【関西電力金品受領問題】「会社役員収賄罪」としての“犯罪性”に迫れるか~記者会見のポイント

関西電力金品受領問題における「犯罪性」と「コンプライアンス上の問題」を中心に、記者会見のポイントを指摘する。
記者会見で頭を下げる関西電力の岩根茂樹社長(左)=27日、大阪市北区
記者会見で頭を下げる関西電力の岩根茂樹社長(左)=27日、大阪市北区
時事通信社

9月27日朝刊で報じられた、関西電力幹部が高浜原発の地元の有力者からの長年にわたって多額の金品を受領していた問題(【関電幹部、原発地元有力者から金員受領の“衝撃”~「死文化」した“会社役員収賄罪”も問題に】)、同日午前中に、岩根茂樹社長らが記者会見したが、昨年9月に出ていた社内調査報告書の内容を公表せず、金品を受領した人物の名前も金額も明らかにしなかったことに批判が集中、本日(10月2日)午後、再び、記者会見が行われることとなった。

電力会社の原発事業の歴史上最大の不祥事と言える今回の問題に関して、本日の記者会見は、極めて重要な意味を持つ。前回の会見と、その後も報道によって明らかになった事実を踏まえ、主として、今回の問題の「犯罪性」と「コンプライアンス上の問題」を中心に、記者会見のポイントを指摘しておこうと思う。

9月27日会見での説明

まず、岩根社長の記者会見では、以下のような説明が行われた。

[1]昨年の国税局の調査により、当社の役員等が多額の金品を受領していることが確認され、各自が所得税を修正申告し、納付済み。

[2]昨年7月に調査委員会(社外弁護士3人、社内3人)を設置し、9月まで調査を行った。不適切だが違法という判断をしていないので、公表しなかった。

[3]金品の受け取りを強く拒んだが、返却困難な状況だったので、返却の機会を伺いながら各人の管理下で保管していたことが確認された。

[4]2018年までの7年間に、物品等を渡された者が20名。金額の総額は3億2千万円(いずれも、儀礼の範囲内以外は返却)。

[5]誰がいくら受け取ったかは、回答は差し控える。

[6]本件の調査内容を受け、報酬返上を含む関係者の処分を行っている。社内的に再発防止策をまとめ、所得税を修正申告し、納付済みである。

[7]提供したのは地元の有力者、お世話になっているので、返すとか、受け取れないと言った場合、非常に厳しい態度で返還を拒んだ。

[8]森山氏が関連している企業に工事を発注していることはあるが、社内ルールに基づいて適切な対応をしている。

その後の報道によって明らかになった事実

その後、関電幹部に金品を提供した「元助役」が、高浜町の元助役の森山栄治氏(故人)であることが明らかにされた上、以下のような事実が報じられた。

(1) 森山氏から、関電幹部にわたった3億円以上の金品の原資として、原発関連工事を請け負う「吉田開発」から森山氏へ支払われた手数料3億円が用いられた疑いがある。

(2)森山氏は、関電高浜原発の警備を請け負う高浜町の会社の役員を、97年の会社設立当初から務めていた。同原発のメンテナンスを担う兵庫県高砂市の会社でも87年の助役退職の数年後から相談役をしていた。

(3) 森山氏は、関電の全額出資子会社「関電プラント」(社長は関電出身者、八木会長が監査役を務めた)と30年以上にわたって非常勤顧問の契約をし、報酬を受領していた。

(4) 20人が受け取ったのは商品券や現金が中心。一方、ゴールドや数十万円相当のスーツの仕立券などもその中に含まれていた。

(5) 幹部らが返そうとすると、森山氏から「俺の顔をつぶす気か」などと怒られ、それぞれ自宅などで保管することが多かった。

(6) 森山氏と関係が深い吉田開発は、高浜原発関連の工事を受注していたが、18年8月期の売上高は21億8700万円と、13年8月期に比べて6倍超に膨らんでいる。

(7) 金品受領の役員のうちの4人は、税務調査開始後すぐに全部や一部の返還を始め、さらに受領から相当の期間が経過し、自身の所得に当たるとみなされる可能性があったため雑所得として税務申告もした。

(8) 調査の内容、および役員への処分を1年も取締役会に報告しなかった。コンプライアンスに関する社内委員会にも通していなかった。

(9)関電は、今回の問題に関して、外部者による「第三者委員会」を設置する方針。

「犯罪性」についての検討

そこで、これらの事実を踏まえ、まず、「犯罪性」について考えてみる。

今回の問題について、犯罪が成立する可能性があるとすれば、関電の役員らが、森山氏から金品を受領した行為が会社役員の収賄罪(会社法967条)に当たりうることは、【前回記事】でも述べた。もっとも、「贈賄側」の森山氏が、今年3月に死亡しており、対向犯である贈収賄について、贈賄側の供述なしに立件することは困難なので、実際上は、この犯罪で刑事立件される可能性は低い。

しかし、最終的に、刑事立件・起訴に至らないとしても、同罪への該当性がどの程度根拠づけられるかは、今回の金品受領問題の「犯罪性」「悪質性」のメルクマールになるものであり、森山氏の供述は得られなくても、それ以外の証拠により、同罪への該当性を評価することは、コンプライアンス上の評価に関しても重要である。

同罪の成否に関しては、「財産上の利益を収受」と「不正の請託」の二つの成立要件について考えてみる必要がある。

《財産上の利益の収受》

まず、「財産上の利益の収受」があったのか否かについて、関電側は、会見で、「金品の受け取りを強く拒んだが、返却困難な状況だったので、返却の機会を伺いながら各人の管理下で保管していた」と説明している(上記[3])。しかし、各人が個人として受領する気が全くなかったのであれば、会社に申告し、会社に保管してもらえばよかったのであり、「個人の管理下で保管していた」ことは、財産上の利益を収受する意思があったことにほかならない。だからこそ、上記[1]のとおり、個人の所得として修正申告せざるを得なかったのである。

《「不正の請託」の有無》

最大の問題は、「不正の請託」があったと言えるかである。この点については、森山氏が、関電側から、上記(1)~(3)のとおり、複数の企業への発注や子会社の顧問料支払等で森山氏側が利益を得ていたことについて、「不正」といえるものがあったか否かが問題となる。

巨額の利益が関電から森山氏側にわたっていたからこそ、その一部が、関電幹部への金品提供の原資になったと考えられる。その手段となったのが、前記(1)~(3)の顧問料や工事発注だと考えられるが、顧問料の支払は、森山氏側が当該企業に貢献していた事実があるのであれば、その金額が不相応なものでない限り「不正」とは言い難い。

問題は、原発関連の発注によって、森山氏に関連する業者に過大な利益が上がるようにするという方法がとられていた場合だ。

(1)(2)の関電の発注は、電力会社の調達として、本来、競争性・公正性の確保というルールに則って行われなければならない。原発事業の運営への協力・貢献に対して対価を支払うのであれば、発注とは別個の「支払」として経理処理されなければならない。工事や業務発注で過大な利益を与えることは許されないはずであり、もし、発注によって、森山氏の関連企業に過大な利益が上がるような措置をとっていたとすれば、発注の「不正」があったことになる。

関電は、2014年1月に、公正取引委員会が、同社発注の架空送電工事の工事業者及び地中送電工事の工事業者に対して排除措置命令・課徴金納付命令等を出した際、

工事発注に当たり,同社の設計担当者の多数が,当該現場説明会の場等において,工事業者の営業担当者の求めに応じて,契約締結の目安となる価格を算出する基となる『予算価格』と称する設計金額又はそのおおむねの金額を,非公表情報であるにもかかわらず教示したり、工事業者の営業担当者に対し,予算価格が記載された発注予定工事件名の一覧表を,非公表情報であるにもかかわらず提供したりしていたこと、関西電力の購買担当者が,地中送電工事の発注に係る指名競争見積等の参加者の選定に当たり,各工事件名における参加者の組合せについて事前に特定の工事業者に相談していたこと、工事業者間で受注予定者を決定する話合いを行っていた者の中には関西電力の退職者が29名おり,このうち少なくとも14名は,関西電力の設計担当者から予算価格等の教示を受けていたこと

などを指摘された。

公取委から、

これらの事実が,「独禁法違反行為を誘発し,又は助長したものと認められる」として,「同様の行為が再び行われることがないよう適切な措置を講じるとともに,発注制度の競争性を改善してその効果を検証すること,同社のグループ会社において,今後,独占禁止法に違反する行為が行われないよう適切な措置を講じること」

などの「申し入れ」を受けている。

この時、独禁法違反に対する「適切な措置」が関電力グループ全体で行われていれば、高浜原発の関連工事についても、発注者側が競争制限行為に加担することはなかったはずであり、ましてや、特定の業者に意図的に利益を得させることもあり得なかったはずだ。

岩根社長は、前の記者会見で、「社内ルールに基づいて適切な対応をしている」と述べたが、果たして、そう言えるのか、手続きが形式的に整っていても、実質的には独禁法違反を助長する「不正」があったのではないか、本日の記者会見で問い質すべき重要なポイントである。

コンプライアンス上の問題

コンプライアンスを「社会の要請に応えること」ととらえる立場からは、今回の最大の問題は、関電の原発への対応が、福島原発事故前、「安全神話」が定着し、原発の建設や稼働のために無制約に「地元対策」「理解活動」を行うことが許容されていた時代と、何一つ変わっていなかったことだ。

森山氏からの金品供与を拒絶できなかった理由も、返還できなかった理由も、結局のところ、「地元の有力者に頼って原発事業への賛成を確保する」というやり方において、森山氏が重要な存在だったからだ。そういう関係に頼って原発事業を進めようとすること、そのために不透明な金の流れを生じさせること自体が、コンプライアンス上許されない「時代錯誤」の考え方と言わざるを得ない。

そして、今回の関電の対応に関する「コンプライアンス上最大の問題」は、何と言っても、調査委員会による調査で関電幹部の金品受領の事実が明らかになっていたのに、1年にもわたって公表せず、隠蔽したことだ。それによって、森山氏が今年3月に死亡する前に、会社役員の収賄罪の捜査に着手することができず、「犯罪性」を刑事手続で明らかにすることが困難になった。

その点に関して、「刑事事件に発展する可能性のある重大な事実を隠蔽した」というコンプライアンス上の問題についても、徹底して事実を解明し責任追及を行う必要がある。

当然のことながら、調査委員会に「外部者」として加わった3人の弁護士には重大な責任がある。会長・社長を含む会社幹部が、原発に関連して多額の資金の還流を受けた事実が明らかになるという極めて重大な不祥事について、調査委員会に委員として加わり、報告書作成に関与した弁護士が、「不適切だが違法ではない」との理由で、公表せず隠蔽することにお墨付きを与えたとすれば、弁護士として到底許容されることではない。

記者会見での注目点

本日の記者会見で、社内調査報告書が公表され、前回の会見で回答を拒否した点についても説明を行うとされている。上記の関電幹部の金品受領の「犯罪性」と「コンプライアンス上の問題」に関する上記のポイントを踏まえて、関電から引き出すべき事項として、以下のようなものが考えられる。

《財産上の利益の収受について》

1 「返却の機会を伺いながら」というが、どのような「機会」であれば返還可能と考えていたのか、税務調査が入る前に、実際に返還した者はいるのか。どのような機会に(拒絶されることなく)返還できたのか。

2 金品を受領していた多数の幹部は、それぞれ他の幹部も受領していることを認識していたのか。

3 個人口座に振り込まれていたケースもあるとのことだが、誰が森山氏に個人の銀行口座を教えたのか。振り込まれたお金は、そのままだったのか、引き出されたのか。

《不正の請託について》

4 森山氏の関連企業への発注について「社内ルールに基づいて適切な対応をしている」というが、競争性が確保された入札による発注だったのか。原発に関連する発注には、特別に競争性が求められていなかったのか(これらの点について、社内調査では、どのような調査が行われ、どのような結果だったのか)。

5 架空送電工事及び地中送電工事に関する公取委の排除措置命令等に伴う「申し入れ」を受けた際、原発関連工事に対してどのような措置がとられたのか。「原発関連発注」はその措置の範囲外だったのか。

6 ゼネコン等への発注の際、森山氏の関連企業に下請け発注するよう指示が行われたことがあるか。その点について社内調査で確認しているか。仮に、それがあったとすると、前記の公取委からの「申し入れ」に反する事実なのではないか。

《コンプライアンス上の問題について》

7 調査委員会の設置について、社内で、誰がどのように決定したのか。その際、取締役会、コンプライアンス委員会等への報告・了解が不要と判断したのは、どのような理由によるものか。

8 調査委員会委員の氏名、関電(グループ企業)との関係、支払われた報酬額を開示すべきである。

9 調査委員会の委員は、金品受領の事実や調査報告書の内容について、取締役会およびコンプライアンス委員会等への報告の要否、事実の公表の要否について、どのような意見だったのか。

10 「本件の調査内容を受け、報酬返上を含む関係者の処分を行っている」とのことだが、この処分は、社内でどのような手続で行われ、どのように実施されたのか。(人事部門、経理部門は関わっていないのか。)

11 今後設置する「第三者委員会」の委員長・委員はどのように選任するのか。

以上のような事項について、関電側が納得できる説明をすることで、本件についての事実関係・問題点は自ずと明らかになり、それを受けて、今後関電が何をすべきか及び金品を受領していた関電幹部に対して、どのような措置をとるべきかを検討するための材料も得られるはずだ。

九電「やらせメール問題」以来の原発に関する不祥事

福島原発事故後に、電力会社が原発に関して起こした不祥事としては、原発事故直後の2011年の九州電力「やらせメール問題」がある。私は、この問題で、第三者委員会の委員長を務め、委員会報告書で、問題の本質について、以下のように述べた。

問題の本質は、「不透明性」と「環境変化への不適応」にある。

公益を担う事業者として電力会社には、地域独占と総括原価方式による利益の保障という民間企業としての特殊な経営環境が与えられており、それに伴って、事業活動の透明性の確保が強く求められる。

しかし、これまで、電力会社は、電気の安定供給と施設の安全性の確保という面で地域社会からの信頼がベースとなってきたことから、透明性の要請が顕在化することは必ずしも多くなかった。電力会社の事業の透明性の要請は潜在化していたと言うべきであろう。

そのような電力会社をめぐる状況が徐々に変化してきたのが、21 世紀に入る前後頃からであった。電力会社をめぐる不祥事が相次ぎ、電力会社に対して社会の批判の目が注がれることが多くなり、各社は、それらの問題への対応を求められた。

また、その頃から、日本社会においても、政府や一企業のみが決めて実行するのではなく、社会の側から決めていくという、ソーシャルガバナンスの時代になりつつあり、特に公益事業においては、そのような変化に対応することが求められるようになった。

そして、その状況が、さらに激変したのが東日本大震災、福島原発事故の発生であった。同事故の発生により、日本の多くの国民は、電力会社が行う発電事業のうち原子力事業がいかに大きな危険をはらむものであり、一度事故が起きれば、多くの市民、国民の生活を破壊し、社会にも壊滅的な影響を与えるものであることを痛感し、電力会社の事業活動、とりわけ原発の運営に対して重大な関心を持つようになった。

それ以降、原発施設の安全対策が客観的に十分なものと言えるのかに加えて、原発事業を運営する電力会社が、いかなる事態が発生しても安全を確保するための万全の措置をとり得る能力を有しているのか、信頼できる存在なのかが、社会の大きな関心事となった。

そのような環境の激変に伴って、電力各社は、事業活動の透明性を、以前とは比較にならない程強く求められるに至ったのである。

今回の一連の問題は、このような原発事業をめぐる環境の激変に適応し、事業活動の透明性を格段に高めなければならなかった九州電力が、その変化に適応することができず、企業としての行動や対応が多くの面で不透明であったところに問題の本質があると言うべきである。

しかし、残念ながら、九州電力幹部は、この第三者委員会報告書で、佐賀県知事の発言が「やらせメール」の発端となった旨の指摘を行ったこと等に反発し、委員会報告書提出後も、第三者委員会側と九電側とで激しい応酬が続いた【第三者委員会は企業を変えられるか~九州電力「やらせメール問題の深層」】(毎日新聞社:2012年)。

私は、父が中国電力の社員だったこともあり、コンプライアンスの啓蒙活動の中で、電力会社のコンプライアンスには、思い入れを持って、深く関わってきた。全国の電力会社のほとんどで会社幹部に対するコンプライアンス講演を行い、関電でもコンプライアンス講演を行った。中国電力の「土曜ダム問題」を受けて設置されたアドバイザリーボードの委員長も務めた。そういう私にとって、東電の福島原発事故の発生と、それに関する東電の対応の杜撰さは、衝撃であった。九州電力の第三者委員会の委員長に就任した際には、私としては、「原発事故後の電力会社のコンプライアンス」に貢献できるよう、問題の本質に迫る調査と報告書作成に全力で取り組んだ。しかし、その指摘に九電幹部が反発して対立が生じたこともあり、その後、電力会社からのコンプライアンスに関する私への依頼は、全くなくなった。

私が九州電力第三者委員会報告書で指摘した「問題の本質」が受け入れられることなく、それとは真逆の、コンプライアンス不在の状況から、今回の関電の問題が発生したとすれば、誠に残念と言うほかない。

今回、関電が設置する第三者委員会において、上記の九電第三者委員会で指摘した「原発事業の透明性の要請」という観点も含め、問題の本質に迫る調査・原因究明・再発防止策の提言が行われ、それによってコンプライアンスが抜本的に是正されることが、関電の信頼回復にとって不可欠である。

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