クライアントからのムチャ振り。交渉のプロならどう応える?

アメリカの雑誌で「世界で最も恐れられる法律事務所」に6度も選ばれた法律事務所の東京オフィス代表が、クライアントとの関係、3つのケースにおける交渉術を教えます。
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年度末を目前に控え、決算を迎える企業も多いでしょう。 これに伴い、今のプロジェクトをなんとか形にしたい、来季に向けてクライアントの信頼を得たいなどと現場は焦っているのではないでしょうか? 既に春闘も始まり、来年度のベースアップを見据えれば、「自分は良い働き手」であることをアピールしたい時期でもあります。 そんな時は上手に交渉術を使えば、自分は良い働き手であることをアピールできるかもしれません。

今回は、クライアントからのさまざまな要望を交渉術で乗り切り、利益につなげる方法について書いていきたいと思います。

①納期の前倒しや増産など、急に変更を迫られた場合

急な変更を求められても、物理的にマンパワーや資材の不足などで、要望に100%応えることができないことも多いと思います。あなたならクライアントにどのように返答しますか?困惑し、「できない!」と、とりあえず言ってしまっていないでしょうか?でも実はこの「できない」が事態を悪化させてしまうのです。

よく考えてみてください。無理を言っているということは、 相手は焦っているのです。あなたの「できない」という一言が余計に焦燥感を煽り、できなかったらどうしようと不安にかられた相手はさらに強固に迫ってくるでしょう。

こんな時は、相手に選択肢を与え、判断してもらうことからはじめます。何としても自分の抱えている問題を解決したい相手は、何をどうしたらできるのか、いつできるのか、いくらでできるのかで頭がいっぱいです。こちらの状況等考えるゆとりすらないかもしれません。

とはいえ、こちらもこちらで事情がありますから、今の段階で自分のリソースを分析し、実現できるプランを提案することが重要です。
・何をどうしたらできるのか
・いつできるのか
・いくらでできるのか
問題はこの3つしかありません。現状では100%相手の要望を実現できないことは明らかですから、事情を簡潔に説明できるよう準備しておきます。ここで注意すべきは感情的に訴えないこと。現状と見通しを明確にすることに心がけましょう。

そして、選択権は「あなた」にあるのだとクライアントに理解してもらうことも忘れずに。無理難題を聞いて、「できない」と結論づけるのは確かに正しいのですが、それを一方的に伝えるだけでは根本的な問題の解決には至らないのです。できないからこそ、その状況の中でクライアントが何を選択できるようにするのかがポイントです。

②プロジェクトの方針などがたびたび変更になって、なかなか決まらない。または、一度決まったことを何度もひっくり返される場合

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これは、ビジネスのシーンで本当によくある話ですね。担当者が変わる、ビジネスの目的がすり替わるなど理由はさまざまですが、クライアントの変化にすべて合わせて対応しては身が持ちません。

こういった状況を招いている背景が、あまりにも案件の立ち上げから時間が経ちすぎて、担当者自身も主旨や目的が見えにくくなっていることにあるのなら

・今の状況にいたるまでの経緯

・何度も変更が生じ、なかなか進まない、決まらない理由、原因

をクライアントとともに確認しましょう。

経過をたどることは苦労や問題点を理解し、整理することにもつながります。 しかし、実はこの方法は「間違い探し」や「犯人探し」に似ているため 一歩間違えれば、「言い訳」や「文句」に聞こえてしまうことがあります。 だからこそ、苦労を分かち合い問題点を探るためのものだと前置きしましょう。(かく言う私もこの方法で失敗したことがあるので、いつも慎重に進めています)。

そして、ビジネスを進める過程でクライアントが迷うということは、そもそも解決方法を知らなかったり、あまりに膨大な可能性の中から最善の方法を探りきれていなかったりするのかもしれません。

そのため、できるだけ具体的でわかりやすい提案(解決策や可能性)を3つ程度に絞ることで、クライアントが選択しやすくするといいでしょう。そうすれば、クライアントはどれがいいかを比較検討することができます。

ただ相手の変更に追従するのではなく、変更点に至るまでの経過を整理してくれるパートナー。そちらの方が、クライアントから見れば頼もしいと思いませんか?

③クライアントの現場担当者に決定権がなく、何かあるたびに上司に確認をしないと話が進まない場合

決定権を持っていない人との交渉は、こちらの意図が本当に伝わっているか、あるいは上司の確認をとるまでどれくらい待てばよいのかなど不明瞭な部分が多く、「待つ時間」が長いと感じるものですよね。

拙著『交渉の武器』の中では「交渉のテーブルにつくのは若干名が良い」と書きましたが、こういう場合、私はあえて「できるだけみんなでミーティングしましょう」とステークホルダーが一堂に会せるように調整をすることがあります。なぜなら、チャンスさえつかめれば、決定権を持つ人と直接交渉することができるようになるからです。

また、目の前にいる相手の「決定権を増やす」ことに尽力するのもいいでしょう。決定権を持っていない担当者も、実はいちいち上司に報告することを面倒に思っているかもしれません。自分に権限があればもっと早く仕事を進められるのにと、もどかしく感じているかもしれません。そんな相手の権限を増やすのに有効なのはメールです。

ひとつ例を上げましょう。「来週までに〇〇を決めたいので、■■をしてもらえますか?」と書くことで現場担当者に権限が与えられるのは、■■という事象の部分だけです。

しかし、これを「1ヶ月後までには〇〇を決めたいので、現場担当のAさんと話を進めたいのですが、よろしいでしょうか?」とメールを送るとどうでしょう。プロジェクトのゴール、ここでは「○○を決めること」を上司と共有し、担当のAさんが持つ決定権の自由度をアップさせることができる内容になっていると思いませんか?

AさんはAさんで「担当のAさんと一緒に、ゴールに向かって仕事をすることを求めている」と書かれたメールを、そのまま上司に転送して了承を得ておけば、越権行為と後になって上司から叱責を受けることが避けられます。上司もたびたびAさんから指示を仰がれる手間を省くことができ、仕事全体的には早く進むようになります。

クライアントは、言い換えれば、ともに仕事をする仲間です。自分だけではなく、仲間もみんなが生き生きと働ける環境を作ることは、ビジネスで成果を残すことにつながるのではないでしょうか。

交渉のプロ、ライアン・ゴールドスティンさんに相談したい「交渉シーン」を募集しています(具体的な法律相談はお控えください)。ビジネスはもちろん、家庭内の交渉ごとから交際相手への対応まで、気軽にお寄せください。応募はblogs@huffpost.jpまで。

(編集:榊原すずみ

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