ビジネスが作る未来
2019年10月28日 07時33分 JST

目的を言わない上司、鵜呑みにする部下。どうすれば…? 専門家に相談した。

営業職など、現場の人にも「経営視点」は重要。一方で、彼らを管理する上司も「現場視点」を持つ必要がある。

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今日もどこかのオフィスで「偉い人」と「現場」の小競り合いが起きている。

上司は「経営視点を持って自分で動け」というけれど、部下からしたら「それってどんな視点なの?」「指示が曖昧だなぁ」と思ってしまう。

わかるようでわからない「経営視点」って一体何だろう?

経営学に始めて触れる人たちに向けて、経営の基本をレクチャーするつもりで『新しい経営学』を書いたというKIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授の三谷宏治さんに話を聞きに行った。三谷さんは普段から、大学2年生にも経営学の講義をしているという。

(聞き手:竹下隆一郎/ 文:石川香苗子 @KANAKOISHIKAWA )

 

ハフポスト日本版
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授・三谷宏治さん

――三谷さんは普段、社会人向けのMBA教授をしながら、経営の経験どころか社会人経験もない19歳の大学生にも経営学の講義をしていると伺いました。19歳にとって「経営」ってなかなかピンとこないと思うのですが、講義の反応はどうですか。 

私が教えているのは、女子栄養大学・食文化栄養学科の「基礎経営学入門」という科目で、2年生の必修科目です。選択科目なら経営学に興味のある学生だけが対象ですが、必修なのであらゆる関心レベルの学生が対象で、「経営って何??」という学生から、「将来カフェを開きたい」とか「食品メーカーに入って商品企画をしたい」という志向の学生までいます。でも最後に講義への感想を書いて貰うと、これがなかなかに面白い。

まずは「最近お店に行ってもなかなか物を買えなくなりました。ダマされないぞって思います」なんて声があったり(笑)。ビジネスとはターゲットにバリュー(価値)を提供する存在なわけですが、そのバリューにちゃんと疑問を持つようになったのでしょう。逆に、「これまでただ好きでスタバに行っていたけど、今は自分がひと息つける空間に価値を見出して1杯400円も払ってるんだと納得しました」というように、バリューを理解したという感想も。

バイト先での話も多いです。昔ながらの喫茶店でバイトしているという学生からは、「日中のヒマな時間帯に来るおじいちゃんおばあちゃんたちは、あんまり注文もしない。でもお店の収益を支える貴重なお客さんだとわかったので、最近はコップの水が空になったらすぐ注ぎに行くようになりました」と。彼女は地場の喫茶店の収益モデルを理解したわけです。これぞ経営視点、素晴らしい。

大学1、2年生ぐらいでも、こういった経営視点を持つことができます。バイト経験があれば尚更です。飲食店やアパレルショップは一種の経営体ですから。バイト学生の方が下手な社員より視野が広かったり、視点が高かったりします。

「経営視点」と言われても…

――学生の方が視点が高い、と言われると耳が痛いですね…。実際に会社で働きはじめると、経営視点なんてなかなか持てないというか、そもそも経営視点を理解できない、という状態になってしまう気がします。

日々仕事をしていると、様々な問題にぶち当たりますよね。その時に自分を助けてくれるのが「経営視点」です。

自分に見えている「現場視点」だけでなく、もう一つ上の別の視点を持っていることで、問題の見え方や解決策は変わってくる。選択肢が増えるんです。

私自身も、経営コンサルタントとして働きはじめて2年目の頃、絶体絶命の大ピンチを「経営視点」で乗り切ったことがありました。

クライアント企業の事業戦略プロジェクトで、その会社のとある部署を全部見ろ、と言われました。そこは、その企業の主力商品ではなく「その他」に分類されるような雑多な商品・サービスが100個くらい寄せ集められた実験的な部署でした。

数多ある商品をどう分析して整理すべきか? 困り果てた私がたどり着いたのが「経営視点」で状況を見ること。

一つ一つの商品の収益性や将来性分析を100回繰り返すことは不可能でした。そもそも売上データすら怪しく、営業・販促コストはどんぶり勘定。1商品の分析に何週間もかかります。個別分析の積み上げではなく、一つ目線を上げて「この会社にとって、そもそもこの部署の役割って何だろう?」と考えることにしたんです。

そうしたら「既存の主力事業への“貢献”がこの部署の役割だ!だとしたら…」という突破口が掴めました。100個の商品を、どんな軸で整理すればいいか見えてきたんです。

結局その商品群を、「既存主力事業に必須の部品」「既存主力事業の営業ツールになるもの」「単独でブレイクスルーしそうなもの」「そのどれでもないもの」の4つに分類して、各々の基本方針を決めました。経営視点、つまりその部署の外からの評価で整理することで、乗り切ったわけです。

――確かに経営者やコンサルタントなら「経営視点」は必要だと思うのですが、目の前の数字や案件を積み上げていく営業職にとって、それって本当に必要でしょうか。

営業職も同じです。商談がもう一歩うまく行かないとき、その原因はなんでしょう。それは、商談相手が納得しないからではなく、商談相手がうまく社内を説得できないからじゃないでしょうか。相手の上司が気にしていること、会社として目指していることを理解することこそが「経営視点」なのです。

商談相手の部署やポジションが、その会社にとってどういう位置付けなのかを考えながら話を進めていけばおのずと、相手が社内で動きやすいように、上司に説明しやすいようにと、整えていくことができるでしょう。

これこそ営業の本質である「お客さまの課題を解決すること」ですよね。現場の人同士にそういう感覚がないと価格交渉に終始してしまい、結果、持続可能で健全な売り上げは立ちません。

そういう意味では、どんな部署でも役職でも、結局「経営視点」を持って行動できる人が評価され出世していくといえるでしょう。

ハフポスト日本版
三谷宏治さん

要は、「経営視点」と「現場視点」の両方が必要。

―― でも社員全員が「経営視点」を持つと、何だか全員偉そうで面倒くさい会社になりませんか?

「経営視点」を持つということは他人に命令することではないですよ(笑) むしろ全員が「経営視点」を持つことで、命令されなくても動くようになる自律的な組織が生まれます。

ただ、今度は経営者の方が「現場視点」を忘れないことが大切です。

現場が「経営視点」を持つのが難しいように、経営者が正しい「現場視点」を持つことがどんどんできなくなっている気がします。経営者の現場感覚はほとんどが20~30年前の実体験に過ぎません。偉くなってから、いくら自社や顧客先を訪れても本当の現場は中々見えない。

例えばですけれど、経営者もハイヤーを降りて、満員電車に乗ってみたり、コンビニエンスストアで物を買ったり、Amazonを使ったりして、街中やネットのリアルな感覚を知った方がいい。

いつもハイヤーに乗って、地下の駐車場に直行ばかりしていたら、正面玄関から来る取引先が何を見ているかもわからなくなるでしょう。

経営者は大変ですよ。より高い経営視点と現場視点の両方を持たなくてはいけないのですから。でもだからこそ一番給料をもらっていいのです(笑)

目的を言わない上司、鵜呑みにする部下。どうすれば…?

――しかし実際には多くの会社で、上司は「結果を出せ」「とにかくやれ」といい、部下は「言われた通りにやったのにダメだったじゃないか」という深刻な分断が起こっているように思います。具体的にどうすればお互い歩み寄って、同じ目的に向かって進めるのでしょう。

例えばもしあなたが現場で頑張っているなら、上司の言葉の受け止め方を変えてみましょう。

上司に「100やれ!」と山のように仕事を振られた時、本当にその100全てが必要なのでしょうか?上が期待しているのって本当は何でしょうか?

経営視点を取り入れれば、その上司にとって必要なのはあなたが100をこなすことではなく「面白い結果」や「新規性」が3つ出ることだけ、と見えるかもしれない。そしたら自分で勝手にやることを20くらいに絞り込んで集中して取り組めばいいんです。いいものが3つ出せればそれで仕事は終わりです。

そもそも、100言われたら100やるというやり方は、働き方改革以前の話。自身の生産性をどう上げるのか、真剣に取り組みましょう。100やらないと評価されない職場なら、それ自体が淘汰されていくでしょう。

一方、あなたがもし上司の側なら、作業ではなくその目的をしっかり伝えることを意識してほしいです。部下に10個の作業を振るとき、その中から一つブレイクするものを育てていきたいのか、自分の思考のヒントとなる情報が欲しいのか。何を目的にした作業なのかをまず言うこと。

でも日本の上司たちはそれがなかなかできない。実は大して何も考えてないからです。「君に任せる」と言って部下に丸投げするか、逆に細かい指示だけして目的は曖昧なままか。部下はそのまま丸呑みして作業して、生産性が低い状態から抜けられない。

ここは何とか部下が頑張るしかありません。上司から何か振られたら、「何のためにやるんですか」「何がゴールですか」と食い下がって問い質すこと。そしたら上司も少しは考えるかもしれない。ただ、これをやると、「生意気な奴」などときっと言われるでしょうけれど。私も、言われてました(笑)

――空気を読む日本人にはなかなかハードルが高いですね…。

そのハードルを越えなければ、空気と共に沈むだけでしょうね。それがイヤなら、頑張るしかないんです。

これからは本当にAIの時代がきます。そのとき、どうなるんでしょう?

言われた作業をただやる社員って存在価値は本当にあるんでしょうか。あっという間になくなるでしょう。

でも人間としての価値を出せる仕事って、意外と身近にたくさんあります。ただそれには、新しいことにチャレンジしていく気迫とか、人と対話して組織をマネジメントしていくとか、そんなリアルな力が必須です。そのひとつが「経営視点」。それをしっかり鍛えていきましょう。

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上司と部下、組織と個人、理想と現実…。

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ハフポストはマザーハウスの山口絵理子さんと一緒に「Thirdway」という本を作り、#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材しています。