コンプレックスと私の距離
2019年11月30日 10時07分 JST | 更新 2019年11月30日 10時11分 JST

「夜中にモテで検索するな」。美容ライターの長田杏奈さんが語る、自分を愛すること。

「正解になれない自分」に、自尊心が削られていく。本に「救われた」と語る女性たちがいる。

Yuriko Izutani / HuffPost Japan
長田杏奈さん

「夜中にモテで検索するな」 

これは、美容ライターの長田杏奈さんが『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)で掲げた、「自尊心の筋トレ十訓」の一つ。

思い当たる節があって、ドキッとした人もいるのではないだろうか?

女性誌などで長年「美容」について書く仕事をしてきた長田さん。「若く見せるため」や「モテるため」。「美容」業界で使われることが多い、ありのままの自分を否定するような表現に、疑問を感じるようになったことが執筆のきっかけだったという。 

Yuriko Izutani / HuffPost Japan
長田さんが掲げる「自尊心の筋トレ十訓」

 「正解になれない自分」に、自尊心が削られていく

――「自尊心」について考えるようになったのは何故なのでしょうか? 

美容というと、「モテるため」や「若くいるため」の選択肢ばかりが溢れている現状は、変えないといけないと思っていました。「コンプレックス産業」なんて言われることもあるように、「自分を変えなきゃ」がスタート地点で、今の自分を否定するところから入りがち。

もちろん、変わることを楽しめる人もいると思うんですよ。でも、自分を否定する間違い探しみたいな美容って人を追い詰めるし、健やかではないのかなと。だんだん息苦しさやフラストレーションを感じるようになりました。 

――確かに、コンプレックスを刺激されると、焦って購買意欲が刺激されるというようなことは実感しています。 

私はライターとして、「記事に自分の意思やクセは出してはいけない、それがプロだ」と思っていたんです。でも、やっぱり心の底では、誰かの目線にあわせて自分の身体の一部を変えることを推奨するような、そんな風潮はおかしいのではないかと感じていました。それを趣味の場であるSNSなどで発信したら、意外に共感してくださる方が多くて…。
息苦しさから一番救われたかったのは自分だったのかもしれません。「美容」に対する、凝り固まった意識をストレッチすることで、女性の健全な自尊心を育む手伝いができるのではと思うようになりました。

 ――女性を中心に、読者からは「救われた」といった声がたくさんあがりました。

ごく当たり前のことを綴っただけで、大げさなことを書いたつもりはなかったんです。それなのに、「慰められた」「泣きそうになった」「勇気づけられた」という声を頂いて、そんなに救われたと感じるほど、みんな縛られていたんだなと、女性たちを取り巻く社会システムの問題の深刻さを実感しました。

もっとびっくりしたのは、初対面の女性に、まるで挨拶のように「私は自尊心が低くて」と告白されるようになったこと。こんな素敵な人たちの自尊心が削られてしまう背景には、自助努力では間に合わない深刻な何かがあるのだろうなと。

いつもキレイにして、いい妻で、いい母親で、仕事もして……そうした全てをクリアしていかなければ自分はダメなんじゃないか、と誤解させてしまうような問いかけやメッセージが、世の中には多過ぎる気がします。

いまの20代は、割と自己解決できている気がするんですよ。そのもう少し上の30代前後の女性は、価値観の違う親世代や上司と自由そうな若手に挟まれ、みんなの空気を読んで……。頑張り屋さんで真面目な人ほど、「正解」になれない自分に、自尊心をどんどんすり減らしている傾向があります。

――そんな世の中で、自尊心はどうしたら健全に育むことができるのでしょうか

本ではとにかく、自分の手の届く範囲のことを頑張ろうっていうことを書きました。

そして、自分の人生に責任を取ってくれない人たちの言うことに、そんなに耳を傾ける必要はないよということも。「正解はない」「正解は自分で決める」。そうあれたらいいですよね。

Yuriko Izutani / HuffPost Japan
長田杏奈さん

「モテ」にたいしたエビデンスはありません

――著書の中で「モテ」を意識したメイクやファッションにも触れていました。

「モテメイク」をあえて定義するなら「無害なメイク」と言い換えられるかもしれないですね。それは、見慣れたもので安心したいという男性の気持ちを汲んだもの。それに過剰に適応した結果、独自の様式ができあがってしまっているんでしょうね。

でも「男性に合わせた」つもりで、女性が自分の個性や好みを消してしまうより、いろんな自分を見せて目を慣らしてあげることのほうが、新鮮な楽しみや刺激を与え合えるんじゃないでしょうか。私は、女の子が自分の好きなメイクをして、それを受け入れる素養のある男の子が増えてくれる方がいいなって思ってます。

――夜中に「モテ」で検索するなというのが、グッときました。

ネットに溢れる「モテ」コンテンツは玉石混交。PV稼ぎのためのたいしたエビデンスがないものも溢れています。ニーズがあるから、それに合わせてコンテンツが作られているだけ。男性にだっていろいろな好みがあるし、その人の周りにどんな男性が多いのかでもリサーチ結果は変わってきますよね。

自分にとってどんなメイクが心地いいのか、本当はどうしたいのか。エビデンスのない「モテ」に振り回されて、自分の心の声を無視するのは、もったいないんじゃないかなって。

Yuriko Izutani / HuffPost Japan
長田杏奈さん

 恋愛経験は、人間の価値ではない 

――女性の自尊心に影響を与えるものの一つが、恋愛だと思います。読者からの反響に、思うところはありましたか?

いろいろと、相談を持ちかけられる場面が増えたんですが、「自分の恋愛経験の少なさが自分の価値を落としている」と思っている女性が、想像以上に多かったですね。背景には、人間の価値と恋愛が結びつけられる文脈が社会に溢れ過ぎて、それを女性が内面化してしまったということがあるのだと思います。

例えば、「恋をすると女はキレイになる」とか。恋愛での「勝ち点」で自分の価値が決まるみたいなコンテンツを、面白半分で社会に流布して来た側の責任は重いですよね。

――若い世代では特に、「モテ」ること、他者に求められることで自尊心を充足させてしまうということがあると思います。

人に求められることによって育まれる自尊心もあると思います。

でも、恋愛でも、SNSでも、自分の価値を自分で認められるようになる前に、他者からの承認を求めすぎると、自分を変えてでも、その人の愛を獲得しようという行動になってしまう。でもそれは、根本的な解決になっていない気がするんですよね。求められた条件を整えることで満たされる、条件をクリアした自分が愛されるっていう条件付きの自尊心でしかない。

――その罠にハマってしまったら、どうしたらいいのでしょうか?

「自分を大切にする」っていうと難しく感じるかもしれないけれど、自分は何をしているときに嬉しくて、どういうものに心がときめくのか、よくよく問いかけてみるのはどうでしょうか。

例えば、「モテ」とか人にどう思われるかは関係なく、自分が好きなメイクってどういうメイクなのか?自分の声を聞いてほしい。いろんな条件を取り払ったとき、自分が何を選ぶのか観察してみるのも面白いのではないでしょうか。

――女性が尽くす、モラハラ的な夫婦やカップルが話題になることがあります。そういった関係性の中で女性は自尊心を取り戻せるでしょうか。

夫や恋人に尽くすのが楽しい、相手のために自分を変えるのが楽しい、という人もいると思うんです。ただ、「私はこんなに頑張っているのに報われない」というフラストレーションが溜まっているのであれば、やはり自分の声をしっかり聞いて、ちょっとでも叶えてあげてほしい。

怒っちゃいけない、相手に合わせて従わなければいけない、機嫌を悪くしちゃいけない、反撃しちゃいけないって思い込まされている女性は結構多いと思います。でも、理不尽な要求をされた時に「ちょっと待て」「なんだそれ!」と言える種火、ちゃぶ台をひっくり返せるその種火は、自分を大切にする気持ちから生まれるのだと思います。

――その種火を育てていくのが大切なのですね。

気分の上がる色のリップを塗って「今日の私、イケてるな」と思えることってありますよね。何で気分が上がるかは人によって様々だから、きっかけが勉強でも、ファッションでも仕事でもいい。ささやかなことで、息苦しさから救われる瞬間はあると思うんです。

私は、美容ライターだから、美容を通じて、女性たちが今の自分に「OK」を出せるよう、応援していきたいと思っています。

(取材・文:秦レンナ 編集:泉谷由梨子)

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長田杏奈さん

 長田杏奈 (おさだ・あんな) プロフィール

1977年神奈川県生まれ。ライター。ネット系企業の営業を経て週刊誌の契約編集に。フリーランス転身後は、女性誌やwebで美容を中心にインタビューや海外セレブの記事を手がける。「花鳥風月lab」主宰。著書に「美容は自尊心の筋トレ」(Pヴァイン)。

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