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2020年01月31日 11時38分 JST

1日10時間のゲームが救ってくれた、ある起業家の人生。香川県のゲーム規制条例に思うこと。

香川県のゲーム規制条例案で、ゲームへの社会の偏見が根強いことが改めてわかった。ゲームの家庭教師の取り組みをする小幡和輝さんは「海外では学校教育にゲームが使われ始めている。時代の流れと逆行し、悲しく思っています」

ゲームによって日常生活に障害をもたらしている状態を指す「ゲーム依存症」の対策として、香川県議会が子どものゲーム時間を制限する条例案を検討している。

Miguel Sanz via Getty Images
ゲームをする子どものイメージ写真

1月10日にこの条例案が示されると、全国的なニュースとなって議論が巻き起こった。20日に決定した素案では、罰則は無いものの18歳以下の子どもはゲームの利用時間を平日60分、休日90分以内などとする内容が提示された。県議会は4月の施行を目指している。

条例案が時間制限に言及したことで、ゲームのプレイ時間が依存症の要因であるかのような誤解も広がっている。

一方、eスポーツの隆盛で、急激に活気だっているゲーム業界。海外であれば、大会の優勝賞金が億単位になることも珍しくない。

そんななか、若手起業家の小幡和輝さんが始めた「オンラインでゲームの家庭教師をする」という画期的な取り組みが注目を集めている。

ゲムトレ公式サイトより
囲碁や将棋のように、ゲームを教える取り組みが始まった

不登校経験があり、自身もゲームによって救われたという小幡さんは、この条例案に驚きを隠さない。

「世代間の価値観ギャップを改めて感じる機会でした。 海外では学校教育にもゲームが使われ始めていますが、時代の流れと逆行する動きでとても悲しく思っています」

Huffpost japan/Shino Tanaka
ゲームの家庭教師『ゲムトレ』を始めた小幡和輝さん

今回の条例案によって沸き起こった議論では、世間に「ゲーム=悪」といった偏見が強く残っていることが露呈したが、むしろゲームと正しく向き合うことで、生活習慣の見直しや、依存症からの脱却にも期待できるという。

「ゲームのプレイ時間というのは本質的には関係なく、ゲームでどう遊んでいるのかが重要なので、プレイ時間に制限をかけるルールではなく、ゲーム依存症がなぜ起きるかの原因の解決が重要だと考えます」という小幡さん。

2019年秋に始まったゲームの家庭教師「ゲムトレ」では、ゲーマーとして技術を上達させるだけでなく、不登校に悩む子どもたちの世界をゲームによって広げ、コミュニケーションの取り方や早寝早起きの習慣をつけることも目的となっている。

野球はよくて、ゲームはダメ?同じゲームでも囲碁や将棋はよくてテレビゲームはダメ、という理論はそもそも差別的

小幡さんは、不登校で約10年間学校に通っていなかったが、そのころにゲームに目覚め、ゲームで世界が広がった経験がある。

「eスポーツが認められつつあるけれど、日本ではまだまだゲームに対する間違ったイメージや、偏見が強すぎると感じています」と小幡さんは語る。

USA TODAY USPW / Reuters
アメリカ・フロリダ州で行われた公式eスポーツリーグ「Call of Duty League(CDL)」のファイナル戦=2019年7月20日

「ゲームをしていると目が悪くなるんじゃないか」「成績が下がる」「考える力が無くなる」――少し前であれば、犯罪とゲームを結び付けるような誤った論調もあった。

小幡さんがゲームに出会ったのは、物心がつき始めたころ。2~3歳の時に弱視や斜視があり、ものを見る力がとても弱く、集中的にものを見る力をつけるために、医師にゲームを勧められたという。

幼稚園の頃から、なかなか家から出づらい「行きしぶり」があり、小学校2年生ぐらいには、クラスになじめず学校から足が遠のいた。いじめられてからは完全に不登校になり、自然とゲームをする時間も長くなっていった。

利用していたフリースクールでは、朝の時間にゲームをする。それが楽しみで、早寝早起きにもなった。

「ゲーム脳だとか、ゲームをして成績が下がる、というのは、ゲームをする時間と勉強をする時間のバランスが取れていないだけ」と振り返る。

Huffpost japan/Shino Tanaka
小幡和輝さん

「甲子園を目指す強豪校の球児たちだって、野球をする時間が長いほど勉強する時間が無くなる。野球はよくて、ゲームはダメ、また、同じゲームでも囲碁や将棋はよくてテレビゲームはダメ、という理論はそもそも差別的です」

全国大会で活躍するゲーマーが教えてくれる

小幡さんが始めた「ゲムトレ」は、eスポーツの大会でも使われる「フォートナイト」や「大乱闘スマッシュブラザーズ」、「スプラトゥーン」など既存のゲームを扱う。

任天堂公式サイトより
スプラトゥーン2

全国大会などで活躍するゲーマーが、オンラインでゲームを教え、正しい自主練習の方法も伝授する。

海外で活躍するトッププロになるのは一握りでも、裾野が一気に広がりつつあるゲーム業界では「コーチ」や「トレーナー」としての仕事が、今後は必要になるとみている。

不登校の子どもたちと保護者のニーズに違い

また、このサービスは、不登校の子どもたちに向けて作られたという経緯もある。

当初、何らかの理由で学校に通っていない子どもたちに、テレビ電話を繋いでオンラインで勉強を教える取り組みを考えた。

小幡さんは今年の7〜8月に全国を回り座談会を行った。座談会の場で構想を話したところ、保護者にはとても高評価を得た。手ごたえを感じたが、肝心の子どもたちはあまり乗り気に見えなかった。

座談会で不登校になった経緯などを語るときも、保護者がメインで話し、子どもは下を向いてじっとしている。

しかし小幡さんはできるだけ子どもから話を聞きたかった。

無理に勉強を教えるのではなく、子どもたちの「やりたいこと」に目を付けた

そこで、普段何をしているか聞くと「だいたい、ゲームをしている」と返事がくる。

普通の会話であればそこで終わるかもしれない。ただ、小幡さんは無類のゲーム好きだ。どんどんゲームの話題に進んでいった。

「僕は超ゲーマーなので、『どのタイトルやってるの?今どんな感じなの?』と、子どもと同じ熱量で語れるんです」

初めての場所で、大半は親に言われて会場に来る。そこでいきなり知らないお兄さんから「なんで不登校なの?」と聞かれてもそんな話はしたくないだろう。

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不登校の原因は様々。いじめを受けたり学校になじめなかったりした経験は、他人にいきなり話せるものではない。

「人とコミュニケーションをとる、会話をするって、話したいから話す、という動機が重要だと思いました」と言う小幡さんは、ある会場で任天堂Switchを持ってきていた子どもと「ゲームしよう」と対戦を始めた。すると、周りにはどんどん子どもたちが集まってきた。

「そもそも、不登校の子どもたちにとって、勉強というのは学校と結び付けられるもので拒否反応を起こすこともある。無理やり何かをやらせる、というのは絶対にしたくなかった」と語る。

この時、「子どもたちのやりたいことをベースに考えよう」と発想の転換をした。それが、「ゲームの家庭教師」だった。

年上の人との会話が自分を底上げしてくれた

振り返れば、自身も不登校時代には特に勉強をしていなかった。

フリースクールで朝にゲームを始め、1日に10時間以上をゲームに費やす日もあった。長時間プレイしても、依存症ではなかった。なぜならゲームで生活習慣をコントロールすることができ、自分の居場所も見つけられたからだ。

ゲームをすることで、仲間の友人ができた。当時流行していた「遊戯王」のカードゲームでは、ショップに集まる年上のゲーマーたちと交流もあった。

「年上の友達って、すごい大事なんだって思ったんです。話のレベルも、自分の世代より少し上に引き上げられる。人間的に底上げされていくような感覚がありました」

直接勉強を教わることが無くても、コミュニケーションをとるだけで成長にはつながる。

ゲームを通し、場面をどう展開していくか考えるように頭を鍛えたり、トレーナーとの話の中でコミュニケーション能力を身につけ、大会での実績や「強くなった」という成果で自己肯定感が増し、笑顔も増えると考えている。

自身も不登校だった小幡さんは「外の世界に、ひとつつなげるというのが大事」と力を込めた。

トレーニング時間は朝に設定し、昼夜逆転を防ぐ狙いもある。

「ゲームで夜更かしするから取り上げるのではなく、ゲームを使って朝早く起きられるようにする方が、僕はいいと思っています」と笑う。

効果は上々、でもネットならではの怖さも実感

対象年齢は、小学校高学年から、中学生としているが、「子どもが強くて一緒にゲームができない」と悩む保護者向けにも、オンライン指導を行っている。

実際に8月からパイロット版として取り組み始め、現在は小学生から保護者まで、75人が利用している。授業も累計で500回以上を実施した。

保護者からは「不登校であっても、自分を卑下せず明るくなっていった」「笑顔が増えた」「家族とだけしか話さないより、信頼できる他の方とのつながりが大切だと思うので、ありがたい」と言った声が寄せられている。

こうした声を「何よりもうれしい」と語る小幡さん。

Huffpost japan/Shino Tanaka
保護者や生徒から寄せられた声について語る小幡さん

 一方で、問題も見つかった。小学生や初心者向けの小さな大会を開いた時、初心者になりすまして複数のアカウントを取り、大会参加者を蹴散らしたり、暴言で参加者を傷つける人も出てきた。

「カードゲームならショップで会い、小学生や中学生として扱い、優しく教えてくれる。だが、画面の向こうに誰がいるか分からないネットの世界では、小学生でも大人と同じ対応を迫られる。なりすました大人が、小学生たちを潰しに来るなんてレベルの低いことが起きてしまう」と嘆く。

この経験から、小幡さんは、今後は「ゲムトレ」のメンバーとトレーナーのみで大会を開くようにしようと考えている。「子どもが、ゲーム内チャットでつらい思いをしてほしくない。また、ゲームするときもできるだけ肉声でリアルにつながっている状態にしたい。そのほうが、良いコミュニケーションに繋がります」と話す。

いつかはゲムトレからプロゲーマーを。リアルな場で交流も

現在の目標は、全体で100人の生徒が集まることだ。ゲームトレーナーも随時募集している。教わることで、まず最初の目標は「クラスで一番強くなる」こと。そのうちに、「チーム・ゲムトレ」として賞金のかかった本格的な大会へ遠征することも夢見ている。

日本国内では、景品表示法上の規制を受けるのではないかとの議論があり、大会賞金も10万円に限られてしまう場合が後を絶たない。

しかし、ソニー生命保険が2019年6~7月に中高生向けに調査した「なりたい職業ランキング」では、「プロeスポーツプレイヤー」が中学生男子で2位になるなど、かつての流行とは一線を画すほどの熱視線が向けられている。

「海外では、3億円の賞金を10代のプロゲーマーが獲得したり、イギリスでは授業の一環として『スマブラSP』を使ったeスポーツを体験したり、大会運営までこなすなど、世界ではものすごいスピードで設備が整いつつある」と小幡さんは説明する。

将来は、不登校の枠組みも超え、プロゲーマーを目指すコースもあったらと考える。ただ、何より願っているのは、ゲームによってコミュニケーションをとれる場があることだ。

ルールで縛り付けるのではなく、正しい知識とゲームとの良いつきあい方を伝えたい

囲碁で和歌山県代表を務めたことがある小幡さんは、「囲碁をする人も、碁会所に囲碁だけをしに来ているんじゃない。そこに生まれる会話だったり、対局後の検討だったり、なんならちょっと飲みながら話したり。囲碁を通じでコミュニケーションをとるんです」という。

「ゲームも同じ。『どうしてもこの敵が倒せない』『コンボがうまくいかない』という話から、人とのリアルなつながりが生まれる。いつかは、eスポーツがリアルな場で誰でも交流できるようなところがあれば。そして何より、男女さの隔てなく、誰でも共にできるということもゲームの強みではないかと思います」と笑顔を見せた。

香川県議会の条例案が出たことで、さらなる注目を集めているゲーム業界。

小幡さんは「ルールで縛るのではなく、ゲームの正しい知識とゲームとの良いつきあい方をゲムトレを通じて伝えていければと改めて思いました」と話している。

ゲムトレ公式サイトより
ゲムトレ

囲碁や将棋のように、ゲームを習う文化を。

「ゲムトレ」はプロゲーマーになるためのトレーニングではなく、ゲームを通じて脳を鍛えたり、コミニケーション能力を高めるプログラム。

1時間2000円の体験会も随時受け付けている。

問い合わせはリンク先から。