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2019年12月23日 11時36分 JST | 更新 2019年12月23日 11時36分 JST

グーグルに50億ドルの制裁金を科したマルグレーテ・ベステアー氏は、「信頼」と「公正さ」を体現し続ける

ベステアー氏は、権力というものがこれまで何百年にもわたり、男性によって定義されてきたものだと言います。重要なポストの多くが男性で占められ、彼らによって権力にまつわるあらゆることが規定される限り、女性は男性の定義したものを真似するしかない。

世界的なトップポストについている女性の一人、マルグレーテ・ベステアー氏。彼女は欧州委員(EU)の競争政策担当を史上初めて2期続けて務めているデンマーク人女性です。グーグルやアップルに巨額の制裁金を課すなど、米国巨大企業に積極的にメスを入れる人として、シリコンバレーやトランプ大統領から煙たがられる存在でもあります。

彼女はデンマークでは大変人気のある政治家でした。もともとはデンマークの急進自由党(Radikale Venstre)に所属する国会議員で、2007年から7年間は党首を務め、社会民主党政権時(2011-2014)には、経済・国務大臣や副総理のポストも務めています。

デンマークでは多くの人々が、支持政党に関わらず彼女の政治的姿勢に好感を持ち、信頼できる政治家として知られています。わたしも彼女には何か惹かれるところがあり、たまにメディアに現れたりインタビュー番組があると聞きたいと思ってしまうのですが、それがなぜなのかはわかりませんでした。でも先日、彼女のあるインタビューと、2018年の彼女のTEDトークを見て、その理由が何なのか少しわかった気がしたのです。それは、デンマークの人々が社会を作っていく上で重視している「信頼」と「公正さ」について、彼女自身がずっと自らの仕事を通して体現しているからでした。

 

権力は借りもの

ベステアー氏のインタビューの中で、権力について述べた言葉がとても印象的です。

権力について最も危険なことは、それに依存する傾向があるということです。そして自分がそれを所有していると思い込んでしまうということ。そして自分が特別な人間であると信じてしまう。でもそれは非常に重大な過ちです。権力とは、ある課題に取り組むために一時的に借りることを許されたもの。そしてだれでもそうだと思いますが、借りたものは丁寧に、注意深く扱わなくてはならず、借りた時と同じ状態で返さなくてはいけないものなのです。Margrethe Vestager: Podimo “Kirkskovs Kvinder EP 9”

さらにベステアー氏は、権力というものがこれまで何百年にもわたり、男性によって定義されてきたものだと言います。例えば、要職に就く人々の服装は、男性はスーツ、女性もブレザーにタイトスカート等、男性の定義した装いに似せることを求められてきた。でも重要なポストの多くが男性で占められ、彼らによって権力にまつわるあらゆることが規定される限り、女性は男性の定義したものを真似するしかない。だからこそクオータ制に意味があることがわかったと彼女は語ります。クオータ制の導入が始まった頃は、女性だからという理由で選ばれるなんてと思っていたけれど、考えてみれば、重要なポストは男性でなければという考えに基づき、長い間男性が優先的に選ばれてきたという歴史を振り返れば、そこに大きな意味があるのだと。そして、Metooによって、男女間の権力関係にスポットがあたり始め、服装や髪型など女性に対して求められるものが疑問視されるようになった。現在はその過渡期であり、既に変化が始まっていると言います。

 

信頼と公正さ

TEDトークでは、ベステア-氏はEUの競争法がなぜ必要なのかという話の中で、権力が暴走しないようにコントロールする必要性を説きます。そしてそれが公平さを守るためには必要であること、またルールを通して、人々が互いを信頼できる市場を構築することが重要だと語ります。

なぜ競争にルールが必要なのでしょう。企業は互いにどんどん競争した方がわたしたち消費者にとっても良いのではないかとも言えます。そうすれば製品の質は上がり、価格は下がり、イノベーションも起こるからです。でも時に競争は企業にとって不都合でもあります。それは終わりがないから。どれだけ改良しても、先を行こうとする者は常に周りにいるからです。だから競争を避けたいと考えるようになります。より多くの利益を得たいという欲望、市場での立場や利益を失いたくないという恐れ。そういった欲望と利益が権力と結びつくと、非常に危険です。それは政治の世界でも見ることができます。権力を得た者はそれをなかなか手放そうとしません。わたしがデモクラシーを高く評価している理由の一つが、権力者も、有権者がそれを選べば、権力を手放さなければならないという決まりがあるからです。競争におけるルールも同じです。欲望と恐れが公正さを妨げないようにする。企業が自らの権力を行使して競争を回避しないようにするのです。
Margrethe Vestager: TED TALK September 2017

例えばベステアー氏は、グーグルが携帯端末向けの基本ソフト(OS)「アンドロイド(Android)」を用いて独占的な地位を乱用したとして、43億4000万ユーロ(約5700億円)の制裁金を科しました。グーグルがOSを通し、自社の検索エンジンの使用を促して、他者競合を締め出していると言います。さらにベステアー氏は、欧州内の一部の政府が特別な税金措置を取り、アップルやスターバックス等の大企業に有利な政策をおこなっていることや、アマゾンが外部出品者データを不正使用している疑惑でそれぞれ調査を行っています。こうした大企業も、欧州内では他企業と同じルールに基づいて公正な競争を行うことが、人々の信頼を築くために非常に重要だと語ります。それは、一部の企業に有利な取引が行われているという状態が暗に認められれば、人々の市場への信頼は低下し、それが社会への信頼にも影響するからです。

わたしたちは互いに公正でなければ、
相手を信用することはできないのです。
Margrethe Vestager: TED TALK September 2018

どの企業も同じルールに従ってプレーすることが保障されていれば、市民であるわたしたちも市場を信頼することができる。それはわたしたち一人ひとりが公正さの中で生きていることを確認でき、社会への信頼にもつながる。逆に、信頼というものが成り立たない社会では、全てのことは非常に難しくなるとベステアー氏は指摘します。

権力を注意深く見まもること、公正さを重視すること、そして市民の信頼をもとに社会を構成していくこと。こういった視点はまさにデンマークの人々が民主的(デモクラティスク)な社会を構築するために非常に重視している価値観です。ベステアー氏はそれらを欧州委員会という大舞台でも躊躇うことなく語り、実行していきます。その姿に多くの人々は多大な信頼を寄せているのかもしれません。

Podimo, “Kirkskovs kvinder” Episode 9
TED: Margrethe Vestager “The new age of corporate monopolies”
The WALL STREET JOURNAL: 巨大な米IT企業の手綱を握る女性とは誰か 

(2019年12月16日のさわひろあやさんnote掲載記事「公正さと信頼が社会を良い場所にする マルグレーテ・ベステアーとデンマーク社会の共通点」より転載)