薬物の使用者への「社会的制裁」。パックンが語る葛藤と難しさとは

沢尻エリカ被告の初公判。薬物をめぐる日米の違いや考えを聞きました。

お笑いコンビ「パックンマックン」のパックンことパトリック ハーランさんは、普段から妻や娘とも薬物についてオープンに話をしている。「もし迷ったり、考えたりしている時は、一度相談してほしい」とも伝えているという。

正しい情報に触れ、何かあった時に相談できる相手がいれば、悪いことを抑制する効果があると考えているからだ。

日本では薬物に対する負のイメージが強く、周りに打ち明けるのは勇気がいる。芸能人が逮捕されると、過熱報道やバッシングも起きる。

合成麻薬MDMAなどを所持したとして、麻薬取締法違反の罪に問われた俳優沢尻エリカ被告の初公判が1月31日午後、東京地裁で開かれる。

日本の報道や社会的制裁には「正直葛藤がある」と語るパックンさん。薬物問題をめぐる日米の違いや考えを聞いた。

パトリック ハーランさん
パトリック ハーランさん
junichi shibuya

報道の違い「人間は弱点を抱えて生きている」

アメリカでも、誰々がリハビリに入った、違法薬物の所持や使用、売買で捕まった、それが有名人であればもちろん報じられます。

だからといって、その人が出ているテレビ番組が全部キャンセルされたり、2度と復帰できないような社会的制裁を受けたりすることもありません。人間は弱点を抱えて生きているものです。

薬物だけではなくて、たとえば万引きでは俳優ウィノナ ライダーが捕まったのは有名です。薬物使用で捕まった人も山ほどいる。

日本だったら乗り越えられないものになってしまうかもしれませんが、視聴者も報道陣も、人間に完璧な人はいないという少し寛大な目を持っているんですね。

もちろん厳しい人もいますけど、報道番組のコメンテーターが寄ってたかって叩くことはあまりないです。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

英語でなんと批判すればいいのか、その表現も思い浮かばないくらいですよ。

「He used drugs」(薬物を使用した)、「He is a drug user」(薬物使用者だ)「drug addict」(薬物依存症の人)。これだけでも、厳しい人の中ではけなし文句になるんですよ。

でもそれよりは、「He struggled with drugs」(薬物と闘ってる)。闘病する、苦しむ、闘うという表現がよく使われます。

「逮捕」や「使用」というファクトは言うけれど、それよりも人格に言及・攻撃するような表現はあまりないですよ。

「reckless」(無鉄砲)や「irresponsible」(無責任)という表現が許されるか許されないかというラインでしょうか。世間がそれを受け入れないのです。

レディ ガガ、デミー ムーア、コリン ファレル。検索すれば薬物依存症の人はたくさん出てきますが、この人たちのキャリアは止まっていないです。作品に対する意見も変わっていません。

それと対照的なのは性的暴行です。ケヴィン スペイシーは、セクシュアルハラスメントの報道があった後、番組が打ち切りになりました。

性的暴行と薬物使用の違いは、被害者がはっきりするかどうかです。

例えばハリウッドセレブがコカインを使って捕まったとか、依存症でリハビリに入ったからといって、目に見えるかたちの被害者はいない。だから罰則を与えようとするモチベーションがあまり見えない。

せいぜい、ニュース番組に出演するコメディアンが簡単なジョークにするぐらいです。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

身内に当事者がいるかいないかで考え方がまったく違う

そもそも、薬物や薬に関する教育が違うと思います。

ドラッグというのは何を指すのか。日本では大麻、覚せい剤、コカインなどの違法薬物か、もしくはドラッグストアで売っている処方薬。その通りなんですが、ドラッグは基本的に、脳内のホルモンのバランスに影響を与える化学物質であるわけです。

お酒とかカフェインなど日本でいう嗜好品と呼ばれるものでさえ、ドラッグの一種とアメリカでは教育されます。ドラッグとは何か。お酒やタバコ、カフェインとは何かというのを、保健の授業で一緒に考えます。

もちろん、賛否両論もあるでしょう。違法薬物に対するエクスキューズ、口実を与えるな、と言う人もいます。

医療用や、嗜好用の大麻を合法化している州もたくさんあります。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

日常生活や生活環境、教育の違いを踏まえて考えないと、ちょっと理解しづらいと思うんです。

あともう1つ大きな違いは使用率。

日本に友達はそれなりにいますけど、日本で薬物を使っていることを私に話した人はいません。身内にいるかいないかで考え方がまったく違うんですね。

報道を見て「当然だ、叩けるだけ叩けよ」という厳しい意見の方が多いと思います。実際に自分の身内が薬物使用で私生活が乱れたとか、薬物使用がばれてクビやいじめの対象になったなど、社会的罰則を受けた人が近くにいると、やっぱり見方が変わるんですね。

人は遠い他人の話をなかなか理解できません。

日本は使用率が低くて、アメリカみたいに大麻が大きな公害をもたらしているわけではないから、合法化の必要性はないですが、報道や教育の仕方を考え見直すことは問題ないと思うんですね。議論は常にあっていいと思います。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

日本の報道や社会的制裁に「葛藤がある」

日本の報道の仕方や社会的制裁について、正直葛藤があります。自分の子供も日本で育っているから、使用率の低さをどうにか保ちたい。

日本で薬物を使用した人が、自分の身体に被害を受ける上に、さらに社会的な制裁を食らうのは、私はかわいそうだと思います。

ピエール瀧さんも大好きだし、沢尻エリカさんも才能があると思います。芸能界から消されるのは、芸能界も視聴者も損していると思うし、本人のためにもなりません。

でも、すぐに復活できるような日本に変わったら、抑止力を失う恐れがないとは言い切れない。すごく難しいです。

私は基本的にリベラルです。人は弱いから支えよう、更生させるように頑張ろう、罰則よりは支援というのがリベラルのスタンスです。

厚生労働省が出している15歳〜65歳以下の薬物の生涯経験率を調べてみましょうか。大麻が1.4%、覚せい剤0.5%、コカイン0.3%です。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

この使用率の低さを見ると、予防においては、日本も不正解とは言いづらい面があるんです。

私はアメリカでの大麻合法化、刑事罰の軽量化も賛成です。刑務所ではなくリハビリ施設に入れるべきだと思うタイプです。欧米では、厳しい罰則よりは寛大な支援が使用率を下げる例もあります。

だからといって、アメリカのモデルがそのまま日本に置き換えられれば成功するという保証もないんです。大変難しい問題だと思います。

大麻を使ったことのないとされる98.6%もの人が、薬物を使う人が圧倒的少数に止まっている今の日本がいいと思っているかもしれない。

例えば、減刑などをした場合、98.6%もの人が使わずに済んでいる今の状態をどう保つのか。その提案も同時にしないと、一般の人の理解はおそらく得られづらいのではないでしょうか。

そうした提案があれば、応援したいです。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

「経験者がもっと話さないといけない」

薬物依存症への理解を促すには、経験者がもっと話さなきゃいけないと思います。

私は、番組を打ち切るのではなく、使用が明るみに出た人は謹慎期間を経てでも、ストレートに話せるような場を作って、ストレートに話してもらうようになったほうがいいような気がします。

こういうところで私の人生が駄目になったから、真似しないでほしい。ここが苦しくて、当時相談する人もいなかったから、こんな相談相手が欲しい。こういう行政の支援、治療が必要だと気付いた。今同じ状況にある人は、ここに行ってほしいと。

その人にせっかく知名度があるなら、経験を活かして、苦しんでいる人のためになるようなことをやればいい。話す場を与えてもいいと思います。

日本は犯罪に対して結構厳しいですよ。多分、薬物を使ったことで与える害より、犯罪者となって受ける害のほうが圧倒的に大きいですよね。

例えば車を盗んだら、被害者にとって大きなダメージになるから、盗んだ人が犯罪者となって、それに値する罰を食らって当然。傷害や詐欺もそう。

でも薬物使用は、被害者が自分である独特な犯罪ではあるわけですよね。自分以外の被害者が目に見えないから、どういう基準で罰則を決めるのかが難しい。「やってほしくない行動」なんですよね。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

身近にあった大麻「使えるのに使わない自分が格好いい」言いきかせた学生時代

私の学生時代は合法ではなかったですが、大麻は普通にすぐに手に入るものでした。

「法律を破って、アウトローとして俺は格好いい」と思う青春時代のツッパリ感は、多少誰にもあります。

けれど「使って格好いい」ではなくて「使えるのに使わない自分が格好いい」というふうに自分に言い聞かせたんです。

そういうふうな美徳を子供にも話しているんですよ。

周りが使っているのに、俺は使わなくても同じくらい楽しく遊べるよ。俺は人生の面白さだけでハイだよ、と。

使わないと退屈というなら、私は退屈をしている人は「退屈な人」だと思う。想像力が足りないから薬に使っているんだ。そういう風に優越感を自ら演出していたんです。そのコツを子供にも伝えているんです。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

薬物の話、妻や子供にもオープンに

私はセックスや犯罪に関しても、自分の娘には全部オープンに話しています。

少女に対する性的暴行が起きていることや薬で亡くなった人のこと、お酒の飲み過ぎまで、全部娘に話しています。親から聞かないと、信頼性のない誤った情報に触れてしまう可能性もある。

「これは大丈夫」「気持ちよくなるだけ」と誰かから言われるかもしれない。だから私は、「気持ちよくなることは間違いない。ただ、こういうマイナス面もある」とストレートに言う。

ずっと一緒についているわけではないし、すべての行動を監視できるわけでもない。例えば使ってみようとしても、別に縁を切ることもありません。でも「迷っているときは、1回相談してほしい」と伝えています。

そういうちゃんとした情報が、悪いことを抑制する効果があると思うんです。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

「恥の文化」をどう乗り越える

日本は何でも恥じる文化。お笑い芸人はそれを晒してネタにできますけどね。一般の人はモテないとか自虐ネタはウケるけれど、本当に恥ずかしいと思うようなことはめったに話さないじゃないですか。それが違います。

アメリカは、薬物だけじゃなくて性的行為も、日本だったら恥ずかしくて言えないようなことを話せる。

父親が暴力的だとか、義理の父親に6歳のときから性的暴行されたとか、高校のときに万引きで捕まったとか。そんな過去があるとしても、日本では直接聞くことはほとんどありません。

セラピーやカウンセリング的なものもほとんどないじゃないですか。アメリカには、カウンセリングを受けたことがない人はほとんどいません。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

日本はホットラインの数が足りないと思います。いろんなイシューに関して、ホットラインをもっと設けるべきです。

24時間、誰でも電話できるようなところがあればいいと思います。日本は特に、イメージの問題もあるから、簡単に周りに話せないかもしれない。だったら、見えない相手のほうが話しやすいかもしれない。自殺や暴力についても、精神状態が不安定で相談したいときもそうです。

薬物に関しても情報が欲しいですよね。多分今はほとんどの情報がオンラインで手に入るけれど、冷静に調べる心境じゃない時もあると思う。

そんな時はホットラインでパッと電話して「万が一これを使ったらどうなりそうですか?」「この量でも大丈夫ですか?」「捕まってしまったら、見つかってしまったらどういうことをされますか?」と。そういう詳しい情報をストレートに聞けるところがあればいいのに、と思うんですよ。

だから薬物依存になる前、使用する前に簡単に話せる人がいるのは、すごく大事ですよね。

パトリック ハーランさん
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Junichi Shibuya

ハフポスト日本版は2月22日(土)13:00から、高知東生さんを招いて、逮捕された人の表現について考えるイベントを開きます。

テーマは「過ちを犯した人は、笑ってはいけないのか」。

・謝罪や自粛は、誰のためだろう?

・過熱報道やバッシングは、世の中を良くしているの?

・「逮捕」は注目するけど、事件の背景や本人のその後にもっと目を向けなくていいの?

覚せい剤で使用した罪などで有罪判決を受け、現在回復への努力を続ける高知さんらと一緒に考えます。

イベント詳細

【タイトル】過ちを犯した人は笑ってはダメなのか

日時】 2020年2月22日(土) 13:00-15:45 受付開始:12:30

場所BPM

(〒154-0001 東京都世田谷区池尻2丁目31-24 信田ビル2F)

東急田園都市線 池尻大橋駅から徒歩30秒

参加費】税込2,000円(1ドリンク付き)

お申し込みURL】https://hyogen-event-4.peatix.com/view

申し込み締め切り】先着順

定員】 70人

【ゲスト】雨宮処凛さん(作家・活動家)・高知東生さん(俳優)・田中紀子さん(公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会 代表)※五十音順

【ファシリテーター】石戸諭さん(記者 / ノンフィクションライター)

【主催】ハフポスト日本版

【イベントに関するお問い合わせ】event@huffpost.jp

この記事には違法薬物についての記載があります。
違法薬物の使用は犯罪である反面、薬物依存症という病気の可能性もあります。
医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気です。
現在依存症で悩む方には、警察以外での相談窓口も多く存在しています。

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