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2019年11月01日 11時05分 JST | 更新 2019年11月02日 13時17分 JST

外国人が住みたい・働きたい国ランキング1位のスイス。何がそんなに魅力的なの?実際に訪れて探ってみた。

スイスといえば、アルプスの少女ハイジ、チーズフォンデュ、永世中立国というイメージが真っ先に浮かぶ。今回それらから離れて生活をのぞいてみると、なぜスイスが人を惹きつけるのか分かった気がした。

もしも日本を飛び出して海外に住んで働くとしたら、どの国が良いのだろう?

7月に発表された、HSBCホールディングスが毎年実施している『外国人が住みたい、働きたい国のランキング』。2019年の首位はスイスだった。

スイスと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、アニメ『アルプスの少女ハイジ』を連想させる雄大なアルプスに囲まれた大自然や、チーズフォンデュが名物といったところだろうか。

また、永久に他国間の戦争にかかわらないことを条約で定めた『永世中立国』であることを習ったという人も多いかもしれない。

スイスは本当に住みやすくて働きやすい国なのか。何が人々を惹きつけるのか。理由を探るため、実際に訪れて探ってみた。 

HARUKA OGASAWARA
スイス・チューリッヒの街並み

参考にしたい、スイス人の“休み”の概念

まず訪れたのは、チューリッヒ。スイス最大の都市で、経済の中心として重要な役割を担う金融都市でもある。

さぞ活気に溢れた街なのだろうと期待して訪れたのだが、中央駅を少し離れれば、予想に反してものすごく静かな印象だった。

確かに到着したのは日曜日の夕方だったが、それにしても穏やかである。

街中のアップルストアはひっそりと佇んでいて、営業をしていなかった。日本の銀座の店舗とのギャップに驚く。

行列ができる土日に営業をしていないなど、日本では有り得ないことなのではないだろうか。

HARUKA OGASAWARA
チューリッヒにあるアップルストア、日曜日に訪れると営業していなかった。

チューリッヒはスイスの中で一番人口の多い都市で外国人労働者も多い。いったい、人はどこに行ったのだろう?

しばらく歩くと公共広場にたどり着き、その答えはすぐに分かった。

リンデンホフの丘と呼ばれる、街を一望できる公園は多くの人で賑わっていた。

そこにいたのは観光客だけではない。地元の人たちはフランスが発祥の「ペタンク」という球技やチェスに興じていた。

チェスをしていたチューリッヒ在住のスイス人男性に話を聞いてみると、「特別な仕事をしている人はわからないけど、スイスでは土日に働くことは少ないと思う。休日は家族や友人たちとゆっくりと過ごす時間を大事にしてるから」という。

もう少し、私は踏み込んで質問を投げかけてみた。

「日本で働いていると、周りが取っていないからという理由で有給休暇を取らない人もいて、結果、休暇が自然に消滅したりするんです。スイスはどうですか?」

男性は少し呆れた表情を見せてくれた後に少し笑って、こう返してくれた。

それは、「休むと申し訳ない」と日本人が思うからなの?だとしたらその意識はスイスの人にはほとんどないと思う。休むことも働く上で大事な権利なんだから。休みの申請を躊躇したりはしないよ。

休むことで、自分がちゃんと“整う”ということを知っているから...。

この話を聞いて、私は決めた。もう休暇を申請するときに「申し訳ありませんが...」と前置きするのはやめようと。

HARUKA OGASAWARA
公園でフランス発祥の「ペタンク」という球技を楽しむ現地の人々
HARUKA OGASAWARA
チェスを楽しむ人々

なぜスイスでは総選挙の最大の争点が“環境問題”となるのか?

続いて訪れたのは、首都ベルン。

旧市街が世界遺産になっているという歴史の深い街だ。

だが、私が訪れていた期間は少々いつもと様子が違った。

HARUKA OGASAWARA
ベルン旧市街の街並み

穏やかな空気が流れる旧市街を離れると、気候変動への対応を訴えるデモが行われていた。

スイスでは10月20日に総選挙が行われたばかりだが、私が訪れた時、「今回の選挙の一番の争点は何だと思いますか?」と街ゆく人に聞いて返ってきた答えは、「環境問題だろう」という声が圧倒的だった。

確かに街を流れる川の水の美しさを見れば、人々が日頃から環境への意識を高く持ち、この美しい街の姿を維持したいと考えるのも頷ける。“自分たちの住む国が美しい”ということが、スイス人である彼らの誇りなのだと感じた。

とはいえ、その意識の高さには流石に驚いた。今の日本では、環境問題が選挙の最大の争点になることなど、おそらくないだろうから...。

Getty Images
気候変動対策を訴えるデモの参加者たち

ワードやキャンペーンが大切なんじゃない。スイス人の意識から学べること

環境を意識してか、スイスの他の主要な街でも、シェアして使える自転車や電動キックボードなどを利用する人々を本当に多く見掛けた。

日本でも「SDGs」という言葉自体は聞く機会が増えたものの、東京の街を見ても移動手段のシェアリングがこのレベルまで浸透しているとはまだ言い難いだろう。

興味深かったのは、スイスの街を行き交う人に「『SDGs』って言葉を知っていますか?」と聞くと、意外にも知らない人が多かったことだ。スイスのジュネーブには、国連の欧州本部が置かれているのに。

だが、話を聞いていて感じたのは、ワードを知らなくても環境に意識を向けるのはむしろ「当たり前」というスイス人の意識だ。

日本は、“プレミアムフライデー”にしろ、“働き方改革”にしろ、“SDGs”にしろ、ワードやキャンペーンを浸透させることが先になってはいないだろうか。

住みやすい環境は自然の意識の中で作られるべきなのかもしれないと、改めて感じた。

ちなみに先のスイスの総選挙では、環境対策を訴えた「緑の党」が議席を大幅に増やす躍進を遂げた。

HARUKA OGASAWARA
スイスの主要都市にはシェア自転車置き場があり、地元の人たちが積極的に利用していた

「働くということも、自分らしさを表現する重要な要素」元CAの転職話から見えたもの

ベルンに滞在した日の夜は、スイスのある家庭を訪問した。

出迎えてくれたのは、ベルン近郊の街に住むワイマンさん一家。夫妻は共にジャーナリストとして仕事をし、すでに社会人となっている娘さんが2人いる4人家族だ。

この日は次女は仕事のため不在だったが、ワイマンさん夫妻が振舞ってくれたスイスの家庭料理を食べながらじっくりと話を聞いた。

HARUKA OGASAWARA
スイスについて色々と教えてくれたワイマンさん一家(この日不在だった次女を除く)

特に印象に残っているのは、長女・レナさんとの会話だった。

レナさんは現在24歳。看護師を目指して専門学校に通う学生だ。しかし、つい最近までは妹と共にスイス航空で客室乗務員として働いていた。当時は業務で成田に来ると毎回寿司店に立ち寄るのが楽しみだったという。

レナさんはなぜ今、全く違うジャンルの仕事に就くことを目指しているのだろうか。私は気になって聞いてみた。

するとレナさんは、笑顔でこう答えてくれた。

CAの仕事は本当に楽しかったんです。だけど、人生は一度きりだから全く違う仕事にチャレンジしてみようと思ったんです。

働くということも、自分らしさを表現する重要な要素の1つだと思う。

だから、たしかに学校に通うのは大変だけど、興味があった看護に関する勉強ができているのは楽しいですよ。

筆者は30歳の転職経験者だが、日本の転職市場では異なるジャンルの新たな仕事に“挑戦する”ための転職というより、あくまでもこれまでに身につけたスキルを“活かす”ための転職が多く、特に年齢は上がれば上がるほど新しい仕事に挑戦できる間口は狭まっているような印象を持っていた。

そのため、さらにスイスの転職事情について尋ねてみた。

クリスチャン・ワイマンさん提供
長女のレナさん

「スイスは門戸が平等に開かれている国」

レナさんが元客室乗務員だったので、前から気になっていたことを彼女に投げかけてみた。

日本の客室乗務員は、その業務が専門的ゆえに転職が困難となっているという見方があるようなのだ。たしかに、私の友人の客室乗務員も同じ悩みを抱えていたので、否定はできないのかもしれない。スイスではどうなのだろう?

このことについて彼女に話を聞いてみると、逆に「どうしてそんなことになるの?」と聞き返された。

彼女はこう続けた。

スイスは世界的にも有名な工科大学があったり、教育水準はものすごく高いと思う。

大学に入ったとしても、もしレベルについていけなければ落第することも日常茶飯事だから。仕事を得ることも、別に簡単なことではないと思う。

それにスイスは地理的にもドイツ語圏・フランス語圏・イタリア語圏と大きく3つに分かれているから、もしかすると職を得るために言語の面で高いハードルが生じる人もいる。

でも一方で面白いことに、スイスはその3つの言語圏の人々がそれぞれの地域に誇りを持ちながら、うまく共生出来ているんです。

転職でも教育でも、スイスは門戸が平等に開かれている国。どんな仕事をするかというところまで社会に制限されることはないと思う。自分で選択ができる。

大学を中退したり、勉強する分野を変えたり、たとえ落第して世界に旅に出たとしても、それに対してスイスの社会は寛容であるというか...。もしかすると、日本とはその辺りが違うのかもしれないですね。

約1週間、スイスの様々な都市を巡ってみた。見聞きしたことは当然一部にすぎないかもしれないが、ランキングのデータを見るだけでは決して分からない魅力をしっかりと肌で感じることが出来た。

そして、スイスで触れた考え方の中に、日本が今抱えている様々な問題を解決に導くヒントがあるようにも思えた。

美しい環境を守るために声をあげること。心を整えるために休んだり、自由なキャリアを自ら選ぶこと。スイスに住む人々にとってはその全てが、“自分らしく生きる”ということにごく自然に繋がっているのだろう。

そして、それらを受け入れる寛容な社会があるのかもしれないと思った。

HARUKA OGASAWARA
ローザンヌ、レマン湖畔の風景