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2019年10月24日 12時14分 JST | 更新 2019年10月24日 12時14分 JST

男性が育休を取りづらい“空気“の正体は? それはきっと変えられる。

「部署で初めての男性育休取得者になります。パイオニアとして、復職後にどう行動すればいいのでしょうか」という疑問に、私たちはどう応えられるのだろう。

Kasane Nakamura
堀潤さん(手前)とみらこ代表の天野妙さん(奥)の進行も息がぴったり。

男性の育休取得を企業に義務付けようとする動きが広がる中、「誰もが取れる育休ノカタチ」をテーマに、個性的なメンバーが立場の違いを超えて語り合うイベントが毎日新聞社で開かれた。

天皇陛下が即位を国内外に宣言する「即位礼正殿の儀」が行われた10月22日の午前中、大雨の中にも関わらず約70人と大勢の子どもたちが参加した。

この日のイベントは、みらい子育て全国ネットワーク(みらこ)や毎日新聞社、GARDENなどの共催で、立場を超えて子育て政策について語り合おうと、2018年1月から行われてきたイベントの第5弾だった。

2018年1月 「3世代で話そう!子育てのこと」

2018年5月 「もうすぐ母の日! 男たちと語る『#子育て×政策』」

2018年9月 「今こそみんなで考えよう!『みらいの#子育て政策』」

2019年2月 「私たちにもできる政治参加『#子育て政策聞いてみよう』」

2019年10月 「誰もが取れる育休ノカタチ〜みんなが応援したくなる男の育休って?〜」

今回はハフポスト日本版の記者としてイベントを取材したが、私自身は2018年末まで毎日新聞で記者をしていた。このイベントにも初回は登壇者として、2回目以降は運営サイドとして関わらせてもらった。

 

子育て政策を「みんな」のものに

イベントでは、企画当初から変わらずに目指してきたイメージがある。

保活や育休、子育て政策のことを「ママ」だけで語るのではなく、世代や性別といった属性や、経営者や政治家といった立場を超えて一緒に語り合おう、ということだ。そして実際、子育てをテーマとしたイベントには珍しく、参加者がほとんど男女半々か男性の方が多い。

Kasane Nakamura
会場後方には、みらこメンバーによってキッズスペースが設けられた。

イベントの運営を支えているのは、みらこのメンバーだ。

みらこの前身は「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」。2017年2月、認可保育園の不承諾通知を受け取った保護者の声を可視化しようと「#保育園に入りたい」というハッシュタグでの投稿を呼びかけたのが最初の活動だった。待機児童問題に取り組む市民団体には珍しく、主要メンバーに男性が多いのが特徴だった。

メンバーも大幅に増え、「みらい子育て全国ネットワーク」と名前を変えた今では、待機児童問題以外に「男性の家庭進出」や「子育て政策聞いてみた」など、誰もが子育てしやすい社会を作るための活動を続けている。

こういうメンバーに支えられたイベントだということもあり、当初から授乳OK、オムツ替えOKと大きくうたっていた。

回を重ねるごとに小さな参加者も増え、参加者同士の子どもたちが仲良くなり、会場をキャアキャアと走り回る姿も見られるようになった。子連れの参加を見越して、イベントの開始時間を早めたり、会場内にキッズスペースを設けたりもした。

登壇者や取材記者が子連れで会場に訪れることも珍しくなくなった。元衆院議員の金子恵美さんが登壇した3回目のイベントでは、夫で元衆院議員の宮崎謙介さんがキッズスペースで子どもたちをあやす場面もあった。

初めての祝日開催となった10月22日も、会場内には大勢の子どもたちで賑やかだった。

Kasane Nakamura
会場には、元衆院議員の金子恵美さん、宮崎謙介さん夫妻の姿もあった。

この日の登壇者たちは、自民党の育休議連・発起人の森雅子議員(途中退席)や三重県の鈴木英敬知事(台風対応のためビデオ出演)、メルカリの小泉文明取締役プレジデント(会長)。そして、毎日新聞で2度の育休を取得した長岡平助記者、フランス在住のジャーナリスト・高崎順子さん、若者と政治をつなぐメディア「POTETO」の古井康介代表。

一方、参加者の中には少子化ジャーナリストの白河桃子さんやワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長、研究者の是枝俊悟さんなどの姿も。就職を控えた男子大学生や社会人1年目の女性など、結婚も出産もこれからという世代も参加していた。

会場全体で行われるグループディスカッションには、登壇者たちもそれぞれのグループに参加する。案の定、ディスカッションはどのグループも白熱していた。

Kasane Nakamura
グループディスカッション。議論は白熱していた。

育休申請したら「目的を明確にしろ」

司会進行は、初回からずっと変わらずジャーナリストの堀潤さん。参加者にも遠慮なくマイクを向ける。

この日も、個人的にとても印象に残ったやりとりがあった。

 妊娠中の妻と参加していた夫に、堀さんが「若いお二人に、参加した動機を聞きたい」と突然話を振った時のこと。急にマイクを渡された女性は、臨月の大きなお腹に手を当てながら話し始めた。

「夫が育休を取ると言ってくれて、自分は嬉しかった。でも夫がそれを会社に伝えると、『育休取得の目的を明確にしろ』『現場に迷惑をかけるな』と言われ、とても大変な思いをした」

「大企業はどう変わっていけるのか、知りたくて参加した」という妻に続いてマイクを握った夫も、こう語った。

「1カ月の育休を取得できることになったけれど、部署では初めての男性育休取得者になります。パイオニアとして、復職後にどう行動すればいいのでしょうか」

Kasane Nakamura
突然参加者に話を振る堀潤さんの司会はもはや名物

「育休を阻む空気」の正体とは?

実は、夫婦の発言の前に、参加者から小泉会長に「育休を取りづらい空気の正体ってなんなんでしょうか」と質問が上がっていた。

小泉会長は「空気の正体……いわゆる忖度なんでしょうね。だから、最初の何人か(の育休取得)が大事だと思う」と前置きしたうえで、「でも僕は空気って言い訳だと思っていて…」と、男性が育休を取りにくい背景には空気よりも収入面や復帰後の疎外感への不安があると説明した。

例えばメルカリでは、男性社員の育休取得率が85%に上るという。しかも、取得期間は平均で2〜3カ月。育休中も給付金と給料の差額は会社が負担するため、社員は収入の不安を感じずに育休を取得することができる。復職後のケアも充実している。認可外保育園に入園した場合でも、認可保育園の保育料との差額は会社が持つ。病児保育代も会社が全額無制限に負担する。

これだけの制度が整っているうえ、子どもが生まれる男性のほとんどが育休を取得する。「誰もが取れる育休ノカタチ」を具現化しようとするなら、メルカリの手法は素晴らしいお手本になるだろうと思った。

だが、多くの企業や、これから結婚や出産などのライフイベントを迎えようとする男性社員にとって、本当に「空気は言い訳」だろうか。

聞けば、育休を渋られた男性が勤めている会社は、名前を知らない人はいないような大企業だという。男性社員の育休取得についても会社としては前向きなメッセージを発信しているが、「現場の空気は違う」と男性は明かす。これは、女性活躍や働き方改革でもよくあることだ。

Kasane Nakamura
メルカリの小泉文明会長

職場に“忖度”することなく、“最初の一人”となったこの男性は、今後どんな働き方をするのだろう。

次の人が“忖度”しなければならないような空気が生まれてしまうかどうかは、職場の上司や同僚が「おめでとう」と彼を育休に送り出してくれるか。復職後に彼がハッピーな形で仕事と家庭を両立できるか。男性の生き方を職場が認めて尊重してくれていると実感できるかーー。

男性の今後が、職場の“空気”を大きく左右することになる。でも、それは男性の行動だけで変えられるものではない。「パイオニアとしてどうあればいいか」という彼の疑問に、企業、社会、政治、そして私たち一人一人はどう応えられるのだろうか。 

小泉会長はこうも語った。

「競争優位上、優秀な社員をどう確保するかはすごく大事。僕らより下の世代はファミリー(家族)を一番大事にしている。今までの日本社会は『会社が上で、個人は下』だったけれど、これからは会社と社員が横の関係。僕らが社員から選ばれなければいけなくなる。競争相手はGoogleのようなグローバルな企業。だから僕らは社員にお金をかけるんです。そうすれば、彼らは答えてくれるから」

会社と社員が縦の関係にあるのか、横の関係にあるのか。私自身の経験や取材を振り返ると、これも職場の“空気”に強く影響するように思う。

Kasane Nakamura
フランス在住のジャーナリスト、高崎順子さん

夫婦の話を聞き、高崎さんは「フランスの感覚から言えば、現場に迷惑をかけないようにするのはマネジメントの仕事」だと呆れ、小泉会長も「僕は経営者として、(こんな対応をすれば)退職リスクがあるなと考えてしまう。大企業だと、社員はそうそう辞めないものだと思っているのかもしれない」と指摘した。

会場からも、激励を込めた大きな拍手が上がった。

 

大きな仕事を引き受けたら育休はNG?

男性が育休を取りづらい空気は、環境相に抜擢された小泉進次郎衆院議員の「育休取得宣言」にも象徴される。

小泉氏の年明け誕生予定の第一子の育休取得をめぐっては、「まずは国民が先」(泉健太・国民民主党政調会長)、「もう内閣の一員になったのだから、育休を言っている場合じゃなくなったのではないか」(松井一郎・日本維新の会代表)などの批判も上がった。

イベントに登壇した毎日新聞の長岡平助記者は、読者から「育休を使うのだったら大臣受けたら駄目でしょう」という意見が寄せられたと明かし、「“大臣”を“大きな仕事”と置き変えて、考えてみてほしい」と呼びかけた。

「『大きな仕事を引き受けているのに育休なんて…』『責任を果たせるなら育休を取ってもいい』というのは、日本のあちこちで起きていること。じゃあ、内閣には育児や介護をしている人は不要なんですか?内閣のダイバーシティはどうなるんでしょうか。小泉進次郎議員の育休取得をめぐって出てきた議論は、日本の男性育休の現状を反映していると思います」

時事通信社
第4次安倍再改造内閣の記念撮影を終え、笑顔を見せる小泉進次郎環境相=9月11日、首相官邸

大臣の育休取得について、ベストな方法を探るための議論はあっていいと思う。けれど、もしも社会の逆風を受けて小泉氏が育休を取得できないようなことになれば、その“空気”は必ず下へ横へと伝播するだろう。

「大きなプロジェクトを抱えているから」「今は人手不足で職場が回らないから」ーーと、“空気”はいつだって、さまざまな“忖度”の理由を探し出す。これも、働き方改革や女性活躍の過去を振り返れば、容易に想像がつくはずだ。

 

“空気”はきっと変えられる

それでも、個人的には状況はとても明るいと思っている。ここ1年足らずで「男性の育休」は政治や経済のテーマとなり、「男性育休100%宣言企業」に名乗りをあげる経営者の数も着実に増えている。

小泉氏はきっとベストプラクティスを探りながら育休を取得できるだろうと期待しているし、参加者の男性もきっと今回のイベントの参加者同士で交流(イベント参加者は限定SNSで繋がることができる)を続けながらベストな両立方法を探っていけるはずだ。

これまでの5回のイベントは、子育て政策をみんなで語れる“空気”を作ることを目的としてきた。そして、そんな“空気”は確実に生まれつつあり、社会に広がりつつある。

「誰もが取れる育休ノカタチ」が見つかる日も、そんなに遠い未来ではないと信じている。