ライブハウスは「補償がないと100%潰れる」 危機に立つ店長が語る、「投げ銭」の次にやるべきこと

新型コロナウイルスの影響で苦境下のライブハウス。危機に立たされた四谷アウトブレイク店長の生の声。
四谷アウトブレイクの店内。フロアで生配信の準備を行い、ステージ上のテントで店長の佐藤さんは寝泊りをしている。
四谷アウトブレイクの店内。フロアで生配信の準備を行い、ステージ上のテントで店長の佐藤さんは寝泊りをしている。
四谷アウトブレイク提供

新型コロナウイルスによるイベント中止が続く音楽業界だが、ついに閉店するライブハウスが出てきてしまった。4月6日、東京・池袋のライブハウス「CANOPUS」が、新型コロナウイルスによる売上減少で、4月末で閉店することを発表。4月7日には四谷三丁目の「Live space anima」の閉店・撤退も明らかになった。SNSでは、アーティストやファンの間で無念の声が広がっている。

この状況は、多くのライブハウスにとって他人事ではない。

現在ライブハウスは、クラスターの発生源になりうる「3密」に該当する場所として、ナイトクラブ、劇場などの文化施設と同様に利用者に自粛を求めているため、実質的には営業を休止せざるを得ない状況だ。それでも家賃などの固定費や従業員の休業手当が発生するが、公演を中止することで収入源は断たれてしまう。

音楽家団体「セイブ・ザ・リトルサウンズ」による新型コロナ感染拡大の影響を尋ねた調査では、ライブハウスやクラブを運営する計283の事業者のうち、約95%に当たる270事業者が「減収になった」と回答。今後の見通しを尋ねた項目では、「3カ月持つか分からない」が48%。「1カ月持つか分からない」も20%に上った。

東京・四谷にあるライブハウス「アウトブレイク」の店長を務める佐藤“boone”学さんは、「うちも運転資金はあと2〜3カ月で確実に底を尽きる。仮に今乗り越えられたとしても、今後のスケジュールが埋まらない状況では、店を続けていくことは非常に難しい」と話す。「アウトブレイク」では現在、オリジナルグッズや後々使えるドリンクチケットの通販、YouTubeチャンネルでのライブ生配信や、視聴者が自由に金額を設定できる「投げ銭」(スーパーチャット)などで、どうにか資金を賄っている状況だ。また、佐藤さん自身も、ライブハウスに一人住み込んでその様子を生配信することで、支援を募っている。

佐藤さんは全国のライブハウスのYouTubeチャンネル登録を呼びかけている。
佐藤さんは全国のライブハウスのYouTubeチャンネル登録を呼びかけている。
四谷アウトブレイク提供

全国のライブハウスが、この危機的な状況を打破すべく動き始めている。

その一つとして多く用いられているのがYouTubeチャンネルでの投げ銭だ。佐藤さんが制作した、全国のライブハウスのYouTube公式チャンネルをまとめたリストによると、4月9日現在で、東京都内では71カ所のライブハウスが導入している。YouTubeでのチャンネル開設は比較的容易にできるが、スーパーチャットを使用するには、チャンネル登録者数が1000人以上、再生時間が4000時間以上であることなどが条件であり、まずこれをクリアしなければならない。

「アウトブレイク」では、以前よりYouTubeチャンネルを持ち、レコーディング環境も整っていたため、必要な機材はある程度揃っていたという。ただ、接触人数が増えることから外部にお願いすることはせず、通常業務であればバーカウンターで接客をしているスタッフなどが、カメラを手に取りライブを撮影している。

「ライブハウスやミュージシャンの中からは、『生の体験を売る側の人間が、ネットで映像配信するのはどうなんだ』という反対の声も聞きます。また、実際やるとしても撮影の機材やノウハウがないライブハウスもあり、ただでさえ収入がないのに、初期投資や人件費にかなりお金を持っていかれてしまう。音・映像の面でクオリティの担保もかなり難しいです。『アウトブレイク』では、配信環境のないライブハウスのために場所と機材を貸すということも始めました」

佐藤"boone"学店長
佐藤"boone"学店長
四谷アウトブレイク提供

「アウトブレイク」には現在多くの支援が寄せられているが、佐藤さんは今後は「投げ銭」以外の仕組みを考えていかなければならないと指摘する。

「4月1日より資金獲得のために動き始めましたが、ありがたいことに多くの方に購入していただいています。ミュージシャンたちも厳しい状態だと思いますが、まずは自分たちの場所を守ろう、音を鳴らせて嬉しいと、投げ銭での収入もすべて寄付してくださる方も多いです。

しかし今の状況が続くのもあと1週間程度で、今後は『気持ちでお金をください』ではなく、『作品を提供するので、それにお金を払ってください』というフェーズになっていくはずです。これからは、映像作品や音源などライブハウスでできる音楽コンテンツを作っていかなければならない。今は、ライブを撮影・レコーディングし、しっかりと編集やミックスをして生配信よりクオリティをあげたものを販売するために試行錯誤で準備しています。現状、仲間やお客さんなど周囲に助けられている状況ですが、その外側である自治体や政府のサポート、補償がないと、100%潰れます。先が見えない状況が続けば、借金を重ねるのではなく『もうここでやめておこう』と心が折れてしまうライブハウスが出てくる」

また、「アウトブレイク」は、家賃の減額や支払猶予を大家に交渉したが、断られた。その理由として佐藤さんは「早い時期にライブハウスから感染者が出てきて槍玉にあげられてしまったことで、ライブハウスに対するイメージが悪くなってしまった。大家さんには、これだけニュースで報じられているのだから一切応じないと言われてしまった」と話す。

政府は、店舗などが入るビル所有者に対し、賃貸料の支払い猶予に応じるよう柔軟な対応を要請しているが、オーナー側が応じるとは限らない。ライブ業界全体への風評被害については、他の経営者からも懸念の声があがっている。

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