真ん中の私たち
2020年02月07日 07時23分 JST | 更新 2020年02月07日 09時55分 JST

肌の色より、人間の中身を見てはどうですか? 田村なみちえさんのシンプルな問い

「あなた、どこの国の人?」ラッパー、芸術家の田村なみちえさんに突然、男性が話しかけてきた。

Junichi Shibuya / HuffPost Japan
田村なみちえさん

「あなた、どこの国の人?」

上野の東京都美術館、東京藝大の卒業制作展。ラッパー、着ぐるみ作家として活動する田村なみちえさんと記者が話をしていると、ある中年男性が割り込んできた。その人差し指は彼女に向けられている。

「うーん…日本…ですかね…。初対面で誰にでもそうやって聞くんですか?」

初対面、それも第一声で相手に国籍を聞くこと。その不躾さをやんわりと指摘した彼女に、男性は一方的にまくし立てた。

「外国に行ったら、国を聞かれるのなんて当たり前でしょう!自分の国に誇りを持てばいいじゃないか!」

小声で何かをブツブツと呟き、彼女の作品の前から立ち去っていった男性。

その後も、他の学生に話しかけ「出身を聞いただけで、バカにされたと思って怒ったんだ、あの人は」と、苦情を訴えるように話す声も聞こえてきた。

「勝手に、私が自分の国を恥じていることになっていましたね…。昨日もああいう人が来たんですよ。私がこの作品を作った田村なみちえです、って説明しているのに、私の外見と名前を見比べて、『そんなはずないだろう』って最後まで信じなかった人」

田村なみちえさんの作品「「「「「「着ぐるみの為の着ぐるみ」の為の着ぐるみ」の為の着ぐるみ」の為の…=東京都美術館で

怒りに震える彼女。しかし、しばらくするとその感情を殺すように無表情になってこう続けた。

「私、見た目で差別されるから、差別主義者と関わらなくて済むんですよ。ヤバいヤツがいればいるほど、私の天才さが際立ちますから、いいことばっかりですよ。『ああ幸せだなァ〜』。コレ、加山雄三さんのサンプリングです。ヒップホップですね。フフフ。」

彼女にとっての芸術は、幼少期から差別されてきた中で身につけた、生きる術。そして今、芸術という優しさで、彼女は自分の経験を世の中に投げかけている。

肌の色より、人間の中身を見てはどうですか?そして、あなた自身の中身はどうですか?と。

Junichi Shibuya / HuffPost Japan
田村なみちえさん

「自分の内側の世界の充実度を人に見せたい」

田村なみちえさんは、神奈川県茅ヶ崎市で生まれた。ガーナ出身の父と、東京生まれの母との間に生まれた三人きょうだいの長女だ。

地元の学校では、登下校中も「ガイジン!」と煽られた。学校行事ではどさくさに紛れて勝手に写真を撮られ、その写真が別のクラスのグループLINEにアップされていると報告を受けたこともあった。「普通に過ごしているだけで嫌に目立って仕方がなかった」という。

怒りの経験、悲しい経験、嬉しい経験。全てにおいて人よりも豊富な経験が、「解像度の高い」人生をもたらした。彼女はそういう経験が、結果的に多くの気づきを得たことにつながっていると確信している。

「もちろん辛かったですけど、自分の脳細胞を色とりどりにする様々な経験があったこと自体が今はすごく幸せなことだと思っているんで。人よりも、持ちあわせているものが多い。その自分の内側の世界の充実度を、人に見せたいなって」 

着ぐるみは自分自身の全否定であり、全肯定

着ぐるみを作り始めたのは中学2年。ブログで見つけたある作家の作品に惚れ込んだ。なぜ着ぐるみだったのか。始めた頃にハッキリと意識はしていなかったが、「人間をやめたい」。それが動機だった。

Junichi Shibuya / HuffPost Japan
田村なみちえさん

 「見た目を変えたかったんだと思います。自分の持って生まれた見た目で目立つのと、着ぐるみで作り上げた見た目で目立つのって、全然異質なものだから。社会にあるルッキズムという抑圧で、自分を整形するのと、材料費4〜5万円で着ぐるみを作るの、どっちがいいかって言われたら、全然かわいい動物さんになります。

着ぐるみって、自分の肌や肉体を全否定することでもあるし、全肯定することでもある。自分自身という持ち合わせた肉体を隠蔽し、見た目を全く変えるけど、自分の肉体が存在しないと着ることができないから」

 「幼少期からまともなコミュニケーションを人としていなかった」という彼女ができることは「芸術的な生き方しかなかった」という。 

高校を卒業すると、彼女は東京藝大に進学した。

田村なみちえさんの作品「「「「「「着ぐるみの為の着ぐるみ」の為の着ぐるみ」の為の着ぐるみ」の為の…
田村なみちえさん

「私以外誰もできなかった言葉遣い 」

「なみちえちゃんの隣に並ぶと肌が白く見えるから嬉しい」。

同じ大学の女学生に言われた言葉。入学してから受けた差別は、発言した本人が無意識な分、子供のいじめよりさらに醜悪だと言えるかもしれない。ラップを始めたのはその頃だ。

「気持ちが悪いなって、怒りがこみ上げてきて。そんなにステレオタイプを押し付けられるんだったら、もうラップをやってやろうかなって。『黒人はラップをやっている』っていうステレオタイプに乗っかって行くことも、人生をうまく生きるってことかもしれないですから」

留学生じゃないし 帰国子女じゃないし、

外国人観光客じゃないから

浴衣の着付け体験オススメしないで

 

偏見混じりの献言 なんて0点 考えろ論点

「君は何処から来た何人?」俺は目指す上野の偉人

勘違いしたグローバル化 先人達の苦労が無駄

『国人ラップ』

『国人ラップ』で歌われているのは、マイノリティである彼女が晒されてきた偏見や、ルッキズムに支配されたこの社会への提言。 

人気の理由はそれだけではない。本格的なサウンドメイクや高度な言葉遣いのセンス、耳に残る繰り返しの中毒性が、ユーモアに包まれて届けられる。

大学3年生の夏の終わり。バンド『グローバルシャイ』のヴォーカリストとして出演した、学園祭「藝祭」の映像がTwitter上にいくつもアップされた。「こんなラップ見たことない」「すごい才能見つけた」驚きは、またたく間に広がった。

「『国人ラップ』みたいな曲の歌詞の文字列って、最初から最後まで、私以外誰もできなかった言葉遣いだと思うから。自分が身近な部分でどう思ってきたとか、すごいミクロな世界をマクロ化させるっていうことが面白いと思ってやってますね。だから、相当ヤバいもの見せてると思ってますよ」

上原俊
グローバルシャイ

私って超ワルじゃないですか?

『おまえをにがす』も話題になった曲だ。

歌っている内容は「川に亀を逃がす」こと。「逃がす」「苦い」「何が」という言葉の繰り返しは、黒人に対する差別用語とされる「nigger」(ニガー)と錯覚し、ドキッとさせられる。さらに歌詞に出てくる「ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)」は外来種で、日本の生態系に有害だとして防除が進められている生物。この国で差別を受け、排除されそうになってきた、自身の中にある「外国」というものの存在を聞き手に強烈に突きつける。

一方で、ミュージックビデオでは、完全ないわゆる「ヒップホップスタイル」の彼女が、ペットの亀を持って格好良く登場。小出川という地元・茅ヶ崎の何の変哲もない河川敷で、ラップをする姿がキマリすぎていて、なんとも言えないおかしさだ。

「ビッチとお酒飲んで大麻吸ってイエ−イ、昔、薬の売人だった俺、ヨー…それ自体は構造上全然ヒップホップじゃないのでは?と思っています。そういう先輩に憧れて、若者が大麻に手を染めるなんて、表面的にカルチャーを真似をしているだけの、義務教育ヒップホップ。『教科書の17ページを広げてください』で読んで覚えるのと一緒ですよ。

ヒップホップのメインストリームの世界に、私みたいな人が亀を持って上がりこんでいく。そして私は薬物じゃなくて朝から生姜をすって入れた白湯を飲んで、ストレッチして一日を始める。そんな私って超ワルじゃないですか?超ヒップホップだと思いますよ、構造上は。

私みたいな存在がかき乱すことで、本来肯定されてきた構造を批判する。それによって、ヒップホップのメリット、デメリットが露呈されるんです。もちろん、誰も文句が言えないぐらいの歌詞とビートの格好良さでやることが肝心で。そこは努力、鍛錬あるのみですよね

上原俊
グローバルシャイ

音楽も、雑誌も、テレビ番組も、商業的に成功させるため、その多くがマジョリティのために作られている。そして、マジョリティにとっての身近な憧れや象徴を演出したり、安心感を与えるために、それらは時に「不良っぽいラッパーがかっこいい」「白人”ハーフ”のモデルが美人」「世界で称賛される日本らしさ」など、一つの「型」を作り上げ、それに当てはまる人をスターとして称賛する。

その裏面には何があるのか。彼女のようなマイノリティは「異質」なもの、ときには良くないものとして周辺に追いやられてきたのだ。彼女はそんな構造を批判すると同時に、ただそこにある人間の存在の尊さについて考えている。

「例えば白人”ハーフ”モデルの人間が美しいとされる雑誌を見て、今はそれと自身との差で相対的に『美しさ』が決まっているじゃないですか。でも1回マインドチェンジして、この美しさが作られるに至った構造、これは一体何なんだろう?そして改めて自分って何なんだろう、そういうことを考え、相対的に作られた美しさの陳腐さに気付けば、自分はただ1人そこに存在するだけで美しくいられるはずなんです。」

Junichi Shibuya / HuffPost Japan
田村なみちえさん

怒りの表明、構造批判。それを彼女はユーモアや可愛らしさで包み、すべての人間の本来の姿を肯定する。 

しかし生い立ちのこと、今でも日々偏見にさらされていること。それを考えると、つい「優しすぎませんか?」と尋ねたくなってしまう。彼女はこう答えた。

優しさしかないですよ。私。優しさのかたまり。でも、人に優しくするって自分に一番優しくしてないって事だからこれからは辞めます。まぁでも、差別発言とか、直接辞めてって本人に言うのはポリシーにしてます。『肌が白く見える』と言った子にも、後でちゃんと「そういうのは良くないよ」って言いましたしね。 

いじめられてきた人も、いじめてきた人も、差別する人も、きっと私みたいに強い自我を持ってない人もいると思うんです。だから超最強エネルギーを保持している私が、フィルターになって、うまくユーモアや才能で分散してあげているみたいなイメージはあるんです、自分がアウトプットする事が。

そして、自分が自由になればなるほど、もっとこの世の中で不自由な人がいるという事を忘れないようにしています。自分と正反対の人のことをいつも考えて生きる事で、自分がこの時空間・肉体・精神をもってこの世で本当にすべき事を探し続けられるのです」

田村なみちえさんの作品「「「「「「着ぐるみの為の着ぐるみ」の為の着ぐるみ」の為の着ぐるみ」の為の…

2019年には、NHKの報道系番組への出演、エッセイの執筆など多くの仕事で引っ張りだこになった彼女。今後、こうした幅広い仕事も続けていく予定だという。

「色々考えていることはあるけど、それを全て言葉で説明するのは難しいから、自分の立場でしかできないことをやって、みんなが言えないことをバシバシ言って境界を超えて、『あ、NHKでもそういう歌詞で歌ってもいいんだ』って、それが自然にみんなへの影響になればいいんじゃないですかね。

私は『社会派』って言われますけど、人間は、誰でもそれぞれ生きてるっていうことが、表現者であると思うし。だから『世直しをしよう』と思っているわけじゃない。一人ひとりが世界の一部なんだから、自分一人でも変われば世界が勝手に変わるんで。意識的に、社会派でいようとか世界を変えようとか、それを言語化すると嘘っぽくなっちゃうから、体現していきたい」

Junichi Shibuya / HuffPost Japan
田村なみちえさん

 

田村なみちえ プロフィール

1997年7月18日神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京藝術大学先端芸術表現科4年生(首席で卒業予定)。着ぐるみなどの立体造形を中心に、ラップ・詩・歌・身体パフォーマンスを用いて創作活動を行う。


バンド「グローバルシャイ」ヴォーカリスト、兄と妹によるクリエイティブユニット「TAMURA KING」。KAAT✕高山明 / Port B 「ワーグナー・プロジェクト」(2017)ワーグナークルー。


未来ドラフト2018ムラサキスポーツ賞・オーディエンス賞受賞。東京藝術大学学内賞 平山郁夫賞受賞。 『文藝』(河出書房新社)2019年冬季号などに文章を寄稿。「クローズアップ現代+」にも出演した。