性交同意年齢13→16歳に変更求め。性犯罪の刑法改正案、人権団体が叩き台を公表。

性犯罪の刑法改正を議論する法務省の検討会がスタートしたことを受け、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが改正案の叩き台を公表した。
オンラインで記者会見したヒューマンライツ・ナウのメンバーたち
オンラインで記者会見したヒューマンライツ・ナウのメンバーたち
ヒューマンライツ・ナウ提供

刑法の性犯罪規定の改正を議論する法務省の検討会がスタートしたことを受け、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」が6月11日、オンラインで記者会見を開き、刑法改正案の叩き台を公表した。

団体は2019年11月にも改正案を発表していたが、その後海外の専門家や実務家などの意見を踏まえ、罪名など内容の一部を修正した。

刑法の性犯罪規定は、2017年に110年ぶりに改正された。厳罰化した一方で、犯罪の構成要件のハードルの高さ、性交同意年齢の低さ、公訴時効などの課題は積み残されたままとなり、性暴力被害の実態に見合わない問題が指摘されている。

ヒューマンライツ・ナウの叩き台は、現行法とどう異なるのか?主なポイントをまとめた。

■強制わいせつ罪⇒「不同意性的行為罪・若年者性的行為罪」に変更。

<現行法>第176条 強制わいせつ罪

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、 6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、 同様とする。

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<改正案>「不同意性的行為罪・若年者性的行為罪」

1項 16歳以上の者に対し、その者の認識可能な意思に反して、その者に対して性的行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。

2項 有形力の行使、脅迫、威迫、不意打ち、偽計、欺罔、監禁を用いて前項の行為を行った者は、前項の例による。

3項 前2項の性的行為を16歳未満の者に対して行った者は、若年者性的行為の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。但し、18歳未満同士で年齢差が2年以内の場合は除く。

現行法は、性交同意年齢を13歳としており、海外と比較しても低いことが指摘されている。改正案では、義務教育を終えた年齢である16歳に引き上げた。

現行法の「わいせつ」との概念が不明確であることなどから、「性的行為」に名称を変更。「性的行為」の具体例として

・性的部位(口、胸、尻、陰部)に接触する行為

・性的部位以外の身体 (腕や肩・背中など)であっても執拗になで回す、揉む、息を吹きかけるなどの有形力を行使する行為

・接触を伴わなくても、衣服を脱がせ姿態があらわになった状態を撮影する行為

の3つの類型を示した。

事務局長の伊藤和子さんは「何をしたら罪になるのかを、具体的に例示することで、被害者や検察側にとって立証のハードルを下げることになる」と話した。

■強制性交等罪⇒「不同意性交等罪・若年者性交等罪」に変更。

<現行法>第177条 強制性交等罪

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性 交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に 処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

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<改正案>「不同意性交等罪・若年者性交等罪」

1項 16歳以上の者に対し、その者の認識可能な意思に反して、性交、肛門性交又 は口腔性交(以下「性交等」)を行った者は、不同意性交の罪とし、5年以上の 有期懲役に処する。

2項 有形力の行使、脅迫、威迫、不意打ち、偽計、欺罔、監禁を用いて前項の行為 を行った者は、前項の例による。

3項 前2項の性交等を16歳未満の者に対して行った者は、若年者性交の罪とし、 6年以上の有期懲役に処する。但し、18歳未満同士で年齢差が2年以内の場合 は除く。

「暴行・脅迫」の程度について、従来の判例では「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度」とされてきた。実際には、相手方の同意がないと認められるにもかかわらず、「著しく困難ならしめる程度」ではないとして、処罰の対象とならない事例が発生した。実際の性暴力の被害の実態に合っていないことから、「暴行」を「有形力の行使」としたほか、相手方の同意がない典型例として「威迫、不意打ち、偽計、欺罔、監禁」を構成要件として明示した。

■準強制わいせつ・性交等罪⇒「同意不能等性的行為・性交等罪」に変更。

<現行法>第178条 準強制わいせつ及び準強制性交等罪

人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。 2人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

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<改正案>「同意不能等性的行為罪・同意不能等性交等罪 」

176条1項の性的行為を、人の無意識、睡眠、催眠、酩酊、薬物の影響、疾 患、障害、もしくは洗脳、恐怖、困惑その他の状況により特別に脆弱な状況に置 かれている状況を利用し、又はその状況に乗じて行った者は、同意不能等性的行 為罪とし、176条1項の例による。

2項 前条1項の性交等を、人の無意識、睡眠、催眠、酩酊、薬物の影響、疾患、障 害、もしくは洗脳、恐怖、困惑その他の状況により特別に脆弱な状況に置かれて いる状況を利用し、又はその状況に乗じて行った者は、同意不能等性交等罪と し、前条1項の例による。

現行法の「抗拒不能」の要件は、明確な定義がなくどのような状態を指すかがあいまいとされる。改正案では、脆弱性に乗じた場合を網羅的に列挙することで被害者を保護する狙いがある。

刑法性犯罪規定の改正を目指すヒューマンライツ・ナウのクラウドファンディングのメージ
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■ 地位関係を利用した行為も処罰対象に

<現行法>第179条 監護者わいせつ及び監護者性交等

18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力 があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。

2項 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があること に乗じて性交等をした者は、第177条の例による。

(未遂罪) 第180条 第176条から前条までの罪の未遂は、罰する

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<改正案>「監護者等性的行為罪・監護者等性交等罪」

18歳未満の者に対し、同居する者、もしくは、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同 種の性質の関係にある者が、監督、保護、支援の対象になっている者に対す る影響力があることに乗じて性的行為をした場合は、176条3項の例によ る。

2項 18歳未満の者に対し、同居する者、もしくは、その者を現に監護又は介 護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同 種の性質の関係にある者が、監督、保護、支援の対象になっている者に対す る影響力があることに乗じて性交等をした場合は、177条3項の例によ る。

179条の2 地位関係利用性的行為罪・地位関係利用性交等罪

1項 18歳以上の者に対し、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、その地位や権限を濫用して性的行為をした場合は、176条1項の例 による。

2項 18歳以上の者に対し、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、その地位や権限を濫用して性交等をした場合は、177条1項の例による。

現行法は、18歳未満の者に対する「現に監護する者」の範囲が限定的で、離婚後の非監護親、同居する親の恋人、アルバイト先の上司、教師、指導者などからの加害行為に対応できないことから、対象を拡大した。

18歳以上の者であっても、親族や後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員など、被害者に対して権力関係がある者がその地位を利用して行う事案も処罰できるよう、改正案で類型化した。

性犯罪規定の刑法改正を議論する法務省の検討会は、6月22日に第2回が開かれる予定。ヒューマンライツ・ナウは、この日に改正案の叩き台を提出するという。

団体は、性犯罪規定の刑法改正に向けた実態調査などに取り組むとして、クラウドファンディングで寄付を募っている

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