キャリア
2020年06月06日 14時03分 JST

リモートワークの不安を社員に話したら、「組織の力」を実感できた。実業家が語る、これからの時代のチーム作り

新連載「私のコロナシフト、生き方をこう変えた」。第5回目は、株式会社ロフトワーク代表取締役の林千晶さん。新型コロナウイルスの影響で変わった生活、これからの生き方について語ります。

新型コロナウイルスの脅威は、世界各地の人々に影響を及ぼし、私たちの日常を激変させた。この連載では、ビジネスやカルチャーの様々な分野で活躍する人たちが、コロナによってどのような行動変容・意識変容に直面しているのか、リアルな日常を聞き取っていく。第5回目は、株式会社ロフトワーク代表取締役の林千晶さん。(インタビューは5月8日にオンラインで実施。写真は本人提供)

本人提供
林千晶さん

林 千晶

株式会社ロフトワーク代表取締役。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材の新たな可能性を探求する「MTRL」、オンライン公募・審査でクリエイターとの共創を促進する「AWRD」などのコミュニティやプラットフォームを運営。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」(日経WOMAN)を受賞。

 林 千晶さんのコロナシフト

  •  人と会うのが大好き⇨オンラインでは「みんながフラット」だと気づいた
  •  リモートワークは、個人の持ち味や強みが発揮
  • オフィスは「通いたい」と思わせる居心地のいい環境へ

 

オンラインでの全社イベントで感動。

 ――クリエイターの共創を促進する様々なプロジェクトを展開するロフトワーク。その創業者である林さんは、いつも国内外をアクティブに移動しながら活動していました。ステイホーム期間は、どんな過ごし方をされていたのですか?

世の中の動きに合わせて、3月中旬から対面の打ち合わせや講演の仕事は、延期やオンラインへの切り替えを決めました。これは私自身の働き方、そして人生にとっても大きな変化になりました。

もともと私は人と会うのが大好きで、大事な商談や打ち合わせでは、フェイス・トゥ・フェイスでの呼吸がぴたりと合う感覚を大事にしてきたタイプ。それが強制的にリモートでのコミュニケーションへ移行しました。でも、やってみると「かえってこっちのほうがうまくいくかも」と気づいたこともたくさんあるんです。

――なぜそう感じたのですか?

多分、「距離」の違いだと思います。オンラインだと、話している相手も私も、画面に対して50cmずつくらいの近さで、お互いの顔を見ながら話しますよね? 3人以上で話す場合も、全員が正面を見て、自分も含めてみんな“こっち”を向いている。これはリアルなコミュニケーションではないことですよね。

例えば、ロフトワークではこれまでも週に1回、全社ミーティングとして60〜80人が集まって話す機会があったのだけれど、いつの間にか座り位置が固定されたり、プレゼンテーターから遠い位置にいる参加者とはどうしても距離感があったと思うんです。それがオンラインでは、みんながフラット。同じ距離感で、お互いの顔を見ながら話せるのがいいなと気づきました。

ロフトワーク提供
ロフトワークの全社オンラインイベントの様子

つい先日も、全社イベントをオンラインではじめて開催したのですが感動したんです。1日がかりのオンラインイベントで、100人以上が参加しました。午前中は取り組んでいるプロジェクトの発表、午後はディスカッションという内容で、私は最初だけ顔を出すつもりだったんだけれど、みんなの熱量がすごくて、気づいたら最後まで見ちゃったんです(笑)。前のめりに全員が参加している雰囲気があって、チャットに書き込まれる補足説明のコメントからも伝わってくる思いが溢れていて。

人間の心理的な距離感覚は、物理的に感じる距離に左右されると思うから、このオンラインならではのコミュニケーションは、実はチームワークの醸成にはとてもいいんじゃないかなと感じています。

しかも、ウェブカメラの画像には、シミ・シワがハッキリ映らない!(笑) これは男性はあまり言わないことだけど、結構助かっている女性は多いのでは? 服も基本的にはトップスだけしか映らないから、やっぱり選ぶコーティネートが変わるんだなぁと思います。

――オシャレな林さんの服装にどんな変化が?

もともとよく着るのはワンピースなんです。ワンピースは立ち姿になった時の全身のフォルムが印象付くファッションアイテムだから、経営者として「はじめまして」とご挨拶するときの自己表現を助けてくれるんです。

けれどステイホームの今は、ほとんど着なくなりましたね。トップスには気を遣うけれど、ボトムスはデニムの活躍頻度が増えました。どちらかというと、「着て心地いいもの」を身につけるようになった気がします。出社はごくたまにで、ほとんどずっと家にいるので。

 

「ステイホームはむしろ心地いい」という気づき

 ――ご自宅ではどのように過ごしていますか。

午前に1本、午後に2本くらい打ち合わせをするという仕事のリズムは変わりませんが、移動が一切なくなったのが大きな変化ですね。週に1、2回入っていた講演やイベントの登壇もリアルではなくなったので、夜もずっと家にいます。

あちこち飛び回っていた日常がいきなり180度変わったことに、はじめは頭と心がついていかなくて。1週間くらいは「私、どう過ごしたらいいんだろう?」って戸惑っていたかな。

飛騨に行くはずだった予定がなくなった日、突然空いた時間に何をしたらいいのか悩んでしまいました。そこで何をしたのかというと、歩いたんです。近所を1時間くらいかけてゆっくり歩いてみた。その時、ハッとしたのは、「私、今初めて、“歩くために”歩いている!」ってすごく新鮮な気持ちになったこと。

本人提供
日課は散歩。カフェのテラス席で休憩も

これまでも通勤や移動で毎日8000歩くらい歩いていましたが、それはあくまで“ついで”であって、歩くことが目的ではなかった。純粋に歩くことを目的に歩いてみると、小さな自然の移ろいに気づけたり、「あ、このお店、テイクアウト始めたんだ」と地域の動きに目を配ることができたり。とても豊かな気持ちになれたんです。

今でも歩く習慣は続けていて、自宅から30分くらいの距離のお店のテイクアウトを目当てにして往復したり、生活の中に歩くことを取り入れるようになりました。

――食生活も変わりましたか?

そうそう、食生活も激変しました。だって、平日のランチを自宅で作ることなんて、これまでなかったこと(笑)。家には大学生の息子もいるので、「今日はどうする? 一緒に歩いて買いに行く?」という会話もできるように。食事の後は、キッチンの流しの前に2人で横に並んで一緒に食器洗いをするのも、なんとなく習慣になってきました。なんだか不思議な気持ちです。

これまでは「仕事で帰宅は遅くなるから、食べておいてね」と伝えることが多かったのが、「今日はどうする?」と言えるようになったのは個人的にはすごい変化です。

――家族が一緒の時間軸で生きているという感覚になったのですね。夜はどう過ごしていますか?

在宅時間が長い分、体にいいこともやらなきゃと、毎晩30分ヨガをやっています。あと、英語の勉強も30分。

これまでは自分のケアやブラッシュアップのための習慣に1時間かけて維持するのは難しかったけれど、毎日家にいる前提の日常ならできちゃうのよね。

「私にとってステイホームはむしろ心地いい」という気づきは、この機会がなければ得られなかったことです。

 

自然に生まれた「朝会」の習慣 

――とはいえ、最初の1週間は戸惑いの気持ちもあったんですよね。どう乗り越えていけたのですか?

不安な気持ちをそのまま素直に仲間に話してみたんです。ロフトワークのグループリーダーに「ねぇ、ねぇ。私、家で何していいか分からない時があるんだよ」と言ってみたら、「わかります。私もそうです。メンバーからも同じような声が上がっています」と返ってきました。

だったら、会社としても何か手を打ってみようかと始めてみたのが、毎朝10時からの「スタンドアップミーティング」、始業の挨拶をする朝会です。毎朝決まった時間に着替えてパソコンの前に座って「おはようございます」とコミュニケーションをするルールが生まれたことで、だんだんと新しい生活リズムが整ってきた感じかな。

嬉しかったのは、私たちマネジメントが号令をかけて始まったのではなくて、一緒に働くみんなの中から自然に生まれたこと。まさに、コレクティブ・インテリジェンス(集合知)。これって「組織の力」だなと誇りに思えました。

――今年はロフトワーク創業20年の節目でもあります。20年かけて積み上げられたきたカルチャーが、非常時にも良い形で開花しているということでしょうか。

そうだと思います。私自身も経営者として「みんなに発言や行動のチャンスがある」ということを、今一度分かりやすく伝えていこうと意識しています。例えば、フリーなアイディアを提案できるチャンネルをSlackに作ったり、ミーティングの場で積極的に声をかけたり。リモートワークはコミュニケーションをよりフラットにするから、個人の持ち味や強みがより発揮されているなと感じます。

ロフトワークは基本的に「信じて任せる」カルチャーです。もしうまくいっていなかったら、すぐに改善プロセスを働かせる、そう動ければいいと思っています。

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ネットがあればどこでも仕事ができる。ロフトワークではSlackを有効活用

「どこでどれだけ働いたか」ではない評価の仕組みを

――現在はフルリモートに切り替えているということですが、コロナ収束後には元の働き方に戻ると思いますか? それとも、新しい働き方へと変わるのでしょうか?

おそらく、働き方は新しい形になると思います。なぜなら、リモートワークの良さを組織で働くみんなが同時に実感しているから。私を含め、あらためて「人生は仕事だけではない」と気づいて、ライフスタイルを見直した人が多いと思います。この気づきは「なかったこと」にはできないし、「前の暮らしに戻してはいけない」という強い意志を経営者として持っています。せっかく発見したリモートワークの良さは、これからもキープしていきたいですね。

でも、一方で「みんなに会いたい! 直接顔を見て話したい! いろんな街を歩きたい!」とも思うんです。具体的なプランはこれからみんなと考えていきたいけれど、例えばグループごとに交代で、週のうち何日かはリモートワークにするとか。これを実践するためには、評価の仕組みを備えないといけないですよね。「どこでどれだけ働いたか」ではなく、「あなたと会社が約束した成果目標を達成したか」を見るように。

この評価方法が社会全体に浸透していったら、自立した個人と企業がプロジェクト単位で契約するような関係性がもっと当たり前になっていくでしょうね。会社は“働くチャンス”を提供するプラットフォームという役割になっていく。もちろん、法律を変えたり大掛かりなステップは必要になるけれど、面白い世の中になるんじゃないかなと期待しています。

 

「最後は会って決める」不文律に変化

――オンラインでのコミュニケーションをとる上で、林さんが気をつけていることはありますか?

こういった取材や打ち合わせで自分がメインで話すシチュエーションでは、「事前にポイントをまとめておく」ことをより重視するようになりました。つまり、「考える」と「話す」を切り分けるということ。対面で話す時には「考えながら、話す」ことが自然にうまくいくことが多いのだけれど、オンライン上のコミュニケーションでは、その最中は「相手の反応を注意深く読み取って、さらに反応を返す」ことに集中したほうがいいな、と気づいたんです。

だから、以前よりも事前準備に時間をかけるようになりました。移動がなくなって浮いた分の時間を費やせばいいだけなので、問題なくできています。伝えたいことを漏れなく伝えられる、という点でもおすすめです。

5月下旬には、「デザイン経営」をテーマにしたカンファレンスも予定していて楽しみにしているんです。もともとリアルイベントとして3月に予定していたものを延期して、オンライン開催に。5月初旬時点ですでに1500人以上の申し込みがあると聞いて、それだけでもオンラインの可能性を感じます(*編集部注:カンファレンスはすでに開催され、最終の申し込み人数は2700人に達したとのこと)。

特にクリエイティブ分野のビジネスコミュニケーションでは、「最後は会って決めましょう」という不文律があったけれど、フルオンラインでもパートナーとしての信頼関係は築けるはず。私たちが、それを証明できる存在になっていきたいと思っています。

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これからはリモートワークと出社を組み合わせた働き方に

リモートでもチームワークを高められる組織へ

――コロナによる変化を前向きに受け止め、進化発展の糧にしようとする姿勢が伝わってきます。これからの個人や組織のあり方について、どんな未来を目指したいですか。

私たちがこの数カ月で体験したステイホームの生活は、自宅で過ごす時間が増えて、身近な人や地域がぐっと近くなって、いわば“北欧的な生活”だと思うんです。

その生活が北欧人だけが楽しめる特別なものかというと、決してそうではない。「人間の生活」そのものです。

コロナは悲しい現実を生む一方で、私たちに大切なことを気づかせてくれました。その気づきを糧にして手放さないように、個人としても経営者としてもアイディアを磨いていきたいです。

1つ例をあげるなら、オフィス改革。これからのオフィスはもっともっと魅力的にならないといけません。「通いたい」と思わせる居心地のいい環境を用意しなければ。例えば、全国各地に20カ所移動オフィスの拠点があって、「今日から2週間は富士山の麓がメインオフィスになります」とかね。リモートでもチームワークを高められる組織へと成長できたら、コラボレーションの可能性もぐんと広がっていく。

それともう一つ、私自身があらためて学んだ大切なことは、「人はつながり合ってこそ、力を発揮できる」ということ。個人が主役になる時代と言われていても、個人はたった一人だと不安だし、何も機能しないんだなと分かりました。

弱い存在の私たちだから、つながっていこう。そして、そのつながりの中心が、共有できる価値観や興味関心であれば、強くて面白いチームになっていくのだと思います。「group with interest」の気持ちで、興味関心を共にする仲間たちを、これから一層大切にしていきます。

 

(取材・文:宮本恵理子 編集:若田悠希)