恋愛のこれから
2020年01月21日 08時35分 JST | 更新 2020年01月21日 15時04分 JST

「美しいだけの同性愛者像」に抱いてきた違和感。ゲイの恋愛描く映画『his』を、当事者たちはどう受け止めた?

同性愛を題材にした映画『his』。全国公開を前にしたトークセッションに、トランスジェンダーの女性でタレント・モデルのIVANさんや、ゲイの当事者である松岡宗嗣さんらが登壇。感想を語り合った。

男性同士の恋愛を題材にした映画『his』が2020年1月24日、全国公開される。「家族を持ちたい」「子どもを育てたい」――。同性カップルが「恋愛のその先」を望んだときにぶつかる現実と、正面から向き合う意欲作だ。

この映画を観てどんな印象を持ったのだろうか。公開を前に都内で開かれたトークセッションで、素直な本音が飛び交った。

Aiko Kato / HuffPost Japan
映画『his』公開前に行われたトークセッションで。(左から)一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さん、司会を務めた明治大准教授の田中洋美さん、主演俳優の宮沢氷魚さん、企画・脚本のアサダアツシさん、モデル・タレントのIVANさん

 

「現代っぽい」差別の生々しさ

登壇したモデル・タレントのIVANさんは、2013年にテレビ番組で自身がトランスジェンダーであることをカミングアウト。2018年には、数年前に性別適合手術を受けたことも明かしている。

 

Aiko Kato / HuffPost Japan
映画『his』公開前に行われたトークセッションで。IVANさん。

セッションで性的マイノリティーとしての映画の感想を問われると、「私は自分のことを『マイノリティー』とは思っていないタイプの人間。女性として生活しているので、映画も女性の視点で見てしまう」と答えた。そのうえで、「いい意味での生々しさを感じた。(ゲイの)当事者が見たら、共感というより突き刺さる映画なんじゃないかな」と話した。

一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは、ゲイであることをオープンにして、性的マイノリティーに関する情報発信に力を注いでいる。松岡さんの口から一番先に出てきたキーワードも、「生々しさ」だった。

「例えばキスシーンもリアルでした。(これまで観てきた多くの作品で)ゲイというのは面白おかしく描かれるか、消費される対象として『綺麗に』描かれるか。(『his』では)リアルなものとして描かれていたのがよかったです」(松岡さん)

Aiko Kato / HuffPost Japan
映画『his』公開前に行われたトークセッションで。松岡さん。

また、映画では主人公の青年が職場の飲み会の場で、同僚から「ゲイ疑惑」をネタにしてからかわれる場面がある。

「LGBTに関して、直接的な差別表現をするのはよくないことだという世の中の雰囲気は出てきている。けれども、『お前がホモならヤッてもいいかな』なんて言葉で(冗談めかして)ハラスメントをするというのはまだあって、そういう描写が『現代』っぽい。つらい生々しさもありました」(松岡さん)

 

「美しさ」ばかりが強調される同性愛者像からの脱却

企画・脚本を担当したアサダアツシさんによれば、同性愛をテーマにした作品に取り組もうと考えたきっかけは、以前仕事仲間だったゲイの知人に、同性愛者が居心地の悪さを感じることなく楽しめて、希望の持てる恋愛映画が見たいと打ち明けられたことを思い出したからだ。

IVANさんも、松岡さんやアサダさんの話を受け、「ドラマか映画で『オネエ』の役をもらったことがあるけれど、その時も求められた役割はヒロインの相談相手でした。私がヒロインにはなれないんだ、っていう気持ちはあった」と振り返った。

また、当事者ではないが、主演した俳優の宮沢氷魚さんも、フィクションの中で描かれる「美しいだけの同性愛者像」には違和感を抱いていたという。

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映画『his』公開前に行われたトークセッションで。宮沢さん。

 「僕は幼稚園から高校まで男子校に通っていたのですが、(その時の)親友がゲイでした。(ゲイだと明かされても)ずっと一緒にいる仲間だから『あ、そうなんだ』くらいのことで、全く気にしなかったんですが。でも、社会に出るとその親友は生きづらい思いを抱えることになりました。少しでも生きやすい世界にするために、自分にできることはないかとずっと考えていたんです。だから、今回の役はオファーが来てすぐに『やりたいです!』って伝えました。最近、同性愛を扱った作品は色々ありますけど、美しいところしか描いていない感じがして。ある意味オアシスみたいな、ディズニーランドみたいな……。でも今の日本はそうじゃないよな、って思ってたんですよ」(宮沢さん)

 

「日本ではセクシュアリティが笑いのオチ」

女性として生きているIVANさんも、テレビに出演するときには「オネエ」というステレオタイプに当てはめられてしまうと日本の現状を語った。

「日本では、オネエ=(笑いの)オチ。セクシュアリティで笑いを取らなきゃいけない」(IVANさん)

海外と比較しても、日本のメディアでの性的マイノリティーの扱われ方は遅れていると指摘する。その意味で、特に『his』において、ゲイカップルと子どもの関係にスポットが当てられているのは新しく、「すごく大きいこと」と評価した。

ここ数年で、「LGBT」という言葉自体は多くの人に知られるようになった。だが、私たちは「それ以上のこと」を知ろうとしているだろうか。本当に理解しようとしているだろうか。映画は、私たちの意識をもう一歩前に進めるための、よい材料になるだろう。

 

©2020 映画「his」製作委員会『his』2020年1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー 配給:ファントム・フィルム

 

 【映画のあらすじ】

主人公の井川迅(宮沢氷魚)は、周囲にゲイだと知られることを恐れて東京から田舎町に移住し、一人暮らしを送っている。そこに突然、元恋人の日比野渚(藤原季節)が、6歳の娘・空を連れて現れる。「しばらくの間、居候させてほしい」と言う渚に戸惑いを隠せない迅。しかし、いつしか空は懐き、周囲の人々も3人を受け入れていく。そんな中、渚は妻・玲奈との間で離婚と親権の協議をしていることを迅に打ち明ける。迅と渚は、空と3人で一緒に暮らすことを望むが、離婚調停が進む中で自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになっていく――。


(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:泉谷由梨子@IzutaniYuriko

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