「素の自分を愛してあげてください」りゅうちぇるさんに聞く

他人に傷つけられ、自分を見失ってしまった時には、どうすればいいの...?
取材した子ども若者編集部のメンバーとりゅうちぇるさん
不登校新聞
取材した子ども若者編集部のメンバーとりゅうちぇるさん

「自分を愛することが大切」というメッセージを、テレビや音楽活動を通して伝えるりゅうちぇるさん。学校で苦しんできた自身の経験を踏まえ、不登校の当事者・経験者の悩みに応えてもらった。

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――私は小4のころ不登校をしてから、学校へ行かない生き方もあることを知り、自分らしく生きていてよいと思えました。でも、いざ社会へ出ていくと、「自分らしく生きてはいけない圧力」も感じて、否定されたような気持ちになることもあります。一方、りゅうちぇるさんは「自分を愛することが大事」だと発信していますが、どうすれば自分を愛することができるのでしょうか?(29歳・くるみ)

今では「自分を愛することが大事」とよく言っていますが、僕も自分のことを愛せない時期がありました。

というのも、幼いころから僕は女の子のような見た目や声、しぐさをしていて、何よりかわいいものが大好き。でも、そのせいで幼稚園のころからまわりにからかわれてきました。

僕が何か話そうとすれば「女みたい」と冷やかされ、大好きなバービー人形を手に取るだけで「おまえは男の子が好きなんだろ?」と言われる。

そのたびにプライドはズタズタ。そういう経験が何度もありました。

僕の恋愛対象は女性で、今でもかわいいものが大好きです。それなのに僕の行動ひとつで、かんたんに性別や性的指向までもが決めつけられてしまう。

「いっそのこと男の子が好きだったほうがラクかもしれない。なんでこんなふうに生まれてきたのだろう。もう死んで生まれ変われるんだったらそれを待つしかない」、そんなことばかり考えていました。

そんな気持ちは家族にも誰にも言えませんでした。中学生に入ってからは本当の自分を隠すために、わざと声を低くして、身振りも控えて、クールな自分を装ったんです。

嫌われたくないし、いじめられたくないからそうしていましたが、心を閉ざして自分を偽ることは、すごくつらいことでした。

メイク姿を隠れて投稿

そんなとき、はじめて居場所ができたのはSNSです。中学3年のころにツイッターが流行りだして、その波にのって僕もアカウントをつくったんです。

そのとき抱えていたストレスをつぶやいたり、土日に隠れてメイクをして自撮りを載せたりしました。そういうふうに自分の逃げ場をつくっていったんですね。

SNSのなかでだんだんと素の自分が出せるようになって地元から離れた高校への進学を決意し、そのころには「超派手な男の子が今後この高校に入学する」という感じで話題になりました。

その後、評判はさらに広がって高校入学時には「あ、りゅうちぇるだ」と言ってもらえるまでになったんです。

そのとき、自分を認めてくれる人がどこかにいると気づいたんです。もしかしたら自分が勝手に他人や世界のことを決めつけたのかもしれない。

知らない場所へ行ってみたら、いろんな人や考え方に出会えることを知りました。自分を愛せるようになったのは、それからです。

――自分を愛するために具体的にできることってなんなのでしょうか?

たとえば「こんな自分になりたい」という理想像を持ってみるといいかもしれません。自分がなりたい姿を思い描くことで、行動につながり、人とのつながりが生まれ、世界が広がっていきます。

僕も専門学校を卒業したときは、ほとんど東京の人とのつながりはありませんでしたが、今は仲間にも仕事にも運命の人にも恵まれました。

やっぱり、それらは自分を愛したからこそだと思うんです。

――なるほど。

それと先ほど、あなたが不登校についてご自身の話をしてくれましたが、子どものときに自分は学校に向いていないと気がつけたのってすごいことだと思います。

それは、自分の性格をわかっていて、なおかつ、自分を大切にするために自分を守る行動をとったからです。

人としてダメだとか、自分を責める要素はひとつもない。むしろ僕は、そう思えたあなた自身を尊重してあげてほしいと思いました。人のためより、自分のためを大切にしてほしいですからね。

――私は1年前から不登校をしています。学校や地元の人からすれば、不登校は「ふつうではない」ことで、この1年間、私は「ふつう」という言葉に苦しんできました。りゅうちぇるさんは、どうやって自分を貫いているのでしょうか?(15歳・ゆら)

自分のなかの「ふつう」しか受けいれられない人も、やっぱり現実にはいるんですよね。SNS上では僕もよく批判の的になっています。

ただ、その人たちを変えようと思っても、それは「僕のふつう」を強要しているだけかもしれません。

だから、「そういう人間もいるよね」と思うこと、それと意見のちがう人に会ったときには、その人の背景を考えるようにしています。

――批判する相手の背景を考えるようになったのはいつからですか?

子育てを始めてからです。子どもは成長にしたがって言葉や行動を変化させます。こちらが困ってしまうときもありますが、そのときは「そもそもどうしてこういう行動をとったのか」と背景を考えることが増えたんです。

それからは僕自身の心境にも変化があって、子どものことだけでなく、他人の行動や物事の背景を考えられるようになりました。

傷ついたときは自分に問う

とはいえ、やっぱり傷つくこともあります。最近で言えば「あなたの子どもがかわいそう」なんて言われて、すごくショックでした。

そんなときは「この人は僕のことを知ってるの?」と自分に問いかけるんです。

尊敬している人に言われたら考えてもいいけど、赤の他人から投げつけられた言葉で傷つく必要はない。背景がわからなければ、その言葉も受け取っちゃダメなんだと思うんです。

――それでも自分を見失ってしまったときには、どうすればいいのでしょう?(26歳・ゆい)

僕は「自分の色」を塗りかえてもいいと思っています。この話はニュアンスで受け取ってほしいんですが、その人の基盤となる色はあります。

それでも人間は生きている以上、色は塗り替えられていくんです。僕自身、テレビに出始めたころは、ヘアバンドとチークのスタイルでしたけど、今は変わってきました。

見失うのは魅力が増す証拠

自分のために自分を貫くのも大切だけど、ときには変化があってもいいんです。

そのあいだには何度も傷ついたことがあって、「本当に変わってよかったのかな」と思うこともあります。でも、涙を流したぶんだけ人に優しくなれます。

だから自分を見失ったとしても、それはちゃんと成長していて、どんどん自分の魅力が増していく証拠。大丈夫だと思いますよ。

――私、今の話、すごく共感しました。私は、中学校のときにはいじめで苦しんできたんです。そういう経験があっても、「まわりが望む自分」にしがみつこうとしてしまい、葛藤しています。そんな自分を受けいれる方法はあるのでしょうか?(18歳・さゆり)

まだ気持ちに整理がつかないときは問題から距離をとってみるのもひとつの手だし、無理に向き合ったり、がんばったりする必要はないです。

自分は甘やかしていいんです。自分自身のことも、他人に対する姿勢も「今なら切り替えられるかも」というタイミングは、かならず来ます。

そういうときには自然と切り替えることができると思います。

――ありがとうございました。

(聞き手・木原ゆい/子ども若者編集部)

りゅうちぇるさん
時事通信社
りゅうちぇるさん

【プロフィール】
1995年沖縄県生まれ。1児の父。ショップ店員をするかたわら読者モデルとして活躍し、2015年にはテレビ番組の出演を機に知名度が全国区となる。2018年からは音楽活動も本格始動。「自分の色を取り戻そう」というメッセージが若者を中心に共感を集めている。

(この記事は2019年12月25日不登校新聞掲載記事『「素の自分を愛してあげてください」りゅうちぇるさんに聞く』より転載しました)