私の壁見えてますか
2020年06月16日 12時56分 JST | 更新 2020年06月17日 17時01分 JST

男女別登校は「人権侵害」と専門家が指摘。1人の母の疑問に賛同の声

「もうそろそろ、子どもに対して大人が持つ性のステレオタイプを押し付けるのではなく、 子どもたちがその子のままでいられる社会にしませんか?」

Reuters
小学校の登校風景(イメージ)

幼稚園や小中学校、高校などで三密を避けるために行われた分散登園・登校について、日時を性別によって分ける学校が出ており、保護者や専門家から批判の声が上がっている。人権的な配慮を欠く上、ステレオタイプを押し付けることにつながりかねないという指摘だ。

「これが大人だったら?例えば近所のスーパーで、これから1カ月は性別で入れる曜日を分けますって言われたら、誰でもおかしいと思いますよね」

埼玉県に住む西出博美さんは、そう問題提起する。6月3日、「#ほんとはイヤだな男女別登園  声を集めています!」と題した文章をnoteで公開した。

 

「この違和感は私だけのものじゃない」

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オンラインでの取材に答える西出博美さん。NPO法人「ぱぱとままになるまえに」の代表も務める。

きっかけはママ友とのやりとりだった。長男の通う幼稚園が学年別の分散登園が始まったことを話題にすると、「うちは男女別の登園だよ」と言われ、強い違和感を持ったという。他のママ友や性的マイノリティの友人などにも話を聞き、「この違和感は私だけのものじゃない」と感じ、声を上げてほしいとnoteで呼び掛けた。

「身体は男の子だけど、七五三でドレスを着た友人の子どももいます。そういう子たちはどう感じているのかと思うと『こんな社会でごめんね』と思いました」

「性別が違うだけで、友だちに会えない。新入園の子は性別の違う友だちを作ることさえできない。子どもの権利を蔑ろにしてしまっているとも感じます」

Twitterでも「#ほんとはイヤだな男女別登園」が少しずつ拡散。すると、「私だけじゃなくてよかった」「早く学年とか出席番号になったらいいな」など、多くの反響が寄せられた。

 

子どもたちにステレオタイプを押し付けるの、やめませんか?

学年や出席番号、地区ごとなど、他に分ける方法はいくつもある。しかしその中で「男女で分ける」ということを違和感なく選んでしまうということに問題の根深さがある。

「学校現場に性別で分ける活動や指導方法が定着していることが問題の背景にある」と指摘するのは、ジェンダー平等教育が専門の川村学園女子大学教育学部の内海崎貴子教授だ。男女混合名簿の普及や技術と家庭科の男女共修など変化はあるものの、依然として社会の意識とは異なる学校の慣習や意識が残っている。

文科省からセクシュアル・マイノリティへの対応について通知が出ているものの、特に私立がおよそ7割を占める幼稚園では、男女で対応を分ける保育が根強いという。

内海崎教授によると、ユネスコによる手引書「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、幼児期から「多様性は、セクシュアリティの基本である」ことを前提としてジェンダーを理解していくことが重要だとされている。日本の現状との差は大きい。

noteを公開した西出さんは言う。

「分散登園は一時的なものなのだからいいじゃないか、という声もありました。でも、日常的に“男女”を意識した教育が行われているからこそ、緊急時の対応として、男女別の登園という対応が行われたのでしょう。もうそろそろ、子どもに対して大人が持つ性のステレオタイプを押し付けるのではなく、 子どもたちがその子のままでいられる社会にしませんか?と訴えたかったんです

「これが大人だったら、と考えてみてほしい。例えば近所のスーパーで、これから1カ月は性別で入れる曜日を分けますって言われたら?オフィスに来る日を男女で分けると言われたら?『おかしい。どうして男女で分けるんだ』と思いますよね。子どもたちに対して、そういうことをしているんです

 

文科省「問題かどうかは申し上げられない」

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分散登校をどのように行うのかは、各学校に任されている

3月2日から始まった一斉休校。緊急事態宣言、そして解除を経て、三密を避けるため一時的な分散登園・登校が行われた地域も多かった。

ハフポスト日本版は、男女別の分散登園・登校を東京都や埼玉県など複数の自治体で確認。うち公立校で行われた杉並区では保護者から相談があったため、区から学校に別の方法で分散登校をするよう伝えたという。教育委員会の担当者は「配慮が必要だと分かっている子には個別の対応をしたと聞いている」としている。

文科省はハフポスト日本版の取材に「文科省としては、どういった形で分散登校をしてくださいということは言っていない」とした上で、男女別の登園、登校に批判が出ていることに関しては「学校ごとの状況が分からないので、男女別だというだけで問題かどうかは申し上げられない」と答えた。

 

子どもたちの可能性を狭めることにつながる

LGBTに関する情報を発信する一般社団法人「fair」代表理事の松岡宗嗣さんは、西出さんからの連絡で男女別の登園・登校が行われていることを知り、Twitterで疑問を呈した。

 「まず初めに思ったのは、既存の性別の枠組みに対して違和感を感じていたり、自分の性のあり方に悩んでいる子どもたちは辛いだろうなということです」

例えば生まれた時に割り当てられた性別と性自認が一致していないトランスジェンダーの人たちは、身体や法律上の性別を突きつけられることになってしまう。Xジェンダーなど、男女どちらの性別にも違和感を感じている人は、性別で分けるということ自体に疑問を持つだろう。

さらに松岡さんは、「性のあり方に関係なく、ひとりひとり好きなことや得意なことは違う。あえて性別で分けてステレオタイプを助長するような教育をしてしまうことで、子どもたちの可能性を狭めることにつながるのではないかと感じます」と指摘する。

人形遊びが好きな女の子もいれば、ヒーローごっこが好きな女の子もいる。理系科目が得意な男性もいれば文系科目が得意な男性もいる。「性別」という枠に当てはめて「らしさ」を押し付ける方へと誘導してしまうと、それぞれ個人の持つ特性を見逃してしまうのではないか。

「こうしたことが積もり積もって、ジェンダーギャップ指数121位といった日本の現状につながっているのではないかと懸念を抱いています」

 

これは人権の問題だ

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オンラインで取材に答える川村学園女子大学教育学部の内海崎貴子教授

内海崎教授は、公立学校は男女共学が原則と教育基本法で定められているため「そもそも男女別登校はその原則に反する」と指摘。その上で、「これは人権の問題」と強調する。

「性(セクシュアリティ)というのは、身体の性、性自認、性的指向などで多様な組み合わせがあり、簡単に男女を分けることが難しくなってきています。基本的人権の尊重という考え方に立てば、全ての人がどんなSOGI(性的指向や性自認)であっても尊重されるべきです。ですから男女別登園・登校は人権の侵害にあたり見直す必要があるでしょう」

「性別による役割分担が前提だった社会は変わって来ている。教育現場も変わらなければ、立ち行かなくなるでしょう」

新型コロナウイルス感染症の流行は第二波・第三波も懸念されており、今後も分散登園・登校が行われる可能性がある。分散登園・登校のあり方はもちろん、無意識的なものも含め、性別で子どもたちを分ける教育は見直す時が来ている。