族の実態を調査するためアンケートの発送作業を進めるNPO「ワールドオープンハート」の阿部恭子代表と仙台青葉学院短期大学の高橋聡美講師(宮城・仙台市の同短大) 

加害者家族の現状は

事件報道を通して、加害者や被害者のこと、取材に応じた遺族の声に触れる機会はあっても、「加害者家族」視点の話や情報が伝えられることはほとんどない。

取り残された彼らの現状や苦しみは、どんなものなのか。

WOHへの事件の相談は、社会にインパクトを与えた重大事件から性犯罪や交通事故、いじめまで多岐に渡る。その大半が被害者に危害を加えたり命を奪ったりしたもので、「家族としても自責の念がすごく強い」という。

阿部さんへの取材や、著書「息子が人を殺しました-加害者家族の真実-」から、具体例を抜粋・紹介する。

・「人殺しの子ども」村八分に

東北地方出身の男性は幼少期、父親が金銭トラブルで親戚を殺害し、「人殺しの子どもは、あっちに行け」と村八分にされたという。事件後に母親は自殺し、家族を養うために出稼ぎに行った長男も、川で死体で発見されたと聞かされた。さらに、次男は高熱で倒れた際、居候先で医師を呼んでもらえずに亡くなり、家族をすべてを失ったという。 

・「性犯罪者の妻」

60代の女性の夫は、自身が経営する会社で盗撮や女子更衣室から服を盗んだとして逮捕された。女性が会社を訪れ土下座で謝罪すると、被害者の女性社員から「あんたが日頃満足させてないからこんなことになるんじゃないの!」と厳しい言葉を浴びせられた。 婚約中だった次男の相手家族からは「変態の家族に娘をやるわけにはいかない」と怒鳴られ、破談となった。

事件の動機は、不倫交際していた元社員の女性が結婚したショックからという、身勝手で女性にとって屈辱的なものだったが、「性犯罪者の妻」に対する世間の視線は想像以上に冷たかった。

・夫の逮捕後の妊娠発覚で中絶

直接的な批判だけでなく、結婚相手の逮捕後に、妊娠が発覚するケースもあるという。この女性は、夫が数年間の服役が避けられない状況で、中絶を選択した。 

微罪ですぐに釈放が見込まれる事件以外では、女性が中絶を選ぶケースも珍しくないという。経済的な不安以上に「生まれてくる子供が犯罪者の子供として差別されることを恐れるからだ」と、阿部さんは著書の中で説明する。

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家族の離別のイメージ写真

家の壁に「人殺し」。住所や個人情報を暴露

もちろん、被害者やその家族が、加害者に怒りや憎しみを感じるのは当たり前のこと。事件に対するやり切れなさや被害者への同情心から、世間が声を上げるのはもっともだ。

しかしそうした感情が時に、加害者家族への過度な誹謗・中傷という誤った形となり、歯止めが効かなくなってしまう。悪いことをした人の家族だから何をしてもいいーー。そんな風潮さえある。 

典型的な被害の例は、家の壁やポストへの落書きやネットでの中傷。

「家の壁に『人殺し』と書かれたり、家のポストに『出ていけ泥棒』と書いてあったりします。家に脅迫文も来ますし、ネットでの中傷もひどく、うその情報を書かれたり住所を暴露されたりもします」

メディアスクラム(過熱取材)に追い詰められたり、報道陣が押し寄せたことで近隣住民や視聴者に自宅や事件のことがバレ、こうした誹謗・中傷に晒されたりすることもある。

事件の重大・凄惨さに比例してバッシングや憎悪も増す。阿部さんは悪質な例として、関東で起きた少年たちによる集団殺人事件をあげる。

「少年だったので実名報道されないと、余計に『晒せ』みたいな風潮になって、本人たちが出ないなら親の名前を出せと。ひどかったのが、その少年や親の事を調べて、家の写真をとって『ここは何々の犯人の家族の家です』とブログにあげていた人がいました。自治体などに電話して、『もっと親たちを処罰しろ』と言ったり、家族の勤務先を調べて『クビにしろ』と電話したりもありました」

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スマホで撮影する人々のイメージ写真

加害者家族が求めるのは「経験」

阿部さんによると、具体的な支援や、事件・被害を打ち明ける相手を望む相談者もいる一方で、加害者家族の多くは「経験」を求めていると説明する。

「自分以外の加害者家族が、どんな風にこの状況を乗り越えたのかを知りたいのです。刑事手続きの流れはネットなどでも見られますが、その中で家族が何をすればいいのか、何が降りかかってくるのか分からないので教えてほしい、という相談が多いです。また、被害者に対してどう謝ればいいのかという相談もあります」

経済的な負担も大きい。寄せられた相談の中で、重大事件に限ると裁判費用や被害者や家族への賠償、転居代など、判決確定までに平均600万円ほど。死亡させたケースでは莫大な損害賠償ものしかかる。

被害者や遺族への賠償義務は原則、加害者本人のみに課せられる。未成年で責任能力がないと認められ、親に支払い義務が発生する場合を除き、家族が支払う法的な義務はない。

阿部さんは、相談者に「まずは本人が払えばいいので、家族で支払いに協力しなくてもいい」と伝えているが、贖罪の気持ちから支払うケースが多いという。

「『生命保険かけて死ぬ』と言う人もいて、『それは駄目です、間違ってますよ』ともちろん言います」

パニックに陥った家族に対して、最低限の生活を守った上で可能な支払いプランをサポートしている。 

「家族の限界がある」「家族がやらなくちゃ...」

数多くの相談・支援活動を通じて、阿部さんは「家族の限界がある」と指摘する。

「少年事件でよくあるのが、『家族が原因で事件が起きた』と言われるにも関わらず、一方で『家族だから支えなさい』と矛盾する二つの責任を背負わされています。でも、原因があった家族の元に何も変えないでまた戻すという発想自体がおかしい」

「国や社会が支援体制や受け皿を作れないから、全て家族にしわ寄せがいってしまう。出来る事と出来ない事がある。家族だけでは無理で、もっといろんなサポートが増えていかないと。一方で、みんな『家族がやらなくちゃ』という意識がまだある。そうするとサポートがあっても使わない」

最悪な形となったのが、元農林水産省の事務次官が引きこもりがちだった長男を殺害した事件。登戸・無差別殺傷事件を受けて長男の将来を悲観し、「周囲に迷惑をかけたくないと思った」と供述していたという。

「ああいう人こそ、世間体もあって相談できる所があまりない。民間のNPOやサポートも徐々に増えているのですが、まだまだ認知度が高くないので、気軽に相談するような雰囲気になっていません」

「家庭の中の問題を外に出して誰かに頼るという意識にしていないと、相談しなければサポートがあっても意味がありません」

阿部さんは、犯罪経験・被害や依存症、心の悩みに関わらず、解決のための第一歩として、「自助グループ」「同じ悩みを抱える人たちの集まり」をあげる。

「ある体験や症状にまつわる悩みや痛みをどう和らげ、解決するのかは、経験した人が一番分かると思うんです。そのつながりがとても大事。『◯◯の悩みを持つ人の会』といった守秘義務もあるちゃんと場所がもっと増え、そういう細いつながりをいっぱい作っていけば、犯罪や症状の深刻化も減るのではないでしょうか」

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イメージ写真

加害者家族が実名・顔出しインタビューしたアメリカ

海外と日本では、加害者家族に対する支援体制や社会の視線は大きく異なる。イギリスには支援団体が多数存在し、逮捕から刑務所を出るまで一貫したサポート体制が整っている。

1998年にアメリカ・アーカンソー州で起きた銃乱射事件では、犯人の少年の母親が実名・顔出しでテレビのインタビューに応じ、視聴者から励ましの手紙も多数寄せられたという。(「息子が人を殺しました」より)

「なぜイギリスやアメリカにたくさんあるのかというと、再犯防止機能がかなり期待されているからです。韓国や台湾でも加害者側のサポートを国でもやっているのは、再犯防止で公益性が高いから。そこを根気強く説明していけば、日本でも理解してもらえるんじゃないかという希望は持っています」

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アーカンソー州で起きた銃乱射事件の犠牲者を悼む花束

なぜ、日本では支援が進まないのか。「連帯責任」を強く求める文化が影響しているのではないかと、阿部さんは指摘する。 

「日本はとりあえず謝る。謝らないと次に行けないから。(逮捕直後に)情報もない中で、まだ謝れないと思うんですよ。実際に、家族が悪かったという例はいっぱいあります。原因や誰にどんな責任があるのかが分かった後、悪かったと認めた時に『本当にごめんなさい』とすればいい。それが本当の謝罪だと思います」

「アメリカでも加害者家族への批判もあると思いますが、連帯責任の意識がないので同情も集まっているようです。『家族をいじめても意味がない』となっています。合理的。家族に連帯責任を求めて犯罪を抑止しようという理論は、現実に成り立たないと思います」  

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※写真はイメージです

報道されるかで運命が変わる

事件報道や加害者家族への取材は、警察捜査に対するチェック機能や事件の全容を伝える上での効果が期待できる一方、報道されるかどうかで加害者家族の運命が変わる。

時にはメディアスクラム(過熱取材)で追い詰められ、取材・報道をきっかけに自宅や個人情報が特定され、誹謗・中傷につながることもある。こうして加害者家族はどんどん追い込まれていく。

阿部さんは事件の報じ方について、こう疑問を呈する。

「今は、報道されるのは逮捕時だけ。ある程度時間をかけて報道してほしいです。逮捕時に家族を追いかけても、みんな言わないし言えない。でもおそらく、判決後など家族にも言えるタイミングがあると思うので、それを待ってあげたら、答えてくれる人も出てくると思います」

一方で、加害者家族のことや視点に立った情報発信する上で、メディアの役割にも期待する。

 「あまりに加害者家族に対する情報がなかったので、知らないと思うんですよね。今まではタブーにされ、いなかったことにされてきた。本などで情報が出ていくと、一定程度理解してくれる人も増えます。決して『モンスター』ではなく普通に生活している人だと分かってもらえれば、身近に感じてくれるんじゃないかと思います。いきなり人は変わらないかもしれないけど、きっと報道が変えると思います」

幻冬舎の公式サイトより
「息子が人を殺しました−加害者家族の真実−」

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