知られざるコーヒー危機。低価格のコーヒーが奪う私たちの未来とは。

「コーヒーは今や、単なるカフェイン摂取の手段ではありません」。専門家は、損失の深刻さをこう語ります。
コーヒー イメージ写真
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Farknot_Architect via Getty Images

朝に忙しなく啜る目覚めの一杯や、昼下がりに職場で挽く至福の一杯。秋に欠かせないパンプキン・ラテに、とびきり美味しい夏のコールドブリューなど、コーヒーは私たちの生活に欠かせないものだ。

しかし、コーヒーを愛して止まない私たちの背後で、コーヒー産業が今、危機に直面していることはあまり知られていない。常に種類が増え続けているかのように感じるコーヒーだが、その多様な味や香りが失われる可能性が十分にあるのだ。貧困や気候変動による影響、疫病の流行により、小規模なコーヒー農家を廃業へ追い込み、大量生産する企業の手に渡っていく。

一度その多様なバリエーションが失われると、同じ味を取り戻すことはもう出来ない。2019年に行われた調査によると、野生種のコーヒーのうち60%が、森林伐採や気候変動、菌類病原体や害虫の悪化によって絶滅の危機にあるという。

それは私たちの朝の過ごし方から、多くの選択肢を奪うことにもなる。低所得国における農業者の利益を守る機関、Fairtrade International(フェアトレード・インターナショナル)でコーヒー担当を務めるピーター・ケトラー氏はその可能性を危惧している。更に彼は「コーヒーは今や、単なるカフェイン摂取の手段ではない」とその損失の深刻さを語った。

今や一大産業のコーヒーは、全世界で約9兆円を売り上げている。アメリカでは一日に4億杯以上のコーヒーが飲まれており、その消費量は過去4年間で3%増加している。世界的な生産も成長を続けており、その筆頭であるブラジルとベトナムは既に、合わせて世界全体の生産量の半分以上を占めている。

しかし供給過剰により、コーヒーの価格はここ10年で最低レベルまで低下している。それに伴い、ホンジュラスやブルンジなどといった途上国の多くの生産を担っている小規模農家を中心に、栽培者はその継続に困難を抱えている。

コロンビアの農家でアラビカコーヒーを摘み取る様子
コロンビアの農家でアラビカコーヒーを摘み取る様子
TIMOTHY FADEK VIA GETTY IMAGES

Fairtrade Internationalによると、約60%の農家が栽培コストよりも低価格でコーヒーを販売しているという。今日1ポンドあたり1ドルの市場は、経済的に貧しいホンジュラスやブルンジなどが元を取るのに必要だとケトラー氏がいう1ドル20セント〜1ドル50セントを下回るという。

価格の低下は小規模農家にとって、気候変動の脅威から作物を守ることも困難にする。干魃頻度の増加や長期化、葉サビ病などの原因となる菌類病原体の脅威など、問題は様々だ。

過酷な貧困と気候変動の二重苦により、ラテンアメリカのコーヒー農家がその地を離れることを余儀無くされ、その多くが雇用を求め北上している、と報じられている。ホンジュラスのような小国が撤退の一途を辿る一方、ブラジルやベトナムといった大規模運営の中心国は、更に産業に幅を利かせている。

「大きな農園を構えることのできない山岳地で栽培されているコーヒーもあります。こういった農家は、気候変動や疫病といった危機の中、大企業と比べ競争や対応が難しいのです」とケトラー氏は語る。

巨大な農業企業は、単一栽培の商業利益に恩恵を受けているようだ。短期的に見ると、種類を少なく限って多く生産した方が効率的になる。現在の世界のコーヒー貿易は、たった2種に頼っている。生産の60%を占めるアラビカ種と、40%を占めるロブスタ種だ。

しかし、大規模なコーヒー農家が今まで無視し、絶滅の危機にある種が、今後の世界のコーヒー供給の鍵を握っているかもしれない。気候変動や疫病に耐えて繁殖を続けるには、他の品種が必要だとリサーチャーたちは言う。

絶滅の危機や、危惧すべき被害は、コーヒーだけに止まらない。他の食料システムの多様性も狭まってきている。実際、地球上には3万種もの可食植物があると推定されているにも関わらず、私たちが摂取している植物由来のカロリーのうち60%は小麦、トウモロコシ、米で成り立っている。

食料保安と環境保全の研究者であるレノア・ニューマン氏の著書「Lost Feast」によると、地球規模で見ると、野菜の90%から95%、フルーツの80%から90%が既に1950年以降に絶滅しているという。

「図書館いっぱいの本があったのに、その殆どを燃やしてしまったようなものです」とニューマン氏は語る。

この問題を解決するための第一歩は、多様性の価値を認識することだとニューマン氏は話す。可食植物を失うことは、単に味や香りを失うだけではなく、気候変動や疫病に対抗するための品種を失っていることでもあるという。

更にニューマン氏は、特定の種のバナナ栽培に依存した単一栽培を例に取った。アメリカで食べられている品種の主を占めるキャベンディッシュ・バナナは今、2つの致命的な疫病による被害に直面している。しかし、栽培者の多くはキャベンディッシュ・バナナの栽培のみに注力していたので、それに容易に取って替わることのできる、これらの疫病に抵抗力のある他の選択肢が無く困窮しているという。

小売業者、政府、消費者ともに、地元の食物生産を促し、支援すべきだ。「季節に準じた地域生産は『食』の多様性を支えるのに欠かせないもので、世界各地から輸入される食べ物に頼る事よりも大切です。」とニューマン氏は続ける。「個人が近所の農家をサポートすることも大切です。そういった人たちのお陰で『食』の多様性は保たれているのですから」

コーヒーには、消費者が店頭でラテに支払う金額から、より多くのお金が農家に渡る事が重要だ。「コーヒー市場は元々、途上国からできるだけのお金を搾取する目的で始まった」とケトラー氏は語る。「収益を出しているので商業的なレベルで行われていますが、栽培する側にとっては酷く不平等なものです」

ケトラー氏は、コーヒーに支払うべき相応しい金額を消費者が払うことや、農家が消費者に直接販売するのを支援する事が大事と主張する2019年10月にコロンビア大学の教授が発表したレポートについて言及した。より多くの歳入を得ることで、農家は驚異的な気候変動への対策を取ることが出来るようになり、栽培を続ける意思を持つことが出来るとのことだ。

この問題を放置し、コーヒー農家の生活が困窮して行くのを黙って見ていることも出来るであろう。しかしそれは、「朝の1杯」の選択肢を非常に乏しいものにすることを意味する。「何かが変わらなければ...」とケトラー氏は続ける。「20年後にはカフェで注文できるメニューはたったの2種類になってしまいます。ブラジル産とベトナム産の2択にね」

ハフポストUS版の記事を翻訳、編集しました。

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