僕はウーマン村本さんと同じ39歳。カメラを向けてわかった、芸人の「葛藤」

アメリカ行きを追い続けたドキュメンタリー作家だけがみた、ウーマンラッシュアワー村本大輔さんの素顔とは。

ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんがアメリカ・NYでスタンドアップコメディに挑戦する姿に密着した映像。

村本さんのnoteによると、もともとは、あるテレビ局で放送される予定だった。しかし、村本さんがTwitterで「大麻を合法化した方がいい」という旨の発言をしたことで、企画が白紙に。制作会社のドキュメンタリージャパンは映像を流す先が決まらないまま、NYでの密着を敢行したという。

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その時の思いを、村本さんはnoteにこう綴っている。

彼ら(制作会社のドキュメンタリージャパン ※編集部注)はおれの発言による一番の被害者だ。だから普通の感覚で言うと二度と仕事はしたくないというのが人の感情だろう。

しかしそのディレクターは「密着をさせてほしい、正直、次の番組を売りこむ先も決まってない。でも撮らせてほしい」と言ってきた。

おれは恨みがあって二度と仕事したくないならわかるけど、番組の流す先も決まってないのに、ニューヨークまできて、正直、アメリカに挑戦する芸人は他にもいる。ピース綾部や渡辺直美、たくさんいる。おれは旬でもないし、数字も持ってない、そのくせリスクだけはめちゃくちゃ高い。しかもまた発言しないとは言いきれない。こんな事故物件を、なぜに!?

村本大輔さんの2019年8月5日のnote「thank you for yourhelp」より

村本さん本人も疑問に感じるその理由について、NYでの村本さんの挑戦にカメラを向けたドキュメンタリージャパンのディレクター・日向史有さんがブログを寄せた。

僕はいま39歳、村本さんと同い年です。

これくらいの年代になると、生き方を変化させることが億劫になったり、怖くなってくる。毎日の仕事をこなすだけで精一杯になったり、家族をもったり、日々を安定させることに追われてしまいます。

にもかかわらず、村本さんはいま、アメリカのスタンドアップコメディに挑戦しようとしています。このまま日本で芸人を続けていても食べていけるはずなのに、一から英語の勉強を始めていて、「最近、be動詞を覚えたくらい」と本人は言っていました(笑)。

それでも、何度もアメリカに渡航して、コメディクラブをまわって、拙い英語でも自分でつくったネタを披露し続けています。

「新しい世界を見たい」「新しい価値観をつくりたい」。同い年の村本さんのその熱量に圧倒されました。

「らしい」で語らず、自分なりの「本当」を探す

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僕はもともと、移民や難民問題、ブラック・ライヴズ・マター(「黒人の命もまた、白人の命と同等に大切だ」と主張する社会運動)といった分野でドキュメンタリーを制作してきました。

僕の好きなコメディアンでマズ・ジョブラニというイラン系アメリカ人のコメディアンがいます。彼は、9.11以降にアメリカで拡大する中東出身者に対する差別やイスラム嫌悪に、笑いで抵抗していました。

「イスラム教徒=悪」という単純な図式がはびこる社会を風刺し、イラン系である自身の「リアルな体験」を笑いに変え、中東出身者に対する偏見や固定観念を変えようとしていたのです。カッコいいなと思いました。

村本さんにも同じカッコよさがある。

情報が溢れ、何を信じていいかわからない時代に、村本さんは知りたいことや気になることがあれば、沖縄なら沖縄、福島なら福島、韓国なら韓国と、実際に足を運んで、現地の人と話して、実感をともなって自分が正しいと感じたものを選択していく。

ネットに氾濫する言葉や先入観を鵜呑みにして「…らしいよ」という言葉で語らず、自分のなかの本当を探しながら、自分の言いたいことを模索する村本さんの姿を、映像を通して伝えたいと思いました。

なので、NYでの挑戦に密着したのも、「みんな言いたいことは言いたいよね」というテーマで、村本さんの目=笑いを通して、いまのアメリカで生まれている人種間の断絶や社会問題を切り取りたかった。

スタンダードなお笑い表現をアップデート

NYでの村本さんは、ひたすらネタをつくっていました。ほんと、それしかやっていない。ご飯を食べる以外は、朝から晩までずっとネタを書いている。

歩いていて犬が吠えたら、「あ、ネタ思い付きました」といってメモして、即コーディネイターさんに英訳してもらって、「これどうですかね?」みたいな感じです。

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あとは、一人で英会話教室に行って、戻ってきたらまたネタをつくる、ウーバーの運転手さんやカフェのウェイターさんに披露する…の繰り返しの生活でした。

いまの日本におけるスタンダードなお笑い表現や価値観をアップデートしようと模索している姿が印象的で、心を掴まれました。

ある時、村本さんが「ちっちゃい頃よりも、大きな夢が見れるってすごくないですか」って言っていたことがあって。子どものころは「吉本の芸人になる」っていう夢を抱いて頑張ってきて、いまその夢を飛び越えて「アメリカでコメディをやる」という、さらに大きな夢を、40歳を目前にみているという…。

その姿は自分のドキュメンタリー制作の刺激になりますし、新しい世界に飛び込んでいく勇気をもらいます。

「言いたいことを言いたいよね」を伝えたい

村本さんの笑いは面白いだけでなく、心を動かされたり、後にザラつきが残ったりする。そういう表現を通して得られる小さな豊かさが、世の中からなくなるのが嫌だなぁと思うんです。

その根底にあるのは、「言いたいことを言いたい」を大切にしているといことです。みんな暮らしている地域や社会の“空気”を感じ取って、勝手にタブーにしている話題や目を背けている問題があると思います。村本さんはそこに踏み込んで、笑いという表現で発信し続けています。

今回のこのNYでの密着映像が、「言いたいことを言いたい」という表現の自由をみんなが考えるためのコンテンツの1つになって、広がっていってくれれば嬉しいです。

(編集:毛谷村真木

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