性的指向を上司に暴露され精神疾患に。アウティング行為として労災申請へ

保険代理店の20代男性が、性的指向を上司から同僚に暴露(アウティング)されて精神疾患になったとして、労災申請する。国の指針でも、アウティングはパワハラの一形態とされる。
男性の労災申請書には、「不安、焦燥を伴う抑うつ状態」との診断名が書かれている(一部を加工しています)
男性の労災申請書には、「不安、焦燥を伴う抑うつ状態」との診断名が書かれている(一部を加工しています)
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関東地方の保険代理店に勤務する20代男性が、性的指向を上司から同僚に暴露(アウティング)されて精神疾患になったとして、労災申請をすることが分かった。男性は、ハフポストの取材に「セクシュアリティという最大のプライバシーを勝手に暴露されることが、どれだけ本人を傷つけるかを知ってほしい」と訴えている。

男性は2019年に営業職で入社。入社前の最終面接で、業務に必要な書類に記入する際、書類に緊急連絡先の欄があった。男性には同性パートナーがおり、自治体が二人の関係を公的に認める「パートナーシップ制度」で認定されていた。そのため男性は、会社の代表と上司の2人に「緊急連絡先に同性パートナーの連絡先を登録したい」と伝え、自身の性的指向も打ち明けた。同時に、「同僚には自分のタイミングで、自分から伝えたい」との要望を伝えていた。全社員ではなく、正社員に限定したい旨も話していたという。

■「一人ぐらい、いいでしょ」

同年夏、男性の隣の席のパート女性から突然、無視をされたり避けられたりするようになった。その後、面接時に性的指向を打ち明けていた上司から、パート女性に対して「(男性に同性パートナーがいることを)自分から話した」と明かされたという。

「謝罪の言葉もなく、『自分から言うのが恥ずかしいと思ったから、俺が言っといたんだよ。一人ぐらい、いいでしょ』と笑いながら言われて、あまりにもショックでどうしたらいいか分からなくなりました。他の社員にも広められているのではないかと思うと、会社に行くのが怖くてたまらなかった」

それ以来、男性は最低限の業務連絡を除き、この上司と距離を置くようになった。上司の発言に対して反論した時、頬を叩かれたこともあったという。アウティングとパワハラが重なったことで、男性は同年10月から出勤できなくなった。12月に心療内科で抑うつ状態と診断を受け、現在まで休職している。

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■同僚から差別、訴訟も

本人の了解を得ずにセクシュアリティを第三者に伝えるアウティングは、された本人の心身に深刻なダメージをもたらす。

2015年には、一橋大法科大学院の男子学生が、同級生に同性愛であると暴露された後、転落死する事案が発生した。また、性同一性障害で性別変更をしたことを勤務先の病院で同意なく明かされ、同僚から差別的言動を受けたとして、大阪市の女性が損害賠償を求める訴訟を19年8月、大阪地裁に起こしている

アウティングを巡る問題は近年相次ぐ。一方、男性を支援するNPO法人「POSSE」の佐藤学さんは、「アウティングによる精神疾患を理由とする労災申請は、極めて珍しい」という。

「性的少数者はほとんどの場合、差別や偏見を恐れてセクシュアリティを職場で隠しています。労災申請をするということは、半ば強制的に他者にセクシュアリティをカミングアウトすることになる。アウティングというトラウマになるような重大な被害に遭った上で、さらに多くの人にカミングアウトしないといけない。本人にとって非常にハードルが高いことも、アウティングの問題が顕在化しにくい大きな理由の一つだと思います」(佐藤さん)

■会社側、「認識に食い違い」

男性と、男性を支援する総合サポートユニオンは、団体交渉でアウティングの事実関係の調査、謝罪、損害賠償、再発防止策などを要求している。男性は「差別を受けることが不安で、セクシュアリティを伝える人は本当に信頼できる人だけに限っていた。自分がアウティングされて初めて、セクシュアリティを勝手に暴露されることでどれほど傷つくのかを知った。他の人にこんな経験をしてほしくない」と打ち明ける。

男性の勤務先の会社代表は、ハフポストの取材に対して、男性に確認せずに同僚に性的指向を伝えたことを認めた。一方で、「入社する際、性的指向に関してオープンな職場環境で仕事をしたいという男性の意向があったと認識していた。性的指向を同僚に伝えたのは、それを踏まえての対応だった。同僚に伝えないでほしいという意向とは受け止めていなかったため、そもそも私どもと認識に食い違いがあった」と釈明する。

パワハラに関しては、「上司の社員が頬を叩いたという事実は確認できていない」と否定。「労働組合の団体交渉に誠実に対応している。問題解決に向けて、真摯に話し合いを進めたい」としている。

■アウティングは「パワハラ」

この会社がある自治体は条例で、性的少数者に対する差別の禁止を定める。「本人の同意なく性自認や性的指向を公表してはならない」として、アウティング行為の禁止を明記している。

国も対策を進めている。6月1日には、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行された。厚生労働省の指針では、アウティングのほか、性自認や性的指向を侮辱する言動(SOGIハラス)もパワハラとみなされ、これらの防止対策は全ての企業に義務付けられる。対策を怠った場合、都道府県労働局による指導や勧告などの対象となる。

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