「アロマオイルを届けるために死にたくない」倉庫で勤務する従業員の今 アメリカ

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、小売業はネット販売が生き残る道だとみている。しかしその倉庫で働く従業員らは、彼ら自身が生き残れるのか、不安に思っている。
倉庫で働く従業員 イメージ写真
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Jacobs Stock Photography Ltd via Getty Images

アメリカの家具店「ピア1インポーツ」にとっては、今は商売は活発ではないはずだ。同社は新型コロナウイルスの感染がアメリカで広く拡大し、一時的に店舗閉鎖を強いられる前の2月に、破産申請をしている。

それでも、オハイオ州・コロンブスにある同社の倉庫は現在フル稼動している。従業員はハフポストUS版に、同倉庫では1日通常1000〜1500件のところ、現在は5000〜6000件のオーダーに対応しており、需要に応えるため多くの臨時スタッフを雇っているという。

従業員は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、多くのスタッフが残業をしていると話し、このパンデミックの中、同社が販売しているキャンドルや人工観葉植物がどれだけ重要なのか疑問を感じている。

「これは今、不可欠なものではありません。アロマオイルを届けるために死にたくはありません」。報復を懸念し匿名を条件に答えてくれた従業員は話した。

ネット販売に移行する小売業

新型コロナウイルスの感染拡大は、小売業界に特に大きな打撃を与えている。スーパーや日用品店、大きなチェーン店などは営業しているが、「不要不急」な家具を販売する「ピア1」は、外出禁止令が出ている州では店を閉鎖しなければならない。全てではないが、多くのチェーン店が予防措置として国内全店舗をすでに閉鎖している。

だからといって、営業自体が止まっているわけではない。「不要不急」ではない商品を販売する企業は、生き残るためにオンラインショッピングへと移行している。ネット販売は、先が見えない期間を企業が乗り越える手助けをしている一方、他のスタッフが在宅勤務や休暇をとる中、倉庫スタッフなどは労働を続けなければならない。

数社の従業員はこの数日、ハフポストUS版に、倉庫での人混みや不衛生さに不安を感じていると語った。また、専門家がソーシャルディスタンス(感染を防ぐために人と距離を置くこと)を推奨しているのに、なぜ企業はまだ営業しているのか、と不安を口にした。

倉庫で働き続けるスタッフは...

一連の作業機能がある倉庫は通常、数十人から数百人が同時に働いている。休憩室や、シフト交代時のエントランスはスタッフで混雑し、フォークリフトやカート、テープなどの器具をシフト間で共有している。それらは全て、多くの人が頻繁に触るもので、細菌が付いている可能性もある。

また、客による分別のない注文に幻滅している。彼らはその為に出勤し続けなければならないからだ。例えば、こういった公衆衛生上の危機で必要とされる食料品や日用品を販売するAmazonは「必要不可欠」と認識されている。

しかし、不可欠ではない商品を販売する企業のオンラインストアも、配達に通常より時間がかかる可能性があるにも関わらず(倉庫は日用品を優先的にストックしている)、注文を受け付けている。そういった傾向もあり、Amazonの顧客は自宅待機の中、熱心に買い物をし、同社は需要に対応する為に10万人の新たな従業員を雇用するという。

「約25%の私の同僚は、有給か病気休暇を使って家にいる、と言っています。そうでない人たちは、『なんで働いてるんだろう?』と感じています」と、アート画材ショップ「マイケルズ」傘下のオンラインショップ「ダリス」で働く従業員は話した。マイケルズは、このパンデミックの中で、外出禁止令が出ている州でも店舗を営業していることに対して従業員から強い批判を受けた。ハフポストUS版の取材メールに対し、3月30日までに返答は得られなかった。

ダリスの従業員は、オハイオ州・ストロングビルの倉庫で働く多くのスタッフは、グローブも着用しておらず、清掃用品も少ない為、スキャナーの清掃のために同僚がショップに除菌シートを買いに行ったほどだという。従業員らは倉庫内で何を触っているかなどと意識したこともなく、それらの商品が特に「不可欠」でないということも認識していない。

「はい、グリッターです。造花もどうぞ」。パンデミックの中、発送を準備するときに彼女は思うという。「このどれも...今日発送準備したもののうち、必要不可欠なものなんて1つもありません」

倉庫で働く従業員たち イメージ写真distribution warehouse
倉庫で働く従業員たち イメージ写真distribution warehouse
Alistair Berg via Getty Images

働き続けるか、辞めるか

ダリスの従業員は、ショップが顧客に送った「オハイオの流通センターは”任意に基づき”営業を続けます」というメールに苛立ちを隠せなかった。まるで、従業員は希望した場合のみ働くかのようだ。しかし、働くのは経済的必要性があるからだ、と彼女は話す。”任意”で勤務しなかった人たちは、貯めていたあらゆる有休を使ったり、もしくは無給を選択しているという。同施設での時給は約12ドル(約1300円)からスタートするそうだ。

多くの州が「不要不急」の店舗の閉鎖を要求しているが、多くの企業が洋服やスポーツ用品、家具やインテリア用品などをオンラインで販売・発送している。しかし、全ての企業がそうである訳ではない。女性用高級ファッションのオンラインストア「ジ・アウトネット」は最近、一時的に倉庫を閉鎖したことをとウェブサイトで発表した。

しかし、他の多くの倉庫では通常営業だ。外出禁止の中で外出していることに対し、万が一警察に質問された時の為に提出できるよう、多くの従業員は企業から書類を配布されている。

それらの書類は「交通従事者」への例外に依存していることが多い。カリフォルニアでは、「卸売りまたは小売店販売・利用のための冷蔵・保管・梱包・物流管理、流通企業の従業員」を例外としている。小売店は物流管理が必要だが、しかしそれらは輸送サービスなどのような「不可欠」な用途のためではない。

他にも、高級家具チェーン店「レストレーション・ハードウェア」は、店舗は閉鎖しているが、コールセンターや流通センターは営業を続けている。商品を港から動かすために営業を続ける必要があるという。

カリフォルニア州の倉庫でマットレスやソファの配送をしている従業員は、「不可欠とは思えない。こんな中、働いていて幸せな人はいないけど、働き続けるか、辞めるか、それしか選択肢はない」と話す。

従業員は、施設は定期的に消毒されている、と管理者は話すというが、その様子を見たことは一度もないという。

何が「不可欠」なのか?

家具店「ピア1」のオハイオ州のスタッフが会社から受け取った書類には、州の外出禁止令から「交通や物流提供者」として免除されていると記載されているという。しかし、オハイオ州ではその中でも特に「航空会社、タクシー、交通ネットワーク提供者(Uberなど)、車レンタルサービス、補助的交通機関、港、波止場、ボート保管場」と提示している。その他の物流提供者は、「不可欠な活動に必要な場合」のみ免除される。

ハフポストUS版に提供された写真では、ピア1のスタッフはシフトの開始と終業時に集合し、休憩時は3〜4人のグループで、多くはお互い30センチも離れず着席している様子が見られる。ハフポストUS版の取材メールに、ピア1から3月30日までに返答は得られなかった。

スタッフによると、彼らはグローブを着用しておらず、管理者は塗装工用のマスクを配布しているが、全員に行き渡るには不足しているという。

「もしこれが自分の倉庫だったら、みんなを家に帰すでしょう」と従業員は話す。「もし私たちが、食料品や健康・安全を守る医療品などを扱っているのなら話は別です。でもナプキンホルダーや籐イスなど、現在必要不可欠ではないもののために、ここまでする価値はありません」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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