急成長の中国ネトゲが日本で猛攻勢 コロナ禍で「プレイ時間も課金も増えた」

中国では、未成年のプレイ時間や課金を制限する規定ができた。日本市場での勝敗は会社の今後を左右する。

「プレイ時間は伸びた。課金額も増えた。ついでに太った」

ある中国人オタクは嘆く。新型コロナで「ステイホーム」が広がり、家にいることが当たり前になった。パソコンやスマホを見れば、大人気ゲーム「王者栄躍」がちらつく...

中国では、外出制限で外に出られない若者たちを救った(?)ネットゲーム業界が好調だ。その再現を狙おうと、日本で今、中国発のネットゲーム企業がユーザーの獲得攻勢を強めている。

スマホゲームで対戦する中国の若者
スマホゲームで対戦する中国の若者
LightRocket via Getty Images

■暇を持て余した中国人たちの遊び

「プレイ時間は増えたね。ずっとバグが出たまま治らないのもあったけど」

「(やりすぎて)眼に影響が出ているかも。あとは精神面」

「家にいるときは、ゲームをやるかニュースを見るか。視力と頚椎が大変です」

これは、筆者が友人に頼んで中国人ネットゲーマーの声を集めたところ、寄せられた体験談たちだ。

ほぼ全員がプレイ時間は「増えた」と答えた。体重も同様に増加したというが、危機感を抱きつつもやはり画面に向かってしまうのがゲーマーの悲しい性だ。

彼らのように、暇を持て余した結果、いつも以上にゲームに没入してしまうプレイヤーは増えている。

中国・伽馬データ(CNG)の調査結果によると、モバイルゲーム市場は1年前の同時期と比べて49%の成長を記録。収入総額は550億元(約8300億円)と史上最大の規模に膨れ上がったという。

ユーザー数も去年より10%以上増加していて、これまでゲームをやらない人も、暇つぶしに始めるケースが多かったことがうかがえる。

あるプレイヤーは「ライト層のプレイ時間が増えたんだろうな。老肝帝(ネトゲ廃人)はもう変わりようがないからね」と推測する。

飲食や映画産業など、中国全土で経営にダメージを受けた企業が多いなか、ネットゲームは「追い風」が吹いた珍しい業界といえる。伽馬データによると、中国の株式市場に上場しているゲーム会社10社の株価は、全体の株価が大きく下落するなかで上昇カーブを描いてみせたという。

伽馬データはこのため、「オフラインでのコミュニケーションがなくなるなか、ゲームは重要な代替品の役割を果たした。経済的、社会的な貢献は無視するべきではない」と結論づけている。

■日本も厳しい環境

外出制限が緩和されつつある中国とは対照的に、日本は緊急事態宣言を延長した。「ステイホーム」がしばらく続くのを見越して、中国発のゲーム会社は投資を拡大するつもりだ。

2018年に日本で「ドールズ・フロントライン」をリリースした上海市の「散爆網絡科技(サンボーン)」の黄チュウ(“羽”の右に“中”)社長は、新型コロナの影響で「中国ではユーザーが2割から3割は増えた」と明かしたうえで、今の日本も「中国と似た環境にある」と商機を見出している。

サンボーン・黄チュウ社長(ズームの取材画面)
サンボーン・黄チュウ社長(ズームの取材画面)
zoomの取材画面

「ドールズ」は2016年に「少女前線」という名前で中国で始まり、2018年に日本進出を果たしたゲームだ。第三次世界大戦後という設定を舞台に、プレイヤーは民間軍事組織の指揮官になりきって任務をクリアしていく。

少女前線(ドールズ・フロントライン)のロゴ。中国とは名前が異なる
少女前線(ドールズ・フロントライン)のロゴ。中国とは名前が異なる
上海散爆 提供

中国版でも日本人声優が日本語で音声をあてていて、中国のファンの心を掴んでいるという(黄社長曰く「日本の声優はスターみたいな存在」)。

日本版のリリースから1年半。具体的な収入などは非公開だが、黄社長は「日本でビジネスをするのは初めて。日本の会社とやりとりすることも、仕事のプロセスも模索段階だった。複雑な市場だった」と必ずしも順調ではないことを示唆する。

日本ユーザーの嗜好を把握することと並行して、「サンボーン」に立ちはだかるのは競合の多さだ。サイバーエージェントなどが成長を続ける一方、DeNAmixiなど、人気タイトルを保有する企業でも、競争の厳しさゆえに収入は減少傾向だ。

それでも、投資を続ける方針には変わりない。黄社長は「リスクを取らないことには成長はない。ユーザーが多い時には、積極的にゲーム内イベントを企画する。ファンが増えれば、アニメ化やコンサートの開催など、違う領域にコンテンツを広げ、また新しいファンを獲得するつもりだ」と意気込んでいる。

■ゲーム規制の影響は?

サンボーンのように、飛び抜けて強力なタイトルを持たない会社には、日本と中国いずれの市場でも厳しい競争環境で生き残ることを強いられる。

ましてや中国では、2019年11月に未成年のネットゲームのプレイ時間や課金を制限する規則が生まれた。黄社長は「政府の決定には協力する。プレイ時間に影響は出ているが、全体に大きな影響があったとは言えない。(制限の内容も)正常な範囲の中だ」と、影響の軽さを強調する。

しかし、ゲーム会社の収入の柱である課金への制限については「自分の能力にあった、合理的な範囲でお金を払ってプレイして欲しい」と歓迎する意向を示しつつも「全体として大きくはないが、一定の影響はあった」とこぼす。

「課金への抵抗感が中国より薄い(黄社長)」という日本での成長は、会社にとっても欠かせない。コロナ禍の日本では、ニンテンドースイッチや「どうぶつの森」が多くの店舗で品切れになるなど、ゲーム需要の高まりは明らかだ。

このタイミングで成長できるかが、今後の明暗を分ける可能性は高い。競争は一段と激しくなるが、黄社長は「競争が激しいというのはいい点も悪い点もある。悪いのは会社へのプレッシャーが大きいこと。良い点は、競争を通じていい製品を出せるようになることだ。いいポジションをつかんでしまえば、将来の収入はいいものが見通せる」と強気の姿勢を崩さずにいる。

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