ロックダウンから段階的解除へ向かったデンマーク。その記録と気づき

ロックダウンの段階的解除とその背景、そしてロックダウン中、人々は何をしていたかについて、わたしの読んで集めた情報を紹介します。
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Alexander Spatari via Getty Images

〈コロナ関連の情報は、日々もううんざりするほど目にしていますが、デンマーク社会がどうなっているのかについて少し書いてみるのも良いかもしれないと、ロックダウンが解除されつつあるこの時期、ふと思うようになりました。この記事もいつかは笑って読める時がくるのだろうかと思いつつ、わたしの読んで集めた情報を紹介します。〉

ロックダウン4-5週間の間に起こった様々な変化 in デンマーク

3月11日の夜、デンマーク国内はロックダウンが始まった。あらゆる公共施設、保育所、学校、ショッピングセンター、レストラン、美容院やマッサージ店、スポーツ施設などがこれを受けて閉鎖。医療や介護、スーパーマーケット、運送業、公共交通機関などごく一部の社会にとって重要な業務を除いて、多くの人々はテレワークとなった。

ロックダウン中は、多くのレストランやカフェは店舗を閉鎖しつつもテイクアウェイのみで営業を続け、学校はオンライン授業に切り替わった。デンマークのロックダウンが他国と少し違ったのは、人々がまだ買物や散歩に自由に行けたということがある。不特定多数の人々との接触は極力避けなければならない状況でも、常に2メートルのソーシャルディスタンスを保てば、屋外へ出ることはむしろ推奨されていた。人々は春の日差しと新鮮な空気を求めて、海や湖、森や公園へとよく出かけたようだ。郊外や田舎にサマーハウスを所持する人々は、そちらへ家族で移動し、テレワークを続けていた人も多かったそうだ。

ロックダウン中もメッテ・フレデリクセン首相の記者会見は週に1度のペースで行われ、それ以外にも保険局や厚生省による会見などが頻繁に行われている。ロックダウンが始まった時には、フレデリクセン首相が子どもたちに向けた会見を行ったことは日本でも少し話題になったようだが、その後も回を重ねるごとに、彼女への国民の信頼は大きくなっている。ロックダウン以前は39%だった支持率が、現在ではなんと79%。人々は、フレデリクセン首相の非常事態の対応にとても満足している様子だ。

ニュージーランドの首相ジャシンダ・アーダーンとも電話で連絡を取りながら対策を考慮しているともいわれているメッテ・フレデリクセン首相。女性リーダーは世界的にもその判断が迅速なだけでなく、国民への高い共感力があると述べている記事もある。

とはいっても、もちろんデンマークもコロナ禍による経済的打撃はある。政府は支援策として、給与の一部を負担する案を発表し、雇用者が従業員を解雇せずに危機を乗り切るよう求めてはいるが、それでも失業者登録者数は増加している。3月15日以降、失業登録者数は4万5千人増の17万6千人(デンマークの人口は570万人)。75%の企業が売り上げが減少したと報告している。

ロックダウンの段階的解除とその背景

そんな中、デンマークは4月6日の首相会見で、翌週から一部のロックダウンを解除する方針を明らかにした。まず再開が開始されたのは、保育所、幼稚園、学校教育の一部(プレスクールから5年生)。これらの施設はイースター開けの14日火曜日から準備を始め(テレワークではイースター休暇中も常に行われていたが)、15日から少しずつ子どもたちの受け入れを開始した。それでも、子ども一人につき2メートルの距離を屋内外共に保ち、決まった子どもと決まった遊びしかしてはいけないという条件のもとにだ。

4月20日からは、美容院やマッサージ店、歯科医、理学療法士、タトゥー店、自動車教習所など、小規模で顧客と接するサービスの再開を決定。このように段階的に、少しずつ解除が広がってきている。

この決定は多くの専門家による判断が元となっている。国立血清研究所は各大学や研究所から、数学、コンピューターサイエンス、保健科学、理論物理学、疫学、統計学といった専門家と医師による専門家集団を構成し、そこで分析された結果が政治判断の根拠となっている。

とはいえ、時間的にもサンプル数的にも不確定な要素が多いのはだれもが知るところ。そのような前提でも、デンマークは専門家が数値を分析した結果、段階的な解除を決定することとなった。

この判断の具体的根拠となったのが、リプロダクションレート/リプロダクティブナンバー(注:元記事のデンマーク語“smittetryk”、英語では“reproduction rate”, “reproductive number”等と呼ばれているとのこと。以下「伝染可能数」と訳す)という数値。これは筆者が参考にしたデンマーク語の記事によれば「一人の人間が何人に感染を広げるかを示す数値」だそうだ。専門家によると、感染予防の対策を一切講じなかった場合の伝染可能数は2.5、つまり一人が2.5人にうつすという意味で、この割合で感染者が増えていくと、爆発的に増加するそうだ。ロックダウン4週間後、この伝染可能数は0.6まで下がったそうで、1になった時点で、専門家は段階的なロックダウン解除が可能だと判断したそうだ。

学校や保育施設等を再開すれば、当然感染者は減少しないが、これも専門家にとっては想定内のようだ。現時点では、この伝染可能数は1.23辺りになると想定されており、感染者数のピークは5月上旬頃にくると試算されている。その時点でも医療機関の病床数は、集中治療も含めて足りるという計算なのだという。もちろん不確定要素も多いため常に感染者数の推移に目を光らせながら、日々調整していくことになるのは間違いないだろう。医療崩壊が最も恐ろしいシナリオであるので、そこを見極めての判断であるなら、子どもたちを送り出すことに、あまり不安を持たなくても良いのかもしれない。


ロックダウン中、人々は何をしていたか

デンマークはこのようにして、ロックダウンを段階的に解除し始めているが、この4-5週間、人々がどのような生活をして何を求めていたかも少し紹介したい。まずネットショップの売り上げが大きく増加している(前年同期比50%増)。常にブラックフライデーのような状態なのだそうだ。宅配業も繁忙期が常に続いている状態。唯一の大手ネットスーパー“nemlig.com”はコロナ禍で顧客数が10倍(前月比)に膨れ上がったそうだ。

さらに以下のような調査もある。「価格ドットコム」に相当するデンマークのサイト“pricerunner.dk”で、人々が3月16日から22日の間に最も多く調べたものは、次のようなものだった。

1.マスク
2.アルコールハンドジェル
3.ペットフード
4.セックス玩具
5.筋トレグッズ
6.ジグソーパズル
7.ウェブカメラ
8.消毒剤
9.体温計
10.子ども靴

デンマークではマスクを使用している人はほとんどいないにもかかわらず、やはり気になるのか多くの人々が検索している様子。9位の体温計は、ドラッグストアに相当するMetasでは売り上げが前年同期比で1200%増だったそうだ。

4位のセックス玩具も興味深い。デンマークではロックダウンが宣言された2日後の金曜日、ポルノサイトへのトラフィックが10%アップしたそうだ。またこのロックダウンの期間中も、セックス玩具を販売しているネットショップでは、カップルで使用する玩具の売り上げが増加しているという。

だが、仲の良いカップルだけではない。離婚を検討している人々も同時に増加している。同時期の検索ワード「離婚用紙」は170%増、「離婚弁護士」は120%増だったそうだ。

最後に少し面白い変化を少し。このロックダウンの影響でビールの消費が40%も落ちているそうだ。10人以上の集会が禁止となり、この日差しが眩しく心地よい季節、人々が外で集まってお酒を飲むことも多い時期だけに、大きな減少となったのかもしれない。そして同じように40%の減少があったのが家庭医への訪問だ。人々は今は病院に行く時期ではないと判断したようだ。ある医者はなんと95%もの患者数減があったという。常々ちょっとしたことでは医者に行かない(というか予約をしようとしても電話受付で訪問を止められるといった方が良いのだが)デンマークの人々。今は、必要な人に譲ったのか、それとも感染を恐れての行為なのかは定かではないが、普段からインフルエンザも持病等がなければ自分で治すことに慣れている人々らしい行動ともいえる。



そして最後に、このコロナ禍で非常に頻繁にテレビに登場する、保健局長の名前もよく検索されているそうだ。そして彼の配偶者がどんな人かを検索する人も多いようで、なんと850%増となっているのだとか(おそらく以前は0だったのだろうけれど)。暇だと色々気になることが増えるのだろうか・・・。

〈以上、コロナウイルス禍にあるデンマーク社会の変化についてお伝えしました!〉

(4月19日現在デンマークコロナウイルス感染者:7384人、治癒者:4141人、死亡者:355人、検査数94277 この情報はこちらから)
(デンマーク政府による事業主への支援額は4兆7千億円)


参考資料

(2020年04月20日のさわひろあやさんnote掲載記事「ロックダウン期間中のデンマークの話。」より転載)

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