恋愛
2020年02月22日 17時49分 JST

「あなたが一番愛したいものは?」空気を読みすぎる私たちに、映画『Red』が問いかける。

賛否両論を巻き起こした恋愛小説の映画化。三島有紀子監督は女性の選択をどう描いたのか。

Yuriko Izutani / HuffPost Japan
三島監督

心から愛するものに出会ったとき、私はどんな選択をするのだろうか?

映画Redを観終わった誰もが、自分に問いかけざるを得なくなるだろう。

映画『Red』の原作は、人気作家の島本理生が、2014年に発表した同名の小説。「本当に自分の人生を生きるとはどういうことなのか」三島有紀子監督は、映画を通じて私たちに投げかける。

©2020『Red』製作委員会
2020年2月21日から新宿バルト9ほか全国で公開 監督:三島有紀子 脚本:池田千尋、三島有紀子 原作:島本理生『Red』(中公文庫) 出演:夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗ほか 配給:日活
 あらすじ

大雪の夜、車を走らせる男と女。先が見えない一晩の道行きは、二人の関係そのものだった。誰もが羨むような優しい夫と、可愛い娘、裕福な暮らし。“何も問題のない生活”を過ごしていた主婦の村主塔子(夏帆)は、かつて不倫関係にあった鞍田秋彦(妻夫木聡)に10年ぶりに再会する。罪悪感を感じながらも鞍田と再び気持ちを通わせていくうちに、塔子はそれまで閉じ込めてきた本当の自分に気付き始める。しかし、鞍田には“秘密”があった。それを知った塔子の下した決断とは……。

 

世間の求める自分であろうと努力している

塔子のような人は意外と多い

——賛否両論を巻き起こした恋愛小説の映画化。どんな背景があったのでしょうか?

恋愛って、自分の内なるものが目覚めたり、見たくなかった部分を見ることになったり、その人の本質がむき出しになる、究極のコミュニケーションですよね。家族をテーマにした過去の監督作品『幼な子われらに生まれ』(2017年公開)で、浅野忠信さんと寺島しのぶさん演じる夫婦がケンカをした後、セックスをするというシーンを撮っているときに、『いつか、ちゃんと男と女の恋愛の話を撮らなきゃいけない』と強く思ったんです。本質がむき出しになっていく人間の姿を撮りたかったんだと思います。

——何不自由ない暮らしの主婦でありながらかつての恋人との関係に溺れていく、主人公・村主塔子。どんな女性なのでしょうか?

原作を読んだとき、非常に現代的な女性だと感じました。世間の常識や価値観を正しいと信じ、常に周りの幸せを第一優先に考え、求められる自分であろうと努力している。でも、塔子のような人は意外とたくさんいるような気がするんです。 

たとえば、若い俳優とワークショップをしていて、意見を求めるとまず周りの空気を読もうとしたりしてしまうことがよくあります。周りはどうでもいい、あなたがどう感じたか、それだけでいいから、と言います。

自分の尺度を中心に考えるんじゃなくて、世間の人はどう思っているのか、インターネットではどう言われているのかを基準に考えてしまうんですよね。それを受けて自分はどうか考える。つまり、尺度が外側にある人が増えているのではないでしょうか。  

©2020『Red』製作委員会
2月21日(金)より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー

 ——自分の中に尺度を持つということは、具体的にどういうことなのでしょうか。

まずは自分の内なる声を聞くということだと思うんです。意識的にやらないとやはり流されてしまうので、自分はそういう時間を意識的に作るようにしています。音楽を聴いたり、喫茶店でコーヒーを飲みながらただ景色を眺めたり、舞台を見に行ったりして、今、何をどのように感じ思うのか、なるべく自分の感情を見逃さないようにします。感じた事をまとめたり整理するために、自分の心のエレベーターに乗って降りていくような感じでしょうか。

塔子の場合は、鞍田が現れたことで自分の尺度を取り戻していくことになります。自分にとって何が一番大事で、何を見たくて、何を愛したくてどう生きたいのか。それは自分の中に尺度がないと永遠に見つけられない気がしています。

——社会では空気を読むことや周りに合わせることも求められますし、自分と向き合うのは、結構辛いことだとも思うのですが。

辛いですよね。尺度が外側にあった方が、楽なんですよ。仕事は忙しいし、世の中にはいろんな問題が勃発していて、自分のことを考えている時間も余裕もない。いちいち「どう感じているのか?」なんてやっていたら、非常に生きにくくなります。今の私たちは、心の機微を自動的にシャットアウトすることによって、生きる術を見つけようともがいているところがあると思います。 

なんとなく幸せな方が生きやすいじゃないですか。でも、そのなんとなくの人生を送っているのは本当の自分ではないかもしれない。痛いかもしれないし、苦しいかもしれないけど、自分の心の中のエレベーターで降りられるのは自分しかいないんですよ。私もよく、降りられなくなりますよ。目の前のことをなんとかすることで必死になってしまって。

Yuriko Izutani / HuffPost Japan
三島監督

 感情を爆発させ
初めて自分の人生を生き始められた

——鞍田と出会うことで、塔子は自分の気持ちに気づいた。しかし、出会わない方が幸せだったとも言えますよね。

何を幸せと思うのか、その基準は、観る人によって違うとは思います。ただ、彼女はああいうふうに感情を爆発させなければ、生き延びられなかったのではないでしょうか。

マックス・オフュルスの映画『忘れじの面影』に、『人間には誕生日が2つあります。ひとつは、生まれた日。そして、もうひとつは、人生が動き始めた日』という好きなセリフがあるのですが、そういう意味でいうと、塔子が鞍田を心から愛すると決めた日が、彼女が新たに生まれた日なんだと思います。

——三島監督自身、感情の爆発によって人生が新たに始まったような経験はありますか?

いろいろあるんでしょうけど……NHKを退局したときかもしれませんね。まさに鞍田みたいな存在が、私にとっては映画だったから。NHKは、働きやすくてお給料も良くて、『Red』で言うなら、塔子にとって夫の真みたいな存在だったと思うんです。なんとなくいいなと思うものが手に入っているけど、一番欲しいものじゃないというか……。けれどこの先、映画監督になれる保証もあてもないし、何度も自分に問いかけました。だけど『映画を撮りたい』という感情の爆発が抑えられなくなって、会社を辞めることを選択しました。あのときから自分の人生を生き始めたのかもしれません。

——誰もが塔子のように激しい恋愛によって気づきを得るわけではないと思います。監督のように、それがたとえば仕事だという人もいるかもしれませんね。

鞍田は、最も愛せる人やものの象徴だと思うんです。それが家族や子どもの人もれば、私のように仕事だという人もいるかもしれない。すべては一番大事な、一番愛したいものが何なのか、それを見つけられるかどうか、なのかなと。

©2020『Red』製作委員会
2月21日(金)より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー

「どれだけ惚れて、死んでいけるか」

それぞれの選択と幸せがある 

——とは言っても、塔子と按田のしていることに否定的な感情を抱く人もいるのではないでしょうか。 

塔子があのような選択したというのは一つの提示であって、これが正しいなんて1ミリも思っていないですし、人それぞれ感じることは違うと思っています。人生は単純ではないですし、とても複雑ですから、それぞれにとってにしか正解はないと思っています。

ただ、心から愛せる人やものって、なかなか出会えるものではないので、出会ってしまったらそこで大切な人を傷つけたり何かを捨てたりしてでもこの愛を貫きたいのかを必死で問いかける必要があります。選ぶという行為は本当に残酷で重いものですから。いずれにせよ、決めたら覚悟を持って愛したいとは思いますね。愛するって業でもありますから。

——映画のラストは小説とは異なるものになっていますね。

塔子の母親のセリフ「人間、どれだけ惚れて、死んでいけるかじゃないの」は、実は私がNHKを辞める前に、ある女性の先輩から言われた言葉なんです。「そんなに映画を撮りたいなら突き進めばいい、それだけ惚れられるものがあるっていいじゃない」と、背中を押してくれたんです。恋愛でも仕事でも、惚れるって本来幸せなことじゃないですか。それがたくさん重なっていくことで人生が豊かになる。

それぞれの選択と幸福があり、人生は続いていきます。正解はありません。この映画が、塔子にとっての鞍田のような存在になればいいなと思っています。

 

Yuriko Izutani / HuffPost Japan
三島監督

 

三島有紀子(みしま・ゆきこ)プロフィール

4月22日生まれ。大阪府出身。NHKで「NHKスペシャル」など心の痛みと再生”をテーマにドキュメンタリー作品を企画・監督していたが、劇映画を撮るため退局。『幼な子われらに生まれ』(2017)で、第41回モントリオール世界映画世界映画祭審査員特別大賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子映画賞を受賞。他監督作品に『しあわせのパン』(12)『繕い裁つ人』(15)『少女』(16)など。

 

正しい妻の振る舞い、正しい母親の姿、正しい女性像、正しい恋愛のかたち……そんな世間の求める「正しさ」に、いつの間にか麻痺していたのだと思う。だけど、世間が自分を幸せにしてくれるかどうかなんて誰もわからない。

自分の感情をないがしろにしないこと。この体も心も感情も、私のものだと思い出すこと。三島監督の「覚悟」が、自分の人生を生きるための大切な問いを与えてくれた。(秦レンナ)

 (取材・文:秦レンナ 編集:泉谷由梨子)

 

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