「関電幹部、原発地元有力者から金銭受領」のモラル崩壊~「死文化」した“会社役員収賄罪”すら問題に

「電力会社幹部には企業人としての高いモラルがある」という、社会が電力会社を信頼する大前提が崩れ去った。
関電/頭を下げる関電社長
関電/頭を下げる関電社長
時事通信社

電力会社幹部と原発立地自治体の「有力者」との間の重大な問題が表面化した。

関西電力の八木誠会長や岩根茂樹社長を含む同社幹部ら6人が2017年までの7年間に、関電高浜原子力発電所が立地する福井県高浜町の元助役の男性から、計約1億8千万円の資金を受け取っていた疑いがあるとの「衝撃的な事実」が新聞各紙で報じられている。

この「元助役の男性」というのは1977~87年、高浜町の助役を務めた人物で、今年3月に亡くなっているようだ。

日経新聞によると、

当時から関電と深い付き合いがあり、退職後も強い影響力を持っていたとされる。

税務当局は高浜原発や大飯原発(福井県おおい町)の関連工事を請け負う高浜町の建設会社を調査。この会社から工事受注に絡む手数料として元助役に約3億円の資金が流れていたことが確認されたという。

さらに元助役の税務調査で、関電幹部らの個人口座に送金したり、現金を届けたりしていたことが判明した。総額は7年間で約1億8千万円に上るとみられる。

とのことだ。

報道されていることが事実だとすると、関西電力高浜原発の工事受注に絡んで、地元の有力者に巨額の金がわたり、その一部が、電力会社の会長、社長を含む幹部に還流していたというのだ。

電力会社という、その事業が社会に重大な影響を与える公益的企業で、そのような疑いのある金の流れがあったということだけでも、電力会社幹部のモラルに重大な疑念を生じさせる「衝撃的な事実」である。

それどころか、もし、その関西電力の幹部への金の流れに、電力会社側の工事発注や、特定の人物に対する資金提供等の、関西電力側の行為が関連しているとすると、「死文化」していると言われ、過去に、殆ど適用された例がなかった会社法の「会社取締役の収賄罪」の適用すら問題になりかねない。

会社法967条では、会社取締役、監査役等について

その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する

とされ、会社役員の収賄罪が規定されている。

実際に、会社役員について、そのような金品の流れが明らかになることが稀であることに加え、「不正の請託を受けて」が要件とされ、会社の取締役の裁量の範囲内の行為について、その職務に関連して金品を受領しただけでは収賄罪は成立しないので、実際に、刑事事件として摘発された例はほとんどなく、「死文化」していると言われてきた。

しかし、今回問題になっている関電の会長、社長ら会社幹部の、高浜町の有力者からの金の受領については、そもそも、その原資となったのが、原発関連工事発注に絡む手数料だというのであり、工事発注に関して、そのような手数料の支払を行うこと自体が「不正行為」と言えるので、そのような不正行為を行ったことと関電幹部への「還流」が関連していて、関電幹部側にその認識があれば、過去に例のない「会社役員の収賄罪」が成立する可能性も全くないとは言えない。

日経によると、

関西電力は社内に調査委員会を設置して確認を進めた結果、役員らが「特定の人物から金品を渡され、一時的に各個人の管理下で返却の機会をうかがいながら保管していたが、現時点では返却を完了している」と説明している。

関西電力によると、税務当局からは一部、所得税の対象に該当するものがあると指摘されたため、修正申告して納付を済ませたという。

というのであり、高浜町の元助役から受領した金について、一部は、関電幹部が、自らの「所得」になったことを認めているというのである。また、収賄罪が成立しているとすれば、返却したとしても、犯罪の成否には関係ない。

かねてから、原発の建設や稼働に関して、電力会社側から、原発の建設や稼働への地元の了解を取り付けるための「地元対策」として、原発立地自治体側や関連企業や地元の有力者等に多額の資金が流れていることが問題にされてきた。そのような地元懐柔策が、地震国である日本で全国に多くの原発を建設するという「原発政策」を可能にし、その一つの東京電力福島第一発電所で、2011年に重大かつ深刻な事故が発生した。

それによって、日本での原発をめぐる状況は激変した。

かつて横行していたといわれる、原発の建設や稼働に関連して、地元の有力者に金をばらまいて了解を得るというやり方に対して、社会からの目は厳しくなっている。

先週木曜日(9月19日)には、東京電力経営幹部3人が検察審査会の議決によって起訴された業務上過失致死傷罪の事件で、全員に無罪判決が言い渡され、今なお避難を余儀なくされている原発事故被害者、遺族から失望・反発が生じたばかりだ。

少なくとも、電力会社幹部には企業人としての高いモラルがあるというのが、社会が電力会社を信頼する大前提だったはずだ。

今回の関電幹部の原発をめぐる金の受領の問題は、電力会社という企業に対する社会の見方を大きく変えることになりかねない。

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