「5歳11カ月の生涯でした」検察官の言葉に父親はグッと目をつぶった【目黒区5歳児虐待死裁判・父親の公判②】

保護責任者遺棄致死罪については、母親の優里被告の公判で語られた内容とほぼ一致していた。

東京都目黒区のアパートで2018年3月、当時5歳だった船戸結愛(ゆあ)ちゃんが亡くなった。

両親から虐待を受けて死亡したとされるこの事件で、保護責任者遺棄致死罪などに問われた父親の雄大被告の公判が、10月1日に始まった。

事件現場となった結愛ちゃんが暮らしていた目黒区のアパート
事件現場となった結愛ちゃんが暮らしていた目黒区のアパート
Huffpost japan

雄大被告は保護が必要だと気が付いた時期が2月下旬か3月か、という部分のみ争う姿勢を見せたが、起訴内容は概ね認めた。

続いて検察官による冒頭陳述が始まった。

冒頭陳述では、検察側が事件で何が起きたのか、明らかにしたい内容を証拠を提示しながら説明していく。

検察側の冒頭陳述、ポイントは危険性を感じたのが「2月27日ごろか、その後か」

この公判では双方、罪の成立には争いがない。

そのため、検察官は「争点は情状、量刑。つまり被告人にいかなる刑罰を科すかということになっています」と切り出し、事件の内容を説明した。

冒頭陳述に立った検察官
冒頭陳述に立った検察官
Huffpost japan/Shino Tanaka

保護責任者遺棄致死罪については、ほとんどの内容が優里被告の公判で出たものと一致していた。

雄大被告は元妻(※)である優里被告と、2016年4月に香川県で結婚した。

(※)2019年4月に離婚

この時、雄大被告は被告人の連れ子である結愛ちゃんとも養子縁組した。当時、香川県で暮らしていた一家。同年9月、二人の間には結愛ちゃんの弟が生まれた。

この頃から、雄大被告の結愛ちゃんに対する暴行が顕在化した。

この年の12月26日には、雄大被告の暴行をきっかけとして、結愛ちゃんは香川県の児童相談所に一時保護される。

年末年始を挟み、翌年の2017年2月1日、一時保護が解除される。

しかし3月19日、結愛ちゃんは再度一時保護される。7月30日、再び一時保護が解除されて家に戻った。

この解除に伴い「児童福祉司指導措置」という行政処分が付された。「継続して児童やその保護者、家庭環境の支援が必要」と判断した場合に付けられるものだ。

一家の場合は、定期的に児童相談所と面談する、育児外来のある指定の医療機関にかかるなどの約束がなされた。

この頃、東京への引っ越しの話が持ち上がり、12月に雄大被告が単独で上京。

2018年1月4日、香川県で結愛ちゃんと優里被告が病院へ通院した最後の日になった。この時、身長は105.2cm、体重は16.66kgだった。そして児童福祉指導措置が解除された。

最終面談の際に児相からも病院からも転居先を聞かれたが、優里被告は知っていたにもかかわらず告げることはなかった。

1月23日、家族全員が東京に転居する。移動中の電車内では、優里被告が子どもたちの写真を撮影した。これが結愛ちゃんの最後の画像だった。

39日後の3月2日、結愛ちゃんは死亡する。この間、東京に来てから結愛ちゃんは自宅からほぼ外出できなかった。

結愛ちゃんは2度のゴミ出しを許されたのみで、それ以外はアパートの6畳間の部屋で過ごしていたという。

船戸結愛ちゃんが心肺停止で発見された現場のアパートの図面(検察側の冒頭陳述などから作成)
船戸結愛ちゃんが心肺停止で発見された現場のアパートの図面(検察側の冒頭陳述などから作成)
Huffpost japan/Shino Tanaka

一方で、結愛ちゃん以外の家族は日常的に外出し、浅草などに観光に出ることもあった。

結愛ちゃんは雄大被告から「朝4時に起きて勉強をする」など達成困難な課題を与えられ、できないとベランダに立たせる、シャワーで冷水を浴びせるなどの折檻を受けていた。

2月8日ごろから、結愛ちゃんは日常的に勉強時間や体重を計測し、ノートなどに記載していた。これは2月27日ごろまで続いていた。

2月中旬は体重が14㎏台、下旬には13㎏台に下がっていった。

結愛ちゃんの身長と体重の変遷。日本小児内分泌学会作成の成長曲線に、検察側の証拠調べから分かった結愛ちゃんの身長と体重をプロット。死亡時は体重が成長曲線から大きく外れていることが分かる。
結愛ちゃんの身長と体重の変遷。日本小児内分泌学会作成の成長曲線に、検察側の証拠調べから分かった結愛ちゃんの身長と体重をプロット。死亡時は体重が成長曲線から大きく外れていることが分かる。
日本小児内分泌学会資料よりHUFFPOST JAPANで作成

2月9日、品川の児童相談所が家庭訪問に来る。しかし応対をした優里被告は、結愛ちゃんを児相職員に会わせようとせず、関与を断った。

また、そのことを雄大被告へすぐに報告していた。

2月下旬ごろには、雄大被告が結愛ちゃんの顔面を殴打し、顔が腫れ上がることがあった。2月27日ごろから、結愛ちゃんは嘔吐を繰り返すようになる。

ただ、顔のケガなどから虐待の発覚を恐れて通報はしなかった。その結果、容体が悪化。3月2日、雄大被告が119番通報をする。

消防隊や救急隊がアパートに臨場し、救急病院に搬送したが、搬送先の病院で死亡が確認された。

ここまで読み上げると、検察官は裁判長を見上げた。

「5歳11カ月の生涯でした」

「被害者は身長108センチ、体重12.2kgになっていました。全身にわたり、新旧170カ所の傷があり、皮膚は浅黒く変色していました」

雄大被告は、顔に強く力を込め、目を閉じていた。

さらに検察官は続けた。

「被告人方からは、寝室の4カ所から、大麻を含む植物片4袋、計2.414gが発見されました。また、パイプや粉砕機など、大麻を使用する際に使う器具も押収されています」

そして、この事件のポイントをまとめた。

「争点は量刑です。被告人にいかなる刑を科すべきか、3つの点について論じていきます。1つは犯行態様の悪質性。虐待や傷害の程度がポイントになります。また保護の必要性を認識したのが2月27日ごろか、その後か」

「2つ目は、事件の経緯、動機に酌むべき点があるかどうかの『責任、非難の程度』についてです。この点については、検察側と弁護側で意見の対立があります」

「3つ目は『被害結果の重大性』。5歳の命が奪われたこと、その苦痛や無念の程度について、ぜひ留意していただきたいと思います」

これらの点を述べた後、検察官は裁判員らを見渡し、一呼吸おいて「これらの罪にあった、適切な刑罰を決めていただきたいと思います」と語りかけた。

今後、検察官や捜査段階での証拠をもとに、10月2日には結愛ちゃんが書いたノートの内容や東京での様子を、3日には香川県で暮らしていた頃の状況を児童相談所の職員が語る。

3、4日には、元妻・優里被告が出廷し、証言をする予定という。

証拠調べの順番を語ると、検察官は「以上です」と締めくくった。

裁判長は、弁護側に準備をするよう呼び掛けた。

※弁護側の冒頭陳述は、後ほどアップします。

5歳児を追い込んだ虐待の背景は。公判で語られた事件の内容を詳報します

2018年、被告人らの逮捕時に自宅アパートからは結愛ちゃんが書いたとみられるノートが見つかった。

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」
5歳の少女の切実なSOSが届かなかった結愛ちゃん虐待死事件。

行政が虐待事案を見直すきっかけにもなり、体罰禁止や、転居をともなう児童相談所の連携強化などの法改正が進められた。

この事件の背景にある妻と夫のいびつな力関係、SOSを受けとりながらも結愛ちゃんの虐待死を止められなかった周囲の状況を、公判の詳報を通して伝えます。

この記事には児童虐待やDV(ドメスティックバイオレンス)についての記載があります。

子どもの虐待事件には、配偶者へのDVが潜んでいるケースが多数報告されています。DVは殴る蹴るの暴力のことだけではなく、生活費を与えない経済的DVや、相手を支配しようとする精神的DVなど様々です。

もしこうした苦しみや違和感を覚えている場合は、すぐに医療機関や相談機関へアクセスしてください。

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