フランス移住してみたら、子育て中の女性の7割がフルタイムで仕事をしていた。日本と何が違うのか?

「ワーキングマザー大国」のフランスの幼稚園事情や学童の充実ぶりについて、お伝えします。

年が明けたと思ったらもう2月の後半、年度末の気忙しい季節がやってくる。4月から職場復帰という人にとっては認可保育園の選考結果が気がかりな時期。幼稚園に子どもを入れる人たちはその準備に追われている頃だろう。

私が暮らすフランスは、欧州トップレベルの出生率を誇り、子どもを持つ女性の約7割がフルタイムで仕事をする「ワーキングマザー大国」だ。日本では、仕事をしながら幼稚園に通わせるというのはハードルが高いが、フランスでは、3歳以上は全員が幼稚園に通う。一体どうしたら、そんなことができるの?と思われるかもしれない。そこで、「ワーママ」として日仏双方の幼稚園を見た経験を基に、今回はあえて保育園ではなく、フランスの幼稚園事情をお伝えしたいと思う。

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▽「メルシー」と「ボンジュール」しか話せない息子とともに片道切符でパリへ

私は2018年8月、仏企業で働く日本人の夫と5歳の息子とともにフランスに移住した。東京で借りていたマンションを引き払い、フルタイムで勤めていた職場も退職。家族3人、片道切符でパリに渡った。一番気がかりだったのは、小学校入学を控えた子どもの教育。他国と同様、日本人学校、インターナショナルスクール、現地校、と大きく分けて3つの選択肢があるが、今後のことも見据え、わが家は現地の幼稚園に入れることにした。お世辞にも流暢とは言えないフランス語で、苦手なお役所での登録と、プライドが高そうな園長先生との面接をなんとか済ませ、渡仏から1週間後、「ボンジュール(こんにちは)」と「メルシー(ありがとう)」しか知らないシャイな息子とともに、100%フランス語の現地校生活が始まった。

▽義務教育年齢が3歳に引き下げられ、幼稚園も「義務教育」に

フランスの幼稚園は「保育学校」と呼ばれ、3歳児から5歳児が通う3年保育の教育機関。日本の場合、一般的に、フルタイムで仕事をする母親は保育園、専業主婦やパートタイムは幼稚園という棲み分けがあるが、フランスでは、保育園は0歳児から2歳児までで、母親の仕事の有無にかかわらず、3歳になれば全員が幼稚園に通う。2019年9月には、これまで6歳だった義務教育年齢が3歳に引き下げされ、幼稚園は完全に義務教育の場となった。

そして、フランスの公教育では、「無償」と「非宗教」が大原則。学費は無償で、給食費と預かり保育(学童)費のみ、世帯年収や家族構成に応じて支払う仕組みだ。たとえば、パリ市の給食費は、世帯年収と家族構成によって10段階に分かれており、最低価格は1食あたり13セント(約15円)、最高でも7ユーロ(約840円)となっている。

私立幼稚園の大半はカトリックだが、公立では宗教に関わらず多様な子どもたちが集まる。フランスの幼稚園では、初等教育の場として、日本であれば小学校1年生で始まる読み書きなどを習う。日本でいう“年中”にあたる学年ではブロック体、“年長”になれば筆記体といった具合だ。お遊戯や絵画、制作活動などは日仏共通だが、学期毎に担任が子どもの能力を評価し、通知表を渡すのはフランスならではかもしれない。

▽日本では大きな問題になる「3歳の壁」が存在しない

多くの場合母親が仕事をするには、子どもの預け先の確保が大前提になる。しかし、日本では、その大前提すら困難になることが多い。

専業主婦期間を経て、息子が1歳半のとき、3年ぶりに東京でフルタイムの職に就いた私は、保育園探し、小規模保育園卒園後の預け先、仕事と幼稚園生活の両立、長期休暇の学童探し、といくつもの壁にぶつかり、その度に冷や汗をかいた。そんな日本で直面する壁の中でも、フランスには全くないのが「3歳の壁」。つまり、対象が2歳児までの小規模保育園に通っていた園児が3歳になったあとの預け先が十分になくて困る、という事態がフランスには存在しないのだ。

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日本の場合、保育園にも、認定こども園にも空きがなければ、幼稚園が選択肢となるが、日本の幼稚園はフルタイムで仕事をする母親を想定していないため、保育時間が短く、仕事との両立が困難になるケースが多い。仕事を続けるためには、時短勤務にする、シッターを雇う、あるいは民間の学童施設に預けるなど個人で対処しなければならず、経済的にも精神的にも負荷が大きい。職場やパートナーの理解が得られなければ、キャリアを諦めなければいけないことさえある。

また保育園に入れないため、幼稚園に入る児童は「待機児童」としてカウントされていないので、この「3歳の壁」問題は表面化しにくい。

一方、フランスでは、義務教育化以前から、3歳児の97%以上が幼稚園に通う。もちろん、フルタイムで働くワーキングマザーの子どもたちも然りで、3歳児以上の待機児童はいない。

フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、フランスでは、子育て中の女性の約7割がフルタイムで仕事をしている。それを後押ししていると思われるのが、幼稚園の仕組みだ。

フランスの幼稚園は、日本と比べ保育時間が長い。日本の幼稚園は通常14時頃までで、その後の預かり保育については園の方針によって異なる。一方、フランスは幼稚園自体が15時あるいは16時半までで、放課後は、どの園でも原則として18時半まで園内で預かり保育が実施される。全ての幼稚園が、保育機能を備えた「認定こども園」というイメージだ。

▽子どもは手ぶらで登園。親はお弁当を作る必要なし。

保育時間の長さ以外にも、日本と比べるとフランスでは、親の負担が圧倒的に少ない。

子どもは毎朝、手ぶらで幼稚園に行く。コップやタオル、体操服などを準備する必要もなければ、早起きしてお弁当を作ることもない。手作りのお弁当が愛情という神話がいまだに根強い日本とは対照的に、フランスでは食堂で給食が提供される。前菜、メイン、チーズ、デザートというコースで、仔羊のグリルや仔牛のクリーム煮など、献立表を見ていると、大人でも思わず舌なめずりするメニューだ。

全てではないものの、有機食品も積極的に取り入れられていて、食への意識の高さを感じる。

さらに、保護者の出席が必要な行事が格段に少ない。園によって多少異なるものの、年度始めの保護者会と、学期末のオープンスクール、年度末のお祭りぐらいだ。園外ではお誕生日会に呼んだり呼ばれたりすることで親同士の交流もあるが、園での行事は驚くほど少ない。

毎週のように園内で保護者参加の行事があった、日本の感覚がしみついた私としては、園内での子どもの様子が気になり、校長先生に見学させてほしいと頼んだのだが、逆に断られてしまったほど。親としては寂しさもあるが、教師と親双方の負担を減らすことを考えれば合理的なのかもしれない。

▽園児向けの学童が充実。料金も日本と比べ、かなり良心的

フランスの幼稚園に通わせて一番驚いたのは、放課後や長期休暇の学童といった、いわゆる預かり保育の徹底ぶり。フランスは「バカンス大国」だけに、学校の休暇も多く、2ヶ月間の夏休み以外にも、イースター休暇やスキー休暇など、7週間毎に2週間の「スクールバカンス」が次から次にやってくる。仕事を持つ母親はいったいどうしているのだろうと思われる読者も多いだろう。実際、私も日本で仕事をしているときは、長期休暇の預け先に頭を抱えていた。

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フランスはその点、自治体による学童が充実している。自治体による学童と言っても、各幼稚園内で実施されるため、親が幼稚園に迎えに行き、別の場所へ送り届ける必要がない。パリ市の場合、学期中の放課後はもちろん、春休みや夏休みといった長期休暇も平日は毎日朝8時30分から18時30分まで実施され、利用したいときだけ利用できる便利な仕組みだ。

プログラムも多彩で、絵画や工作といったアトリエがあったり、美術館や映画館へ出かけたりするのは、いかにもフランスらしい。プールや運動のできる公園に行ったり、また専用バスで遠方の自然公園や農場へ遠足に行ったりするので子どもも飽きることがない。

給食費同様、学童についても世帯年収や家族構成によって10段階に分かれていて、朝8時半から18時半までの終日利用、昼食付きで1日当たり最低価格が47セント(約56円)、中間値で8.07ユーロ(約968円)、最高でも26.30ユーロ(約3156円)だ。貸し切りバスで遠足に行っても、追加費用はかからない。

園児対象の公的な学童が十分になく、夏休みの1ヶ月ほどで少なくとも10万円の出費は覚悟しなければならない都心の民間の学童と比べると、その違いに目を見張る。

もちろん、フランスの幼稚園がバラ色、フランス万歳、というわけではない。フルタイムで働く親にとって18時半にお迎えに行くこと自体容易ではないし、フランス人お得意のストライキによって、学校が突然休校になったり時間短縮になったりすることもある。日本同様フランスでも、家事の負担割合は依然として女性の方が多く、「ワーママ」は息をつく暇もない。それでも、3歳児以降の教育と保育だけに焦点を当てれば、フランスのシステムは日本のそれよりずっとわかりやすく、母親の負担も圧倒的に軽い。フランスの幼稚園制度と学童の充実ぶりには、今でも狐につままれたような気分になる。

【参考】

■女性の就業率

フランス国立統計経済研究所 (INSEE) HP

■パリ市の給食費

パリ市HP

■パリ市の学童費

パリ市HP

*料金の円換算は、いずれも、1ユーロ=120円で計算しました。

(編集:榊原すずみ

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