【佐藤優】隠れた人種差別?それは自分の不遇を納得させているだけです。

【佐藤優のお悩み相談室】日本人は隠れた人種差別を持っている?ーー自分の現状に不満がある人で、自分に自信がない人が民族的な差異にかこつけて、自分の不遇を納得させようとしているのです。
佐藤優さん
佐藤優さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

佐藤優さんへの質問

アメリカ追従主義に疑問を抱いています。日本がアメリカにべったりと追従していることをどう思いますか。日本人は、「白人は上、アジアは下」と思っているところはないでしょうか。日本が移民社会になっていく上で、それでいいのでしょうか。日本では、移民受け入れ体制が基本的にないので、特定技能研修や研修制度を作って、移民制度をいびつな形にしています。アジアからの移民なくして成り立たないのが今の日本です。「欧米へつらい主義」から脱却して、アジアで共同体を作っていくべきだと思うのですが、佐藤さんはどう考えられますか?(都内在住、40代男性、コンサルタント)



◆民族的な優劣に不遇の理由を求めていないか
欧米を上に見る、アジアを下に見ているという日本の見えない感情があるという指摘ですが、それは違います。

質問した方の思い込みですね。例えば、IT企業や総合商社ではインド人も中国人もたくさんいます。そこで民族が違うからという理由だけでバカにしているといったことはないと思いますよ。

日本が上、アジアが下と思っている人というのは、自分の不遇を、民族的な優劣に理由を求めているということです。その考え自体が病的です。

自分の現状に不満がある人で、自分に自信がない人が、民族的な差異について言う。民族的や人種的な差異というのはこえられないから。こえられないことが原因だということで納得しているということだといえます。民族的な差異にかこつけて、自分の不遇を納得させようとしているのです。


◆移民は必然。日本が生活水準落としたくなければ

この方が言われている日本の移民社会化についてですが、我々の今の生活水準を維持しようとしたら、移民を受け入れざるを得ないのです。でも移民を受け入れるには、「移民法」が必要です。現状は移民がいないという建前になっているから、移民の権利もなければ、移民に認められないことの規定も何もないわけです。移民は必要ですが、移民を入れるということに対する文化的な摩擦、特に安倍政権支持層の摩擦が強いから特定技能研修制度という形でごまかしてるけれど、いずれは移民法を整備し、移民は入ってくると思います。

人口動態からして移民なしの社会はあり得ません。なぜならば我々が生活習慣を劇的に下げることに耐えられないからです。

日本人が汚くてきつい労働に就いて、しかも生活水準を下げられますか。

日本ではどんどんサービス産業が主流になっていく。サービス産業はデフレの中、低賃金になっていく。製造業も中国や東南アジア諸国との競争でさらに低賃金になる。そういう環境において移民を入れなければ十分な労働力を確保できないことになる悪循環に陥ります。

◆対米従属論の罠とは

Jun Tsuboike / HuffPost Japan


そして、「アメリカ追従主義、アメリカ側に付くのは是なのか」ということに関してですが、前提を申し上げておくと、アメリカは「世界最強国家」です。アメリカ以外の日本と中国とロシアとサウジアラビアとインドとオーストラリアとイギリスとドイツなどが連合軍を組んでアメリカを攻めようと思っても上陸すらできない。それぐらいアメリカの軍事力は圧倒的です。それから、アメリカは米ドルという基軸通貨を握っています。

ですから、アメリカを意識しないでいられる国というのは世界で一つもありません。北朝鮮ですらアメリカを強く意識しながら、アメリカに「追従」した外交をやっているし、イランも常にアメリカを念頭に置きながら外交をしています。

問題は追随の仕方です。日本の追随の仕方は、他の西ヨーロッパ諸国と比べて異常なほどアメリカに擦り寄っているかというとそうではない。ごく標準的なアメリカとの軍事同盟国です。軍事同盟国としてはごく普通のすり寄り方です。

対米従属論を話す時には、注意しなくてはいけないことがあります。日本で語られる対米従属論というのには、ある「鋳型」があります。1961年の日本共産党綱領です。日本共産党綱領で、主たる敵はアメリカ帝国主義と、それに従属する日本独占資本だとしています。

それは何を意味するかというと、日本人の責任の免罪です。どうしてかというと、アメリカという強大な力の前では我々は何も言えません。そのため、全てはアメリカによる事象なのですといえば、日本の政府の責任を免罪する機能があるわけです。
ですから、僕は対米従属論に対しては非常に厳しい態度で臨んでいます。

このように、対米従属論というのは、責任回避の要素があると考える方がよいのです。そのため、非常に危ないと思っています。日本人の責任回避が底流にあるからです。

例えば、今回の自衛隊の中東派遣。日本として調査、情報収集のために日本政府の判断で行くわけです。
アメリカと関係なく出ているから日本の責任です。安倍政権というのはそういう意味では対米自立をかなりしてきているといえます。この方が正しいわけです。

ロウハニ・イラン大統領の来日はアメリカは反対したが、日本は受け入れた。それから北方領土交渉に関してもアメリカの意向とは違う方向で動いている。それから、習近平・中国国家主席を国賓として迎え入れて、おそらくは第5の政治文書を作ることになる。安倍政権は、今までの政権より対米自立性をかなり発揮しているといえます。

このように、日米同盟を基本とした上で、日本は日本の独自性を発揮してくというのが基本的な方向ではないかと思う。

◆アメリカ主導はいつまで

ブロックチェーンなどの新しい通貨の流通も広がってはいますが、それが主流になるにはまだ時間がかかります。ブロックチェーン技術はスタートしたばかりで、米ドルの基軸通貨としての地位を脅かすというのは、まだまだ遠い未来の話だと思います。

今、何十年の予測は誰もできないから、何十年先とまでは言えませんが。どうしてかというとスマートフォンの登場というのを登場の10年前に完全に予測できた人はいないわけだから。しかし、予見される未来というのは今は5年程度でしょうか。それより先の予測は今はテクノロジーが急速に進歩しているからわからないです。

ドル基軸でブロックチェーンが流通の主流になったとしても、最終的には国家機能はあるわけです。ドルは最終的に金塊で担保されている、金本位制というのは本質に置いてまだ生きています。最終的には価値というのはただ皆が認めたから価値ではなく、金という物によって担保されていなければいけない。

5年先以上は分からないと言えども、やはり国家が担保している通貨というのは何か一つは基軸になって残る。それがドルとして残るのではないかと思います。
(編集・構成 ハフポスト日本版 井上未雪)

「知の巨人」と呼ばれる佐藤優さんに、モヤモヤした気持ちや悩みをぶつけ、解決の糸口となるアドバイスをうかがいます。今見えている物事の底脈には何があるのか。佐藤さん独自のインテリジェンス視点で、考えるヒントを見つけたいと思います。

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