声をあげることから世界は変わる。性暴力に抗議する「フラワーデモ」に彼女が参加する理由

性暴力への抗議の意思を示そうと、花を手にした人々らが始めた「フラワーデモ」。これまで「デモ」とは縁遠かった女性たちも集まっている。美容ライターの長田杏奈さんに聞いた。
長田杏奈さん
長田杏奈さん

性暴力への抗議の意思を示そうと、花を手にした人々らが始めた「フラワーデモ」。2019年に東京から始まった連帯は、全国21カ所で開催されるまでに広がり、これまで「デモ」とは縁遠かった女性たちが大勢集まっている。

美容ライターとして、美容を通じて女性たちの自尊心を応援することを仕事にしている長田杏奈さんも足を運んでいる一人だ。長田さんが参加するのはなぜなのか、そこで見たものは何だったのか?話を聞いた。

裁かれるべきことが裁かれる土壌がないことへの疑問

——参加のきっかけは何だったのでしょうか?

今年の春、生花でアクセサリーを制作する「花鳥風月lab」としてイベントに出店しました。趣味の活動なのですが、ブースを訪れた女性たちに、花飾りや花冠をつけて、仕上げに好きな色のリップを塗ってあげる。表情がパッと華やいで、喜んでもらえたことがとても嬉しくて。私のライフワークは、こんな風に美容やお花の力で女の子に喜んでもらうことだなと、再確認したんです。

でも、イベントの打ち上げに行った中華料理屋さんで幸せな気分は台無しに。隣の男女のグループのテーブルから、男性たちの下品なセクハラトークが聞こえてきたからです。女性たちが空気を読んで合わせたり流したりして、耐えながらやり過ごしている。そんな様子を目の当たりにして、さっき会ったキラキラと輝いていた子たちも、きっと日常的にこんなセクハラにあっているんだろうと思って、そのギャップに義憤を感じたんです。

ちょうど、その頃気になっていたのが、女性が性犯罪被害を訴えた裁判での無罪判決の多さでした。日本は近代国家でありながら、セクハラや性犯罪をきちんと裁けるような法整備が未だになされていない。女性の尊厳を守る土壌がないことに気がつき、疑問を感じていました。現代の女性を取り巻く誰に起きてもおかしくない問題であり、美容を通じて女性たちの自尊心を応援したいという、私のライフワークの延長上にある問題として、性犯罪は無視できなかった。できる限り自分からコミットしていかなきゃという気持ちが湧いて、以前より興味を抱いていたフラワーデモに、私も参加してみようと思ったんです。

もともとお花が好きなので、「花を持って集まりましょう」という呼びかけが、「怖くないデモ」というイメージで入りやすかったのもあります。花は、平和的抗議、ピースの象徴ですよね。

長田杏奈さん
長田杏奈さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

どんな服を着てどんなメイクをするかは、性的同意と無関係

——実際に「フラワーデモ」でご覧になったことや感じたことについて教えて下さい。

デモと聞くと抗議活動がメインという先入観があったのですが、実際は想像とは違いましたね。性被害にあった女性たちが、自分たちがどんな目にあってどんな思いをしたのかを、みんなの前で語っていて。「ずっと私に落ち度があったんだと自分を責めていた」、「あれは性被害だったんだと気づくまでに10年以上かかった」という声が多かったのも印象的でした。時に消え入りそうな声で、時に涙を流しながら、勇気を振り絞ったであろう人たちの姿を、ただ見守ることしかできなくて……。

特に記憶に残っているのは、「今日、私はいつもとは全然違う服を着て、全然違うメイクをして、ウィッグをかぶり、カラコンまでして、地元から遠く離れたこの場所へ来ました」と、打ち明けていた女性。地元では、性暴力の加害者やその知り合いに気づかれる恐れがある。だけど、その女性は遠く離れた東京までやって来て、さらには変装してまで自分の経験を伝えたかったんですよね。聴衆としてその場にいるだけでも、力になれるのかもしれないなと感じました。

−−9月には、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、性被害にあったと訴えている日に着ていた服を身につけて「どんな服を着ていてもどんな場所にいても、それは性的合意ではありません」と話して、話題になりました。

私も、伊藤さんがその後発信したハッシュタグ「#私がそれを着たいから」を使ってSNSで賛同しました。何を着ていようが、それは性的同意とは全く次元の違う、関係のない話です。美容ライターとして言うなら、メイクも同じこと。セクシーさを強調したメイクを楽しんでいても、性的同意なんかじゃない。本来追求されるべき加害者ではなく、被害者の落ち度を取り沙汰す眼差しがあること自体、すごく残酷な話だと思います。

長田杏奈さん
長田杏奈さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

批判があっても、声は消えていない

——フラワーデモについて、嫌悪感を示す声やバッシングもありましたね。

第一回のフラワーデモの後で、著名な弁護士の男性が、「正義感振りかざしてオナニーしたいだけの人達には日本語が通じない」という発言をしたことにはかなり衝撃を受けましたね。社会的に信頼される職業で影響力も大きく、被害にあう確率も少ない男性の立場、いわば強者側にいる人がデモの現場を見てもいないのに、よくそんなことが言えるなとゾッとしました。泣きながら自分の体験を話す被害者を前にして、同じこと言えるのかなって。正直、怖かったです。

——声をあげた人が叩かれる、という今の風潮にもつながるように感じます。特に、物を言う女性や子どもへのバッシングが酷いです。

何かを変えようとする声を耳障りに感じる人たちは、誰かの権利を守ることが、自分たちの権利や既得権益を制限するように誤解して、ナーバスになってしまうのかもしれません。そのすれ違いにひとつひとつ向き合うより、声をあげる人に肩入れして味方したいなって思います。

フラワーデモに関して言えば、開催地域が増えてこれだけ日本中に広まったらもう「オナニー」だなんて揶揄していいようなことじゃないって、わかってもらえたんじゃないかと思います。声は消えていませんから。

世界を変える一歩は、「自分の声をちゃんと聞いてあげる」こと

——でもやっぱり声をあげるのは怖いという人も多いと思います。

女性は「怒っちゃいけない」「機嫌を悪くしちゃいけない」「反撃しちゃいけない」と思い込まされている人が結構多い気がするんです。でも、歴史を振り返れば、虐げられた市民が、集まって声をあげて怒りを表明することで、自分たちの権利を守り、政治や法律、ひいては社会を変えてきている。その積み重ねがあるからこそ、受けている恩恵がたくさんあると思うんですよ。だから譲れない問題について、「受け流すのがいい女なんだ」「そういうもんだから仕方ない」って、我慢して飲み込まないでほしいんです。

私は、女性たちが、真の意味で自分を大切にすることに目覚めたら、世界はいい感じに変わると信じています。大切な自分の声を、「取るに足りない私の、取るに足らない声だ」なんて無力化しないでほしい。

自分の声に耳を傾けて尊重し、大切な場面では主張して、暮らしやすい世界にしようぜ!と思います。

長田杏奈さん
長田杏奈さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

——初めてデモに参加したという長田さんのお話を伺って、デモへ参加することのハードルが少し低くなったように思います。これからもフラワーデモへの参加を続けますか

毎月11日のスケジュールには、「フラワーデモ」って書いてあります。花を一輪だけ持っている人や、花柄の服を着ている人もいます。花を持っていない人でももちろん参加できるので、会社帰りに手ぶらで来ても大丈夫。もう少しカジュアルに声を出せるような環境になることを願って、私もSNSなどでデモに参加したことを気軽に発信しています。

ただ、デモに行きたくない人、興味のない人、怖いと感じている人が無理して参加する必要はないと思います。他にも反対や疑問を示すやり方というのはいろんな方法がありますから。

私はこのままの社会では安心して暮らせないと感じているので、思いを同じくする仲間と「こういう社会だったらもっといいよね」という未来図を描きながら、声を出していけたらいいなと思います。現場や女性の声を取り入れた、世界に誇れるような法整備が、できる限り早く実現してほしいですね。

長田 杏奈 (おさだ・あんな)
1977年神奈川県生まれ。ライター。ネット系企業の業をて週刊誌の契約編集に。フリーランス転身後は、女性誌やwebで美容を中心にインタビューや海外セレブの記事を手がける。「花鳥風月lab」主宰。著書に「美容は自尊心の筋トレ」(Pヴァイン)。

性暴力や性犯罪が実は身近な問題だと気付き始めている人は多いかもしれない。すべての人が性暴力や性犯罪から守られる社会を築くため、私たちは声を上げ、訴えることができる。

7回目となるフラワーデモは、10月11日の夜、全国21都市で一斉開催される予定だ。(※台風19号の影響で場所の変更や中止・延期を決めた地域も。東京は11日朝時点で地下での開催予定となっている。その他の場所の状況はTwitterなどで確認を)

(取材・文:秦レンナ 編集:泉谷由梨子)

注目記事